Grand Theft Archive:Kivotos   作:火焔茸

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カイザー襲撃作戦 Side:B(下)

多くの企業が群雄割拠するこのブラックマーケットにおいて、ひときわ高く聳えるビル『カイザーコーポレーション』本社。その正面エントランスのロータリーに1台のバンが停車する。

門前に立つ警備スタッフはその不審車へと素早く駆け寄り、車を降りるよう銃口を向けて警告した。

 

「貴様、ここはカイザーの私有地だ!両手をあげて車を降りてこい!」

「そっちこそ、手荒な事しねえ方が身のためだぞ。」

 

降りてきたのはメイド服を纏った小柄な生徒、挙げた手には一枚の紙を持っていた。

『捜索差押許可状』と書かれたその書面には、連邦生徒会とシャーレの署名があった。

 

「連邦捜査部だ、分かったら銃を下ろしやがれ。」

「ッ!」

 

スタッフも状況を理解したのか、即座に銃口を下し無線で本部に繋ごうとする。

だが…

 

「HQこちらエントランス、連邦捜査部がお見えです。」

「—————————」

 

返ってくるのはノイズばかり。

 

「おーおー、こんなタイミングで電波障害か。運がねえなぁ?」

「くっ…!」

 

ニヤリと笑って、メイド服の生徒は悠々と屋内へ踏み込んでいく。

さらに複数名の生徒がバンから降りてきて脚の生えた箱状の珍妙なロボットを引き連れていくのを、彼は見過ごすことしかできなかった。

 


 

時は遡って数時間前。

カイザー本社の地下に1人の生徒の姿があった。

 

「こちら『イースター』聞こえますか、『トリシャ』?」

「"こちら『トリシャ』、無線は大丈夫そうだな。"」

「無線は大丈夫でも、私はクタクタですよぉ…排水ダクトは狭いし臭いし…」

「"帰ったら反省部屋にシャワーを増設して貰えるようにユウカに言い添えてやるよ。"」

「いや反省部屋は自宅じゃないんですけど!?」

 

そう、セミナーの問題児こと黒崎コユキである。

 

「"で、作戦は覚えてるか?"」

「当然です!先輩たちが突入するまでに『サーバー(宝箱)』から『データ(宝石)』を根こそぎ転送すればいいんですよね。」

「"道中のセキュリティ(門番)は武力と電子ロック(お前のオモチャ)しか無いだろうが、もし物理ロックがあったら…」

「トリシャにもらったエンジンカッター(ヴォーパルソード)、それでダメなら指向性爆薬(びっくり箱)、ですよね!」

 

そう、彼女はその手に握った愛銃『マリ・ガン』の他にエンジンカッターと、爆薬を収めたカバンを背負っていた。

これで大型施設とはいえ排気ダクトを通り抜けられたのは、彼女の小柄な体格ゆえに成し得た芸当である。

 

「"それと『イースター』、今回だけは暗号資産も掻っ払って良いそうだ…特別だぞ?"」

「ユウカ先輩に怒られたり…しませんよね?」

「"ちゃんと許可取ったから安心しろ"」

「にははは、最高ですね!」

 

彼女はご機嫌に笑った後、改めて作戦行動に移るのであった。

 


 

ブラックマーケットのT.P.Enterprise勢力圏某所に設置された臨時作戦本部、そこに用意されたデスクの一角にあるモニターには大量のデータがシャーレ管理下のサーバーに流れ続ける様子が映されていた。

その中身は社外秘の議事録や隠し部屋を含めた施設の図面、脅迫や強請りを含めた裏接客マニュアル、裏金口座・裏帳簿、挙句の果てには違法兵器売買の顧客名簿までバラエティ豊かな組織犯罪の展覧会といった様相。

…しかも、コユキがカイザー地下に潜り込んでからわずか数分のことである。

 

「"コユキに任せて正解だったな。"」

「すごい…これを、全部コユキが?」

 

驚くユウカの隣で、トレバーは満足げな顔で言う。

 

「"キヴォトスに来る前も、俺は犯罪が蔓延る都市にいた。"」

「…え?」

「"何人も犯罪者を見てきたがな、そいつらは大きく分けて3種類だった。

犯罪を楽しむ奴、犯罪以外に選択肢がない奴、それと……"」

「それと、何ですか?」

「"何が犯罪か分かってない奴だ、だがそういう奴は天才が多かった。"」

「………はい?」

 

首を傾げ頭上に疑問符を浮かべるユウカ、高速で流れていくファイルを見ながらトレバーはこう切り出した。

 

「"…ある所に、鍵が存在しない国があったとしよう。"」

「え?何の話ですか?」

「"ちょっとした例え話だ、その国には『誰かが髪の毛を挟んだドアは、他人が開けてはならない』って法律がある。"」

「…なんですかソレ、気づかずに開けちゃいそうじゃないですか。」

 

そこでトレバーはモニタから目を離し、ユウカを真っ直ぐに見据えた。

 

「"それだ。お前のその意見がコユキの日常、挟まってるかどうかも分からん髪の毛が電子ロックだ。"」

「…な、なるほど?」

「"俺の仲間にも天才的なハッカー(レスター・クレスト)が居たが、アイツも法律なんかより自分の信条を優先するアウトローだった。

正しさってのはいつも、多数派の感覚が基準になっちまう。そこから外れた奴にはフォローが必要なんだよ…勉強できるのが正義だってんなら、勉強できねえ奴をゴミ扱いするんじゃなく馬鹿でもできる仕事をやらせりゃいい。"」

 

少し間をおいて、トレバーは続ける。

 

「"だがソレは天才も例外じゃねえ、下の外れ値も居れば上の外れ値も居るんだ。"」

「なるほど…コユキもそうなんですね。」

 

驚いたような、納得したような、何とも言えない表情を浮かべるユウカ。

噂をすればコユキから通信が入る。

 

≪先s、『トリシャ』~!なんか面白そうなもの見つけました!≫

「"何だ?その切り出し方で面白くなかったら反省室で激辛料理パーティー開くからな。"」

≪うぁあああなんで…じゃなくて!ちゃんと役に立ちそうなものですって!≫

「"いったい何を見つけたってんだ?もったいぶらずに言えよ『イースター』。"」

≪サーバールームですよ!社内警備システムの管理サーバーもあります!≫

「うわ…ご愁傷様ね。」

 

コユキの報告を聞いたユウカはカイザーの末路を察して苦笑いする一方、トレバーは冷静に指示を下す。

 

まずは警備システムにアクセスしろ、(まずは警備システムにアクセスしましょう!)イントラネットを(そしたら独立イントラネットを)外部ネットワークに繋ぐんだ。(外部ネットワークに繋いでください。)

≪えーと…とりあえずオンライン用のサーバーに適当なポート繋げちゃいますか?≫

「"えーと…あぁ、それで良い。(それで大丈夫です!)繋がったら俺の端末でサポートに入る。(スーパーアロナちゃんの出番です!)"」

「…?」

 

急に的確にシステムを把握し始めたトレバーに違和感を覚えたユウカだったが、目の前のモニターがカイザー内部の監視カメラ映像に切り替わったのを見てすぐに頭を切り替える。

いま彼女の仕事は単身敵地へ乗り込んでいるコユキのサポートである。

 

「"接続完了、監視カメラは掌握したし見取り図も手に入った。財務管理サーバーまで案内する。"」

≪にははは!やっちゃいましょう!≫

「"よし、それじゃ―――

 


 

アロナとトレバーによるシステム掌握から数分後、突入の合図を今か今かと待ちわびるC&Cに通信が入る。

 

≪"30秒後に奴らの無線がダウンする、そこに合わせて車を出せ。"≫

「承知しました。」

「待ってたぜ…この時をよぉ!」

 

ドライバーのアカネは優雅に応え、隣でネルが愛銃『ツイン・ドラゴン』を握りしめた。

―――そうして話は冒頭に戻る。

 


 

C&CとT.P.Mercenarysによる強行捜査部隊が突入した後のカイザーを一言で表すならば…『阿鼻叫喚』だった。

たかが新興企業、それもスケバンやヘルメット団といった不良上がりの生徒の寄せ集め。

そう侮っていたカイザーは交戦して一分と経たずに己の勘違いに気付かされた。

 

「クソ、思ったより手強いぞ!」

「狼狽えるな、いくら訓練を積んでいるとはいえ相手はガキだぞ!」

 

顔を出せばそこに弾が飛んでくる正確な射撃、物体が銃弾を止めうるか脆弱かを見抜いた的確なカバーリング、行動のタイミング共有と相互援護を徹底した堅実なチームワーク。

カイザーが相対したのは烏合の衆などではない。

荒削りでこそあるが基本に忠実な、統率の取れた1つの部隊だった。

 

「フン、多少は訓練を積んだようだが…やはり青二才だな!!」

「……アイツら好き勝手言ってくれるね」

「でも予定通りだろ、このまま足止めしよう。」

 

それだけならば良い、カイザーPMCは潤沢な資金と積み上げたノウハウを注ぎ込んで時間をかけて錬成されている。

足止めを喰らいこそすれど、押し負けることは無い。

だが足止めを喰っている所を圧倒的な戦力で叩き潰されるとなれば話は変わってくる。

 

「アルファチームよりコントロール。多少は訓練を積んだようですが所詮はガキでした、正面エントランスは問題なく制圧可能です。」

「甘ぇんだよバカが」

「…っ!?」

 

突如背後から聞こえた声に振り向いた兵士の眼前に、金色の龍が映る。

 

「み、ミレニアムの00(ダブルオー)……!?」

 

刹那、龍が火を吹く。

先刻まで仲間だった鉄屑が倒れ込む様を見て彼らは悟った―――T.P.Mercenarysを抑えながら、約束されし勝利の象徴と呼ばれ畏れられる彼女を相手取るなどいくらカイザーといえど不可能だと。

 

「お前ら……戦う相手を間違えたなァ!」

「「「ひぃぃぃぃぃイイイイ!!!???」」」

 

居合わせたT.P.Mercenarysによれば、その悲鳴と銃声はブラックマーケットの隅々まで響きそうなほどだったという。

 


 

…電波障害の発生から数分、カイザー本社ビル高層階。

一握りの役員と警備スタッフのみが立ち入りを許されたエリアに、遠くから銃声が響いた。

 

「何事だ?」

 

内部にいた2人の影が立ち上がる。

1人はグレーに染められた無彩色の制服に身を包んだオートマタ、対する1人はアカを基調とした派手なスーツを着込んだオートマタ。

彼らの居室に警備スタッフが駆け込んでくる。

 

「き、緊急事態です!」

「ノックぐらいしたまえ、騒々しい。」

「…で、一体何事だ?」

 

警備スタッフは息を切らしながら告げる。

 

「れ、連邦捜査部が強行突入してきました!相手方の指揮下にはミレニアムのC&Cも含まれている模様です、プレジデントは直ちに避難を!」

 

『プレジデント』と呼ばれたスーツのオートマタは、部下を引き連れて部屋を去る。目指すは屋上のヘリポートだ。

 

「…無駄なことを、本社を叩けばカイザーが死ぬとでも思ったか。」

「全くです、我々の手足は四方へ張り巡らせておりますからね。」

「立て直しには君も役立って貰うぞ、ジェネラル。」

「は、言われるまでもありません。」

 

不穏な言葉を残して、2人は悠然と現場を去るのだった。




お久しぶりです、長い事更新できず申し訳ない…
が、実生活が忙しくなってきた関係で、今後も投稿スピードはあまり上がらない可能性が高いです。
失踪する気は毛頭無いので、変わらず気長にお待ち頂けると嬉しいです。
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