キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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書き溜めが尽きたので、この話以降は1日〜3日おきに投稿していきたいと思います


壊滅

 私が散々暴れ回り、何千と同胞を殺して脅したというのに人間は懲りないものだ。ここまで来るとある種の尊敬の念すら抱きかける。

 

 金で雇われたか、何か弱みを握られたか。

 或いは使命感とやらに突き動かされたか、同胞の敵討ちを望み復讐心を煮え滾らせるか。

 

 どれであろうと、理由はどうだって良い。

 こうして私の目の前に群れを成し、アビドス高等学校に所属する面々と交戦する奴等に掛けてやる慈悲は持ち合わせていないのだから。

 

「冷たい……寒い…痛い……」

 

「瞼開かない…」

 

 私に追い払われ、脅して連れて来られた元カタメット団の面々も今ではアビドス高等学校に馴染み、ホシノ達にも受け入れられた。

 そうなってしまえば、私が毛嫌いする理由は無い。姐さん姐さんと喧しく喚き回るのも喧しいが、その喧しさを気に入り始めても居た。

 

「諦めちゃダメよ! 姐さんは必ず来るんだから!」

 

「ホシノさんが伝令に行ってくれたんだ! 必ず持ち堪えさせる!」

 

 そんな彼女達が肉体を凍結させ、冷たさと痛さに苛まれながらも戦い抜こうと奮起する姿は極めて好ましい。

 

 辛くても目を背ける事無く、投げ出す事無く、踏み外しもせず、懸命にその脆弱な二脚で立ち、生きて抗う。

 人間ならそう在るべきだ。欲に塗れる事が必然とも言える存在として産まれ落ちたモノが、それを許されるのには在るべき姿を示すしか無い。

 

 だが、同時に不愉快でもある。

 対私用に開発した冷凍兵器を持ち出して来る事は予見していたが、それを彼女達に使用するのは考えて居なかった。

 

 私の落ち度が、彼女達に要らぬ苦痛を強いた。

 必要な苦痛なら何も思わないが、之は違う。不必要な抗いは見ていても心地好さを欠片も感じる事が出来ない。

 

「退け」

 

 これ以上は見て居られん。遮蔽物に身を隠しながらも現状の戦線を維持しようと躍起になる面々に、私は声を掛けた。

 体温を上昇させる。肉体を赤熱化させ、周囲の空間にも熱を伝播させる。

 

 皆、声と周囲の空間の温度上昇で私の到着に気付いたようだ。

 嬉しそうな顔をして振り返る。そんな顔を私に見せるな、落ち度の代償を私に代わって支払わされているお前たちがして良い表情では無い。

 

「報告も警告も不要だ。早く下がれ、肉体を癒せ。アヤネ達も下がれ」

 

 私が暴れ回った事で一旦の収束を迎えていた暴力組織との抗争はアヤネ達の方が場数を踏んで居る。

 私の様な圧倒的暴力を用いての一方的な蹂躙こそ出来ずとも、不覚を取る等という真似は余程疲労困憊でも無い限りは考えにくい。

 

「ごめん、流石に疲れたわ……」

 

「ん、この寒さは耐え難いね…」

 

 そんなシロコやセリカ達も、指先や胴体の一部が凍っている。伝令の為に撤退したホシノの分も頑張らねば、と奮闘したのだろう。

 

「ごめんなさぁい…後、お願いします……」

 

『私も一時撤退します。ミキさん、どうか無理はしないでくださいね』

 

 先の二人が私の後方に下がる迄の時間稼ぎとばかりに獲物を乱射していたノノミも疲労感を隠せない様子だ。彼女らしくない暗い笑顔で退散して行く。

 

 元カタメット団の皆が最後の力を振り絞ってシロコ達を担ぎ上げ、バタバタと砂埃を巻き上げながら猛烈な勢いで走り去って行く。

 アイツ等、私の前で更に無理を重ねたな。戻ったら説教だ。

 

「さて……対私用の冷凍兵器を私以外の生徒に使用するとは、人道とヤラの観点から外れた行為では無いか? 私を殺す為に外道へ逸れたか、人間?」

 

 見送り、私は新興暴力組織の方へと向き直る。

 

 撤退する彼女達を追撃しようものなら、即座に私の暴威に晒される事を理解しているらしい。私が振り返るその瞬間まで、奴等は何も仕掛けて来なかった。

 

 振り返り終えるや否や、浴びせられる銃弾の嵐。無意味に飛来しては私の肌と激突し、金属同士が激突するのに似た音を伴って潰れ、地面へ落ちる。

 私の問い掛け等聞いていないのか、そもそも聞こえていないのか。

 

 まるで損傷を負わない、僅かな痛みすら与えない無意味な攻撃を、問い掛けを無視して浴びせて来る姿は私を苛立たせるには十分過ぎた。

 体内で熱を起こす。

 

「随分と……落ちぶれたな、反吐が出る」

 

 気に食わない。驕る人間は嫌いだが落ちぶれる人間も私は大嫌いだ。

 

 欲を有する以上、それに囚われて踏み外すのは有り得ない話では無い。選択肢を誤り、落ちぶれるのもおかしくは無い。

 だが人間には理性とやらが有るのだろう? なら、それを用いて軌道修正を行うべきだ。

 それが不可能に成る程に

 

 起こした熱が心地好く体内を温めて行く。苛立ちもこの熱にじんわりと溶けて行き、不必要な怒りを消し去ってくれる。

 相手がどの様な武装・兵装を用意して居ようと、冷静で有れば不覚を取る事は無い。

 

「95式冷凍レーザー発射!」

 

 ホシノ達に局所的な凍結を負わせた対私用の兵器の矛先が指揮官らしき女の声に従い私を向き、ピーピーと喧しい音を伴いながら極低温の光線を浴びせてくる。

 喧しい。この事実だけはあの冷凍兵器も元カタメット団の面々も共通している。

 

 だが、その喧しさに対する感想はまるで真逆。目の前に居る新興暴力組織が用いるこの兵器の放つ喧しさは、到底『心地好い』とは思えない。

 

 私は火炎を吐き、それよりも遥かに高温である熱線も放つ事が出来る。

 並大抵の兵器では火炎にすら耐えられず、耐えられたとしてもより貫通力や破壊力を増している熱線までは受け切れない。

 

 ならば、私を冷却して火炎放射や熱線の威力を落としてしまおうという魂胆の様だ。

 悪い手では無い。どう足掻こうとも受け止め切れない攻撃なら無理矢理にでも受けようとするのではなく、放たせない様に阻害するのは極めて有効な手と言える。

 

「そんなもので、私を止められると思って居るのか。思い上がるなッ」

 

 悪く無い手では有る。私の力を用いる事で冷凍効率も良く、私の表皮に僅かにだが損傷も負わせている。

 だが、それ迄だ。そこから先には至らない。私の攻撃を止めるには遠く及ば無い。

 

 冷凍光線が着弾した肌やドレスには一応の凍結が確認されるも、直ぐに私の上昇している体温によって解凍される。

 

嗚呼、不愉快だ。極めて不愉快だ。

 

 私の力を用いて居ながら、何故私を殺せない。私という存在の一端を本人に許可無く担って居ながら、その大元で有る私に致命傷を負わせられない。

 もっと言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女達は強いが弱い、私の力なら容易く蹴散らし凍て殺す事も出来た筈だ。

 

「消えろ……忌々しい、ガラクタ共め」

 

 情け無いザマに湧き上がった苛立ちは心地好い熱が幾ら溶かしても次から次へと出現し、私の感情をそれはそれは強く揺れ動かした。

 

 怒りは思考を単純化させる。余計だと判断した物は例えどれだけ大切な事柄で有っても『余計な物』として扱われ、一度目的だと定めてしまえばどれだけしょうもない事柄でも『最優先すべき』と思う様に成る。

 

 今の私もそうだ。目の前に居る此奴等を壊滅させてやらねば、私の力を無断で用いながら十分に引き出せていない此奴等を私の手で捻り潰してやらねば気が済まない。

 

「ターゲットの尾部周辺の空間電位が急激に変動!」

 

「熱線の予備動作だ! 総員構えろ!」

 

 目元を横長な機械で覆っている奴が何やら小難しい言葉を叫んだ後、新興暴力組織共が身構える。

 

 身構えた所で、どうなるというのか。私の暴威をそんなチンケな肉体で受け止め切る等、それこそ思い上がりというものだ。

 

 肉体が生み出す電気と磁気を増幅させ、尾先に蓄える。無際限に湧き上がり続ける怒りを表す様に、幾重にも。

 蓄えられ、やがてそれ等は稲妻へと転じる。

 右足を一歩前に踏み出し、左足を後方へ一歩下げた。腰を後方へ捻り尾を引き絞る。

 

「……熱線じゃ、ない?」

 

 私が熱線を放つ際の予備動作等の情報をどう仕入れたか、そんな物はどうでも良い。監視する能力を持つ者が居るのか、アビドス高等学校に内通者が居るのか、それすらもどうでも良い。

 

 私はただ、破壊するだけだ。裏にどれだけドス黒い意志が込められて居ようと、如何なる策を講じようとも、私は全てを踏み砕き、切り裂き、粉砕する。

 

 仕入れた情報には無い動きを私がしているせいで困惑しているらしいな。それもそのはず、何せ今()()()()()()()()()

 激しい怒りによって、忘れて居た熱線以外の遠距離かつ広範囲を破壊出来る技を思い出す事が出来た。

 

 私の行動はホシノ達に筒抜け。今も何処かしらに仕掛けられた監視カメラを通し、私を見て居る筈。

 此奴等は本当に幸運だ。彼女達の観察が有るお陰で、死ななくて済むのだから。

 

「うじゃうじゃと目障りだ。這い蹲れッ」

 

 引き絞っていた尾を振り抜く。

 青白い稲妻は三日月形の刃となって飛び出して行き、ズラズラと雁首揃えて冷凍光線を浴びせて来る忌々しい脆弱な兵器共を撫で斬りにする。

 

 装甲を切り裂き、内部の機器をガラクタに転じさせ、動力源たる油を引火させ爆発させる。

 新興暴力組織の構成員共も大半を巻き込んだ。人体断裂も可能では有ったが、それをやるとホシノ達に強烈な心理的負担を追わせかねない。

 

 故に、人体だけは切断しない様に()()()()()()()

 構成員に直撃する箇所のみ、その直撃の寸前に幾らか吸引する事で破壊力を落としてやった。

 

 この技は範囲が広い分、周囲の建造物を巻き込み易い。不必要な破壊を避ける為にも、破壊力はどの道落とす必要が有ったしな。

 

「い”ッ…!?」

 

「ああああああああッ!!!! 痛い痛い痛い痛いッ!」

 

「うごぇぇええぇ〜っ!」

 

 断裂は免れても、痛みは痛み。

 骨の数本くらいは砕けただろうよ。激痛に耐え切れず、無様に胃の内容物を吐き出す者まで現れた。

 暴力組織とのいざこざに心得の有るホシノ達を手こずらせる厄介者で有ったとしても、骨を砕かれてしまえば芋虫の様に倒れ伏して悶える事しか出来ない。

 

 数分前の、私を慕ってくれている皆の様に。

 

「どうだ。少しは貴様等が先刻まで苦しめて居た相手の気持ちが分かっただろう? まぁ、理解したと涙ながらに訴えた所で許しはしないが」

 

「今だ撃てェッ!」

 

 空間電位がああだらこうだらと抜かして居た奴に歩み寄る。恐らくだが、こいつがこの群れの長だろう。態度が大きかったしな。

 

 抵抗されても五月蝿いし、私という暴力組織に明確に敵対する存在が居ると暗に示す『黒の不審火』まで引き起こしたのにこうして暴力組織を新たに興した理由も知らねばならない。

 

 私の縄張りを荒す不届き者、縄張りに住まう人達の統治を阻害する邪魔者、その首魁が何者かを聞き出す前に自決されるのも困る。

 

 故に、此奴だけは両腕の骨だけを砕く様に調節した。痛み付けてやりたいが、それをして語る事すら儘ならない程に追い込んでは意味が無い。

 未知の攻撃を食らい、痛みに悶えながらも尚、此奴は怯まなかった。私を見上げ、怒鳴る様な大声で指示を下す。

 

 何か仕掛けて来たな。そう思ったのと同時にガン、と後頭部に何かがぶつかる。

 

「狙撃兵か」

 

 地面に落ちた大型の弾丸を拾い上げる。

 人間の人差し指位の長さは有っただろう弾丸は、不細工な出来のキノコを思わせる有り様に成って居た。

 

 弾丸に触れる指先から、力が伝わって来るのを感じた。

 あの時の感覚と同じだ。アビドス砂漠でビナーの攻撃を受けた際に、力が戻って来るのとまるで同じだ。

 

「な……ば、バカな!? 最新式の戦車すらお釈迦にする代物だぞ!? お前の力もッ、Gエナジーも使って」

 

「ふぅん……私の力、Gエナジーと言うのか」

 

 通じると思った兵器がまるで役に立たなかった衝撃は面白い事も知れた。まるで聞き馴染みは無いが、不思議と凄くしっくり来る名前だ。

 

 此奴、どうやら中々に知識を蓄えて居る様だ。

 それ等を全て吐かせてしまえば、新興暴力組織の背後に居るであろう何者かについて知る事が出来るだろう。

 

 私の力を何故知ったのか、何処から仕入れたのか、それ等も記憶を取り戻すのに役立つだろう。

 益々、コイツを逃がしてやる訳にはいかないな。アビドス高等学校に連れて行き、

 

「もう一度だ! 如何に頑強な自己防衛能力を持とうと己の力を何度も浴びせればいずれ!」

 

 切り札として取っておいたであろう狙撃すら通じず、それでも尚諦める気配を見せない。

 

 抗おうという姿勢そのものは褒められたものだが、新興暴力組織に与して私の縄張りで手前勝手な真似をした時点で許せる相手では無くなった。

 

 それに、私だって生き物なのだから()()()()

 初めてだ、初めて背後から一撃を貰った。擦り傷にすら成らない、取るに足らないしょぼくれた一撃だったからまだ良かったものの……之が隕石に相当する物で有れば死んで居ただろう。

 

()()()()()()()

 

 背後からの攻撃に対応する術を思い付いた。不意打ちで殺される、なんて間抜けな最期を迎えぬ様に。

 

 背鰭から熱線を放出し、飛来する弾丸を撃ち抜く。

 温度を調節する以外にも、背後からの飛来物の感知・速度や着弾予想地点にどの様な入射角で着弾するかを算出し、必要に応じて自動迎撃するという新たな役割が背鰭に出来た。

 

「ぎゃあっ!?」

 

 背後遠方からの間抜けな悲鳴も聞けた。迎撃用熱線の射程も申し分無いらしいな。

 

 最後の足掻きすらも封じられ、万策尽きたと悟ったのだろう。   

 私を仕留められるかも。何も語らずに済むかも。そんな希望が打ち砕かれた事で頭が変に冷静になり、興奮が忘れさせてくれて居た両腕骨折の痛みを思い出した様だ。

 

 今更になって呻き出し、蹲って震え始めた。

 

 無理矢理痛みに耐えている……といった所か。馬鹿馬鹿しい。痛みを無理に耐え、声を殺して何に成るというのか。

 耐えようが耐えまいが、この先の結末は変わらんというのに。

 

「貴様には色々と話して貰う」

 

 襟首を掴み、持ち上げる。抵抗は試みてはいるものの、痛みが邪魔して満足な抵抗には至れない様子だ。

 

 両腕の骨を砕かれているのだから仕方あるまい。

 破壊した兵器や此奴以外の暴力組織構成員は放置だ。私の縄張りに無断で踏み入り、ホシノ達に手を出した奴等のその後を知るつもりも関わるつもりも無い。

 

 新たに暴力組織を興したその大元は何者なのか、何故アビドス高等学校の校舎を狙うか、私についての情報を有しているのか、Gエナジーとは何か…聞き出さねばならない事は山積みである。

 私の記憶、その欠片も手に入るかもしれない。淡い期待を胸に、私は来た道を引き返す。

 

 校舎に戻ったら早速尋問だ。この時の私の心は間違い無く踊っていたとも。否定のしようも無い。

 だから、帰って早々に舞い込んだ予想外の報告に目を丸くしてしまった。柄にも無く大声を出して。

 

 だって予想出来ないだろう? 満身創痍とは行かずとも大なり小なり負傷しているのに、セリカが忽然と姿を消していたのだから。

 

  




一時帰還 ネタ明かし
なし

なしってなんだなしってお前ェ!
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