イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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 一話の前半は主人公の設定で、以降は殆ど出てきません。
 半分ほど読み飛ばしても問題はありません。

 完結まで毎日投稿予定。


第1部 ファントムブラッド
妾は子狐である


 妾は子狐である。名前はまだない。

 正確にはあるが、今世はそれを名乗れる状況ではなかった。

 

 理由について説明すると、まず自分の前世は日本の平凡な女子だった。

 ただし高校卒業と同時に全地球防衛機構軍(EDF)への就職を決意したので、そこが少し変わっている。

 

 けれど当時は平和な時代で、各国が手を取り合っていたので戦争なんて起きるはずもないため、新卒でも入隊さえできれば安全確実に高給取りになれるのだ。

 

 実家は潰れかけの小さな神社で継いで巫女になるよりも、余程夢のある職業と言える。

 

 希望する部署はオペレーターや後方支援のサポート系だったのだが、見学前の検査を受けたらウイングダイバーの素質があることが判明した。

 

 なので半ば強制的に専用装備を着せられて、その姿で見学することになってしまう。

 

 まあ人類にも適性を持った人が滅多に居ないし、空を飛べるし大変名誉なことなのは間違いない。

 花形職業で高給取りではあるが、自分は楽してそこそこの生活ができれば十分だ。

 

 きっと訓練は辛いし出来たばかりの兵科ゆえに、装備は殆どが試作機だろうから正直あまり嬉しくない。

 

 

 

 おまけに何の因果か、見学初日に宇宙人が襲来した。

 それこそが不幸の始まりであり、生き延びるために否応なしに戦うことになる。

 

 自分と同日に見学ツアーに参加していた三人の民間人は、レンジャー、エアレイダー、フェンサーとバランス良く揃っていたのは、唯一の幸運だ。

 

 おかげで協力して何度も死にかけながら、侵略者の猛攻を退け続けた。

 さらに絶望の未来を変えようと、時間移動を繰り返すことにもなる。

 

 その結果、本当に色々あったが人類はプライマーに勝利し、地球を守り抜いたのだった。

 

 

 

 しかし自分は最後の大爆発に巻き込まれてしまい、何処かに飛ばされたようだ。

 エネルギーを使い果たしてろくに動けなかったから仕方ないし、普通では考えられないけれど、それ系の現象なら何度も体験してきた。

 そういうこともあるよねと、普通に受け入れるぐらいは心身共に鍛えられている。

 

 

 

 なので今重要なのは、何が何でも生き延びることだ。

 この辺りも前世と全く変わっていないため、とてもわかり易くて良いことである。

 

 まあ、どういう理由か人間ではなく子狐の体だし、コンコンとしか喋れないが些細な問題だろう。

 そう思わないとやってられないし、嘆いても状況は好転しないので無視だ。

 

 ついでに周りに親兄弟はおらず、森に一人ぼっちなのでマジ辛い。

 気心の知れた三人の戦友と、ろくに挨拶もできずに別れたのも引きずっている。

 

 だが死にたくはないし、生きなければいけない。

 当然ながらウイングダイバーの装備もない生身の子狐で、どうしたものかと途方に暮れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 自分が転生してから、それなりの年月が流れた。

 体は頑丈で幼い身でありながら、怪我や病気の類は一切ない。

 しかし見た目が弱そうなので、何度も他の動物に獲物として狙われる。

 

 けれどそれでも、どういう理屈か傷一つ負うことはない。

 力も見た目以上にあるし、もしかしたら装備がなくても前世並に頑丈かも知れなかった。

 

 思えばアリの酸を受けたら悲鳴をあげるし、蜘蛛に巻かれて死にかけたことも多々あったが、巨大怪獣に踏み潰されても痛いで済む。

 痩せ我慢しているので平然ではないが、起き上がれるのだ。

 

 

 

 なお、見た目は子狐だが今の状況を受け入れるつもりはない。

 人間だった頃のことを捨てずに、一日一回の水浴びは欠かさなかった。

 水面に自分の姿が映ると、多少汚れてはいるが桜色の毛並みと紫の目をしているのがわかる。

 どう見ても普通の子狐ではなさそうだ。

 

(そう言えば、前世の妾も装備も桜色じゃったなぁ)

 

 言葉遣いまで変わっているが、性格に変化はないので良しとしておく。

 それに今の自分は、子狐の姿をした何かだ。

 

 さらにこの世界には、プライマーも全地球防衛機構軍(EDF)も存在しない。

 少なくともこっそり人間の街を探索しても、影も形もなかった。

 

 なので恐らく時間移動ではなく、別の次元に来てしまったと考えられる。

 

(じゃが、別次元じゃとわかってものう)

 

 元の世界に戻る手段はないし、今後も見つかることはないだろう。

 あとは人間じゃなくて子狐なのは、恐らく前世と違って自分の体がないからだ。

 なので精神やら魂的な何かが、生き残るために不思議生物を形成した。

 

(それが何で子狐になったのかは知らぬが、他者の体を奪うよりは良いか)

 

 あとは転生して良かったのは、プライマーに襲撃されることはないことだ。

 全地球防衛機構軍(EDF)は宇宙人に対抗するための組織なので、存在を掴めていないということは、銀の人からの時間的な干渉はない。

 

(まあもう妾はストームワンではないし、いらぬ気苦労じゃな)

 

 元々のんびりしていて、深く考えて行動する性格ではない。

 前世もストームリーダーに引っ張られて、なし崩し的に戦い続けていたのだ。

 なので子狐として気楽に暮らすことにし、気持ちを切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 子狐として森で生活するには、獲物を狩って食べなければいけない。

 しかし正直に言うと、そういった野生の世界で行きていくには抵抗があった。

 

 いくら宇宙人をぶっ殺しまくってきたとはいえ、別に生物を殺すのが好きなわけではない。

 必要ならやるが、なるべくなら殺したくないのが本音だ。

 

 

 ゆえに色々考えた結果、人間の街に行って残飯を漁って、その日暮らしで生きていくほうがマシという結論になる。

 

 まあ腐りかけや不味い飯を、好き好んで食べたいわけではない。

 しかし動物を殺したり盗みを働くより気が楽だし、体は頑丈なので怪我や病気にはめっぽう強い。

 

 他には人前で芸をすれば餌を恵んでくれるし、割と生きていくのは楽だったり楽じゃなかったりする。

 

 

 

 なお、三度の飯よりも日向ぼっこと水浴びが好きだ。

 そんな生活を続けていると、桜色をした変わった子狐として地域住民に愛されるようになる。

 プライドで飯は食えないので、今日も芸をして媚を売っていくスタイルであった。

 

 

 

 やがて、ある貴族の少年に拾われることになる。

 妾は動物園やサーカスで、見世物になる気はない。

 あとは新種の狐として、実験動物的な扱いもマジ勘弁だ。

 

 なので今の時代に悠々自適に暮らすなら貴族が良いと考えて、ずっと観察していたのである。

 

 1800年代の末期は非常に混沌としており、ペットを飼っても経済的な理由で途中で捨てられることもある。

 そのたびに心に傷を負ったり、殺処分の危機を回避するのは面倒だ。

 

 せめて天寿を全うするまで面倒を見てくれそうな人が良かったので、偶然通りかかったジョナサン少年に媚を売って拾ってもらうのだった。

 

 

 

 

 

 

 そのような事情もあり、ジョースター家でお世話になることなる。

 食生活も改善し、相変わらず成長はしないがご飯は美味しいでのんびり日向ぼっこできるので、理想の生活環境を言えた。

 

 貴族の跡取り息子であるジョナサンが飼い主で、ペットショップに向かう途中で出会えたのは本当に幸運だった。

 

 だが経済的な意味以外の理由でも捨てられることがあるため、今日も少年の遊び相手として媚を売っていく。

 

「コンコン!」

「ようし! いい子だ!」

 

 プライドで飯が食えるわけもない。

 今の快適な生活を守るために、忠実なペット的な立ち位置を維持する。

 

 今はジョナサン・ジョースターの前で、言われた通りに大人しくちょこんと座っていた。

 子狐として不自然ではない範囲で、賢さアピールである。

 

「父さん! 行ってきます!」

「気をつけるんだぞ! ジョジョ!」

 

 ジョースターの家族仲は良好で、まさに順風満帆な人生と言える。

 転生してから色々あったが、ここで飼われている間は平穏無事に過ごせそうで良かった。

 

 どうせこんな子狐の姿じゃ何もできないし、元の世界に帰るのはとっくに諦めている。

 

「行くよ! イナリ!」

「コン! コン!」

 

 最初は子狐に、ダニィと名付けるつもりだったらしい。

 流石に女の子にそれは酷くないかと、人間の言葉は喋れないが身振り手振りで何とか訴えてイナリで落ち着く。

 

 ジョナサンの父親が、日本の神様を何となくでも知っていたのは幸いだった。

 

(前世では伊奈。親しい者にはイナちゃんと呼ばれておったし、近い名で良かったわい)

 

 そして何年も呼ばれ続ければ、慣れるものだ。

 今では自身の名がイナリだと理解し、すぐに反応できるようになった。

 

 けれど少年のあとをトテトテと走るが、やはり歩幅が違いすぎる。

 いくら無駄に頑丈でいつも健康体とはいえ、子狐っぽい足取りで追いかけるのはなかなかにしんどい。

 

(まさか目にも留まらぬ速さで、ぶっちぎるわけにもいかぬしのう)

 

 狐毛は桜色で瞳は紫で賢くて人の言葉を理解できて芸ができても、誰が何と言おうと子狐ったら子狐なのだ。

 それでもジョジョが見えなくって周囲に誰も居ないため、ちょっとだけ速度を上げて飼い主を追いかけるのだった。

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