キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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本来ならミキ以外の東宝怪獣は出さないつもりでしたが怪獣総進撃を見たら出したくなったので出します。
これでまたストーリー練り直しですが楽しそうなのでオッケーです。勿論、練り直すのは私です。この怪獣バカめ。もっとやれ。


黄衣の王

 夜間。アビドス自治区に住まう各々が眠ろうかな、お風呂に入ろうかなと一日の終わりに備えて動き、気を緩めていた。

 そんな時にアビドス全域に轟いた聞き慣れない轟音と微かな振動。

 

 地震とそれに伴う地鳴りの類を疑う者もいたが、それはアビドス砂漠の広がる方向の空に立ち上るキノコ雲の存在によってただの地震ではないと誰もが思い知らされた。

 キヴォトスにおいて、このような現象は記録された事がない。キノコを思わせる形の雲なんて老人達でも見た事が無かった。

 

 明らかな異常現象にホシノ達は充電していた携帯電話を手に取り連絡を取り合う。

 そこでセリカとミキに対して誰も連絡がつかないこと、轟音がミキの放つ咆哮に似ていたことがやり取りの最中で判明、あの二人がなにかに巻き込まれたのではないかとホシノが発言した。

 

「……」

 

 アビドス高等学校の倉庫内で埃をかぶっていたバギーが舗装されたアスファルトを踏みしめながら疾走する中、ホシノ達は一言も発せなかった。

 暴力組織時代に回収した装甲車両を用いて随伴する元カタカタヘルメット団の皆も、自分の得物を握り潰してしまうのではないかと思う程に強く握り締め、俯いている。

 

 これから自分達が向かう先は普通では無い。あの爆発も轟音も、未だに顕現しているキノコ雲も自分達が乗り越えて来た戦闘では発生しようがない現象だ。

 ただ事では無い何か、今までに経験したことのない何かが起こっている。それしか分からず、誰も何も言えずにただ押し黙ることしか出来ない。

 

"……まさか、ね"

 

 ただ一人、先生だけは思い当たる節があったものの即座にその可能性を頭の中から消し去ろうとする。

 

 先生はホシノ達キヴォトス生まれキヴォトス育ちではない。何千もの学校が寄り集まるこの地とは異なる土地、外の世界で生まれ育った。

 外の世界で叩き込まれた知識が先生にはある。

 

 可能性を消し去ろうとはしたが、轟音と共に現れたあのキノコ雲がそれを許さない。

 先生にしか扱うことが出来ないタブレット型デバイス『シッテムの箱』の電源を入れる。その際に指が震えていたのは、バギーが舗装された路面から外れたせいだろうと信じたかった。

 

"アロナ、調べて欲しいことがいくつかあるんだ"

 

 デバイスの画面に現れた青髪の少女、アロナは先生の送った文字チャットに対して頷きすぐにその姿を消した。

 その数秒後、彼女は複数枚の書類の形をとったデータファイルを持ち出して画面いっぱいに表示する。

 

 先生は画面をスワイプして提示されたデータファイルを見やすいサイズに調整、羅列される文言に目を通す。

 

・原子力爆弾 該当無し

・核兵器 該当無し

・核汚染 該当無し

・戦略核兵器 該当無し

・核実験 該当無し

・核保有校 該当無し

 

 人類が生み出した恐るべき兵器、世界の均衡を崩しかねない兵器とそれ等が用いられた際にばら撒かれる深刻な汚染。

 

 それ等に対してキヴォトス内で構築されているネットワークは一切該当しなかった。つまり、これ等はキヴォトス内に存在しないことを意味している。

 核保有校にも該当が無く、アビドス高等学校以外の学校が核兵器を保有している可能性も考えにくい。秘匿して保有しているとなれば話は別、だが。

 

(とりあえずは一安心…かな)

 

 不必要な恐怖・混乱を与えてしまうのを避ける為に先生はあのキノコ雲についての言及を意図的に控えていた。

 それが正しい行為なのかは怪しい所でもある。極めて危険な兵器の存在を認知させる事も先生として大切な事ではあるが、それによってホシノ達を怖がらせてしまうのは避けたかった。

 

 幼い頃から持っていたガイガーカウンターも警告音を鳴らしていない。あのキノコ雲もきっと、それっぽい何か別のものだ。

 生まれ育った外の世界とはきっと気象条件とかが異なり、たまたまそれっぽい雲が現れたんだろう。

 

 巨大な引っ掛かりを感じつつも、先生は無理矢理に自分を納得させようとした。

 

「皆さん…到着しました……」

 

 アヤネの詰まったような声に先生はシッテムの箱の電源を落とし、フロントガラスの先に広がる光景のその目で見る。

 

 無理矢理に納得することを許さない、その光景を。

 

"これは……"

 

 アビドスを代表する光景とも言える広大な砂漠が、鈍い光を放つガラスと化している。

 砂の海と呼称されることもあるのが砂漠だ、ガラスの海なんて呼称されることは無い。

 

 砂がガラスに変化するのには相当な高温が必要となる。それこそ該当しなかった核兵器の爆発のような、超高温が。

 触れてみるが熱感は無い。表面には吹き付けた砂が擦ったことで出来たと思われる小さい傷が無数にあり、ガラス化してそれなりに日が経っていることを表していた。

 

 先生が肌身離さず持っているガイガーカウンターも静かであり放射能汚染を通達しない。核兵器の爆発によるガラス化では無い。

 

「これって……」

「前は、こうじゃなかったはず」

 

 ノノミ達もガラス化したアビドス砂漠の姿を見るのは、今日が初めてだった。

 以前に見た事があるアビドス砂漠とは明らかに異なる。虚しさすら感じさせる砂の海だったはず。

 

 それが今ではどこか神秘的にすら思わせるガラスの海へと変わり、風に乗って運ばれてきた砂に隠れながらも雲ひとつない夜空に煌めく星々と月を反射している。

 

「……ミキちゃん。何をしたの?」

 

 記憶の中にある砂漠とあまりに乖離した光景にホシノも唖然としていた。仲の良かった先輩と見た忌々しくも懐かしい記憶に残る姿とまるで違う光景は、彼女に嬉しいとも悲しいとも取れる複雑な気持ちを抱かせる。

 

 ガラス化を引き起こしているのもそうだが、そんなアビドス砂漠に本来あるはずがないものが転がっている光景もまた異質であった。

 ホシノがミキの名を口にしたのも、砂漠の有り様よりも目の前に転がっている物体群を見たからだ。

 

「車両…だと思います……」

 

 車両だったと思われる残骸の山。戦闘用の装甲車両やジープ、戦車と思しき金属の塊がそこかしこに山と積まれ、赤い炎に包まれ焼かれている。

 高温によって捻れたのか人為的に捻じ曲げたのか。少なくともホシノ達では到底再現出来ないような酷い有り様を残骸の山は呈していた。

 

 こんなものがあるはずが無い。砂漠を調査しに来たにしては武装と思しき瓦礫が多く、どちらかと言えば戦闘行為やそれに比類する何かをするために送り込まれたようにしか見えない。

 

"下手に触らないでね"

 

 残骸の山にガイガーカウンターを近付け、反応が無いことに安堵しながらも生徒達が不要な怪我をしないよう先生は注意の言葉を飛ばす。

 

 不思議な話だが、銃弾が直撃しても死に至らない頑丈な肉体を持つキヴォトス人だが刃物の類はすんなりと通ってしまう。

 へし折られて鋭利な断面を晒している瓦礫にうっかり触れようものなら間違いなく怪我をする。

 

"警戒しつつ前進して"

 

 これだけ徹底的に破壊し尽くされているのだ、残存兵が居るとも思えない。

 それでも油断は出来ない。キヴォトスに生きる者達は肉体が頑丈であり、銃撃されても怪我で済んでしまう。

 

 外の世界での常識が通用しない相手がこちらに銃を向けてくるかもしれない状況下で、気を抜けるはずがない。

 ホシノ達に警戒を促しつつ、先生は口元に手を当てて難しい顔をして思考を巡らせ始めた。

 

(ミキは多分、放射線や核を武器にしている)

 

 砂がガラス化を引き起こすほどの超高温を発生させる自然現象は無い。人為的に引き起こすのなら、まず真っ先に浮かぶのが核爆発だ。

 キノコ雲も核実験や核爆発を象徴する現象。人類が尽きぬ欲望に突き動かされて生み出してしまった悪魔の兵器が生み出す雲だ。

 

 だが、キノコ雲を生み出す核兵器は現時点においてキヴォトス内に確認されていない。存在すら知られていない。

 なら、何がアビドス砂漠のガラス化を引き起こしたか。

 

 先生はこの現象の犯人を、水波瀬ミキだと睨んだ。

 

(熱線やプラズマカッター……あんな能力を使って体力が持つとは思えない)

 

 全力疾走や長時間遊泳といった肉体を行使する行為は総じて体力を消耗する。

 

 ミキも生き物である以上、体力の消耗と無縁ではない。

 保健室で見たあの光景。熱線やプラズマカッターを生み出すという行為は肉体に対して相応の負荷を与え、体力を奪うと考えるのが妥当。

 

 仮に体力を奪わないのだとしても熱線やプラズマカッターを生み出す為に相当なエネルギーを消耗する筈。それこそ普通の人間なら瞬時に枯渇してしまうであろう、極めて膨大なエネルギーを。

 

 攻撃された兵器が融解・爆散した光景はミキが超高温を生み出せるという証拠となり、同時にそれだけの高温を生み出せるエネルギー源・耐えられる肉体を与えた要素が何なのかという疑問を産む。

 

 そのエネルギー源は何か。

 アミノ酸だのグルタミン酸だのと人間が生きる上で欠かせない要素は数多有れど、それ等では賄いきれないエネルギー消耗を補える代物。

 強靭な肉体を誇るキヴォトス人よりも遥かに強靭な肉体をミキに与えた要素。

 

 それこそが放射能、核エネルギーだと先生は仮定する。

 

(ガイガーカウンターが反応しないのはおかしいけど……多分、それもミキのせいだね)

 

 核エネルギーを扱う時点でミキの肉体は核に汚染されており、絶命に至るのが普通。

 

 しかし彼女に対して『普通』ほど当てはまらない言葉は無い。

 人体に対して極めて有害である放射能を熱線やプラズマカッターに変化して放っているのか、放射能をエネルギーとして生み出しているのかまでは不明。

 

 どちらにせよ、ミキは核エネルギーを完全にコントロールしていると見るのが妥当な所だ。彼女の行動範囲や行動を共にしているホシノ達に放射能汚染が見られないのも証左となる。

 恐らくミキは放射能汚染を撒き散らすと共に吸収し、エネルギーとして再利用しつつ除染も行っている。

 

(なんだかんだ、結構優しいんだよなぁ)

 

 彼女はアビドス自治区を縄張りと呼称しつつも、そこに住まう人々を追い出そうとはしていない。

 心地好い場所に住まわせてもらうお礼としてそこを縄張りと呼び、外部からの侵攻を予防しようとしている。

 

 感情に対する刺激で能力を取り戻す、彼女はそう言った。

 新興暴力組織による攻撃で傷付いたホシノ達を見て怒りを抱く姿も先生は見た。

 

 敵対者に対しては無情だが、庇護下にある者に対しては優しさを見せるのがミキの性格。

 撒き散らした放射能汚染を吸収・除染する能力はその性格に起因するのだとすれば筋が通る気がし、化け物じみた彼女にも人間味が感じられた。

 

「……皆、止まって。誰か居る」

 

 周囲を警戒しつつ探索を進めていた先生達の足を、先陣を切るホシノが止めた。

 自分達が立っている丘陵型の地形の足元、くぼんだ地形の中央に佇む人物が居た。

 

 黄色い外套を纏い、蛇を思わせる赤い瞳でホシノ達を見上げている。

 武器の類を身につけているようには見えない。龍の頭を思わせる肩当を付けており、兵器の残骸が散らばるこの場で異質な風貌を呈している。

 

 纏う気配から只者では無い。

 言葉を掛けられた訳でも力の差を示された訳でもないのに、強烈な威圧感を感じる。

 

「ッ…なんですか、このっ……」

「ん…凄い威圧感…」

 

 双方睨み合ってはいるが、ホシノ達は目の前にいる黄衣の人物に気圧されてしまい動けなくなっていた。

 

 肉体が前進を拒んでいる。本能的にあの人物と関わるのはまずいと理解し、接触してしまう恐れのある行為を拒絶している。

 

 先生もそのうちの一人だ。生徒達を前にして、情けなくも立ち竦んでしまっている。

 

『……』

 

(目が…合った)

 

 黄衣の人物と目線が合うのを先生は感じた。

 

 まずい、と思っても顔が反らせない。本人の意思に反してかの人物の目を見入ってしまう。

 

 相手は何も語らない。どこか尊厳さすら感じさせる微動だにしない佇まいで先生に視線を送り、送り返されている視線を受け取っている。

 

 実際には10数秒だが体感では数分とも数時間とも取れる長い睨み合いの末、黄衣の人物が動く。

 ニタリ、と笑った。何かを見つけたと、そう言いたげに。

 

 強い風が吹き抜ける。黄衣がはためき、巨大な翼を思わせた。

 

『お前が、鍵だ』

 

"えっ"

 

 聞いた事のない声が先生の頭に響く。

 

『お前が、蔓だ』

 

「なに?」

 

 ホシノの頭にもその声は響いた。

 

 二人が同時に声を漏らし、それにアヤネ達の注意が逸れたのと黄衣の人物が跳躍したのは同時だった。

 重力を感じさせないやんわりとした挙動で黄衣の人物は跳躍し、隠されていた二股の爬虫類的な尾をゆらめかせながら先生の目の前に着地する軌道で迫って来る。

 

 接近を許してはいけない。今の自分たちでは勝てない。

 力量差を測るまでもなく感じ取っていた絶望的なまでの力の差に、先生は後退の指示を飛ばそうとした。

 

 しかし声が出ない。黄衣の人物が迫ってくるという恐怖に肉体が支配され、一切の動作を封じ込められてしまっている。

 逃げろと言うことも、逃げることも叶わない。

 

 赤い瞳が迫って来る。接触してはならない存在が接触を試みてくる。

 

 今の先生に出来ることは唯一許された動作、目を固く瞑り現実逃避がすることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『許さない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生の頭に別の声が、聞き慣れた声が大音響で響き渡った。

 

 パッと目を開ける。目の前に迫っていた黄衣の人物の瞳に怒りの色が灯り、横一文字に閉ざされていた唇が開きギザギザの歯を悔しそうに食いしばっていた。

 

 同時に、黄衣の人物の足元から光の柱が立ち上った。胸部をしっかりと捉え、弾き飛ばす。

 

"今のって!"

 

 見間違えようがない。ミキが操る強力な必殺技、熱線だ。

 

 助かった安堵感から声を大にして漏らした先生の目の前。ガラス化した地面に亀裂が走る。

 

 うっすらとだが地面の向こう側にミキの姿が見えた。

 こちらを見上げている。怒りに満ちた目で黄衣の人物を睨み上げている。

 

 その姿に、先生は()()()()()()()姿()を幻視した。

 恐怖から解放されたことで精神的に高ぶっているのかと推測する暇もなく、地面が突き破られる。

 

「成程。気に食わん気配を感じたと思えば……同類か、私の」

 

 重厚感溢れるドレスを身に纏い全身の赤い痣を煌々と煌めかせる女性、水波瀬ミキは何も無い空中に滞空している黄衣の人物を見て納得したような声を漏らす。

 

 以前アビドス高等学校で会った時よりも心做しか背丈が伸びた気がする彼女を先生が見ていると、振り向いたミキにため息を吐かれた。

 

「厄介な輩に目を付けられたな、先生。私といい此奴といい、化け物に好かれる星の元に産まれたか?」

 

 言葉を投げかけておきながら返事を待つまでもなく、ミキは黄衣の人物を睨み返す。

 

 言葉はかけない。ただ静かに睨み、拳を握り込む。

 背鰭が明滅する。それに合わせて先生の持つガイガーカウンターが一瞬鳴っては一瞬止むのを繰り返し始める。

 

(やっぱり!)

 

 放射能汚染を発生させ、即時に吸収して除染している。

 

 至近距離にいる自分が全く影響を受けないくらいの超高精度な吸収機構だ。

 そしてガイガーカウンターが作動したことで、ミキが核エネルギーを取り扱える事が確定した。

 

『KARRRRRRRR』

 

 黄衣の人物から聞こえる鳴き声。声、と呼ぶには人間味が感じられない。

 

『GURRRRRRRR』

 

 ミキも唸り声を漏らす。

 

 獣じみたその声には、黄衣の人物の鳴き声からも感じられた『怒り』と『殺意』の感情が含まれていた。

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