キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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普通考えて、追い出した相手が戻って来て借金返済やら校舎の整備やらを手伝ってくれているとなったら「ありがとー!」なんて手放しで喜べないよねぇ?


悪感情

 あまりにも呆気なさ過ぎる。

 あまりにも一方的過ぎる。

 

 ミキが保健室に帰還してくる10数分前。

 

 モニター越しでミキVS新興暴力組織の一戦を見た先生は、ただ唖然とする他に無かった。

 

 新興暴力組織はミキが到着する以前に、ホシノ達の尽力もあってある程度手負い状態にされていた。仮にミキに現れなければ、その半数は倒されていただろうと思わされるほどに。

 だが、それだけ追い詰められていたとはいえあまりにも呆気なかった。あまりにも一方的だった。

 

”デタラメだ”

 

 無意識のうちに口は開き、呟く。

 

 デタラメ。そう、デタラメだ。

 

 新興暴力組織が総数にして千にも匹敵し得る弾丸を消耗し、その手のものに興味関心がある先生の心を鷲掴みにした冷凍兵器まで動員した。

 ミキが到着するまでに倒れていた構成員や破壊された車両を見るに、かなりの人数と兵装を新興暴力組織は今回の襲撃に割いていた。

 

 ホシノ達との交戦で幾らか疲弊していたが、それでもまだ『部隊』として成立するだけの兵員を残していた大規模部隊だったというのに、ミキはそれ等を一撃で壊滅させた。

 

 尾を帯電させ、振り抜いた際に射出して電磁的なカッターのようなものを生成。

 冷凍兵器を切断・爆発させ、直撃した人体には切断まで行かないものの深刻なダメージを与える。兵器類と構成員の破損・負傷具合を比較するに威力の調節も可能なようだ。

 

”これが……ミキちゃんの、力”

 

 アビドス高等学校に身を寄せるようになるまでの経緯を語ってもらい、只者では無いとは思っていた。

 作り話にしては壮大過ぎる、事実にしては非現実的過ぎるそんな話の中身が『紛れもない事実である』と痛感させるに足る実力をミキは示した。

 

 彼女と手を取るということは、彼女と接点を持つということは、己にも下手なことをしてしまえばあの力が向けられる可能性を高める行為になる。

 協力するという判断は未だに揺るがないが、示された暴威に怯まない訳では無い。

 

 壊滅的被害を被り継戦不可能と判断した新興暴力組織が、自分達の指揮官が連れ去られた事を認識してなお奪還よりも逃走を選択した様を見ればそれは尚更だ。

 蜘蛛の子を散らすようとはまさにこの事、そう思わせる程に無惨な逃げ様だった。

 

「うわぁ……分かってたけど、やっぱり見せられると凹むなぁ……」

 

 上体を起こしてテレビ画面を見ていたホシノも、圧倒的勝利を収めたのにも関わらず淡々と帰路に着くミキの姿に僅かばかりの悔しさを滲ませている。

 

 暴力組織との駆け引きにおいては一日の長があるホシノからすれば、ミキが見せ付けてくれた一騎当千どころでは無い大活躍は有難くもあり、自分達の無力感を突き付けられた様で悲しくもあった。

 

 遮蔽物を駆使し、隊列を乱し、相手の連携に乱れを生じさせてそこを突き崩す。

 仲間達と連携して、校舎を守るのだという使命感に突き動かされて、半ば我武者羅に戦う。

 

 自分達が長い間使用し、一定の効果があった戦術。暴力組織とのやり取りを乗り越えて来た術。

 それに対してミキは全く別の選択肢を示して見せた。

 

 遮蔽物諸共に敵を吹き飛ばす。

 

 隊列を乱す間も無く薙ぎ払う。

 

 連携を乱す前に叩き伏せる。

 

 連携もせず単独で攻め潰す。

 

 高尚な使命感も感じさせず我武者羅さも無く、ゴミを捨てるかのような容易さを感じさせる。

 

「おじさん達の努力……なんだったんだろうなぁ……」

 

 自分達とは全てが違う。自分達では真似る事すら不可能なやり方をあっさりと遂行し、自分達が汗水垂らして勝ち取るものよりも遥かに優れた成果を持ち帰って来る。

 

 今回もそうだった。自分達では足止めと三割くらいを削り取るしか叶わない相手に、ミキはたったの一撃で勝利した。

 身を隠すことも無く、牧場の牛が飛び回る羽虫を追い払おうと尾を振るうようにひゅんと一振りしただけで新興暴力組織はあっさりと壊滅したのだから。

 

 今まで自分達が使ってきた戦術をせせら笑うかのような、その戦術に頼ってきた自分達すら嘲笑うかのような、理不尽極まりない暴威。

 

 頼りになるのは事実。だがそれ以上に、大切な校舎を守る為に日々努力してきた自分達があまりにも無力で、日々の努力が無駄に思えてしまった。

 

”そんなことは……”

 

 大切な生徒の弱気な発言を見過ごせるはずのない先生は咄嗟に否定しようとしたが、言葉に詰まってしまう。

 

 否定するには、ミキの振るう力は絶大過ぎる。その力が齎す成果も等しく絶大だ。

 それが分からない程、先生は馬鹿では無い。否定する事を許さない程に絶大な力を持つミキとホシノ達の間には、透明埋めようのない隔絶した差が聳え立っている。

 

「ううん、先生は何も言わないで。これは……そう、きっと、()()なんだと思うんだ」

 

”バツ?”

 

 悲しそうな顔をしてそう呟くホシノは、自分の手に視線を落とす。

 

「ミキちゃんから聞いたでしょ? おじさん達は学校を守ってくれたミキちゃんを拒絶した。怖いからって、恩人なのに突っぱねた」

 

 それは確かに酷い行いにも思える。

 村を救ってくれた英雄の力を恐れて追い払おうとする、胸糞の悪いライトノベルでありがちな展開だが、ミキはそれを良しとした。

 

 ミキにとって最も大事なことは身の安全、自分を取り囲む周囲の環境の安全。

 ホシノ達が恩人である自分を追い払うと決めた時も、自分が大事だと思う物をホシノ達も大事だと判断したのだからと受け入れた。

 

「それなのに、そんな身勝手なことをしたのに……ミキちゃんは戻って来てくれた。壊しちゃったここを直して、連れてきたカタカタヘルメット団の皆と一緒に他の所も直してくれて……借金の返済まで、手を貸してくれてる」

 

 アビドス高等学校が抱える借金の総額、実に9億。利子の返済ですら困難を極めていた状態で、ミキが『労働力』として大勢引連れてきたカタカタヘルメット団はとても有り難い存在だった。

 

 元は暴力組織、体力は有り余っている。パワーも申し分ない。

 それに何よりも、ミキに対して怯えてくれていたのがとても大きかった。

 

 彼女に対して強烈な怯えを抱いていたからこそ、廃校対策委員会の面々が優しく接したことでカタカタヘルメット団の面々はコロッとなつき、心を開いた。

 

 弱っていたところに取り入ったような形にはなるが、お陰で学校の生徒数は何十倍にも膨れ上がり借金返済も大幅な加速を迎えた。

 

「それだけでも十分な罰だよ。怖いから追い出した私達に、そんなのお構い無しでここまでしてくれる……そこに新興暴力組織の相手まで……もう、私は自分が惨めで仕方ないよ……」

 

 追い出した相手に、助けられている。

 

 怖いからと遠ざけた相手に、一方的に許され歩み寄られている。

 

 身の安全、自分の周囲の環境の安全を優先しての『追い払う』という決断をミキは良しとしても、ホシノ達には罪の意識として深く根ざしている。

 先生の視線の先で蹲り、震えている少女には耐え難い苦痛だ。

 

 万に一つも有り得ないが、ミキに甘え倒しな現状をミキ本人の口で『追い出した相手に救われる気分はどうだ?』と煽られ罵倒される方が幾分か救いになるだろう。

 

「ならせめて暴力組織とのやり取りで良い所を見せようって思ったけど……でも、それもダメ。以前まで相手にしていたのとは比べ物にならないくらい強くて、抗うのがやっとだもん。そして、そこもミキちゃんに救われてる……」

 

 校舎の整備にも借金返済にも動員出来る人員をもたらし、攻め寄せる新興暴力組織の相手もしてくれる。

 勝利という明確な成果を、自分達では滅多に手にすることが出来ない成果を伴って。

 

「先生…おじさん、どーすれば良いんだろうね」

 

 光の無い瞳に見つめられ、先生は唾を飲む。

 

 罪悪感や無力感、空虚感。ホシノの胸中に渦巻くそれ等の悪感情を先生は感じ取ることは出来ても払拭は出来ない。

 先生もまた、自分の手で生徒を救えないという無力感を味あわされて俯くことしか出来なかった。

 

 何か、何か声をかけないと。そう思うことは出来ても体は動いてくれない。

 大人として、何よりも一人の先生として、自分より遥かに強くてもまだ若い一人の女子生徒を救わなければならないと思っているのに、肉体は言うことを聞かない。

 

「疲れた…ミキさん、大丈夫かな」

 

「大丈夫だとは思いますよ。認めたくないけど……私達より強いですから」

 

 映像で見た少女、砂狼シロコと黒見セリカが保健室に現れたことで先生とホシノは各々を蝕んでいた悪感情を振り払うことが出来た。

 

 こんな姿、とても他人には見せられない。無理矢理に悪感情を押し込め、二人は入室してきた二人に視線を向けた。

 

「おかえり〜。体の調子はどう?」

 

 先程までの暗く沈痛な声とはまるで異なる、普段通りのふんわりぽわぽわした声色でホシノは問い掛ける。

 

 解凍されてから帰還したとはいえ、それまでは極低温に晒されながら戦闘を続行していた。何かしらのダメージは負っていても不思議では無い。

 

「私は大丈夫。朝寒い日とか、まだあるし」

 

「寒い日とは比べ物にならないと思いますけど……私は少し、指がかじかんでます」

 

 シロコは我慢している様子を見せずに平然と、セリカは冬の日にストーブの前でするように手を擦り合わせながら答えた。

 

 ホシノは「そっかぁ。よかったよかった」と笑っているが先生は笑えない。

 彼女が浮かべている笑顔の裏に先程まで確かに存在していた悪感情が潜んでいるのかと思うと、どうしても笑えなかった。

 

 シロコ達もホシノの問いかけに答えた後に彼女の隣のベッドにいる見慣れない大人の存在に気付き、その表情を強ばらせる。

 

「誰!? ここに大人がいるなんて聞いてないわよ!!」

 

「…落ち着いて。あの人、点滴している。多分、保護されたんだと思う」

 

 暴力組織との戦闘を終えてまだ時間が経っていないこともあり、気が立っているセリカは武器に手を掛けていたが冷静に観察していたシロコが止めた。

 

”そうだよ”

”ミキちゃんに保護してもらったんだ”

 

「ミキさんが……なに、アンタ遭難でもしたの?」

 

 保護してもらったとしか言っていないのに、遭難したことがバレた先生は目を丸くする。

 

「何よその顔。あの人が誰かを助けるなんて、自分がシロコ先輩にしてもらった事を真似たくらいしか想像出来ないわよ」

 

”そうなんだ”

”ここをめざしてたんだけど…迷っちゃって……”

 

「ここを目指していた?」

 

 今度はシロコが先生の発言に反応した。大人が来る、なんて報告は誰も受けていない。

 暴力組織構成員がスパイとして乗り込んできたのか、とも一瞬考えたがそれなら隣にいるホシノが見抜けないはずがない。

 

 つまり、何か真っ当な理由があって目の前にいる見慣れない大人はアビドス高等学校を訪れたのか。

 短時間のうちにそう判断していたシロコの声に警戒心は含まれておらず、目付きも普段通りのものに戻っていた。

 

 初対面で警戒させてしまった二人だけど、今なら話を聞いてくれそうだ。

 軽く深呼吸をして悪感情を落ち着かせ、先生は話し始める。

 

 アヤネから助けを求める手紙を受け取りアビドスに訪れた事。

 ミキとどのように知り合い、この場に来たのか。

 アビドス高等学校の実情についてどれだけ知っているのか。

 

「借金についても知っているんですねぇ〜」

 

 ミキと知り合った辺りについて話している時に戻ってきたノノミは話を聞き終えると、隣に座っているセリカにチラリと視線を向けた。

 

 反骨心が強い彼女は先生を認めない、そんな気がしていたから。

 今まで自分達だけで頑張ってきたことを、セリカは決して口にしないが誇りに思っているところがある。

 

 そこに追い返したミキが戻って来て手を貸してくれている現状を、彼女は快く思っていない。

 ホシノは溜め込むタチだが、彼女は逆。言葉にしてしまうタチの人間だ。

 

認めないわ! 今まで私たちだけで頑張ってたのに部外者の手なんて借りられない!

 

 ノノミの読み通り、セリカは反抗心を剥き出しにした。手がかじかむと言っていた数分前の彼女からはとても考えられない大声で叫ぶ。

 そのせいで響いたのか、彼女は腹部を押さえて背中を丸めた。かじかむとしか言わなかったが腹部にもある程度のダメージを負っているらしい。

 

 大丈夫か、と先生は声をかけようとしたが出来ない。

 生徒数も大きく減少し、人口まで流出して、そんな大変な時に手を差し伸べてくれなかった大人が今更になってどの面下げて『助ける』なんて言っているのだと、睨み付けている彼女の目は訴えていた。

 

「でも、今頼れる大人は先生だけだよ〜?」

 

「それはっ、そうですけど……!」

 

 ホシノの発言は正しく正論。否定しようのない正論をぶつけられ、セリカは言葉に詰まってしまった。

 彼女はミキ用の冷凍兵器を食らっても致命傷にならない。先生と比較すれば確かに強いが、そんな彼女にも出来ることと出来ないことがある。

 

 そこに頼れる第三者が現れた。

 先輩も認めている、たしかに頼りになりそうではある第三者。

 

 分かってはいる。頭の中で理解はしている。

 

「で、でもっ、さっき来たばかりの大人でしょ!? 今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!?」

 

 しかし、気持ちが先生の助力を拒絶してしまっている。

 

 今までの大人たちに対する失望と怒りが、セリカを縛り付けていた。

 

「なのに今更……ただでさえ私達は甘えっぱなしなのに、これ以上甘えろって言うの!? 私達の学校なのにッ、私達は何も出来ないの!?」

 

「ッ……それ、は……」

 

 今度は、ホシノが言葉を詰まらせる番だった。

 

 セリカの失望と怒りの矛先は何も大人だけに向けられているのではない。セリカ本人にも向けられている。

 

 口では悪く言っても本心では学校を愛している彼女にとって、現状は喜べるものでは無い。

 今までの努力は何だったのかと、ミキが暴威を振るう度に悩まされて来た。

 

 なら、せめて。せめて甘えっぱなしの現状に満足しないで借金返済や治安維持をより一層頑張ろうと思っていた矢先に、第二の甘え先になる先生が現れてしまった。

 

「私は絶対に認めないから!」

 

 苦しそうに顔を顰め、痛みによるものなのか精神的なものなのか判別の付かない涙を浮かべながらセリカは保健室を飛び出して行ってしまった。

 

 誰も、追う事が出来ない。皆同じ気持ちだから。

 セリカの気持ちが、苦悩が分かってしまうから。

 

 リーダー格の暴力組織構成員を連れ帰ったミキが保健室に戻ってくるまで、残された対策委員会の面々と先生は沈黙する以外に何も出来なかった。

 




再襲撃 ネタ解説
・海水のくだり→ゴジラと言ったら海でしょ
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