キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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何やら赤色になりました……全くの予想外で目を丸くしています。
ありがとうございます!


痕跡

 シロコが通学途中に発見・保護した女性、水波瀬ミキが保健室の窓際を破壊して姿を消したことにアヤネは持ってきた地図を床に落として唖然としていた。

 姿を消しているのにも驚いたが、何よりもあまりの惨状に顎が外れるのではないかと思うほどに口を開いて呆けてしまっていた。

 

 そこにミキが放った光の柱を視認してシロコ他、アビドス廃校対策委員会の面々が集結。

 自然な流れで自己紹介が行われ、記憶の大半を喪失していることが本人の口から暴露された事で緊急会議が行われることになった。

 

「はぁ…窓ガラスに触れたら割ってしまって、下に怪我人が居ないか確認しようとしたら窓枠と壁を破壊して落ち掛けて、何かを掴もうとしたら尾で窓枠をまるっと粉砕してしまった、と……」

 

「いやぁ、パワフルだね。触れただけで窓ガラスを割るとか、聞いたことがないよ」

 

 窓際が悲惨な有り様になってしまった理由を聞いたアヤネは頭を抱え、最上級生であるホシノは規格外さに笑うしか無かった。

 

 本当だとすれば、あまりにも光景がマヌケすぎる。嘘にしても誤魔化し方が下手くそ過ぎる。

 内容がハチャメチャ過ぎて逆に真偽どちらなのかの判別が付かなかった。

 

 校舎を狙う地域の暴力組織の一員なのではないか。保健室窓際の惨状をその目で確認し、その状況を作り出した本人の弁明を聞いた当初、対策委員会の面々はミキにそんな疑念を抱いた。

 しかし本人の態度が本当に申し訳なさそうであり、何よりも記憶喪失だという境遇があまりに可哀想で追求しようにも出来なかった。

 

「保護といい窓枠といい、本当にすまない。悪気がなかったことは断言するが、それを理由に言い逃れようとは欠片も思っていない」

 

「謝罪してる割に態度が大きいというか…なんか、ドンとしてるわね……」

 

「どこか凛々しさすら感じますねぇ☆」

 

 誰も見た事がないタイプの形状の尾が原因で椅子に座れないからと、地面にあぐらをかいて座っているミキが己の膝に手を置き、深々と頭を下げる。

 自身の子供の非礼を詫びる頑固オヤジを思わせる謝罪の姿、その謝罪をドレス姿で行っていることにノノミとセリカも気圧され、疑惑の目は半ば強引に閉ざされた。

 

「それで今回話し合うのはミキちゃん?さん?の記憶についてだよね?」

 

 ホワイトボードに書かれた『水波瀬ミキさんの記憶を取り戻すには』という文字に視線を向けたホシノの言葉に、アヤネは頷いた。

 

「本人からも言及があった通りミキさんは現在、重度の記憶喪失を起こしています。何もかもを忘れているという訳では無いようですが、少なくとも地名等の記憶はトリニティとゲヘナの二つしかないそうです」

 

「人物に関しても覚えているのは自分の名前、肉体の頑丈さを裏づける光景、名前も知らない少女の顔、その少女と自分を取り囲む炎の海、逃げ惑う人たち、……随分、分かる事が限定的」

 

 既に共有済みではあるが、改めて判明している限りの情報を書き出す。

 

 明文化することで視覚的にも情報を整理しやすくなり、思いついた事を書き込めるようになることで次の一手を導き出しやすくなるのでは、と考えたからだ。

 

 何せ調べなければならないのは『記憶』という目に目えないもの且つ、唯一知る本人が記憶喪失という有り様で頼れるモノを片っ端から試さないと次の一手が見い出せそうにない相手だからだ。

 

「ゲヘナとトリニティに関しての記憶があるのは幸いですが……でも名前を覚えているってだけで、それ以上は分からないんですもんね」

 

「連絡を取ろうにも、トリニティもゲヘナも電話番号なんて知らないからねぇ……手紙に頼ってみようか?」

 

「それだと時間が掛かりすぎますよホシノ先輩」

 

 アビドス高等学校はトリニティ総合学園、ゲヘナ学園両校との間に交友関係がない。通信機材は揃っていても連絡先を知らない現状では、ミキに関する情報を聞くことも出来ない。

 

 現状でミキの情報を両校から得るのであれば直接赴くかホシノの提案通りに手紙を送るかになるが、それではあまりに時間がかかり過ぎる。

 

 それに、ミキにばかり時間を割いても居られないのがアビドス高等学校の現状だ。

 校舎を占拠しようと連日襲ってくる暴力組織を相手取りつつ、莫大な金額に上る借金を返済しなければならない。

 

 トリニティかゲヘナを訪れるなど論外であり、手紙のやり取りも成さねばならない物事の多さを踏まえれば蔑ろにならないとは到底言い切れない。

 

「う〜ん……話し始めて早々にだけど、アレだね。手詰まり感が出てきたねぇ……」

 

「えぇ、全くです」

 

 椅子に寄りかかりながら目を細めたホシノの呟きに、アヤネが同調する。

 

 それを皮切りに気まずい沈黙が教室に流れ、誰も口を開かなくなってしまった。

 各々がホワイトボードを睨み、書き起こされた情報を頭の中で整理していく最中、今回の会議の主役とも言えるミキが立ち上がった。

 

「一つ聞きたい。何故、そこまで私の為に頭を使う」

 

「……へ?」

 

 立ち上がり、彼女の放った言葉に誰かが声を漏らした。あまりに素っ頓狂過ぎて、誰の声なのかも分からない。

 

「助けてくれたのはまだ理解出来る。見付けた者が死んでしまっては目覚めが悪い、大方そんな所だろう。だが、こうして私の記憶喪失に頭を捻る理由が分からない」

 

「あ、アナタねぇ! その言い方はないんじゃない!?」

 

 余計なお世話だと嫌がっているようでも、こんなことも分からないのかと嘲笑っているようでもなく、ただただ不思議そうに問い掛けてくるその様にセリカが怒り出してしまう。

 

 行き詰まってしまい微量ながらイラついていたのもあるが、皆が親切にしているのにその物言いはなんなのだと憤慨する。

 

「ならどう言えば良い? 何処の誰とも知らない奴に関して頭を捻るなんて馬鹿なのか、とでも言えば良い、と?」

 

 その憤慨に対しても、ミキは顔色一つ変えずに問い返した。

 

「なっ、何んてことを言うのよ!」

 

「ん、落ち着いて。多分、この人は単純に理解出来ていないだけ」

 

 立ち上がり怒鳴り出してしまったセリカを隣に座っていたシロコが制する。

 でも、と食いさがろうとしたセリカだったが『単純に理解出来ていないだけ』という言葉が引っかかり、怒りが冷めていく。

 

「ミキさん。私は目覚めが悪いから、なんて理由で助けたんじゃない。助けたかった、だから助けた」

 

「そんな曖昧な理由で何処の誰とも知らない奴を助けるのか。私が極悪人で、目覚めた途端に校舎を破壊し尽くしたり大切な人を殺傷する恐れを考えなかったのか」

 

 単純な善意での保護である、と述べるシロコにミキは反論する。リスク管理の面で見れば、不用意に助けるべきでは無いと。

 

 このやり取りを見て、セリカも納得がいった。

 この女性は『善意』というものを理解していない。良かれと思って、という考えを持っていない。

 

 それ等に該当するものは動物的な警戒心であり、危険かもしれないものには触れるべきでは無いという考えに基づいている。

 例えそれが目の前で倒れている人物であっても、不審者かも知れないから不用意に助けるのは危険過ぎる。

 

「そんなものをいちいち考えていたら、助けられるものも助けられないかもしれない。もしもあそこで貴女を見捨てて、その後に貴女が死んでいたなんてニュースを聞いたら、私はきっと後悔する」

 

「後悔など、己自身が真に納得出来る選択をしないからそんなものの飛来を許すんだ。そしてその真に納得出来る選択、それは我が身の安全だろう。我が身を取り囲む環境の安全だろう。見ず知らず私が、そこに組み込まれるとは到底思えない」

 

 二人の言葉は交わされて、それでもなおすれ違っている。

 

 リスク云々など知らない、助けたいから助けたと述べるシロコに対して依然として納得出来ない様子のミキ。

 

 険悪そうに見えながら、教室の飲み込む雰囲気は妙な温かみを帯びていた。

 純粋な『助けたい』という気持ちをシロコは押し出し、それに対して理解は示さずとも否定せずにいるミキ。

 

 すれ違ってはいるが、そこに生じるはずの険悪さは欠片とて存在しなかった。

 

「まぁまぁ、そうかっかしないの。ミキちゃんの意見で言うならねぇ、もうとっくにミキちゃんは『私たちを取り囲む環境の一部』なのよ」

 

 ホシノの援護射撃。これは効果があり、ミキが言葉を詰まらせた。

 

「…………正気か?」

 

 何とか捻り出した言葉は、極めて短かった。

 

「私とお前達は出会ってまだ数時間だ。共に食事をした訳でも無く、共に風呂に入った仲でも無い。唯の赤の他人だぞ。それが、守るべき環境の一部に組み込まれたのか?」

 

 何とか捻り出したことで、次の言葉はスラリと出てきた。

 その言葉にホシノは頷く。

 

「後悔が起こらない真に納得出来る選択。それが我が身の安全とか周囲の環境の安全だって言うんなら、おじさんたちにとってはミキちゃんもその一部なのよ。これなら大丈夫でしょ?」

 

「……むぅ」

 

 渋々、本当に渋々ながらにミキは頷いた。ぷくっと頬をふくらませ、僅かばかりの抵抗の意を示しながら。

 

「コホン……では、話を元に戻します。実は私、少し心当たりがあるんです」

 

 急に始まったシロコとミキのやり取りによって話の筋がズレてしまったのをアヤネが修正し、皆の関心を引く発言を繰り出した。

 再びあぐらをかこうとしていたミキも、その発言に目を丸くして顔を上げる。

 

「先程、ミキさんが放った光の柱。実はアレ、1ヶ月前にここアビドスで観測されています」

 

「え!? 何その話!? 私知らないわよ!?」

「ん、私も初耳」

「私もです……」

「うへぇ……おじさんも知らないよ」

 

 アヤネ以外の対策委員会の面々の発言は全くの同タイミングだった。

 

「えぇ、何せアレは真夜中に観測されましたから。私は翌日が休日だから遅くまで勉強をしていて、ふと窓の外を見た時に空へ向けて立ち上るあの光の柱を見たんです」

 

 もっとも、私が見た時には既に光の柱は消えかけでしたが。

 

 そう前置きをし、アヤネは続ける。

 

「観測された方角は砂漠地帯が広がっている方角です。あれがミキさんの放ったものと同一のものなら恐らく、貴女は1ヶ月前にそこに居たことになりますが……何か、思い出せませんか?」

 

 砂漠というものがなにか、ミキは覚えている。

 見渡す限りの砂、砂、砂。砂の海とも呼べる土地。

 

 地図を見せてもらい、現在いるアビドス高等学校と砂漠の位置関係も把握済み。

 訪れたことがあるのなら鮮明に記憶に焼き付く土地だ。

 首を傾げたミキだったが、すぐに頭は真横へ振られる。

 

「ダメだな、まるで記憶に無い」

 

「そうですか……」

 

 申し訳なさそうな顔で頭を振る姿に、アヤネも肩を落とした。何かしらの手がかりになればと思ったのに、返って本人に記憶が無いという苦痛を体感させてしまったように思えた。

 

 話はまた振り出しに戻る。打つ手がなく、皆がホワイトボードを睨みながら頭を捻った。

 

「……あの〜、ちょっといいですか?」

 

 次に沈黙を破ったのはノノミだった。

 

「半年前くらいでしたっけ、ニュースでやってませんでした? トリニティ総合学園で爆発事故があったって」

 

「あ、それ私も聞きました。校舎が半壊するほどの大爆発で、結構な人数の死傷者が出たって」

 

 セリカが携帯を取り出して画面をスワイプする。あまりにニュースの内容が衝撃的過ぎて、思わず写真を撮影してしまったのだ。

 

 表示された写真にはテレビ画面の中で業火に飲み込まれる半壊したトリニティ総合学園と、その前で報道官が切迫した表情で口を開いていた。

 

「あ〜……あったねぇ、こんな事件」

 

 事件発生からさほど間を置かずに報道官が到着したらしく、その最後ではトリニティ総合学園の生徒が右往左往しながら逃げ惑っている。

 中には酷い怪我を負いながらも逃げている生徒もおり、爆発事故の被害の大きさを物語っていた。

 

 結局、この事件は『ガス管の不具合が連鎖的に発生して起こった事故である』とトリニティ総合学園からの説明があり、極めて不幸な事件であったとして片付けられて幕を閉じている。

 

「……なぁ、少しこの女に寄れないか?」

 

 ホシノたちと一緒にセリカの携帯を覗き込んでいたミキが、画面を指さしながらそう告げる。

 どうしたのか、とセリカが顔を見やると黒がかった深いグリーンの瞳が大きく見開かれていた。

 

「この女、知っているぞ。私の記憶にいる女だ」

 

 報道官の左後方、トリニティ総合学園の校舎の前に立っている女子生徒を指さしていた。

 

 まさかの手がかり発見にシロコたちも早く早くと急かし、セリカも慌てて画面を拡大する。

 しかし、事故現場を直接撮影したのではなく中継映像を撮影した写真のせいでズームをすればするだけ画質は荒く、顔の輪郭すら曖昧になっていく。

 

 分かるのはその女子生徒が長いピンク色の髪をしていること、銀河を思わせるような渦を巻く形状のヘイローをしている事だけだ。

 

「ど、どう? 間違いない?」

 

「ああ、違いない。この女だ、この女を私は知っている。記憶にいる女も桃色の髪に、変わった光輪を持っていた」

 

 得られた情報は極めて限定的だが、その限定さが確信を得させた。

 ミキの記憶を取り戻すきっかけになり得る存在は、トリニティ総合学園に居る。

 

 手掛かりを得た。それは良いが、問題はどうやって行くのかだ。

 アビドス高等学校からトリニティ総合学園まではかなりの距離があるし、校舎を狙われている都合上向かうことは難しい。

 

「そうか、トリニティに行けば分かり得るか。なら、向かうとしよう」

 

「えぇ〜!? 今から行くの!?」

 

 どうしたものか。皆が頭を悩まそうとした矢先にミキが立ち上がり、教室を出て行こうとする。全く悩む様子を見せない即決にホシノが声を漏らした。

 シロコは驚いた顔をしつつも荷物を纏め、銃を手に取る。その姿に、ミキが首を傾げた。

 

「何をしている」

 

「トリニティ総合学園に向かう準備をしている」

 

 ミキの問い掛けにシロコも首を傾げながら答える。

 

 開けられている窓から風が吹き込み、沈黙している空間にヒュ〜ッという音を流し込んでくる。

 

「何故お前たちも来る気になった。一人で十分だ」

 

「ん、それは出来ない。一人でなんて行かせられない」

 

 記憶喪失の知り合いを一人でトリニティ総合学園になんて行かせられない。

 皆で出払ってしまっては校舎を守れないけど、自分一人が抜けるくらいならまだギリギリどうにかなるだろう。

 

 シロコがそんな判断を下したのはホシノ達も理解していた。ミキを一人でなんか行かせられない、という考えも共通している。

 

「……理解出来ない。何故そこまで、私に肩入れを」

 

 何故そこまで、私に肩入れをする。

 

 そう言い切る前に、アビドス高等学校正門方向から銃声が轟いた。




2話目のネタ明かし
胸元の発赤→バーニングゴジラ
水波瀬→水爆(すいばく)を水と爆に分けて
①水(みな)+爆(は)ぜる
②爆ぜるの『爆ぜ』を波瀬に変換
③合体!→水波瀬
ミキ→三枝未希(平成VSシリーズの登場人物、メインヒロイン)
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