イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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サンタナ

 一斉射撃が止まり、妾とジョセフは地下施設で柱の男と対峙する。

 我ながら、とんだ修羅場に巻き込まれたものだ。

 

 まあ前世からずっとこんなのばかりなので、今さらでもある。

 とにかく今問題なのは、このサンタナという大男をどうやって倒すかだ。

 都合良く無力化する手段も思い浮かばないし、本気で殺す気でかからないと厳しそうに思える。

 

 妾がそんなことを考えていると、シュトロハイム少佐は大声で叫ぶ。

 

「ジョジョ! 貴様がジョジョか!

 いいか! ジョジョ! よく聞け!」

 

 しかしジョセフは話半分に聞いているのか涼しい顔で、自分と同じように打開策を考えているのかも知れない。

 けれどシュトロハイムは焦りながら、続きを説明していく。

 

「その柱の男、サンタナは!

 我々人間を石仮面で吸血鬼にし! パワーを上げてから食料にするらしい!

 危険すぎる! サンタナを殺さねばならない!」

 

 それはそれとしてジョセフは脳筋の妾とは違い、悪知恵が働く。

 ひょっとしたら戦わずに解決する手段を思いついた可能性もあり、柱の男の前に歩いて行ったときにはそう思った。

 

 だがまさか普通に会話を試みるとは思わずに、反射的にズッコケそうになってしまう。

 

 成功すれば素晴らしいが、残念ながら興味は示さずジョセフをスルーする。

 そして落ちている銃を拾って、一瞬のうちにバラバラに解体した。

 

「観察していたのは! 儂らのほうではない! 奴のほうだった!」

 

 スピードワゴンが大声で叫び、次にサンタナはじっと妾を観察する。

 

「どういう、ことだ。銃弾を弾き、力が強い。この動物だけ、特別、なのか?

 それとも、この時代の動物、全員、そう、か?」

 

 妾に興味を持っているのは間違いない。

 不思議とサンタナからは、殺意や邪気などは全く感じなかった。

 

(試してみる価値はあるか)

 

 取りあえず戦う気はないようなので、先程ジョセフがやったことを真似することに決めた。

 しかし無視されたことにイラッとし、足払いを仕掛けることことではない。

 波紋で弾かれて吸収されなかったのは凄いが、それでは解決にはならなかいのだ。

 

 とにかく妾は、目の前の相手に集中して大声で叫ぶ。

 

「コンコン!」

「シショー! こんなときに何やってんのさ!」

 

 ジョセフの真似だよとは言っても、伝わらないので無視する。

 だが柱の男ならもしやと考え、何とか狐語でコミュニケーションを取ろうとした。

 

 サンタナは、その場から動くことない。

 彼にとっては興味深い行動を取る子狐を、黙って見下ろしていた。

 

 他の者たちも奇妙な光景を離れて遠巻きに眺めるだけで、一切手を出さないのは幸いだ。

 

 少しだけ時間が経って、妾はちょっとだけ一休みして息を吐く。

 

『そろそろ良いかのう?』

「ああ、お前の言語は、理解、した」

 

 妾は相変わらずコンコンとしか喋れない。

 しかしどうやら、サンタナは狐語をマスターしたらしい。

 まあそもそも、そんな言語があるかは不明だし、どうやって理解しているかも全くわからない。

 

 けれど会話ができるのはありがたく、彼はコンコンと喋るのではなく人の言葉で語りかけてきたので、わかりやすかった。

 

 

 

 だがしかし、ここでサンタナは手を伸ばして妾を取り込みにかかる。

 きっと彼にとっては、他者を完全に理解する手段が捕食なのだろう。

 

 なお妾にとっては当たり前だが断じて否であり、妾は若干キレ気味にサンタナの手を払い、素早く跳躍して奴の腹を蹴って波紋を流し込んでやる。

 

『止めんか!』

「ぐっ!?」

 

 波紋は大した量ではないが、同化されずに蹴りの衝撃がそのまま伝わる。

 サンタナは回避も防御も間に合わずに、地下施設の壁に勢い良く叩きつけられて轟音と共に大きくひしゃげた。

 

 しかし、大したダメージは受けていない。

 そのまま妾は、落下して床に倒れ伏した彼の元に歩み寄り、おもむろに語りかける。

 

『生き物を無闇に殺すでない。他者の命を奪うのは、妾は好かぬ』

「何故、だ? 人間は、下等生物だ。俺や、お前とは、違う」

 

 そういう問題でもないのだが、どう説明したものかと考える。

 

「お前も、生き物を食べる、はずだ。問題、あるか?」

 

 全くもって正論であり、どう説明したものかと考えても良い案が思い浮かばない。

 悩んだ末に前足で頭をかいて、大きな溜息を吐く。

 

『ともかく手出しは厳禁じゃ。

 当面のお前の面倒は、スピードワゴン。……そこの老人に見てもらう。

 もし破ったらお前の腹に風穴を開けて、直接波紋を流し込むからな』

 

 妾はそう言って全身の毛を逆立てて、両足から波紋を一気に放出した。

 地面を伝わり立ち上がったサンタナに届くが、彼は吸収した血を周囲に広げて受け流している。

 

 だが、無駄だ。

 小さな波は防げても大津波は軽々と押し流すので、サンタナの体が少しずつ焼け焦げていく。

 しかも回復が間に合わなくないのか、ジリジリと足元から溶けていっている。

 

『言っておくが、まだ本気ではないぞ』

 

 その気になれば、サンタナを倒すこともできる。

 彼も眠りから覚めたばかりだが、別に寝ぼけているわけではない。実力差は良くわかっただろう。

 

『じゃがお前も、ドイツ軍人に無理やり拉致されてここにおるしのう。

 起きて早々実験動物として扱われたし、今謝れば許してやるぞ』

 

 もしサンタナがドイツ軍人を全滅させていたら、加減しろ馬鹿と叫びたくなって手加減無用でぶっ殺していた。

 しかし不幸中の幸いで、彼が直接殺したのは吸血鬼化した男だけだ。

 

 なので話し合いで解決するなら、それに越したことはないと判断した。

 このままではまともに喋れないため、地面に波紋を流すのを止めてもう一度尋ねる。

 

『これで己の立場がわかったな?』

「……負けを、認める。

 お前に、従おう」

 

 少し間があったが、負けを認めたようだ。

 しかし降参してくれたのはありがたいが、サンタナの面倒を見るのも面倒そうである。

 

 どうしたものかと考えて、スピードワゴンに視線を向ける。

 サンタナもそれだけで察したのか、ゆっくりと彼に向かって歩いて行く。

 

「今後は、お前の指示に、従う。どうすれば、いい?」

「「「なっ、何だってえええええーーーッ!!?」」」

 

 この発言にはスピードワゴンだけでなく、いつも呑気しているジョセフ。

 それに蚊帳の外だったが話だけは聞いてたドイツ軍人たちも、皆が驚愕の表情を浮かべて大声で叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 何やかんやあって、サンタナはスピードワゴン財団で保護された。

 実験動物よりはマシな高待遇で、色んな研究に協力してもらうことになる。

 彼は好奇心の塊で生活の面倒を見たり、できる限り要望に応えるギブアンドテイクの関係というやつだ。

 

 もし暴走するようなら、すぐに妾を呼ぶように伝えておく。

 サンタナは人類を見下しているが悪気はないため、扱いとしては小動物的な感じだ。

 なので良好な関係性を築くことは決して不可能ではなく、双方が持ちつ持たれつである限りは問題なく付き合っていける。

 

 

 

 そして、残る三人の柱の男についての情報も得られた。

 さらにサンタナだけ離れた場所に居るのは、戦力外通告を受けて置いていかれたかららしい。

 

 それでも任務自体は行っていて、何でも闇の種族の悲願のようだ。

 石仮面はその仮定で作られた失敗作に過ぎず、目的は光を増幅する性質を持つ鉱石、エイジャの赤石を手に入れることである。

 

 それを石仮面に組み込めば、闇の一族は究極生命体になることができるのだ。

 

 しかし、サンタナは一族の悲願には興味はない。

 己の知的好奇心を満たすのを優先しているため、三人と別行動なのも納得だ。

 

 おかげでとにかく根気強く説得すれば、人類と共存共栄、もしくは互いに不干渉を結べるかも知れないのだった。

 

 

 

 それはそれとしてシュトロハイムの目的である。

 どうやら二千年周期で目覚める柱の男について調べていて、近いうちにヨーロッパのとある場所で封印が解けるらしい。

 

 ゆえに、サンタナについて詳しく調べる必要があったのだ。

 

 だがジョセフの波紋では、弱すぎて話にならないと呆れられる。

 シュトロハイムのような仙道を極めてない生身の人間では、柱の男には勝てないと本能的に理解させられた。

 

 妾がサンタナを圧倒する光景を目の前で見たことで、どうにも変なスイッチが入ってしまったのかも知れない。

 

 

 

 何にせよ、次の目的が決まった。ローマだ。

 

 サンタナが言うには、次は話し合いで解決できないらしい。

 彼らの目的が究極生命体なので、人類とは相互理解できずに戦いになる。

 なので淡い希望は捨てて、最初から本気で殺しにかかったほうが良いとアドバイスを受けた。

 

 それでも会ったこともない相手に話し合いで解決する道を閉ざすわけにはいかず、もしそうなったらぶっ殺す的な返事をしておく。

 

 

 

 取りあえずローマからは、スピードワゴン財団が良く知っている人物が案内してくれるらしい。

 妾も心当たりがあるけど会うのは久しぶりで、少しだけ楽しみなのだった。

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