キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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明日以降は時間に余裕が無い為、1日1話投稿になります


肩慣らし

 正門の方から聞こえてきた銃声の主たちは、校舎の中から私が出てきたのを見ると大層驚いたような顔をしていた。

 奴等はホシノ達のいずれかが出てくると踏んでいたのだろう。そこにドレス姿の女が出てきたとなれば、まぁ驚くのも無理は無い。

 

 その手に握られている銃は連射性に富むものや取り回しやすさを重視したもの、一撃の威力を重視したものと人に似て多種多様。

 様々な種類があるが、その中でどれだけのものが私に損傷を負わせられるのか。ほんの僅かにだが、興味が湧いた。

 

「此処に何用だ」

 

 顔を隠す被り物を身に付けた少女達の前に立ち塞がる。尾で地面を叩き、背鰭を明滅させながら問い掛ける。

 体格と顔の傷が良い仕事をしているようだ、私を前にして怯んでいるのが手に取るように分かる。

 

 気圧され、まともに話すことも儘ならないらしい。あの、そのと意味を成さない声を漏らしながら後ずさろうとする。

 

「先の銃声、アレは威嚇だな。出て来い、さもなくば校舎を襲うぞという威圧。そんな行為に及んで置きながら、何故そうも逃げ腰なんだ」

 

 誰かを害するという行為は、相手が己を害そうとする事を覚悟した上で行われるべき行為だ。

 己の行為には責任が伴う。それも知らずによくもまぁ……不愉快極まりない。

 

「先の行為、否定はしない。受け入れよう。故に、私が貴様等を蹴散らした所で文句も無いな?」

 

 ホシノ達から話は聞いている。校舎を狙う暴力組織がこの近辺にはウヨウヨいて、毎日のようにその対応に追われている、と。

 

 私の記憶を掘り起こす為に躍起になる姿も、きっかけになり得るトリニティ総合学園に同行しようとする姿も、まだ理解出来ない。

 出会って間も無い私が環境の一部に組み込まれているなど理解出来ないが、それは置いておくとして助けて貰った恩は返さねばならない。

 

「幸い、此処は校舎に近い。本気を出してしまっては、不必要な破壊を招きかねないからな……」

 

 光の柱、アレを使うのはナシだ。使えば間違いなくコイツ等を骨すら残さず消し飛ばしてしまう確信がある。

 そんなものを使ってしまえば、この一帯も更地にしてしまいそうだ。それは『校舎を守る』という彼女達の理念に反する行為となる。

 

 攻撃に使えるのは尾、四肢、爪、牙、そして体だけ。

 十分だ。拳を握り込み、息を吸い込む。

 

「手加減をしてやろうッ」

 

 トリニティ総合学園に向かう最中でも、このように武装した暴力集団と鉢合わせ交戦する事があるかもしれない。

 その時に不覚を取らないよう、今のうちに体を動かして肩慣らしをしておこう。

 

 吠え、私は突っ込んで行った。ドレス姿で走りずらいのではと思ったが、存外素早く動けるものだ。

 距離は50mほど。私が突進して来るのを交戦の合図と捉えたのだろう、暴力組織も一斉射撃を開始する。確かコイツ等……カタカタヘルメット団、とかいったか。変わった名前だ。

 

 飛来する弾丸に自ら突っ込んで行くなんて自殺行為に思えなくも無いが、何せ私の肉体はやたらと頑丈に出来ている。

 高層建築物の倒壊を耐える肉体が、弾丸程度で傷付きはしない。

 

「な、なんで!?」

 

 着弾しては、弾丸がひしゃげて弾かれる。先頭に立って居た拳銃を持つ少女が漏らす困惑の声も、銃声に紛れながらだが鮮明に聞き取れた。

 頑丈さもさることながら、私の肉体はかなり高性能な仕上がりになっているらしい。これを本気で扱おうものなら、唯の殴打でも相手の肉体を粉微塵に粉砕出来てしまうだろう。

 

 別段、殺す事に躊躇いが有る訳では無いがホシノ達には辛かろう。母校の眼前で人殺しが起こって、しかも殺人犯が自分達が助けた相手とか笑えもしない。

 故に、体の肩慣らしと力加減の練習も兼ねている。拳を握り込む強さはそのままに、打ち込む勢いを加減してみる。

 

「むんッ」

 

 拳銃を持つ少女の懐に肉薄し、左手の爪で拳銃を切り裂いて破壊。軽く振るったつもりだったがそれでこうとなると、不用意に人を引っ掻けないな。

 握り込んだ右の拳を腹部へ叩き込む。

 

 声を漏らすことなく、吹っ飛んで行った。後方に控えていた仲間達に次々と激突している。殴り付けた一人を無力化したつもりが五、六人ほど巻き込まれていた。

 

「あれ、殺ったか?」

 

 しくじったな。吹き飛ばすつもり等毛頭無かったんだが……死んでいないだろうな。

 吹っ飛んで来た少女に激突された者達は呻いているし死んではいないが、殴り付けた本人がピクリともしない。

 

「生きているな……ふぅ」

 

 仲間達に激突した後、もはや使い物にならなそうな車に激突して沈黙している少女の首を掴み、首筋で脈を図る。

 やり過ぎて殺してしまうかも、とも話した際に『相手が沈黙してしまったら、こうすれば脈が測れますよ』とアヤネに教えて貰った。

 

 うむ、脈は有る。心の臓を止めてしまった、なんて重度の殺傷沙汰は起こしていないようだ。ホシノ達の母校の眼前で殺人事件を起こさなくて良かったと胸を撫で下ろす。

 

「そ、その手を離せえぇぇぇぇ!!」

 

 周りのカタカタヘルメット団の面々が銃を乱射してくる。ぺちぺちと肉体に激突した弾丸は例外無くひしゃげ、地面に落ちていく。

 身の安否を確かめているのに何故だ、とも思ったが絵面を考えればそうか。殴り飛ばした奴の首を掴むなど、トドメを刺そうとしているようにしか見えんか。

 

 とはいえ否定はしない。むしろ、好都合かも知れん。

 目の前にいる女は平然と人を殺そうとするような危険な存在だと思ってくれれば、そんな奴と関わりがあるアビドス高等学校を襲おうとは思わなくなるかもしれない。

 

「フッ!」

 

 息が繋がっているのを確認した少女を投げ捨て、身を屈めながら散弾銃を持っている少女に肉薄。

 右足を軸に体を回転させて尾を振るい散弾銃を叩き落とし、がら空きになった胴体を左手で鷲掴みにする。

 

 再度身を捻り、捕まえた少女を投げ飛ばす。投げる最中に掴んでいた衣類が裂けたらしく、勢いはかなり失速していた。

 少女は別の仲間に激突して仲良く沈黙。拳銃少女と同様に首筋を掴んで脈を測り、死亡していない事を確認する。

 

「な、なんなのコイツ……! なんで銃が効かないの!?」

 

「怯んじゃダメ! ま、まぐれ当りで良いとこに当たるかも!」

 

 カタカタヘルメット団に動揺が伝播していく様がありありと見て取れる。肉体の動かし方も段々感覚が掴めて来ているし、力加減も何となくではあるが理解して来た。

 

 肉体を用いた直接攻撃での力加減はこれで良し。ならば、次はアレだ。

 

 背鰭の明滅間隔を早めさせ、腹の奥底で熱を起こす。肉体を動かし、声を上げて来た事で感情が昂っている。

 

 お陰で思い出せた。保健室から落下した後に放った光の柱、アレには『熱線』という名前が与えられていた。

 私のみに許された、私を代表する技の一つ。それでいてコイツ等が保有する銃のように多種多様な種類がある。

 

「どれ……ものは試しだ。熱いだろうが、耐えて見せろ」

 

 どれだけ昔から使っていたのか、それまでは思い出せない。そこを思い出せれば失われている記憶が少しは芋ずる式に思い出せるのでは無いかと思ったのだが……残念。

 

 だが覚えている。この熱線は私が初めてモノにした熱線、最も弱い熱線だ。

 起こした熱を背鰭から放熱し、温度を下げる。如何に最弱の熱線とはいえ本気で放てば火傷を通り越し、肉も皮も骨も焼き溶かしてしまうからな。

 

 口から白い炎が漏れ出て来る。うむ、ぬるい。

 体を温めることすら出来なそうな脆弱さだが、コイツ等に痛い目を合わせるには適温だな。

 

「ひ、火!?」

 

「あの女、口から火を!」

 

 口から火炎を吐くのが余程珍しいのか、カタカタヘルメット団(長い、以降はカタメット団と呼ぶ)の構成員が騒ぎ出す。

 そんなに珍しいかと思ったが、火炎を吐けるのであれば銃で武装する必要も無いか。

 

 恐慌状態に更なる拍車が掛かったらしく銃の乱射はより激化する。

 飛来する弾丸は口から漏れ出る火炎に焼かれ、溶け落ちる。

 

「アヅヅヅヅッ!!」

 

「燃えっ、もえてるわ! 助けてッ、顔が燃えてッ!」

 

「じゅ、銃が……溶けた…」

 

 最も威力が低い熱線、白熱光を軽く吹き掛けたがそれでも既に効果は覿面だ。武装は使い物にならなくなり、肉体にもある程度の損傷を負っている。

 威力を落としたのも正解だった。そのまま吹き掛けていたら間違いなく焼き溶かしていた。

 

 攻撃は通じず、武装は破壊され、仲間にも被害が出始めた。

 私に対する怯えも最高潮、といった所か。

 

 なら……調度良い。熱戦の加減の練習も兼ねてもう少し試し撃ちをしようと思っていたが、それは辞めだ。

 

 私という存在を保護したこの学校に手を出せばどんなに悲惨な結末を迎え得るのか、その可能性を示唆してやろう。

 

 息を吸い込む。大きく、大きく、肺が膨れ上がり胸を突き破るのでは無いかと思わせるくらいに大きく吸い込み、止める。

 

 思い浮かべるのはホシノ達、アビドス高等学校の面々。

 彼女達の浅はかさを理解するつもりは無い。出会って間も無い私に対してあれ程までに親身になり、トリニティ総合学園にも一人で向かわせれば良いものを着いて行こうとするお人好しさを、私は理解出来ない。

 理解は出来ないが、受け入れはする。そういう思考に基づいて生きる者がいるのだと認識し、否定しない。

 

 私は己の快不快のみを判断基準とする。私は己の身の安全と、私の気に入った環境の安全を最優先する。

 アビドス高等学校の面々には世話になった。親身にして貰った。

 未だに快か不快かは決めかねているが、決め終えるより先に消え去られてしまうのは気分が悪い。守りたいと思える環境に成り得るこの場を傷付けさせは、奪わせはしない。

 

 だから、そこに害を為そうとするカタメット団には、立ち去って貰う。

 

 圧倒的な暴力の片鱗を見せ付けることで。

 

 例えその結果、ホシノ達に嫌われようとも。

 

 ホシノという目敏い女のお眼鏡に叶わなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァンッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吠えた。腹の底から、己の声帯が引き千切れるのを感じながらも緩めること無く、ありったけの敵意を込めて咆哮した。

 声帯が千切れた事で出血したらしい。咆哮により体外へ吐き出されて行く息に血が混じり、私の様相はさぞ恐ろしい事になっている事だろう。

 

 カタメット団は誰も動かない。皆が私の咆哮に怯み、怯え、硬直している。

 何処で仕入れたのか、どうやら戦車まで持ち出して来ているらしい。隊列の最奥に、私に砲口を向ける戦車が鎮座している。

 

 咆哮で既に十分には思えるが、用心するに越した事は無いとも言う。更なる威圧を掛ける為に、硬直しているカタメット団の面々の間を歩いて通る。

 既に牙は折った。皆、手に持つ銃を構える事すらせずに私から離れ、逃げて行く。

 

「此処を剥がせば見えるか」

 

 戦車という物の名は知っていても構造までは知らない。車体部にある覗き穴と思しき隙間に指を突き刺し、引き裂いて中身を開く。

 

 狙い通り、中にも数名のカタメット団が居た。中を覗き込む私を視認するや否や我先にと車外に飛び出し、もぬけの殻と成る。

 追い出す手間が省けた。好都合だ。車体部を左手で鷲掴みにし、指を装甲に埋没させる。

 

 持ち上げて見た。履帯が地から離れ、左腕にズンっと僅かながら重みが加わる。体の鍛錬に役立ちそうだが……生憎、今回コイツの役割は筋力鍛練の道具では無く脅しの為の生け贄だ。

 

「アビドス高等学校を狙うのなら、私の存在を思い出せ。私を倒せるだけの準備をしろ。物資を蓄え、人員を集め養育し、質を高めて私を殺せるだけの高みへ至れ。それを怠り、また攻め込むようならば……こうなる」

 

 戦車を持ち上げたまま一回転し、勢いを付けて上空目掛けて放り投げる。

 

 最弱の熱線を更なる最弱とする為に放熱を行っていた尾鰭を空冷し、更にもう一度回転。

 

 冷め始めていた熱を急激に上昇させる。尾鰭が青色ではなく緋色に発光し、尾先の尾鰭から一列ずつ根元から押し出されるように飛び出して行く。

 

 胸元の痣も炎の様に赤々と煌めき始め、せり上がってきた熱が口腔内を焼き払う。心地好い熱だ、体が芯から温められていく。

 

 一回転が終わると共にその熱を放つ。飛び出した尾鰭を一気に引っ込め、口を開き、放り投げた戦車目掛けて光の柱を聳え立たせる。

 赤い柱に、赤い稲妻と白い稲妻がまとわりつく。最高火力の熱線は戦車を直撃し爆散させるまでも無く、破片一つ残さず焼き溶かした。

 

 脅しの効果は覿面だ。皆、己の身の安全を守るべく逃げ出した。

 私の勝ちだ。カタメット団を追い払う事に成功した。

 

 勝利したのなら、必要だろう。勝ち名乗りが。

 

 勝利の雄叫びが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャガアアアアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の雄叫びが、周囲にこだました。

 




3話目のネタ明かし
・首筋の赤い線→バーニングゴジラ
・上目遣い→84年版ゴジラ
・左目周辺の火傷跡→ゴジラ対ヘドラにて負った傷
・左頬の爆ぜたような傷跡→マイナスゴジラが機雷で吹き飛ばされた頬の傷
・胸元の傷→三式機龍のアブソリュート・ゼロ及びスパイラル・クロウによる負傷(スパイラル・クロウは腹部に食らっているように見えるけど、ミキの服装的に見えにくいので胸元に移動させています)
・炎のような形のヒレ→ミレニアムゴジラのヒレ
・胸元が空いているデザイン→三式機龍のアブソリュート・ゼロをイメージ
・熱線放射時の構え→FWゴジラが隕石目掛けて熱線を放つシーン

容姿の説明会も兼ねていたとはいえ、この回色々ネタ詰め込んで疲れました。後書きまとめるのも大変でした。
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