キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失) 作:ゲヘナ箱推し
これからも私なりのゴジラ像を崩さずに描きたいものを描いていくので、よろしくお願いします!
セリカが飛び出して行ったと聞いたが、私は別に気にならなかった。驚きはしたがな。
何があって飛び出すに至ったかは聞き及んで居る。先生の協力を拒絶した、と。
彼女の事だ、愚か者と何時か必ず激突するとは思っていたがまさかここまで早いとはな。
「あはは……ゴメンね?」
「仕方有るまい。彼女の事だ、この事態は予見出来ていた」
困り果てた顔で謝るホシノだが、その目の奥に何やら重苦しいモノが鎮座するのを見逃さない。私に対する害意の類では無い故にさして何かする訳では無いが、気分の良いものでは無いな。
私なら匂いを辿りより高精度な追跡も可能だが、私が向かった所で悪手だろう。
私に頼り切りな現状を良くないと思い、どうにかしようと足掻いてもどうにもならず、そこに頼れる第三者が現れてしまった。
セリカの心中は決して穏やかでは無い。掻き乱した本人である私が向かうのは逆効果に成り得る。
しかし……理解出来んな。頼れるモノ、使えるモノが居るのだから甘えれば良いものを。
「セリカさんはノノミ先輩が追ってくれていますが……大丈夫でしょうか」
飛び出して行ったセリカを追うのは私ではダメだ。先生も未だに点滴が終わらないし、終わって居たとしても遭難して弱った肉体に無理は強いられん。
追跡を申し出てくれたノノミも手負いであり、あまり無理はするなと言ってある。
感情的になっていたセリカとは違い、無理をする事は無いだろう。
「彼女なら無理をして倒れる、なんてヘマは犯すまい。さて……どうだ愚か者。私の手を取るという行為の意味、理解出来たか?」
暗い表情の先生に声を掛ける。私が一撃で暴力組織の派遣した部隊を壊滅させた光景に、漸く私という存在がどの様なものか理解したらしい。
私がどのような存在なのか理解もせずに手を取ると言った大馬鹿者。どれだけ危険か話をしても屁理屈を並べ、受け入れようとした数寄者。
こういう輩は嫌いだ。危機管理がまるで成っていない、救いようの無い馬鹿だ。
だが、移動の足と成るのは私としても有り難い話では有る。気に食わんが役立つのなら利用する。
役立つからと私の手を取るという発言に乗りはしたが、やはり協力するのを辞めると言うのであればこれ程に良い時機もそう有るまい。
行動を共にする様に成ってから言われるよりかは幾分もマシだ。足に成ると言っておいてやはり無し、と言われるのは気分が悪い。
今ならまだ行動を共にすると話を纏めただけであり、訂正が効く。
新興暴力組織のゴタゴタを片付け、そこから己の足でトリニティ総合学園を目指せば良いのだから。
「私は破壊する存在だ。手を取るという事は私の振り撒く破壊を貴様も目撃し、加担するという事。それでも尚、私の手を取り足と成る気か?」
”……うん”
”私は、先生だから”
少しの沈黙の後に先生が放った返答は、少しばかり予想外だった。
「ほう…」
思わず声が漏れる。
私の振り撒いた破壊を見ておいて、それでも私に力を貸すつもりで居る。余程の馬鹿か私の破壊に心奪われたキチガイでも無い限り、アレを見て逃げ出さないのはおかしいと思うのだが……
燃え盛る瓦礫と化した兵器を見て、骨を砕かれ蹲る事しか出来なくなった構成員共を見て、恐れを抱かなかったのか。
「愚か者、目を見せろ」
”目?”
気になり、先生の目を覗き込んだ。両手で頬を包み、親指で下瞼を押し下げる。
グイッと顔を寄せたせいで驚かせ、閉じられるかと思ったが先生はその目を閉ざさない。
深い黒色の瞳の奥、目の前に居る大馬鹿者の心の奥底を見る。
人間の目は正直だ。口ではどれだけ多種多様で色鮮やかな嘘を吐き連ねたとしても、目の奥には本心が宿る。
嘘が上手い奴は居ても、己の本心を隠し切れる奴は居ない。どう足掻いた所で本心というモノは消し去れない特別な代物で、隠し切るのは無理だ。
目は口ほどに物を言うという諺も有るからな。
「……」
先生という存在の中身、此奴を構成する本心。
此奴の馬鹿みたいに素直な眼からそれ等を読み通る事は、以前飛び掛って来たミラとか言う私に少し似た容姿のチンピラを叩き伏せたのと同じ位に容易かった。
「成程…貴様も大概、キチガイだな」
私の振り撒く暴威と破壊がホシノ達を救うと共に、その心に暗い影を招いて居る事は言われずとも分かる。
身の安全、自分の周囲の環境の安全を優先するという私と同じ判断を下した後も、罪悪感だの無力感だのという悪感情に苦しめられる難儀な生き方を彼女達はするのだと理解して居る。
その悪感情の根源は、私に対する恐怖の念。
生物にとって『恐怖』とは遠ざけたいモノであり、同時に己の身を守る為に知覚しなければならないモノ。
人で在ろうが犬で在ろうが、そればかりは変わらない。
それだと言うのに、目の前に居る生粋にして純粋にして筋金入りの大馬鹿者は、私に恐怖を抱きながらも受け入れ様としている。
私を恐ろしいものだと理解して、それでも手を取るつもりで居る。
超至近距離で見つめられ、その気になればこの距離から熱線を浴びせられる危険性が有るというのに、コイツは目を逸らさない。
私の事を理解していると言いたげな、私の内包する危険性を重々承知した上で尚手を取ると固い決意を宿した目で、私を見つめ返してくる。
「なぁ、教えてくれ。何が有れば貴様はそこまで気違える? 私を前にして、私の危険性を目にして、どうしてそうも
気にならない訳が無い。此奴のこのイカレっぷりは常軌を逸して居る。人類という枠組みに収まるモノでは無い。
キチガイだの盲だの好き勝手言われて機嫌を害する訳でも無く、困った様に笑うその仕草一つさえ異常だ。
自尊心が無いのだろうか。私は思った事を口にしてしまうしその口も悪い故、相手を悪意無しに傷付ける事は有る。
だが、その発言が相手を傷付けるか否かの判別が出来ないなんてことは有り得ない。
今回浴びせた言葉が相手を深く傷付ける事が可能な破壊力を有する物だと、無論理解しているとも。
”ミキちゃんの声に悪意がないから、かな”
私の問いに悩む様子も無くすんなりと先生は答えたが、およそ納得の行くモノでは無い。
悪意を感じないから気にしない、というのはあまりに己に対して無頓着だ。向けられた発言を額面通りに受け取り、その中に潜んで居るかもしれない別の意図を見て居ない。
それを曇りの無い瞳で言うのだから余計にタチが悪い。こうも筋金入りの大馬鹿者だと、返って何かしらの策略の存在を疑うというもの。
”それに私は先生だからね”
”生徒は絶対に見捨てないし、見放さない”
「…………とんだ、大馬鹿者だな。或いは」
追い討ちとばかりに放たれた言葉が、私を納得させるのを感じた。
そうだ、そうだった。コイツは『先生』だ。
先に生きる者、後に産まれた者の先立、生徒の味方。
良い事をしたとか悪い事をしたとか、そんなものをお構い無しに肩を持つのが己の役割なのだと実にあっさりと、さも当然の様に言い放つ。
コレがキチガイじゃ無いなら何に成る。己の事を勘定に含めずただひたすら生徒の事だけを考えて動く、私とは真逆の生物と言えるコイツがキチガイじゃ無いなら何だ。
実に欲深い。生徒という枠組みに当て嵌るとコイツが判断してしまえば、私の様な存在にすら喜んで手を貸し肯定するとコイツは言っている。
きっとこの先、腹をブチ抜く様な大怪我を負わせられたとしてもソイツが生徒で在るのならば肩を持つつもりなのだろう。
狂って居る。こんな奴と手を取るのかと思うと、少し背筋が凍った。
”大馬鹿者だからね、大先生とでも呼んでいいよ?”
「特大の反面教師として見てやろう。無計画に未知の土地に踏み込んで危うく死に掛けた特級の大馬鹿反面教師としてな」
”酷い”
まさかこんな奴だとは、なんて遅れながら手を取ると決めた相手のイカレっぷりに頭を抱えたくなる。
さて、それではそろそろやるべき事をやるとしよう。米俵の様に肩に担いで連行して来た暴力組織構成員をベッドの上に投げ落とす。
「ぎっ!?」
折れている両腕を意図的にベッドへぶつける様に落としたからな、さぞ痛かろう。目を見開いて歯を食い縛り、何とも間抜けな声を漏らして居た。
「吐け。新たに暴力組織を興したのは誰だ。何の目的で興した。何故此処を狙う。何故私の能力を知って居る。Gエナジーとは何だ」
「そ、そんなの話す訳が」
「そうか」
矢継ぎ早に問い掛けてやると、痛みを堪えながらも何やら格好付けて『貴様に話すことなんざねぇ』と言いたげな仕草をして来た。
無論、その反応は予測して居たとも。故に苛立ちもしないし、呆れもしなかった。
話さないのなら、話したいと思わせる迄。
手首を掴み、思い切り捻り上げてやった。
「ぎゃあああああああああああああああーーーッ!!!!!!」
実に間抜けで滑稽な絶叫が保健室内に轟く。ホシノ達はその叫びの悲痛さに耳を手で押さえているが、それを考慮してやる程余裕は無い。
「話す気に成ったか」
「だっ、ダダ誰が」
「そうか」
まだ話さないつもりらしい。なら、次は足だ。
尾を振り上げ、左足の脛部分を殴打する。
バキッという心地好い音。骨の折れた音だ。
構成員の顔が青ざめ、また大きく口を開き極めて無意味で無感動な絶叫を撒き散らす。
「ほら、話せ。次は指を千切るぞ」
「ミキさん! これは幾ら何でも酷過ぎます!」
口を割らせるのには効果的だと思っていたが、明らかに憤慨した様子のアヤネが止めに入って来た。
何故止める、と問いたかったが答えは言われずとも理解出来る。
彼女も、ホシノもシロコも、優しいから。自分達を苦しめた相手とはいえ骨を折られ、骨折箇所を捻られるという拷問紛いな扱いには心を痛めるから。
「確かにそうだ。非人道的行為と言われる類の行いだ。だが、今は必要な事だ」
「必要って……こんなに痛み付ける事のどこにそんな必要性が!」
「此奴が口を割れば此処を狙う理由も狙う元凶も割り出せる。知りたくは無いのか? 折角終息した暴力組織とのいざこざを蒸し返して、より強力な兵器や部隊を用意した不愉快極まりない大馬鹿者を」
彼女達が抱くその手の感情を理解はする。私がするのはそこまでであり、それに倣うつもりは毛頭無い。
私にとっては私の身の安全が全て、私の周囲の環境の安全が全てだ。
それ等を害そうとするので有れば、持てる力全てを動員してでも叩き潰す。
既に私は人殺しという禁忌を犯した身だ。もっとも、私に人殺しに対する罪の意識は欠片も無いが。
「確かに私達の学校を襲う暴力組織の正体は気になりますが……でも! これはあまりに!」
「お前達の負った傷の数々は注射の様な必要な傷とは異なる、全く不必要な傷だ。負う必要の無い傷、不当な傷。それ等を無意味且つ一方的に押し付けて来た此奴等が傷付けられるのは当然の報いだとは思わんか?」
アヤネの怒りも分かるが、それを容認は出来ない。
此奴等は私の縄張りに許可無く踏み入り荒らした。
その罪は重い。野生界でもそうだろう。熊の縄張りに踏み入れば立ち所に勘付かれ、理不尽な力の差で仕留められ殺される。
縄張りに踏み入るという罪に対し、熊は殺害という罰を与える。
私の縄張りに踏み入った罪に対し、私は拷問紛いの尋問という罰を与える。
何も変わりはしない。寧ろ直ぐには殺さないだけ有情だ。
「因果応報……そう言いたいのでしょうが、それでもコレはやり過ぎです!」
「その優しさは美徳だろうが、優しさだけでは守りたいモノを守れないと学べ。私用に開発した兵器を私以外に使用する時点で此奴等に人の心は無い。人の心を有さぬ輩に、優しさが通じると思うか?」
優しさを否定はしない。私もそれに助けられた以上、否定する権利は無い。
優しさは時に武器と成るが、基本的には非力でナマクラな武器だ。相手によってはまるで通用しない。
それこそ、校舎を狙って来るこの暴力組織の様な輩共には。
足りないのだ。優しいだけでは、守りたいモノを守るのには不足する。
それを片鱗だけでも理解してくれれば……等と思ったりもするが、まだ若く幼いアヤネ達には無理難題か。
「貴女はッ、そうやって!」
優しさだけでは守れない、そこに関してはアヤネも思う所が有るのだろう。傷を癒す立場に有る彼女なら、それは尚更痛感するはず。
彼女が幾ら尽力しても、回復した仲間は戦いの中で傷付く。
後方から癒すだけでは無く、援護射撃の様に戦う能力が有れば仲間の負った傷が存在しなかったかもしれない……そう思った事も、一度や二度では有るまい。
声を荒げて、そこで終わり。今にも泣き出しそうな顔をして、私を見ていた。
怒りとも悲しみとも取れる表情は優しい彼女には似つかわしく無いモノだと思いこそするも、私には欠片も響かない。
「済まないな、貴様より優先すべきやり取りが有った。尋問を再開して……おい、死んだか?」
当初の予定とは違う尋問をしてしまい時間が掛かってしまった。
そろそろ本腰を入れて此奴を尋問しよう、そう思って視線を下ろすと白目をひん剥いて沈黙して居た。
何も言わない様に死亡を疑い頬をぶっ叩き、その後に胸部が動いて居るのを視認した。
痛みに耐え切れず気を失ったらしい。無理矢理叩き起してやろうかとも思ったが、気絶中という無防備状態で激痛を与えようものなら心身への負荷が大きく跳ね上がる。
意識が有る状態での拷問なら心構えが出来るから耐えられるだろうが、今の此奴の腕を捻りでもすれば殺しかねない。
それは困る。情報を有していそうと踏んで連れて来たのだ、何も引き出せずに死にましたなんて有ってはならない。
「日を改めるか」
絶命を避ける為にも、時間を置いて少し肉体を癒してもらうとしよう。
早く情報を得たかったが仕方無い。
先生に協力を取り消す選択肢が無い事を確認出来たし、今回はコレで良しとしよう。
しかし…何がああも先生を狂わせるのだろう。
並大抵の恐怖よりも巨大な恐怖である私を前にして、あの人間は何故……
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