キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失) 作:ゲヘナ箱推し
空間を震わせる大咆哮を放ち明確な宣戦布告を叩き付けてきたミキにビナーが早速仕掛ける。
鋼鉄の巨体をしならせ、空中という自由が利かない空間に無防備な姿を晒しているミキに向けて尾を振り抜く。
巨体に見合わない迅速さで、尾に想像を絶する重量を与えつつ存在している分厚い砂の海を吹き飛ばしながら。
『シャアアアアアアァァァッ!!!!』
機械の声で吠える。自分の目的を果たす為に。
共感し、協力したいと思えたデカグラマトン。それの行く末に立ち塞がる障壁足り得る目の前の怪物を殺す為に。
「ガアアアアアアアァァァッ!!!!」
空中で身を捻り、迫り来る壁のような威圧感の尾に自分の尾を叩き付けながらミキも吠える。
理不尽なまでの体格差。
駆け引き等の技術の介在する余地の無い純粋な力VS力の激突において大きなアドバンテージとなる体格を持つビナーは、目の前の光景に機械仕掛けの優秀な思考回路を持ちながらなお混乱する。
ーなぜ、張り合えるー
迎え撃つ姿勢を一方的にねじ伏せ、粉微塵に粉砕出来る想定だった尾での殴打。
覆しようの無い体格差、踏ん張りが利かない空中にいる状況がありながら、双方の尾は激突した後に互いに動きを止めている。
仲良く尾を触れ合わせている訳では無い。押し退け、その肉体を粉砕してやろうとして尾に力を込めているのに、完全に拮抗している。
体をしならせ遠心力まで味方に付けて放った渾身の一撃なのに、単純な力のみで張り合われている。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」
張り合う、そう思うことすら烏滸がましいのかもしれない。
雄叫びと共に尾を押し返し、口腔より放たれた青白い熱線がビナーの長大な体躯の側面を焼き払う。
押し返されたことで姿勢制御が乱れ、肉体が地表に露出してしまった所を的確に薙ぎ払われた。
内部に格納されていたミサイルも熱線の直撃を受けて誘爆、熱線の直撃以上の大ダメージを負うこととなった。
『ジャア゙ア゙ッ!?』
特段、溜めて放ったようにも見えない熱線。
データを元にし、装甲表面の溶解も内部機器への損傷も発生しないような構造になっている装甲を持つビナーがダメージを受け、呻き声を漏らしつつ横転する。
格納していたミサイルが誘爆するという体内を爆破されるような事故も発生したが、幸いなことに内部機器へ甚大な損傷が生じる事は無かった。
しかし熱線の直撃箇所には変色、及び僅かな溶解が確認された。
ー熱線の威力はデータ以上、被弾は危険と推定ー
地中から奇襲を仕掛け、それを失敗した場合は熱線に耐える装甲で攻撃を受けつつ仕留める。
当初の対水波瀬ミキ用作戦、ミストルティンは遂行不可能と判断したビナーは地中に潜行した。
高層ビルを何棟繋げれば相当するのかも不明な巨体は、砂の海の中に瞬く間に姿を消す。
深度が浅ければ砂が隆起してしまい居場所を特定されてしまう恐れがある。そこを考慮し、ビナーもミキを補足出来るギリギリの深度にまで潜り込んでいた。
「……」
ゆっくりと周囲を見渡しながら、ミキは静かに佇んでいる。
機械仕掛けのビナーがギリギリ補足可能な深度に潜まれてしまっては、生身のミキには索敵しようが無い。
駆動音が聴こえる訳もなく、熱線で溶解した装甲の匂いがする訳もなく、一方的に不利な状況を強いられる。
それでも、彼女に慌てる様子や不安がる様子は見られない。自分を殺そうとしている相手に一方的に狙われているのに、だ。
まるで『命を狙われるのは今回が初めてという訳ではない』という経験に基づく慣れがあるように。
「……ッ」
開かれた瞳がギョロリと動き、背後を振り返る。
尾鰭が纏っていた稲妻を鼻先へと収束させ、細い光の線をビナーが動き回った事で生じた砂嵐の中へ放つ。
数ある熱線の中でも最も射程距離に優れる種類の熱線であり、砂嵐が無くとも視認不可能な距離まで離れていたビナーが晒していた尾を撃ち抜く。
ー尾部損傷中度、射程範囲も既存データを大きく逸脱ー
どれだけの距離を取れば安全かを測定するつもりだったビナーにとって、尾を撃ち抜かれたのは完全に想定外の出来事だった。
保有するデータの中に今回ミキが放った熱線、高加速荷電粒子ビームは存在しない。最後にデータを収集した後、新たにミキが会得した物だとビナーの思考回路は導き出す。
身体側面を焼き払った熱線もデータはあったが、既存のデータを上回る威力を持っている。
対応可能だと考えられていた攻撃が実は対応不可能だったとなれば、不用意に攻めるのは悪手。
ー荷電粒子ビーム回避プログラム、作成完了ー
しかし、やられっぱなしで終わるのであればデカグラマトンの協力者とは成り得ない。機械仕掛けであり、自身でも思考が可能である利点を腐らせずに活かして攻略の糸口を作る。
強烈な電磁パルスを伴う熱線が直撃したことにより尾部は損傷こそ穴が空いた程度だが、内部機器は高度なEMP防御が施されていて尚そのほとんどがお釈迦になっている。
だが関節部には自切を行う機構が備えられており、運動性能の低下を招くが破損やエラー等でデッドウェイトと化した箇所を切り捨てられるようになっていた。
そして、受けたダメージや着弾寸前に電磁パルスを観測した事を元にして荷電粒子ビームのみを対象とした回避プログラムを即座に作成。
効果を確かめる為に、既に約立たずと化している尾を再び砂中から出して帆のように掲げる。
「……」
ビナーの思惑に、ミキは乗らない。
荷電粒子がどうだの電磁パルスがどうだのといった詳しい事は理解していないミキだが、アレが周囲の電子機器に悪影響を及ぼす事は何となくで理解していた。
それが機械仕掛けのビナーに着弾したのだから、何かしらの不都合や不具合が生じているハズ。
それなのにこうして、まるで『撃ち抜いてください』とでも言うように尾を掲げている。
何かある。ビナーは機械仕掛け、無駄な行動をするとは考えにくい。
何か目論んでいると見抜き、敢えて何もせずに睨み付けるに留まっていた。
近寄ろうとせずにその場に留まっているのも、地中を移動するビナーの性質を理解した上での選択だ。
移動する最中に落とし穴や地雷のようなトラップが仕掛けられている可能性を考慮し、熱線という遠距離攻撃が可能なことも理由に自ら動くという選択肢を取らないでいる。
ー対象に動き無し。攻めつつ効果を試すー
目論見が失敗に終わったビナーは直ぐに次の行動に出る。
尾を撃ち抜かれた地点は、地中に潜行した際と同様にミキをギリギリ補足出来る限界地点。
近かろうが遠かろうが、ミキを殺す為にはミキの攻撃の射程範囲内に居なければならない。
撤退して作戦を練り直す、装備を変更するといった選択肢は存在しない。
長年、探し求めたのだ。自分が生まれた理由、デカグラマトンの障壁足り得る存在であるミキが己のテリトリーに踏み込んで来るその日を。
そして、渇望したのだ。己のテリトリーに踏み込んで来たミキを殺し損ねてしまったあの日以来、確実に息の根を止めることを。
「来た」
標的としての役割すら果たせなかった尾を自切したビナーが突き進んでくる音を聞き取ったミキも行動に移る。
距離が離れている以上、最も射程範囲に優れる荷電粒子ビーム型の熱線が最適。
尾鰭を再度帯電させ、鼻先に集める。
双眸は遠方に微かに見えるビナーの姿を捉えていた。海面から身を乗り出しながら泳ぐイルカのように、砂を掻き分けて突き進んで来る。
収束が終わり、射出されようとしたその瞬間。
ビナーの方が素早く一手を打っていた。
ー大道の劫火、発射ー
熱線が直撃した側面とは逆、誘爆を免れていたミサイルを一斉に放ったのだ。
自分を目掛けて飛来するミサイルを視認し、ミキは狙いを切り替える。
射程距離の優秀さもさることながら、取り回しの良さも郡を抜く荷電粒子ビーム型の熱線が飛来するミサイルを撃ち抜く。
同時に口からも通常の青白い熱線を放ち、2種類の熱線を同時に放射して迎撃するという芸当を披露。
次々と空中でミサイルが破壊されて爆発による球体を生み出していくが、迎撃されるのはビナーも予測していた。
ミサイル同士の距離が離れている。接触事故を避けるという目的もあるが、主たる目的はミキによる迎撃に対応する事だ。
仮に隣のミサイルが迎撃され爆発したとしても、距離が離れていれば誘爆は防げる。
ー回避プログラム、機能正常ー
ミサイルの迎撃をしつつ、荷電粒子ビーム型の熱線でビナーも攻撃しようとしたが組み立てた回避プログラムにより全て躱される。
ミサイルではなくビナーを狙う工程を挟んだ事で、結果としてミサイルの対応に割く余裕をミキは失った。
「ふむ、成程」
2種類の熱線はどちらも長時間放射し続ける事は不可能。ある程度放射してしまえば、再度チャージを行う必要がある。
放たれたミサイルの総数は放射開始から終了、その後のチャージが完了するまでの間に迎撃し尽くされない事を前提としており相当な数になる。
迎撃の手が止まる。熱線の放射が止まり、再度チャージを行う事になったミキが飛来するミサイルを見つめながら呟く。
「欲張ったか」
避けもせず、受け入れた。
ミサイルが彼女の肉体を、足元の地面を直撃し爆発。
爆音が周囲へ轟き渡り、ガラス化した地面が破片となって飛散する。
黒煙と火炎が轟音を伴って立ち上る。吹き荒れていた砂嵐は消し飛ばされ、彼女の姿も見えなくなってしまった。
『……』
ビナーの動きも停止する。
熱線の直撃を回避出来たのは良いが、熱線が撒き散らす電磁パルスまでは対処し切れなかった。
運が悪いことに索敵関連の機能が電磁パルスによって故障してしまい、黒煙と火炎の中にいるはずのミキの姿を捉える事が出来なくなってしまった。
熱源探査は辛うじて生きているが、それも電磁パルスの影響で万全に機能するとは言えない。
仮に万全に機能する状態だったとしても、役には立たないだろう。何せミサイルの爆発もそうだがミキが熱線を撃ちまくったせいで、周囲の温度が異常なまでに跳ね上がっている。
アビドス砂漠の一部がガラス化を引き起こしている状態で、熱源探査が役に立つはずが無い。
『……』
火炎を睨む。
死んだ、とは思えない。相手はあの水波瀬ミキだ。
デカグラマトンの障壁足り得る存在。
デカグラマトンを生み出した組織が何世紀と辛酸を嘗め、
けたたましい音により深刻な汚染を告知する計器も、彼女相手では宛にならない。
あのミサイルは一発でも発展した都市を一つくらい容易く消し飛ばせるが、彼女相手では良くて大怪我を負わせるのが限度だろう。
粉々に吹き飛ばさなくては勝ち目が無い。大道の劫火ではなく、岩をも溶かすアツィルトの光で。
『ッ!』
機械仕掛けでありながら、その挙動は本能的と言えるだろう。
生きているであろうと仮定し、トドメと成り得るアツィルトの光を放つ用意を開始しようとしたその刹那。
咄嗟に身を屈め、くねらせた。
ビナー自身、その挙動に驚いていた。
荷電粒子ビーム型熱線回避プログラムが作動したからだ。それも一度ではなく、数回も。
サンプルを元にしてデータを取り、彼女に通用する威力が確保されているミサイルが直撃したはず。
そのミサイルを迎撃する為に熱線を乱発した事で、エネルギー切れを引き起こしているはず。
それなのに、熱線は放たれた。
耐えられる想定も、熱線を使えなくなったとブラフをかけられる想定もされていなかった。
「欲張って尚、出し惜しんだ。私の落ち度だな」
カッターのような衝撃波が黒煙と火炎の内側から発生し、切り裂きながら吹き飛ばす。
ガラス化し、ミサイルの着弾と爆発で粉々になっている砂の海の上に立つミキは、頬を切り血を流している程度の軽傷しか負っていなかった。
「良い攻撃だった。良い刺激に成ったよ。お陰で少しでは色々と
呟き、ミキの双眸が見開かれる。口から半透明のガスが放たれ、光の輪を形成していく。
高加速荷電粒子ビーム型の熱線を放つ際も鼻先に輪は出現するがそれとは異なり、稲妻を纏わない天使の光輪を思わせる輪だった。
ブラフをかけたのでは無い。
確かにあの時、熱線の元は底を尽きていた。
「腹も膨れた。之はその礼だ。死にたく無いのならば、貴様も早く
熱線だけが脅威という訳では無いが、アレを封じるだけでもビナーは動きやすさが大きく変わった。
それなのに、よりにもよってビナー自身がミキにエネルギーを与えてしまっていた。
仕込み のネタ明かし
・輪を形成してから放つ熱線→ゴジラアースの熱線
・