Grand Theft Archive:Kivotos 作:火焔茸
ブラックマーケットの街並みを一望できるビルの一室。
その窓を背に座るロボット顔の男が一人。
彼は上等なマホガニー製の執務机に手を伸ばすと、オイル仕上げの天板からカップを取りコーヒーを啜る。
机の上では金色に箔押しされた机上札が『理事』の肩書を掲げている。
そう、彼こそが様々な勢力へアビドス襲撃を依頼した黒幕にして、カイザーコーポレーションの理事である。
「…ふん」
それ一杯でスケバンの日当ほどもする高級豆の香りを気だるげに吐き出し、カップを置く。
ふと目をやった机上の端末がメールの着信を注げていた。
「…」
手早く端末を手に取り、それを開いた。
彼の予感通り差出人の欄には『便利屋68』の字が並ぶが、そこで気づく。
メールを送ってよこした意味は何だろうか。
あの社長は戦闘力の高さは評判通りなのだが、変な所で
依頼、報告、宣戦…あらゆる連絡を電話で行いたがり、事務所にも旧式の黒電話を欠かさず置いている程だ。
それが突然メールをよこしたのだから、何か意図があるのは間違いない。
そんな警戒交じりに開かれたメールは、端的に言えば異質と表現すべきものだった。
まず題名と本文が無い、そして添付された動画ファイルが一件。
まるでビジネスメールの礼儀も知らぬ不良どもが送ってくる報告のような有様である。
「なんなんだ一体…?」
怪訝な声音で
そして彼は驚愕と困惑に呑まれた。
「………な、ッ!?」
ロープで椅子に縛り付けられた便利屋の面々、後ろに回され微動だにしない腕もまた拘束されているのは想像に難くない。
黒い袋を被せられており表情は伺えないが、首筋からは汗とも涙ともつかぬ滴りが薄暗い教室の蛍光灯を照り返しているのが分かった。
そして彼女らの前に立つ男、理事は彼を知っている。
シャーレの先生、ブラックマーケットで急拡大する
―――トレバー・フィリップス。
「"
モニタに映る彼の笑みが友好を示すそれでない事は明らかだった。
そして悟る。
便利屋もまた、失敗したと。
遡ること数時間。
パニック状態のアルとハルカを宥めてもらった後、俺達は空き教室で顔を突き合わせて交渉していた。
伝えた内容をカヨコがざっくりまとめてくれる。
「…要は報酬を出すから今の依頼を諦めろって事ね。」
「"そうだ、カイザーの提示した額の半分…どうだ?"」
「断ったらどうなるのかしら?」
アルの返答も予想の範疇、俺は淡々と答える。
「"お前らが諦めるまでボコボコにする。"」
「…それは…ぞっとしない話ね」
「ねぇ、先生…ひとつ聞いてもいい?」
「"何だ?"」
冷や汗をかきつつも肩を竦めるアル、そこにカヨコが再び口を挟む。
「なんで報酬を出すの?依頼を諦めさせるだけならさっきコテンパンにされた以上、手を引けと言えば充分なはず…何か他にさせようとしてない?」
「"流石参謀、頭が回るな。その話をしようと思ってたんだ"」
「いいい、一体何をさせられるんですか…?酷い事なら私が全部引き受けますので皆さんはどうか見逃して頂けませんか!?」
「"落ち着けハルカ、ただのビデオ撮影だ"」
それを聞いた便利屋の面々に緊張が走った…アル以外。
「ビデオ…?」
「くふふ…大胆だね?先生ってそういう趣味だったんだ〜」
「嘘だよね?先生、冗談だって言って。」
「わわわ私が何でもしますからそれだけは勘弁して下さい!いや私ごときでは大した魅力も無いのは重々承知ですが、どんな行為でも―――」
「"なんか勘違いしてねえかお前ら!?…この後の行動の言い訳をつけるためにも、警告って体でカイザーに喧嘩を売る、その為に一芝居打って欲しいだけだ。"」
ここまで傍観していた対策委員会すら、安堵を隠す気もないらしく俺をからかい始める。
「うへ〜セリカちゃんのお耳塞がなくても大丈夫だったね?」
「先輩が上の耳塞いでも下で聞こえてるんですけど!?」
「ん、先生なら私は歓迎。」
「シロコちゃんはもう少し恥じらいを覚えましょうね〜?」
「はぁ……言葉足らずな交渉は危険のもとですよ先生…」
なぁ…俺が悪いのかこれ?
ここんとこ定期的にこんな感じの事態が起きてる気がすんな…
「"お前らが何を想像したのかは聞かないでおくけどな…俺は生徒に手を出したりしねえぞ、そんなのはクズのやる事だ。"」
それを聞いたシロコがあからさまにションボリしてたが、俺は見ないフリをした。
「"…撮影終わったらラーメンでも食いに行こうぜ、奢るから"」
そして話題を変えて誤魔化したのだった。
短いですが今回はここまでとなります。
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次回更新もお楽しみに