キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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大変長らくおまたせしました。職場のゴタゴタやら人間関係でのトラブルやらで遅れてしまいました。
アニメ一話放送には合わせよう、と思っていたらもう5話?6話?です。時間の流れは早いですね……コワッ

また、あとがきで行っていた小ネタ解説を友人に『くどい』の一言でバッサリ切り捨てられたので以降は控えさせてもらいます。申し訳ありません。


不敬には極刑を

 一夜を越し、翌日に成った。食事だけでは無く睡眠も必要としない肉体は眠気が到来する事を許さず、曇りの無い夜空を誰も伴わずに一人歩くのも良い気晴らしに成った。

 

(アイツは口を割らなかったな…痛め付け過ぎたか)

 

 捕らえたあの暴力組織構成員は私が身柄を預かり、廃ビル付近の空き家に放り込んだ。保健室で必要な手当ては受けたのだし、そうなればあの校舎に留まらせる訳には行かない。

 アイツは私の縄張りを荒らし、私の縄張りを構成するホシノ達に傷を負わせ、校舎にも危害を加えようとした。

 

 殺してやりたい程の愚行悪行を犯しておきながら、真っ当な手当てと安全な場の提供を受けられる等と思い上がらせる事すら許せ無い。

 其れに口を割らせる為に振るう暴力や示す暴威、それ等によって奴が放つ悲鳴や絶叫をホシノ達が見るのを嫌がった、というのも有る。

 

 だが……私は破壊する事にしか能が無かった。加減して破壊するのは苦手らしい。

 痛みと恐怖を与え過ぎて、心を破壊してしまった。今朝方、呑気に寝息を立てて眠る様が気に食わず左膝を踏み砕いたのがトドメに成ったらしい。

 死んだ魚を思わせる虚ろな目から涙を流し、半開きの口から乾いた笑いと涎を垂れ流す肉袋に成り果てさせてしまった。

 

 捕らえられてから短時間で数多の苦痛を与えられ、漸く其れも落ち着き少しは休めるだろうと眠って居た所に前触れ無く与えられた激痛。

 一頻り大絶叫を放った後、何も言わなく成った。私の問い掛けにも答えず、ただ泣きながら笑うだけ。

 

(他の奴を捕えないとダメだな)

 

 アビドス自治区内を歩き回っても、新興暴力組織の拠点と思しきモノは見付けられずに居る。

 あれだけ大規模な部隊を編成するとなればそれ相応の拠点が必要な筈だが…こうも見付から無いと成ると、奴等は自治区外から遠征して来たと考えたくなる。

 

 此方から捜索するよりも、向こうから攻めて来て貰いそこを迎撃して構成員を捕らえ、尋問した方が手っ取り早そうだ。

 ホシノ達には迷惑を掛けてしまうが……

 

 昨日飛び出して行ったセリカだが、どうやらそのまま借金返済に充てる資金を稼ぐ為に非常勤の店員として汗水を垂らして労働に励んで居たそうだ。

 日が落ちた頃に何処に居たのか、無事だったのかの報告を受けたとホシノから聞かされた。

 

(逞しいモノだな。昨日の今日で持ち直したか)

 

 今までの努力を無意味に感じさせる私の存在に日々苦しめられて居たモノが、昨日炸裂した。

 それでもその後に借金返済の為にと痛みを抱えながらも働いて、しかも今日も普通に登校したそうではないか。

 

 飛び出してしまう程に感極まったと言うのに働いて登校までするのだから、逞しい以外の感想が湧かない。

 

 実は案外、彼女は自分でも理解しない無意識の内で私の齎すモノを受け入れて居るのかもしれないな。

 或いは言葉にしてぶち撒けつつも、私に頼らざるを得ないと諦めて居るか。

 

 まぁ、何方で有ろうとも私には関係の無い話だ。頭を悩ませるのは彼女であって、私では無い。

 私の齎すモノを受け入れるも拒絶するも、全ては黒見セリカ本人が決める事。

 私がああだこうだと言う筋合いは無いし、言うつもりも無い。

 

(どう決めた所で、私は受け入れるだけだしな)

 

 この地は私の縄張りで有ると共に彼女等の生活の場。そこでどう生きるかは彼女等が決める事だ。

 

 現状の環境を大きく変化させる様な巫山戯た選択をしない限りは、彼女等の決めた事に口を出すつもりは無い。

 

(しかし……面倒な生き方をするな、人間は)

 

 人間という生き物はとかく面倒だ。あれやこれやと要らぬ事柄に頭を悩まされ、目を眩まされ、進むべき道や選ぶべき選択肢を誤る。

 私もあれこれと考える方だが、廃校対策委員会の面々や先生は特にそのきらいが有る。苦労する生き方を選ぶとは…理解に困らされるな。

 

 もっと短絡的というか、本能的というか、その手の面倒な物に煩わされずに生きる事を何故彼女等は選べない造りで生まれてしまったのだろう。

 それで居て、時にどうしようも無く愚かしくて馬鹿馬鹿しくて忌々しい選択肢を選ぶ事も有るから始末が悪い。

 

 野山を焼き払う爆弾、度し難い汚染、阿鼻叫喚の焦熱地獄。

 生き物が作り出せる自然へ対する冒涜の範疇を大きく逸脱した外道な産物を、何故罪悪感だの自己嫌悪だのを引き起こせる生物が作り出せてしまうのか。

 

(やはり記憶が戻りつつある。長尺では無い、極めて断片的なモノでは有るが)

 

 爆弾だの汚染だの、この地で意識を取り戻して以来見た事の無い筈の物質や光景が脳裏に浮かぶ。

 

 記憶を取り戻すのには感情に対する刺激が有効と思って居たが、それ以外にも作用する物が有ると分かった。

 

 Gエナジー。暴力組織構成員が口にした、私に起因する物質。

 ビナーが用いていたモノもこれだろう。奴を含めた預言者、及び預言者が賛同するデカグラマトンが記憶を喪失する以前の私と交戦し、得た代物。

 

 私に起因する物質という事も有るのだろうが、私が取り戻すと記憶や肉体に備わる能力を思い出す事が出来た。

 今後は感情への刺激だけでは無く、Gエナジーの回収もより本腰を入れて行う必要が有りそうだ。

 

 経験則から予測するに兵器の類に用いられるらしいし、今後は人員よりも兵器を優先して破壊するとするか。

 冷凍兵器を破壊した際、手持ちの傾向武器も破壊したがそれからも微量なGエナジーを回収出来た。

 

(だが奇妙だ。デカグラマトン及び預言者は兎も角、何故ただの暴力組織がGエナジーを知り、用いられる?)

 

 疑問は残る。

 前者共は記憶を喪失する以前の私と殺し合った関係上、私の肉体から剥離した皮膚やら鰭やらを回収してGエナジーを抽出したのだろうという推測が出来る。

 

 だが、暴力組織がどうしてGエナジーの存在を知り利用出来たのかに関しての推測は出来ない。

 以前までの不良生徒によって構成される暴力組織とは各所で異なる点は有るものの、だからといってGエナジーを扱える理由には成りにくい。

 

(暴力組織……では無い、のかもしれんな)

 

 立ち回りの洗練さ、不測の事態にもある程度臨機応変に対応出来る身軽さ、用いる武器及び兵器の質と量……どれも只の不良生徒が用意するには出来が良過ぎる。

 

 暴力組織の名を語る何処かの学園乃至は国が派遣した軍隊だと思う方が辻褄も合うし納得出来る。

 もし本当にそうなのだとすれば、ホシノ達は随分と強大な敵を相手にするものだ。いくら肉体が頑強だろうと、相手が軍隊なら苦戦は免れないだろう。

 

 相手が暴力組織に化けたより強固な軍隊なのだとしたら不運も不運だが……まぁ、その分幸運でも有る。

 相手がGエナジーを用いると分かった以上、私が積極的に奴等を襲撃して兵器の類を優先して破壊する理由が出来たからな。

 

 欲望に突き動かされ、手にしてはいけない物を手にした罪。

 私の縄張りで好き勝手に暴れ回り、私の許可無く縄張りを構成する要素であるホシノ達やアビドス高等学校を狙う暴挙の罪。

 

 これ等をしっかりと償わせなければな。

 

(……心地好い)

 

 ひんやりと冷たい地下水に肉体を撫ぜられる感覚に、自然と目が細まる。彼等彼女等の生き方に対する困惑も溶けて流れ落ちる。

 落ち着くのだ。こうして泳いで居ると、味も質も最高級な水に包まれていると。

 以前動画で見せて貰った、飼い犬が飼い主に頭を撫でられ目を細めていた様に。

 

 アビドス自治区の郊外に広がる広大なアビドス砂漠、私がビナーと殺し合いを演じたあの地には過去にオアシスという砂漠内に存在する大きい水溜まり?湖?みたいなモノが有ったと聞く。

 

 今ではそれもとうに枯れ果てた……そう聞かされた。少なくともが、それもそうだ。枯れ果てたと勘違いもする。

 水は残って居た。アビドス砂漠の地中の奥深くに。

 

 かなりの深度が有る。これを掘り起こすのは至難の業……というか、ホシノ達には無理だろう。

 

(動きにくいかと思ったが、不思議なものだ)

 

 私がアビドス自治区を縄張りとする理由の一つ、それがこの地下水路。ひんやりと冷たく、海にも通じているのか僅かに塩っけを含む地下水路を泳ぐ事が最近の日課に成りつつある。

 

 オアシスという存在を聞かされ無性に水が欲しく成り、アビドス砂漠に熱線をぶっぱなして掘り当てたのが私と地下水路の出逢い。

 脱ぐ事も叶わないドレスで泳げるものかと最初は少し怪しんだ。水を含んで動きにくくなるのでは、こんなヒラヒラして泳ぎにくいのでは無いか、と。

 

 だが、私の肉体はどうやら水中に居る時こそ真価を発揮するらしい。

 手足を振るう事も無く、体をくねらせるだけでグングンと泳ぐ事が出来た。

 ドレスが受けている筈の抵抗すらも感じさせず、首筋に自然と現れたエラのお陰で水中から顔を出して呼吸する必要も無い。

 

(陸に居るよりも格段に楽だな)

 

 大して苦では無かったが、水中という己の重みからすらも解き放たれる場を知ってしまうと、陸を歩く際の己の重みが僅かに煩わしく思えてしまう。

 

 これ程便利なものだ、活用しない手は無い。心身を休め、美味な水を提供してくれる地下水路を私はチマチマと拡張して居る。

 派手にやり過ぎると水の濁りを招いたり、頭上に存在する土地を陥没させる恐れが有る為、私らしくも無い慎重さが求められるがコレはコレで新たな体験で中々に楽しい。

 

 今では黒の不審火現場の急廃ビル付近の廃屋にまで範囲を伸ばしている。

 何千人と死んだ悲惨且つ原因不明犯人不明の怪事件現場の周辺ともなれば、余程のバカや物好きでもそう近寄る物では無い。隠れ家にはうってつけだ。

 

 それに走るという行為をあまりしない私が素早く移動する事を、この地下水路は可能とする。

 走る最中に転びでもすれば間違い無く周囲の物を破壊するし、人が居れば傷を負わせるからな。

 少し誤れば暴走車両並の危険物体と成り果てる私にとっては気兼ね無く素早く動ける移動経路でも有り、移動の面でも大いに助けられている。

 

(水底もいずれ、調べなければな)

 

 どれ程の水深なのかさえも未だに調べ切れては居ない。最初は砂漠の地下を流れる良質な水路と見て居たが、只の水路では無さそうだ。

 

 かなりの水深を誇ると見る。長大な生物の気配も感じる様な気もするが、向こうから攻撃や接触を試みる気配は感じられ無い。

 

 未だ未知数ながらもこの場所を私は気に入った。泳いでいるだけでも不思議と力が湧き上がるのを感じる。

 願わくば、この場所だけは誰にも知られたく無いものだ。

 ホシノ達にも、元カタメット団の面々にも、先生にも。

 

(いや、一人知って居るな。死人ではあるが)

 

 誰にも知られたく無い。そう思って、すぐにそれは叶わない願いだと思い出す。

 

 地下水路を掘り当てた際、私の隣に誰かが居た。見た事の無い女が、一人で立って居た。

 気配も無く、光の無い瞳で、私の放った熱線が作り出した竪穴を見下ろして、その瞳に似合わぬ明るい表情を浮かべながら。

 

 まず間違い無くこの世の者では無い。

 あの世の存在、生者の対極の存在、有り体に言う所の死者や亡霊の類。

 

 膝ほどまである緑がかった薄い水色の髪を生やした、優しげな女。

 彼女の放ったやけに透き通る様な、幻聴の類と片付けたとしても問題無さそうながらも確かに耳にこびり付いた声を、私は今でも鮮明に思い出せる。

 

『ありがとう、怪獣さん。私の見付けたかったもの、見つけてくれて』

 

 私を()()と呼んだあの女。あの世という此方からの干渉を受け付けず、私ですら知り得ない私について知ると思われるあの女。

 

 彼女もコレを求めて居たらしい。口振りから察するに手にする事は叶わなかったらしいが、己が欲していた者を他者に手に入れられてもそれを喜ぶ辺り相当なお人好しか馬鹿だったのだろう。

 

 死んだ目から、嫉妬の色は感じられ無かった。欲した物を他者に得られて、僅かなりとも生じるのが普通の嫉妬を感じ無かった。

 ……そう言えば、心做しかホシノに似ていると感じたな。見て呉れも声も話し方も、何一つとて異なるのに何かが似ていた。

 彼女の関係者か、或いはホシノがあの女を訳有って真似て生きて居るのか。

 仮に後者なのだとしたら、あの女も中々に難儀な生き方をするものだ。

 

 己という包み隠す事が極めて困難な物を無理矢理に押し殺し、己と異なる己を有する者を真似て己を偽る。

 

 私には到底出来ない偉業であり苦行でもあり、凡そ理解に苦しむ奇行。

 彼女にとって何かしらの意味が有るのだろうも考察しても、そこから先へ考察を運ぶ事が出来ない。

 

(人間とは……分からんモノだな)

 

 地上で最も繁栄している種。大胆にも、不遜にも、愚かしくもそう宣い霊長だのとほざき、個人個人の生き方に固執する種。

 

 種としての在り様と、彼女の生き方は異なる。

 欲を有する事は共通すれども、一個体がそれぞれ生き方に固執する種の中で彼女は『小鳥遊ホシノ』としての生き方を押し殺し『知り合いの故人』としての生き方を模倣して生きる。

 

 理解出来る日が訪れるとは思えない。理解しようとも思わ無い。理解する必要は無く、理解したとて私が得る物は何も無い。

 

 だが否定もしない。生き方とは影響を受ける与える程度の伝播性は有るものの、結局の所その個人が決める物で在りその個人だけが歩む物。

 

 私が口を出す物では無い。セリカが決める生き方も、ホシノが歩む生き方も、私に口を出す権利は無い。

 

(生き方は各々が決める物、其れへの口出しはその者への不敬に当たる。不敬には、極刑有るのみだ)

 

 私はそう生きて居る。縄張りを荒らす者には死、或いは甚大な被害と恐怖を与えるという極刑を与え生きる生物。

 なら、私も其れに逆らえはしない。彼女達の決めた生き方への口出しは私自身であろうと許さない。

 

(奴にも、極刑を)

 

 私に接触して来たあの男、ゲマトリア、黒服。

 

 奴の気配は覚えた。奴が何かを企て、アビドス自治区内をコソコソ嗅ぎ回って居る事も把握して居る。

 

 今はまだ目立った害こそ無いものの、いつか何かをしでかす事は確定事項。早急な手打ちが必要だ。

 

(奴等にも、極刑を)

 

 心地好い水路を、怒りに満たされた心で突き進む。

 

 感情への刺激とGエナジーの接種により肉体が取り戻した機能──対策委員会五名と先生、元カタメット団の居場所を感覚的に把握出来る機能──が異常を検知した。

 

 セリカが移動して居る。其れも自動車の類を使用して居ると推測される速度で、アビドス郊外の砂漠地帯を目指して。

 

 彼女は自動車を持た無い。走るよりも素早い移動手段として彼女が行使可能な物は自転車程度だが、それよりも遥かに早い。

 

 他の対策委員会の面々や先生、元カタメット団とも別行動をして居る。

 移動を開始したのは時間的に労働に励んだ後。街中で数秒立ち止まった後、急速に移動を開始。

 

 退勤後の数秒の停止・停止後の急速なアビドス砂漠を目指しての移動・他の面々との別行動。

 

 コレを私は、何者かによるセリカ拉致と断定した。

 

(許さない)

 

 彼女が訳有って車を捕まえ乗せて貰ったのならまだ良い。

 だが其れは考えにくい。その様な奇行に走る動機が無い。

 

 彼女も私の縄張りを、アビドス高等学校及びアビドス自治区を構成する要素の一人。

 

 彼女への害は私の縄張りへの害であり不敬。

 到底許され無い。私の縄張りへの不敬には、極刑を与えなければ。

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