キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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個人的にゴジラとアレは言葉を交わすような関係じゃないよな…目が合ったら殺し合うような関係だよな……と思っているので結果短くなってしまいました


不倶戴天の敵

 目の前に居る気に食わん黄衣の輩が同類だと言うのは、言葉を交わす迄も無く理解した。

 出身地が同じだとか出身校が同じだとか、そう言った意味での同類では無い。

 

 私と同じ種族、同じ分類の生き物、そういう今での同類。

 人類に対して害と見なされる存在だ。

 

 初めて出会った私の同類だが、嬉しくなんて無い。その真逆であり不愉快の極みだ。

 同族嫌悪……ともまた違う。

 

 不倶戴天の敵、という奴だろう。何千回、何万年と言葉を交わしたとしても決して相容れないという確信が有る。

 それ程に此奴と私は互いに憎悪と敵意をぶつけ合っていた。

 

「貴様、どうやって此の場に現出した」

 

 セリカを攫った不敬者共を殺し尽くした。情報を吐かせる為に捕縛した隊長格の女一人を残し、老若男女問わずに鏖殺した。

 

 大した怪我も無く無事だったセリカの姿にほっと一息を吐いて居ると、誰も居ない筈のこの場に此奴は現れた。

 セリカ達の位置を感じ取れる能力に引っ掛かった、彼女達の纏う気配とは明確に異質な物を纏って。

 

「遠方より徒歩にて詣でけり、とは言わせない。貴様の気配は瞬時に此の場に現れた」

 

 嫌な気配だ。卑劣さ、邪悪さをふんだんに振り撒く吐き気を催す気配。そんな物が探知範囲に踏み込んだとなれば私は必ず気付く。

 それを此奴は掻い潜った。空間を飛び越える等の超常的な力を用いたとしか考えられ無い。

 

 ゲマトリアが用いた瞬間移動に似ている。あれ準ずる何か、或いはその逆か。此奴がゲマトリアに与えた移動方法があの瞬間移動である、そう考えれば此奴が瞬間移動を使えても何らおかしくは無い。

 

「……」

 

 何も答え無い。敵意と憎悪を宿した瞳で私を睨むだけで、先の鳴き声すらも発さ無い。

 

 余程私を殺したいらしいが、生憎と私に目の前に居る男か女かも分からん輩に恨まれる覚えは無い。

 先生とホシノに対して何か行動を起こそうとしたのを邪魔された怒り、という訳でも無さそうだ。

 

 もしそうなら私と相対しながら、背後に居る先生とホシノに向ける注意やら関心やらが感じられる筈。目的が有って接触を試み邪魔されたのだからそうなって然るべき。

 だが、その手の感情は感じられ無い。私に向ける憎悪だけが此奴の中に存在して居る。

 

「語るつもりは無し、か。まぁ良かろう」

 

 話すつもりが無いのならばそれはそれで良い。

 

 叩きのめして口を割らせるというのも考えはしたが、此奴は私の同類。その程度で話すとは思えん。

 

「なら殺す迄」

 

 口を割らんと示すなら殺す迄だ。無駄に時間を割く趣味は無い。

 

 背後に居る先生達が避けられる様にゆっくりと、目を瞑りながらでも避けられそうな速度で尾を振るう。

 鎌首をもたげた蛇を思わせる形で尾を固定し、尾の先端に何かが有ると勘繰らせる。

 

 危ないじゃないですか、と言いたげな気配がノノミから伝わって来る。ゆっくりとはいえ前フリ無しに尾を振るったのだ、不満を抱かれて当然。

 

 彼女達には悪いが声を掛ける等の気を逸らす行為は出来ない。逸らせば、此奴はそこを突いて攻め寄って来るのが容易に想像出来る。

 卑劣だの卑怯だのと文句を言うつもりは無い。目の前に居る敵を殺す為なら手段を厭わない姿勢は異常でも非情でも無い至極当然のものだ。私だって此奴が気を逸らせばそこを突く。

 

 想像出来たからこそ、私は油断し無い。

 此奴は私の同類。私を殺し得る力を持って目の前に立つと、本能的に理解した。

 

「折角出逢えた同類だ。力試しに付き合え」

 

 セリカを攫った罪は死という罰によって償わせた。跡形も残らぬ徹底的な死。情報を聞き出す為一人のみ生かし、他は骨すら残さず焼き尽くした。

 骸が散乱する様を見ればホシノ達の精神に悪影響を及ぼすのは明白。意図せぬ振る舞いで彼女達の心身を苦しめるのは不可避だとしても、意図して苦しみを回避出来るのならば私はそうする。

 

 遺された兵器・武装類は全て破壊した。弾丸内の仕込みや原動力として用いられて居たGエナジーを吸い上げ、力とする為に。

 お陰で幾らか力が増した気がする。背丈や尾の長さも伸びた。格闘戦において背丈や尾は優位に立てる要素の一つ、増す事に不満は無い。

 

 不敬者を始末し終えた達成感と力が戻り肉体の成長すら迎えた興奮で、私は笑いながら拳を構えた。

 殺されるかもしれないのに恐れは無い。殺される程度で止まるのであれば私は所詮そこまでの生き物、此処で殺されずともいずれ何処かで淘汰されよう。

 

『僕に通じると、本気で思ってるの? まだ全然思い出せていないのに?』

 

 拳を握り、客観的視点を介さずとも獰猛な笑みを浮かべる様が容易く想像出来る私を睨みながら、黄衣の輩が口を開いた。

 

 男か女か分からん声だが、気持ち悪い穏やかさに反吐が出た。

 心に揺らぎや隙間があればぬるりと入り込み、鷲掴みに出来そうな声だ。

 

「その口振り、過去の私を知って居るな」

 

『……本当に忘れているみたいだね。ゲマトリアから聞いた時、僕を騙す芝居かと思ったのに…不愉快だよ、あれだけ殺し合った仲なのに』

 

 残念ながら、奴の声に鷲掴まれる軟弱な心は持ち合わせて居ない。あまりに気色悪い声に不快感は勿論、一周回って面白おかしさを感じる余裕すら有る。

 

 全然思い出せていない。此奴はそう言った。ゲマトリアの名も口にした。

 やはり此奴とゲマトリアは繋がっている。

 

 残念だよ。この溢れ出る憎悪の念さえなければ、私に関する情報を吐かせる為に生き延びさせる選択肢も有り得ただろうに。

 

「どれだけ殺し合ったか等知るか。名も面も知らん相手に力説されても失望されても煩わしいのみ、だ。語るつもりが無いのならば死ね」

 

『相変わらず話が通じないし聞かないねキミは。まだ万全でもない癖に僕に通じる気かって聞いたよね?』

 

「無論だ。今の私と貴様に力量差は無い。それくらい拳を交えずとも分かるが貴様には分からんか?」

 

 私を殺せるが、私にも殺される。互いに互いの命を奪い合える程度の力関係なのは、私をよく知る口振りで話す此奴が何者か思い出せずとも分かる。

 

 ビナーを前にしても此れ程迄の緊張感は味わえ無かった。私の力を用いる奴ですら私に本気を出させる前に敗れ去った。

 全力を出すには至らず、現状での限界を知る機会にも恵まれずに過ごした私が初めて得た本気の私を振るう機会。

 

「安心しろ。貴様が私を殺したい様に、私も貴様を殺したい。手を抜くなんて巫山戯た真似はせん」

 

 生きて、抗って貰わねば私の限界を推し量り終える前に死なれてしまう。なら、死んでたまるかと思わせる様に煽り立てる。

 嘲りの笑みを添えてやれば、奴の瞳に宿る憎悪の念がより強い物に練り上げられるのを感じられた。

 

 同時に尾を動かし、尾先である方向を何度も指し示す。そろそろホシノ達に動いて貰わねば巻き込んでしまう。

 私を殺せる力だ。彼女達に被弾すれば即死は免れまい。

 

 こういう時、先生は頼りに成る。自分が此の場で最も脆弱だからこそか、周りへの注意や洞察力が誰よりも精密な物へ変じる。

 何も言わずに歩き出した。あんな貧弱な肉体で我先にと動かれてしまっては護衛するホシノ達は追う以外の選択肢を失う。

 

『行かせると思ってるの?』

 

 尾によるセリカが居る方向の指示を見ていた此奴の声はより深い苛立ちを帯びた。

 龍の頭を模した金色の肩当てが自然と外れ、奴の両手首に嵌る。腕の先に龍の頭が現れたその様は、三つ首の金色の龍といった所か。

 

 此奴も口では攻撃が通じると思ったのか等と抜かして見せたが、自分と私の実力差の無さを感じ取って居た。

 私が尾で指示を出すのを止めず、私の行為を咎めもせず、黙して見逃した。

 

 不必要な動きを見せれば私に先手を許す事に成るのを理解して居たからだ。

 向う見ずな馬鹿では出来ない警戒をしてしまったからこそ此奴は、先生達が行動を起こす迄沈黙する以外の選択肢を喪失した。

 

「無論だ。行かせるつもりが貴様に無くても、私には有る」

 

 通すつもりの無い意思は通さ無いが、通すと決めれば如何なる抵抗を受けても押し通す。私を殺せる相手からの脅しであっても揺るぎはしない。

 

 体の奥底に有る力の源を活性化させる。心臓が激しく脈打つ事で血液を送り込み、即座に生み出された力を血流に乗せて全身へ回す。

 

「其れにそもそも論、私達のやり取りに妥協は無いのだろう? 今まで殺し合ったので在れば、其れは此処でも変わり無い」

 

『そうだね。基本キミの物言いは気に食わないし認めたくないけど、それだけは同意してあげる。僕達の間に妥協なんて無い。どっちの意思を押し通す手段は、いつも決まって殺し合い(コレ)だった』

 

 肩当てを手首に嵌めた腕の様子が変容する。

 

 腕は前腕と上腕、二つの直線的な部位が肘関節で接続される形で構成される。其れがぐねりと湾曲し、蛇を思わせる柔軟性を会得した。

 三つ首というのも強ち間違いでは無いらしい。例えでは無く、本当に三つ首に成った。

 

 その姿に微かな懐かしさを感じた。過去に何度も殺し合ったというのも事実らしい。

 懐かしいと思うと共に、激しい怒りと憎悪が湧き上がって来るのだから。

 

『ボク達の殺し合いは何時も僕の負け、良くて痛み分けで終わったけど……もう、そうはいかない。キミの取り巻きもいないし鬱陶しい羽虫もいない。お望み通り殺してあげるよ』

 

「殺って見せろ、三つ首の化け物。その首を一本一本引き千切って、焼き尽くしてやる」

 

 双方、言葉を交わす選択肢は捨てた。

 

 この先、此奴と言葉を交わす事は無い。

 

『KARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッ!!』

 

 喧しい声で奴が吠えた。今まで浴びせ掛けて来た言葉を発して居た頭だけでは無く、頭に変化した左右の腕も吠えて居る。

 

『GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』

 

 私も吠えた。腕を開き、野生に生きる獣が威嚇する際に体を大きく見せるのを真似る。

 

 戦闘開始の合図となる咆哮を放ちつつ、私は駆け出した。ガラス化した地面を踏み砕きながら目の前の宿敵に猛進する。

 

 宿敵も駆け出し、突進する私を迎え撃つ。減速する気配も受け止める姿勢に移行する気配も無い。

 

 猛進を止めるつもりは無い。そんな事をしては、奴の気迫に負けて選択肢を変えてしまった事に成る。

 そんな情け無い真似をする気は無い。此奴にだけは、絶対に負けたくないのだから。

 

 一切の減速無く、私達は己の体を激突させた。不倶戴天の敵を必ず殺すという殺意と共に。

 

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