Grand Theft Archive:Kivotos 作:火焔茸
風紀委員との戦闘の翌日、俺は大将の見舞いに病院まで来た。
スタッフの案内で病室に着くと、見慣れたモフモフ顔を半分以上包帯で包んだ大将が出迎えてくれた。
「おぉ、先生も見舞いに来てくれたのかい。」
「"当たり前だろ?見舞いに色々持って来たぜ、菓子とか茶とかタオルとか…"」
「…へえ、先生にしちゃ無難なチョイスだな?」
「"俺を何だと思ってんだよアンタは…
持って来た物をとりあえず病室の棚に仕舞い、俺はベッド脇の椅子に掛ける。
「"で…ケガの具合はどうだ?"」
「お医者の先生は『一週間もあれば回復する見込みです』って言ってたよ、後遺症の心配も無いってさ。」
「"なら…残る問題はラーメン屋の復旧だな。"」
そう言った瞬間に大将は少し寂しげな、諦めも含んだ顔でこう返す。
「いや…どのみち閉める予定だったしな、それが早まっただけだ。」
「"何だって?"」
「地主から退去勧告が届いてたんだ、もう長いこと無視して営業してたが…限界は感じてた。」
「"そんな話初耳だぞオイ…その地主ってのはどこのどいつだ?"」
「カイザーコンストラクションだよ、大企業が相手じゃ抵抗したところでなぁ…」
またカイザーか、どこまでアビドスに執着してんだアイツら。
…待てよ?もしかしたら…いや、もしそうなら…
「先生?」
「"ん?あぁ悪い…ちょっと考え事をな。"」
「そうか…もう行くのか?」
「"そうだな…ちょっと調べたい事ができた。"」
俺は立ち上がり、大将に別れの挨拶を告げる。
「気を付けてな、先生。」
「"おう、またな大将。"」
「"クソ…なんで嫌な予感に限って当たるんだよ!"」
「あ、先生!頼まれてた資料、揃いました!」
「"おう、急に無理言って悪いな。"」
アヤネに少し書類とデータの照会を頼んだところ、僅か30分ほどで整理してまとめ上げてくれた。
その連絡を受けた俺はすぐ学園に向かい、同時にモモトークで対策委員会全員を招集した。
書類の照会で外出してきた帰りのアヤネと玄関で合流し、そのまま教室へ向かう。
「いえ…シロコ先輩以外は既に学園に居るそうです。」
「"分かった、全員揃ったら会議を始めんぞ。"」
ガラガラとドアを開ければ、連絡通りシロコ以外の面々が揃っていた。
「おはよぉ~先生、急に全員招集なんてどうしたのさ?」
「先生のことだし、くだらない用じゃないんでしょ?」
「うーん、厄介事じゃなければ良いですが…」
確かに重大な話なんだが…緊迫した空気だとやっぱダメだ、話しづれえ。
とりあえずコーヒーでも淹れよう。
「"まぁそうなんだが…シロコが来るまで待とうぜ、ほらコーヒー。"」
「あら、私たちの分まで入れてくださったんですか?」
「ありがとうございます…」
「ホシノ先輩、そこの砂糖取ってー」
「うへ…セリカちゃん人使いが荒いなぁ。」
「そこまで言われるほどの労力じゃないでしょ!?」
よし、良い感じに緊張もほぐれてきたな。
そんな丁度良いタイミングでシロコが帰って来た、汗ばんだ髪がヘルメットの形に潰れているのを見るに趣味のロードワークに出てたか。
「"急に呼びつけて悪いな、まぁ座れ。…シロコもコーヒー飲むか?"」
「ん。(コクン」
「…はいよ。」
全員が揃ったところで、俺は本題を切り出す。
ホワイトボードにプロジェクタをセットし、シッテムの箱から送った画像を表示する。
「"ついさっき分かった事だが…トンでもねえ事が起きてやがった。"」
「この地図は何?」
セリカの問いに、コイツを用意してくれたアヤネが答える。
「アビドス生徒会の情報をもとに、土地の所有者ごとに地図を色付けしたものです。簡易的な地籍図ですね。」
「"…問題はその所有者だ。"」
その地図は青くマッピングされた今俺達がいる校舎の近辺を除いて、ほぼ全てが真っ赤に染め上げられていた。
右上の凡例を見れば
カイザーコンストラクション
アビドス生徒会
と記載があった。
「カイザー…またあいつら!?」
「ですが一体どうして?アビドス自治区の所有権は生徒会にあるはずでは…?」
困惑する一同をよそに、ホシノは1人冷静に呟く。
「売ったんだろうね、生徒会が。」
「"…なるほど、そういう事か。"」
「「ど、どういうこと?」ですか?」
俺もそこで、やっと奴らの行動に筋が通った。
「"借金を負わせて返済でヒイヒイ言わせてから、土地を売るよう持ち掛けたんだろ。"」
「そう…でもこんな砂漠じゃいくらにもならない。」
「"そんで利子分を切り売りしていくうちに、元本は減らねえまま土地だけが消えていく…典型的な
気に入らねえな…デビンを思い出すぜ。
資産家ってのはどいつもこいつも、真面目に働く奴から絞り上げる事ばっか考えてやがる。
そんで奪われる方が悪い、無知なのが悪い、とかぬかす癖して自分が強盗に遭えばピイピイ喚くんだから見てられねえ。
「そうだ、先生」
「"どうしたシロコ?"」
「こっちも報告したい事がある。」
そう言うとシロコはスマホを取り出し、一枚の写真を俺たちに見せる。
そこに写っていたのはカイザーバンクの銀行員、確か今日の朝イチで今月分の利子を取り立てていった奴だ。
そいつと対面しているのは、特徴的なヘルメットに身を包んだ生徒。ロアの部下はほとんどT.P.I.に入れちまったから、おそらくカタカタとは別のヘルメット団だな。
「"まだ雇う気か、懲りねえなアイツら…"」
「どういうこと…?先生何か知ってるの?」
「"あれ…言ってなかったか?ここ襲撃してたヘルメット団、アレもカイザーの差し金だぞ。"」
「「「「なんで今まで黙ってたの!?」よ!?」んですか!?」」
「"すまん、単純に伝えるの忘れてた…"」
とまぁ、俺の伝達ミスで一悶着あったが何とか宥めて会議を再開する。
「"最終目標だが、連邦捜査部の権限で合法なルートからカイザーにトドメを刺すことにする。"」
「おぉ〜、大きく出たね。先生は何か勝算があるの?」
「"捜査に踏み切る根拠として証拠が要る、そっちも目処は付いてるけどな。"」
「え、そんなものあった?」
「"相手は金融機関だぞ?帳簿があるはずだ、それが手に入ればヘルメット団に金を流したことも分かるだろ。"」
「なるほど!シロコちゃんのお手柄ですね〜!」
ノノミに頭を撫でられたシロコが「ん、ん、」と謎の鳴き声(?)を上げる。
…が、すぐに俺に疑問を呈した。
「それで先生…帳簿はどうやって手に入れるの?」
「"あぁ、銀行を襲う。"」
空気が凍りついた。
ホシノとノノミが威圧するような黒い笑顔で俺に詰め寄る。
「先生…?うちの後輩に悪い事させようっていうのかな?」
「いくら先生でもそれはいけませんよ〜?」
「"落ち着け、そもそも説明は終わってねえよ、まだ問題が残ってるだろうが。"」
そう釈明したあたりで、アヤネが気づいたようでフォローを入れてくれる。
「確かに、違法行為で手に入れた証拠では公に効力を発揮しませんよね?」
「"その通り!"」
「あ、そっか…でもどうするのさ?まさかシャーレの強権で強盗を合法化するの?」
「"んなワケあるか!とりあえず最後まで聞けって…"」
俺は一度咳払いをして、仕切り直す。
ホワイトボードに事前に用意した作戦を書き出していく。
「"作戦決行は一ヶ月後、次の利子取り立ての輸送車が銀行に到着するタイミングだ。
俺達は正体を隠してカイザーバンクを襲撃する。
目標は出入金帳簿および経営に関する書類の確保だ。"」
「ん、そこまでは聞いたね。それから?」
「"同時並行でT.P.マーセナリーズをカイザーバンクに派遣する。"」
「初めて聞く名前ね、何よそれ?」
「"俺の会社…の傭兵・警備部門だ、所在地はブラックマーケットだが連邦生徒会にも営業を届け出た真っ当な企業だぞ。
…ともかく、匿名の通報を受けた体でマーセナリーズがバンクに突入して強盗、つまり俺達の制圧にかかる。"」
「え〜っと、味方同士で戦うんですか?」
「"自演に決まってんだろ、事前に話は通すさ。
そんで、俺達は適当に発砲して戦闘を演じながら撤退し、途中で確保した証拠品を放棄してマーセナリーズに拾わせる。"」
「うへへへへ、分かった…そういう事かぁ。」
「"そう。強盗の鎮圧中に押収した盗難品なら、シャーレの証拠品として受理できる。"」
ここまで説明してようやく、対策委員会の面々は納得したような反応を見せてくれた。
回りくどいのは好みじゃねえが…これを乗り越えれば正面切ってカイザーに喧嘩売る大義名分が作れる。
あの時切った大見得、キッチリ果たすとしようぜ。
「そうと決まれば、現場の下見だね。」
「"分かってるじゃねえか、流石シロコ。"」
「…うへ?どういう事?」
「"下見は銀行強盗の要だ。作戦を立てるには情報が要る、現場を知ってれば作戦にない想定外にも対応できる。"」
「そうと決まれば話は早いわね!」
「はい、今日中に準備を済ませて、明日の朝イチで出発しましょう。」
こうしてやる気みなぎる5人の少女たちと1人のオッサンは、ブラックマーケットへと向かう事になった。
翌日、ブラックマーケットを訪れた俺達はカイザーバンク周辺に到着した。
「いやー、すんなり到着したねぇ。」
ホシノがいつも通り気の抜けた口調でそう言う。
「"まぁ第二の地元みてえなモンだしな。"」
「それはそれでどうなのよ…」
「"HAHAHA,違いねえ…見えてきたぞ、アレが今回のお目当てだ。"」
俺は通りの突き当り、正面に堂々と聳え立つビルを指差す。
「うわでっか…本当にこれ闇銀行なの?」
「まぁブラックマーケットは連邦生徒会の影響力が届かない場所でもあるので、企業もある意味開き直っている所があると聞きますし…」
「"よく知ってるなアヤネ…その通りだ。
ココは無法地帯だからな、その気になれば外部の真っ当な企業ですら多少の無理を通せる。"」
「…歯ごたえのありそうな獲物、だね。」
「"今回は下見だからなシロコ、先走るなよ。"」
そんな話をしながら、俺達はインカムを着ける。
コイツに内蔵されたカメラ映像も、後で検討する材料になるだろう。
「"アロナ、録画とセキュリティの解析は頼んだぞ。"」
«はい、お任せください!»
俺達がカイザーバンクへと踏み込むと、磨かれた大理石の床が広がる開放的なエントランスが目に入った。
待合のソファが等間隔で並び、その奥に窓口のカウンターが設けられている。
そして完全武装の警備員たちが目を光らせているのも確認できる。
遮蔽物が無いな…かといって火力で押せるほど少数でもない。
「"アロナ、システムの方はどうだ?"」
«全くアクセスできません…物理的に独立したイントラネットになっているようです。»
「"侵入する方法はあるか?"」
«うーん…無線接続用の外付けデバイスをどこかに取り付けられれば、あとはどうとでもなりますが…»
「"そんな簡単にいくのか?"」
«なんたってスーパーアロナちゃんですから!(フンス»
「"そいつは頼もしい限りだな"」
さて…そうなると問題はデバイスの取り付け場所、あと肝心のデバイスの調達か。
«先生、1つご提案なんですが…»
「"なんだ?"」
«カスタマー向けに提供されているフリーWi-Fi用の回線をイントラネットに接続すれば私がアクセスできるはずです。私なら侵入を検知される前にトラフィックの擬装もできます!»
「"…どうすりゃいいか小難しい用語抜きで教えてくれ。"」
それを聞いたアロナはシッテムの箱を出すように言い、何枚かケーブル端子の画像を見せてくる。
«こんな感じのケーブルを探して、職員の目を盗んで適当なPCに接続してください。この機種なら背面に差し込めるはずです。»
「"よし…やってやろうじゃねえか。"」
Wi-Fiケーブル を探せ
…どこだ?多分アロナの画像にあった『るーたー』ってのがあのアンテナ生えてる小さい箱だろ?
とまぁ、しばらく探してみるとそれらしきケーブルを発見した。
「"コレか?"」
≪それです!≫
あとは近くのPCに…っと、これで良いのか?
≪…接続を確認しました!現在、社内の設備は私が掌握しています。≫
「"お前本当に有能だな…"」
≪えへへ…それほどでも、ありますかねぇ?≫
「"あとでカステラ詰め放題の刑な"」
≪えぇ!?なんでですかっ!?≫
「"褒めると調子に乗るからだ…嘘だよ、普通に食わせてやるから泣くなって。"」
さて、あと残る問題は…警備の動線と緊急時の対応だな。
「"アロナ、ここに配置されてる監視カメラ映像を全部録画しといてくれ。"」
≪…?はい、分かりました。≫
「"それと…俺が合図したら警報を鳴らせ。"」
≪…具体的な発報内容はどうしますか?≫
「"誤作動で説明がつく、事件性が薄いやつだ。"」
俺はシッテムの箱をしまって、インカムからアビドスに通信を入れる。
「"全員聞け、ちょっとだけ騒ぎを起こすぞ。"」
「えー?急だねぇ、威力偵察でもするの?」
「"そうだ、警報システムが掌握できたから誤作動を起こしてみる。
お前らは客のフリに徹しつつ動きを観察してくれ。"」
「「「「「了解」」」」」
俺も警備の観察のためにロビー脇の喫煙所に陣取った、ここなら窓口カウンターと警備員が出入りしてる『STAFF ONLY』のドアが同時に視界に収まる。
そんじゃ…始めようか。
「"アロナ、やれ。"」
ジリリリリリリリ…!
呟いた瞬間、警報音が鳴り響く。
≪正面入口から入って右手、男子トイレにある火災発生報知器を起動しました。≫
「"オーケー、それなら誤作動で片付くな。"」
「フロア1、男性用トイレにてコード・レッド発報!ガード2-3、現場をクリアしろ!」
「2-3、了解!」
「お客様は全員その場に伏せて、動かないでください!」
さて…ロビー常駐は3人、詰め所から5人、動きも悪くねえ。
さらに増援で10人、発報から到着まで40秒…全員完全武装のPMCか。
思ったより厄介だなこりゃ、早すぎるし大袈裟すぎる。
火災の時点で放火・爆破を前提に動いてやがる…普段から恨み買ってんだろうな。
「ガード1現着、ガード2の援護にあたる。」
≪コントロール了解≫
「こちら2-3、火どころか中に誰一人いません…不審物も見当たらず。」
「個室は?」
「全てクリアです、ドアも開いてました。」
≪コントロールよりガード各員、コンディションをコード・レッドからステイアラートに引き下げる、巡回のガード2以外は引き揚げろ。
ガード2-5および2-6は派遣されるテクニカルスタッフの護衛に回れ、他は引き続き通常巡回だ。≫
そこでようやく警報が解除された、まぁ下ごしらえはコレで十分だな。
「"…俺達も引き上げるぞ。"」
現場を離れろ。
次回、キヴォトスでも屈指のアウトローと名高い彼女が登場します…お楽しみに。