イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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シーザー・ツェペリ

 ローマに到着した妾たちだが、待ち合わせ場所のレストランには子狐は入れない。

 相変わらず外で待つことが多いけれど、非常時でもないので問題はなかった。

 

 そして、店内で何やら揉めている声が聞こえてくる。

 ツェペリ男爵の孫のシーザーは、ジョセフと歳は近いが性格はまるで違う。

 レストランでは喧嘩が起きたが、双方に怪我がなくて何よりだ。

 

 

 

 とにかく噴水広場に移動した二人は、スピードワゴンを間に挟んで座っているが距離がかなり遠い。

 そんな双方の様子に財団の代表は呆れた表情になり、大きな声を出した。

 

「こら! お前たち! 紹介は済んだのに!

 お互い、挨拶ぐらいせんか!」

 

 スピードワゴンが立ち上がって叫んだが、ジョセフどこ吹く風だ。

 けれどシーザーは、大人しく座っている妾に顔を向けて深々と頭を下げる。

 

「お久しぶりです。イナリさん。お元気そうで何よりです」

 

 自分はそこまで親しいわけではない。

 せいぜいツェペリ男爵の紹介で、幼い頃に少しだけ会ったことがあるぐらいだ。

 そこでもっとも信頼する波紋戦士だと紹介されたから、以降は目上の人的な扱いが定着したのだろう。

 

 しかしジョセフは面白くないようで、シーザーを見ながら大声を出す。

 

「おいコラ! シーザー!

 俺とシショーで! 態度が違うじゃねえか!」

 

 ジョセフとの仲は悪いのに、妾に対しては丁寧な物腰なのがカチンときたようだ。

 

 だが実は、スピードワゴン財団の依頼で世界中飛び回っている妾は、奇妙な冒険をすることが多々ある。

 

 そこで思わぬ形で再会したことを思い出したが、機密性が高かったしこっそり侵入していたので、もし人の言葉を喋れてもこの場で口にすることではない。

 

 

 

 そんな自分の考えはともかく、シーザーがジョセフを嫌う理由を説明してくれるようだ。

 

「スピードワゴンさん、ジョジョ。この際だから、はっきり言おう!」

 

 続いてシーザーは立ち上がる。

 彼は面倒なのか、やれやれという顔で肩をすくめていた。

 

「50年前、イナリさんは俺の祖父を救ってくれた!

 そして祖父の意志を父が受け継ぎ、今も父は石仮面の謎を追っている!

 俺たちイタリア人は、一族を思う気持ちがどの民族よりも強い!」

 

 やけに力の入った説明である。

 それだけ家族の絆が強いので、自分もということだろう。

 

「それを誇りにしているから、受け継ぐのだ!

 俺も同様だ!

 だが! その男はどうだ!」

 

 シーザーは露骨に敵意を込めた視線をジョセフに向ける。

 

「三ヶ月前まで! 自分の祖父のことを、何一つ知らなかったというではないか!

 いい加減な奴だ! 気に食わん!」

 

 これにはジョセフもカチンときたようで、思わず立ち上がった。

 しかしシーザーは、さらに追撃を加えてくる。

 

「イナリさんの波紋修行も、真面目に受けていなかったと聞く!

 彼女は誰よりも優れた師匠だ!

 だがこんな弟子を指導せねばならんとは、イナリさんもさぞ迷惑だろう!」

 

 妾は三度の飯より日向ぼっこが好きだ。

 ジョセフがやりたくないなら強制はしないし、波紋は護身術程度に身につければ良かったのだ。

 

 だた石仮面の因縁が、予想以上にしつこい。

 遠ざけようとしても厄介事に巻き込まれて、今もかなり不味い状況である。

 こんなことなら、もう少し真面目に修行をつけておくんだったと、ほんの少しだけ後悔していたので、シーザーの言うことも全てが間違っているわけではなかった。

 

 

 

 それに対してジョセフは、売り言葉に買い言葉で大声で反論する。

 

「何だぁ? テメー! 言葉に気をつけろよ!

 シショーは関係ねえだろうが! シショーはよお!」

 

 どうやらジョセフは、完全にキレているようだ。

 完全に喧嘩腰だが、流石に見るに見かねてスピードワゴンが止めに入る。

 

「待ちたまえ!

 ジョジョには! 私が全てを秘密にしていたからなのだ!」

 

 スピードワゴンだけでなく、エリナやジョセフの両親も、彼を守るためにあえて秘密にしていた。

 そうすれば石仮面の因縁に巻き込まれたり自ら飛び込むこともない。

 

 吸血鬼やゾンビとは関係のない、日の当たる場所で平和に生きられるのだ。

 しかし残念ながらそうはならずに、今は柱の男を追ってローマまで来ている。

 

 

 

 だがシーザーも激情にかられて言い過ぎたと思ったのか、怒りの表情ではなく真面目に戻って静かに息を吐く。

 

「……それはいいとしよう。

 俺はそいつが、ストレイツォや柱の男と戦ったと言うから、どんな凄い男が来たのかとホテルのレストランで待った。

 だが彼の波紋を試してみて、ガッカリしたよ」

 

 シーザーはやれやれと肩をすくめた。

 次にジョセフを真っ直ぐに見つめて、はっきりと宣言する。

 

「その兄ちゃんの波紋は弱くはないが、俺と同程度だ!

 柱の男には、きっとイナリさんのおかげで勝てたのだろうさ!」

 

 確かに柱の男は、妾がボコボコにしてわからせた。

 しかしジョセフが波紋を流した足払いをかけたり、友好的に接しなければ、サンタナが仲間になることもなかっただろう。

 

 なので、流石に言い過ぎだと思った妾は二人の間に入って、大声で叫ぶ。

 

「コンコン!」

 

 しかし、所詮は子狐である。

 人間には理解不能な言語であり、無駄に可愛さを振りまいただけであった。

 

 だが二人だけでなく周囲の注目も集め、キレかけていたジョセフは冷静になる。

 それに尊敬されている妾に間に入ったことで、シーザーもバツの悪そうな顔になった。

 

 けれど、これから共闘することになるから、双方の実力を一度確かめておきたいのは賛成だ。

 ゆえに、この場で勝負してもらうことになったのだった。

 

 

 

 二人共、性格に違いはあっても負けず嫌いは良く似ている。

 

 だがシャボン玉で華麗に戦うシーザーと、知略を巡らせて相手を翻弄するジョセフ。

 異なるタイプだからこそ、協力できれば足し算ではなく掛け算にもなりうる。

 勝負の結果は引き分けだったが、妾はそう確信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、妾たちはホテルに移動する。

 目的はドイツ軍が警備している柱の男の元に、無事に送り届けてもらうためだ。

 

 イタリアは同盟国で、シーザーの波紋を科学的に研究したがっている。

 国家的には、ギブアンドテイクということらしい。

 

 その途中、車での移動中に運転手の若い兵士が、祖国で待っている恋人とドイツに帰ったら結婚するのだと、恥ずかしそうに告白していた。

 

 車内は良いムードでシーザーも明るく笑っているが、妾はチベットスナギツネの顔になる。

 内心で死亡フラグ立てるの止めろやと、ツッコミを入れた。

 

 目的地で厄介事が起きるのが、確定してしまったかのようだ。

 絶対すんなり終わらないだろうと、着く前から気が重くなってくる。

 さらにジョセフの恋人関係にも口出ししてきて、シーザーとは仲が良いのか悪いのか良くわからないのだった。

 

 

 

 それはそれとして、遺跡の真実の口が地下への入り口らしい。

 案内役の若い兵士も含めた四人と一匹で、暗闇の階段をゆっくり下りていく。

 

(やはり、妾はここに来たことがあるのう)

 

 過去に石仮面の謎を追っている途中、この場所に行き着いた。

 おかげでシーザーの父親を、危ういところで助け出せたのだ。

 潜入中だったので言葉を交わすことなく急いで逃走したが、その後は警備の仕事からは離れたけれど、今も元気でやっているらしい。

 

 

 

 それはそれとして、階段を下りている最中に人の気配が全然しない。

 

(妙に静かじゃのう。ドイツ軍人が大勢、見張っておるはずなのに)

 

 何かあったのは間違いなく、やがて最下層に到着した。

 しかし懐中電灯で照らしても、地面に大勢のドイツ兵の衣服が散乱している以外は変わった所はなかった。

 

「おい! 軍隊が警備しているんだろう?

 何処にいるんだ! 何処にもいねえじゃんよう! 静かすぎるぜ!」

「お前がうるせえんだ」

 

 そんな状況でジョセフとシーザーは、いつも通りのやり取りしている。

 だが妾は警戒を緩めずに、周囲の様子を注意深く観察する。

 

「おかしい! ここに居るはずの、わが軍の見張り番がいない!」

 

 案内役の若い兵士が、異変に気づいて疑問を口にした。

 このことでようやく、他の皆も理解したようだ。

 

 ジョセフが警戒しつつ周りを調べようとすると、うっかり足元に散らばっている軍服を踏んで、妙な音が聞こえてくる。

 

「おいっ! 今、俺何か踏んづけたぞ!?

 すっげえ気持ち悪いのー! 何だこれはー!?」

 

 だが衣服にしては変だ。

 懐中電灯で照らすと、明らかにおかしいことが良くわかる。

 

「こっ、これは!? 人間の皮だ!?」

 

 中身だけ吸いつくされたように、人の皮が服を着たまま床に散らばっていたのだ。

 暗闇では良く見えなかっけれど、光を当てれば物凄くグロテスクな光景が明らかになる。

 

 道理で気配はしなくて人の匂いはしたわけだと、妾は露骨に顔をしかめた。

 

「ぜっ、全滅しているぞ! まさかっ!? うわああああ!!!」

「おい! ドイツ野郎! そっちに行くんじゃあねえっ!」

 

 仲間の全滅を知らされ、発狂した若いドイツ兵が走り出した。

 ジョセフが慌てて止めたが今の彼には聞こえないようだ。

 

 なので妾が素早く前に回り込んで、彼の腹部に頭突きをする。

 

「のじゃあっ!」

「ごふうっ!?」

 

 元の場所に吹き飛ばしたが、余程痛かったようだ。

 彼はジョセフたちの足元まで弧を描いて飛んでいき、地面に落ちた。

 どうやら完全に気絶してようで、ピクピクとしていて起き上がる気配はない。

 

 ドイツ軍人には悪いが、こういう時は失神させるに限る。

 余計な行動をされずに済み、もし戦いになっても邪魔にならなくて良いのだ。

 

 前世では峰打ちとも言うが、あまり好んで使いたい手段ではないので、やれやれと大きく溜息を吐くのだった。

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