キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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邂逅

 ガタガタヘルメット団の拠点を壊滅させたのは良い効果を生み出しているらしい。

 あの手の輩がウロウロといる闇市的な区画、ブラック・マーケットに意図して足を運び噂話の流布具合を確認していたが、広まり方は私の想定を軽く上回っている。

 

 黒の不審火、という名を与えられたあの一件で大半の暴力組織は活動規模を縮小しているそうだ。生存者共が良い仕事をしている。

 盗品の売買を行っていると声高だかに語っていた輩はこれでは商売あがったりだとボヤいていたが、ろくでもない仕事で食っている奴の食い扶持など知るものか。

 

「肩慣らしにも成らんかったな」

 

 ホシノ達が懸命に日々を生きる傍らであのようなろくでもない仕事で得た泡銭で生きる奴を、どうしても見過ごす事は出来なかった。

 我ながら甘いというか、肩入れしているというか……見も知らぬ相手を助ける等危機管理がなっていないと言った相手に対して、こうまでする義理は無かろうに。

 

 盗品売買の店舗は出店の様な様相を呈していたが、そこを尾で薙ぎ払い店主を叩きのめした。

 ブラック・マーケットではあの手の暴力沙汰、然程珍しくは無いようで誰も慌てる様子は見せなかった。もっとやれ、と野次馬が湧く程の民度の低さだ。

 

 あの様な区画、存在する事自体が見過ごせない物だったが流石にあそこを丸々消し飛ばしてしまっては目立ち過ぎてしまう。

 それに仮に消し飛ばす事に決めたとしても、私の感情に刺激は起こらなかっただろう。

 記憶、或いはトリニティ総合学園で記憶を取り戻す際に使える能力を思い出す足掛かりに成らないと判断されたのは幸いだったな。

 

「……」

 

 ブラック・マーケットを抜け、私は今砂漠に居る。

 

 アビドス高等学校にて、私の熱戦と思しき光の柱が観測されている土地だ。

 此処を踏破すればトリニティ総合学園、或いはゲヘナ学園に辿り着くのであればここに居るのも納得だが、この先にそれ等は無い。

 

 殆ど無意識だった。何かに誘われるかの様に、気が付けばこの一面飾り気の無い殺風景な砂の海の上に居た。

 乾いた風が乾いた砂を乗せて、吹き荒れる。目や鼻に入ろうとする砂は高温化した私の体温に負け、溶け消えて行く。

 

「…」

 

 何も語らず、砂の海を睨む。

 

 足が動かない。この場所にて待て、誰かにそう言われている様な気がして身動きが取れない。

 奇妙な緊張感が有る。この場所で待っていると何か……とてつもないモノが湧いて出て来る、そんな気がする。

 

 項の辺りがじわじわとして来る。無意識に拳が握り込まれ、呼吸が深くなる。

 

「ほう。アナタともあろう方が、その様な面構えをするとは……ククッ。フラれても粘着した甲斐があったというもの」

 

 神秘がどうたらとか意味不明な事を抜かして粘着してくる男(だと思うが顔面がヒビ割れたコーヒー豆みたいなせいで判別不可)が、私の横顔に余計な感想を述べてくる。

 

 なんなんだコイツは。ブラック・マーケットに立ち寄った際に擦り寄って来て自分は探求者だの取引がああだのとずっと話し掛けて来る。

 邪魔でしか無い。殺してしまいたいが、コイツは何やら色々と私の知らない事を知っていそうな口振りをしていた。

 

『この砂漠には、貴女にとっても無視できない奴がいる』

 

『奴と出会えば貴女は何かを取り戻す』

 

 砂漠へ自然と足が向かっている最中、執拗く付き纏って来ながらコイツはそう言った。それを私も確信しているからこそ無視出来ず、私を知る可能性が有るコイツを殺せなくなった。

 

 記憶を取り戻そうとしている以上、手掛かりと成り得るコイツを殺してしまうのは悪手も握手だ。故に殺さないし、殺せない事に余計苛立たされる。

 

「不愉快だ、その口を閉じろ」

 

「ククッ。手厳しいですね。私はただ素直に感想を述べただけなのですが」

 

「黙れ、と言った。貴様を殺すのは惜しいが、殺すと決めた時には躊躇わんぞ」

 

 尾鰭を明滅させて威嚇する。視線を砂の海から離すつもりは無く、一瞥とてくれてやらなかった。

 「本当、手厳しい方だ」と言い残してそれ以降男、黒服は黙り込む。それだけ物分りが良いのならば最初から黙っていれば良いものを。

 

「そうそう、一つお聞きしたいことが」

 

 前言撤回、相当な鳥頭だ。黙れと言われてその通りにして居られたのは僅かに数秒、鳥でももっと記憶が保たれるだろうに。

 

「コレは貴女の記憶に関係し得る質問です。よろしければ、しっかりとお答えください」

 

「なんだ」

 

 不愉快極まりないが『記憶に関係し得る』と言われてしまっては無下に出来ない。記憶を取り戻す事が今の私の最優先事項であり、そこに関わるのであれば答える他に道は無い。

 

「デカグラマトン、この名に聞き覚えは?」

 

「無い。感情に刺激が与えられる度に記憶の整理を行って居るが、名称に関する記憶に変化は無い。何だそのデカ何とかって、新しく産まれた刑事の俗語か?」

 

 一回で覚えさせる気が全く感じられない長ったらしさの、まるで聞き慣れない言葉に首を捻る。

 アビドス高等学校の校舎を狙ったカタメット団との一戦、その後のガタメット団殲滅及び降り掛かる火の粉数粒を叩きのめしたその都度、記憶の整理を行って居る。

 

 取り戻せた記憶は肉体に関する知識及び備わった機能だけであり、名称に関する記憶は依然として変容しない。

 デカグラタンだかデカマクラトンだかデカナンタラとかいうものにも覚えは無い。 

 

 私の返答により『私に知識量で勝った』と思ったのだろう。黒服は何処か得意げにそのデカナンタラが何者なのか、自分達ゲマなんたらがどんな存在なのかを語り出した。

 私の困惑も読み取ったらしく、「デカグラタンでもデカマクラトンでもありませんよ」と先に訂正をしてから。

 

 表情という概念が存在するのかどうかも怪しい面構えの黒服だが、雰囲気で嬉しそうだと感じ取る事は出来た。

 

 デカナンタラ改め、超高性能人工知能デカグラマトン。

 神の存在を証明し、分析し、あろう事か新たなる神の創造すら目論んだ気狂い集団と、それを支援する組織より組み立てられた精巧な絡繰り。

 そして終いには何をとち狂ったか、己自身を新たなる神として成り立たせようと思い至った特級のキチガイ。

 

 そんな絡繰りを生み出した気狂い集団に手を貸し、今は黒服等に名を使われている組織がゲマなんたら改めゲマトリア。

 黒服の他にも数名、このゲマトリアに該当する存在が居るらしいが……コイツみたいなのが数体居るとか正気か?

 コイツ一人でも色々と不明なのに他に数体存在するとか冗談にしても質が悪過ぎる。デカグラマトンよりそんな冗談を思い付く奴の方がよっぽどキチガイだ。

 

「そのデカグラマトンには、とある能力がありましてね。それが感化というもの、自分以外の他のAIを説得して自分の協力者である『預言者』という存在に変貌させてしまうものです」

 

 この預言者という者についても黒服は語ってくれるつもりらしい。尤も、数体居るとされる中の一個体のみについてだが。それしか知らないのか話のネタに成るから小出しにするつもりなのか、何方にせよ不愉快だ。

 私に知識量で勝った、というのが余程嬉しいと見える。或いは単に語りたがりの良く回る舌を持っているだけか。

 

 他の個体についてもお教えしましょうか、と振って来たが断った。コイツにこれ以上心地好い思いをさせるのは心地悪い。

 

 それに何より、その語ろうとしてくれた一個体の話を聞いて居られる余裕すら消え失せてしまったのだから。

 

 

 

 

来た

 

 

 

 

砂の海が僅かにだが揺れている。

 

「……ふむ、凄まじい怒りの気迫です。貴女を敵視しているようですね」

 

 黒服の言葉の通り、私に対する怒りの感情を感じる。

 

 憎悪、侮蔑、憤怒、そういった感情が砂の海より蛆虫が如く湧き出て来るのを知覚し、拳を握る力がより強固と成る。

 

 まるで身に覚えの無い怒りの感情だが、不思議とそれを向けられる事に対して不快感は無い。むしろ『向けられて当然だ』という奇妙奇天烈な納得だけが有った。

 

「何故あれだけの兵器を搭載しているのか不透明でしたが、やはり預言者は」

 

「それ以上語るのならば死ぬぞ、黒服」

 

 喧しい口を閉じさせ、尾鰭の明滅間隔を早める。

 

 尾を揺らし、私の背後に隠れていた明滅する尾鰭を周囲に見せびらかす。獣が天敵や縄張りを狙う同族に行う威嚇の様なモノだ。

 これ以上迫る様ならば、容赦無く始末するぞという意志を示す。

 

「早く去る事を進める。貴様等げまとりあは観察者であり探求者であり研究者なのだろう? 奴と私がぶつかれば、巻き込まれた貴様は死ぬぞ」

 

 言い慣れないカタカナ語を上手く発音出来なかったが、そこを一々気にして言い直す暇は無さそうだ。

 

 揺れがより巨大に、震源がより身近に迫るのを感じる。会敵までそう時間は掛からない。掛かっても二、三分が良い所か。

 その間に撤退を促す。殺すと決めれば躊躇わないが、そう決めて居ない現状では死なれるのは惜しい。

 

「おやおや……ククッ、私の身を案じてくれるとは。アビドス高等学校の件といい存外、お優しいのですね? デカグラマトンに協力する預言者達、その者等に命を狙われる身でありながら」

 

 好き勝手言ってくれる黒服に反論するつもりは無く、手をシッシッと払って追い払う仕草を見せる。奴に顔を向け、その隙を突かれるなどと言う阿呆な真似は晒せない。

 

 砂の海面が隆起する。振動はより強烈な物になり、私に向けられる怒りの感情も濃密で色濃い物と成る。

 その感情を向けられる事に対して納得はして居るが、黙ってそれを受け入れるつもりなど無い。

 

 本能的に察して居たよ。

 コイツは、私に対して怒っている。デカグラマトンとかいうキチガイガラクタの脅威に成り得るお前を殺してやるって息巻いている。

 

「私は私の身と、私の周りの環境を守る生態だ。だから、襲って来るのならば殺すまで」

 

 そんなもの知るか。私はただ私の身と気に入った環境を守るだけ。

 自己評価が非常識なまでに膨れ上がったキチガイガラクタの目論見を邪魔するつもりなんて毛頭無いのだが、勝手に脅威と見なされて排除しようとするのならば迎え撃つまで。

 

「ククククッ! なら、私は遠目に見物させて頂きましょう。キヴォトスの外より来た、人類に鉄槌を下す破壊の獣……その、力の一端を」

 

 何やら私の正体までも知っている様な口ぶりで、黒服はその場から姿を消した。走り去ったとか地中に潜ったとかでは無く、最初からその場に居なかったかの様に忽然と。

 

 人類に鉄槌を下すだの破壊の獣だの……私にそんな大それた役割も呼び名も無い気がするのだが。キヴォトスの外より来た、という発言も引っ掛かる。

 

 昔の私は何をした。何をすればそんな大それた役割や呼び名が知れ渡る。

 昔の私は何処に居た。キヴォトスの外とは何なのか。

 そもそもアイツは何故そこまで知っている。

 

 アイツと話していると喧しいわ謎が増えるわで頭が痛い。今後の付き合いを考えなければいけないな。

 

 殺し合いの直前にそんな呑気な思考を走らせる私に対し、向けられる殺意と迫る振動がより強まった。

 足の真下に気配を感じる。

 

 直下か、と思うよりも早くにコイツは行動を起こした。

 

 

 

 

 

 己の頭上にある砂の海面を強引に押し上げ、私を宙へと放り投げたのだ。

 

 砂の海中より姿を現す、そのオマケとでも言うかの様に。

 

 

 

 

『ギシャアアアァァァァァァァァァッ!!』

 

 

 

 

 

 砂の大海から現れた鋼鉄の大蛇が、打ち上げた私を睨め付けながら吠える。怨敵を見付けた、殺してやると怒鳴る様に。

 蛇の頭部には複数の目が有り、その全てが私を睨む。

 

 黒服とのやり取りは頭が痛くなる。その点、私を殺そうと息巻くコイツと殺し合う方がまだマシだ。

 殺すか殺されるか、その何方か片方だけで済むのだから。

 

 コイツの攻撃は暴力組織が使って来た様々な銃火器及び兵器、それ等全てを凌駕する威力が有るだろう。私を殺す為に造られたのだろうし、通用しない兵器を搭載するとは考えにくい。

 トリニティ総合学園に向かう前の良い運動に成りそうだ。熱線を取り戻せた喜びで刺激を受け、取り戻した複数種の熱線がコイツの様な規格外の存在にどれだけ通用するかも試しておきたい。

 

「色々試させて貰うぞ鉄蛇。ガッカリさせるなよ!

 

 数日前、アビドス高等学校の保健室で目覚めて以降、威嚇も兼ねて放った咆哮以外で初めて私は声を荒げた。

 

 それに、まだだ。

 

 向こうは吠えた。なら、私も吠えねばならない。

 

 何でそう思ったのか、それは分からない。

 

 ただそう思ったから。己に害を与え得る存在と相対した時、向かい合って吠え合う事こそが開戦の合図であり『ぶちのめす』という意思表示になる、と。

 

 息を吸い込む。体の奥底で熱を起こし、全身へ回す。

 胸元の赤い痣が煌めきを帯び、全身が心地好い灼熱感に包まれて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴアアアアアアアァァァァァァァァァアアアアァァァァァンッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

私自身を試したいのだ

 

 

死なれては困る。生きて、抗え

 

 

己の今の力量を知りたいのだ

 

 

簡単に逃げられては困る。砕け散るまで戦え

 

 

 

 

 




6話目のネタ明かし
・6話目最後のセリフ→ゴジラアースが地球各地で暴れ回ったことに起因
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