Grand Theft Archive:Kivotos 作:火焔茸
ラーメンを堪能してアビドスに戻った俺は、シッテムを開きアロナを呼び出した。
「"アロナ、セントラルネットワークにアクセスできるか?情報が欲しい。"」
≪お任せください!何を調べましょうか?≫
「"便利屋68について、あとブラックマーケット内の傭兵業界の動向も知りたい。"」
≪了解しました、少しお待ちください!≫
言うが早いか、アロナのヘイローがピコピコと明滅し始める。
俺はシャーレから持ち込んだインスタントコーヒーを淹れ、テイクアウトしてきたチャーシューを肴にゆっくり待つことにした。
…本当に美味いなコレ、後でもう一本買っとくか。
≪お待たせしました!関連資料を表示します。≫
「"もう出来たのか!?…いや、仕事が早いのは良い事だ。よくやった"」
≪ふふん、もっと褒めてくれてもいいんですよ?≫
「"調子に乗るなら二度と褒めてやらんぞ"」
≪ええっ!?≫
なんて軽口を叩いちゃいるが、驚くべき…いっそ恐るべき能力と言える。
情報収集を頼んでから5分も経ってない…ハッキリ言って予想外だ。
とりあえず画面に表示されてるファイルを開いて、目を通していく。
やっぱりな、つい最近カイザーから便利屋の事務所に電話した履歴がある。
連邦生徒会といえど、内容までは流石に記録されてねえが…まぁ想像は付く。
そして顔写真も出てきた、柴関で会った4人組で間違いねえ。
お次はブラックマーケットの傭兵情勢の方だ。
こっちもビンゴ、集合地点がアビドス自治区に指定されたバラマキの依頼が出てやがる。何人ぐらい受けたのかは流石に分からねえか…ブラックマーケットの傭兵なんざ公的な記録には残らねえし当然といえば当然だ。
とりあえず情報は十分だな、向こうが数の暴力で来るってんなら俺も対策を打つとしよう。
「うへ~ぃ、ちょっとお昼寝してくるねー…おや?」
「先生?」
いつもの調子で教室を出ようと立ち上がったホシノ先輩でしたが、ドアにたどり着く前にそれは開きました。
そこに立っていたのは、普段よりもどこか真剣な表情をした先生。
「"丁度いい、全員揃ってるな。"」
「…何かあったんですか?」
「"ちょいと伝える事があってな、それと作戦会議をしたい。"」
「うへ、何か穏やかじゃない感じだね…?」
「"ヘルメット団の仕事を引き継いだ連中のデータを見つけてきた。"」
先生が手元のタブレットを操作すると、私の端末に資料が送られてきました。
私はファイルを開いて、皆も横からそれを覗き込みます。
「"便利屋68…そのツラには見覚えがあるだろ。"」
「あ…柴関で会った人たち!」
「あいつら…ラーメン大盛りにしてやったってのに、恩知らずな奴ね!」
便利屋68といえば、ゲヘナの問題児集団として悪名高い生徒です。戦闘力も高いと聞きますし、可能な限り早期から衝突に備える必用がありそうです。
隣でセリカちゃんが毛を逆立てて憤っていましたが、お陰で私は冷静に思考できているようでした。
「"確認しとくが、お前らは知った顔に銃向けられるタイプか?"」
その言葉に、教室を緊張が走るのが分かりました。
言うまでもなくそれは『便利屋と一戦交える』という宣告、生半可な準備で臨めば悲惨な結果になるのは目に見えています。
かといって学園を諦めるなどという選択肢は最初からありません、私たちの答えは決まっていました。
「…できます。私たちに牙を剥くなら、容赦はしません。」
「そうよ、私たちに喧嘩を売った事後悔させてやるわ!」
「ん。この学園を守るためなら、覚悟はできてる。」
「私も、やります。」
「うへ…おじさん良い後輩を持って嬉しいよ~」
それを聞いた先生はニヤリを口角を上げると、どこか薄ら寒い笑顔で言いました。
「"良い返事だ!早速、仕事にかかるとしよう。"」
凹んだままの社長を慰めながらアビドスでの拠点としている臨時事務所に戻った私は、アビドス襲撃に備えて改めて作戦を練ることにした。
事務所の片隅に置いたホワイトボードに学園の見取り図を貼り付け、私たち4人と雇った傭兵のコマをマグネットで張り付ける。
タブレットとかを買ってデジタル化すればもっと効率的なんだろうけどそんなお金は無いし、ハッキング等で情報が漏洩する事もある。昔ながらのやり方だけど、これが一番良い。
「どうしようかな、ミニガンが思ったより厄介なんだよね…」
溜息をついて、一人ごちる。
ターゲットは少人数だけど個々の戦闘力が高い、特に十六夜ノノミの火力は脅威になる。
それに対策委員会会長の小鳥遊ホシノ―――彼女に関してゲヘナ風紀委員長が言及していたという噂もある。本当なら相当な戦力を隠している可能性が高い。
それから、今まで戦力としてマークしていなかった彼の存在も考えるべき問題だ。
トレバー・フィリップス先生、過去の経歴・出身・年齢その他一切が不明の『外の大人』。
会長失踪直後の混乱期。先生が初めてキヴォトスに現れた日。
小口径の拳銃弾が体を貫通するほど脆い存在でありながら、僅か4名の生徒のみを引き連れ、一切の被弾なく不良生徒を蹴散らし、シャーレビルまでの道を制圧したという噂まで出回っている。
しかもブラックマーケットで急成長中の新興企業『トレバー・フィリップス・エンタープライズ』および工業部門『
「今の所はアビドス外の動きも無いし、仕掛けるなら早い方が良いかもね。」
そう呟いた時、奇妙な物音が耳に入った。
小刻みに空気を叩くような、重くて機械的な音。
壁を隔てた先、屋外の、もっと遠く。
―――エンジン音?
「…まさか…ッ!」
刹那、事務所の壁が弾けた。
突然の事態で走馬灯のように引き延ばされた時間の中、砕けた外壁と千切れた配線の先に銀色のホイールが光る。
眼前に広がっていくフロントバンパーを避けるために身を投げ出し、起き上がった私の目の前でドアが開いた。
事務所に頭を突っ込んだ大型トラックから降りてきたのは5人組。うち4人は見覚えがある、アビドスの生徒だ。
そして最後、顔全体を完全に覆った黒い覆面の大人が降りてくる。
「な、何!?何が起きてるのよ!?!?」
「"悪いな、お嬢さん。"」
白目を剥いて飛び出してきた社長の顔面に、覆面の持っていたショットガンのストックが叩き込まれる。
倒れ込んだ所へそのまま散弾を2発。気絶したのだろう、社長のヘイローが消えた。
私は愛銃『デモンズロア』を抜いてそちらへ照準を向けようとして…咄嗟に崩れた外壁に身を隠した。
ミニガン特有の電動工具じみた銃声が響き、先ほどまで立っていた床を弾丸が耕していく。
互いに銃口で睨み合うジリジリとした静寂と緊張感の中、カバーした瓦礫の向こうから声が聞こえる。
「せん…じゃない、トリシャ、ここからどうするの?膠着状態だけど。」
「うへ、全部やっちゃう?」
「"いや、今回の目的は警告だ…俺が話す。"」
そんな会話のあと、覆面の大人が先ほどよりも少し大きな声で、こう告げる。
「"便利屋68諸君、今回の依頼は手を引け。荷物をまとめてブラックマーケットに帰るんだ。"」
「"またアビドスに手を出したら…あー、どうすっかな。"」
「嘘でしょ!?そこ考えてなかったの!?」
「"しょーがねえだろ、相手はガキだぞ!?拷問とか見せしめ以外のお仕置きなんか知らねえんだよ!"」
過去に一体何をしでかして来たんだろうか、それをやらないだけの良心が残っている事に安堵する。
それだけ言うと覆面の大人―――おそらく先生だろうけど―――とアビドス生たちの足音がして、トラックが建物から頭を引き抜くのが聞こえた。
私は襲撃者たちの気配が消えたのを確かめてから、アルちゃんの元に駆け寄った。
ほぼ同時にムツキとハルカも出てくる。
「…被弾しすぎただけみたい、傷にはなってないね。」
「偽名と覆面してたけど、あれ先生だよね?アルちゃんを秒殺なんて、とんでもない強さだよね~」
「よ、よよよくもアル様を…ちょっとシャーレ爆破してきます!」
「良いのよハルカ…」
社長が目覚めた、そこまでダメージは深くなかったみたい。
「これは襲撃依頼…アウトローの仕事なんだから、ターゲットの抵抗なんて当然でしょ。」
「で、ですが…」
「この借りは、依頼を達成して返すわ。その爆薬は取っておきなさい。」
「は、はい!」
社長、上手い事丸め込んだね。まぁシャーレ敵に回すのが怖いだけかも知れないけど。
「それに、依頼のターゲットにされたのを察知して、先んじて襲撃するなんて…」
あ、目がキラキラしてる…また余計な影響受けたなこれ…
「すごくアウトローじゃない!」
やっぱりアルちゃんはアルちゃんだなぁ…
崩れた天井から、私は空を仰いだ。