イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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ヴェネツィアへ

 ローマで柱の男たちを倒した妾たちは、ワムウの今後をスピードワゴン財団に一任する。

 もう暴れる気はないようだし、ある意味では潔いと言えた。

 

 

 

 とにかく次の目的地であるヴェネツィアに向かう。

 石仮面との因縁は殆ど片付いたが、生き残ったゾンビが何処に潜伏しているかわからない。

 

 それに妾と柱の男の戦いを見ていた二人は、己の実力不足を感じたようだ。

 師匠にとしての指導を求めてきたが、ジョセフが嫌いな言葉が一番が努力で二番が頑張れなのと同じように、自分も正直あまり好きではない。

 

 危機が迫れば重い腰を上げるが、そうでなければ労働の日々など真っ平ごめんだ。

 

 そこで次善の策として、シーザーの先生を指名する。

 彼女に直接会いに行き、長期の修行を頼んだらどうかと提案したのだ。

 

 ついでに妾も幽波紋(スタンド)を発現したばかりで、少々派手にやっても苦情が来ない場所で色々試したかった。

 

 

 

 とにかく、ヴェネツィアの彼女たちに会うのは久しぶりだ。

 正体を知ったらジョセフは驚くだろうが、かなりの期間が空いているので双方どんな顔をすれば良いのか、わからなくなっている可能性がある。

 

 妾はそんなことを考えながら、ヴェネチアの川沿いとトコトコ歩いていた。

 

「そう言えばシショーは、何で嵐の狐(ストーム・フォックス)を使わないわけ?

 そっちのほうが色々便利じゃねーの?」

 

 物見遊山で興味深く辺りを見回すジョセフの発言に、妾は少しだけ考える。

 そして幽波紋(スタンド)を出して、波紋使いしか聞こえない言葉で喋りかけた。

 

「狐耳と尻尾を生やした少女は目立ちすぎる」

「それもそっか。

 変装っつう手もあるが、バレたら大騒ぎだしな」

 

 それに外国じゃなくても、紅白巫女服はとても目を引く。

 おまけに誰もが羨む玉の肌と艷やかに輝く桜色髪と、町中を歩けば誰もが振り返る程の美しく可愛らしい顔立ちである。

 

 八歳の女子の体格なのも色々不味く、一人で街を散策するなど危険極まりない。

 

(せめてもう少し、幽波紋(スタンド)に慣れてからじゃな)

 

 将来的にはコスプレだと誤魔化して、町中を堂々と歩くつもりだ。

 けれど今は幽波紋(スタンド)に目覚めたばかりで、己の能力を完全に把握しきれていない。

 

 その辺りの練習が必要であり、この機会に色々試すつもりだ。

 でなければ、抵抗した際にうっかり人を殺しかねない。

 

 

 

 とにかく、やがてある小舟の前で止まる。

 そこでシーザーが、一休みしている船頭に声をかけた。

 

「そこのキミ、ゴンドラを頼む。エアサプレーラ島まで行きたい」

 

 漕手に懐かしい匂いを感じたので、彼女で間違いないだろう。

 だがシーザーが声をかけても、全く反応はない。

 

 なので彼は少し苛立ち、続いて声をかける。

 

「船頭! 聞いているのか!」

 

 そんな彼は置いておいて、妾は嵐の狐(ストーム・フォックス)と合体して狐っ娘になった。

 周りに人は居ないので、水面をのんびり歩きながら親し気に彼女に話しかける。

 

「久しぶりじゃのう。エリザベス。

 いや、今はリサリサ先生じゃったか?」

 

 仮面を被って素顔を隠しているが、近くまで来ると匂いで確信した。

 向こうもスピードワゴン財団から連絡が来ているようで、狐っ娘が妾だと知っている。

 

「こちらこそ久しぶり。イナリ。

 こうして会うのは、いつ以来かしら?」

 

 彼女はこちらを向いて、嬉しそうに返事をしてくれた。

 

「さてな。昔すぎて覚えておらぬのう」

「それもそうね」

 

 気づけば、かなりの月日が過ぎていた。

 ジョセフがまだ小さかった頃なので、手紙のやり取りは続けているが本当にいつ以来やらだ。

 

「驚いた! シショー! その船頭と顔見知りなわけ?」

「イナリさんは、リサリサ先生とお知り合いでしたか!」

 

 二人が驚いたように尋ねてくるので、妾は深々と頷く。

 

「うむ、妾の昔馴染みじゃよ」

 

 妾もエリザベスも若く見えるが、実際にはかなりの歳だ。

 昔馴染みと言っても良い間柄だけど、果たして妾から紹介しても良いものかと迷ってしまう。

 

「あとで彼を呼んで三人で話すわ」

「わかった。では、妾は何も言わぬよ」

 

 三人というのは、彼も一緒ということだ。

 石仮面の因縁も片付いた今なら、悪いようにはならないだろう。

 

 ただし指名手配は解けてないので、理由を説明できても公表はできない。

 何もかもが元通りとはいかないけれど、久しぶりに息子と行方不明だった両親が再会して、存分に語らうのだった。

 

 

 

 けれど、いきなり家族関係は改善されないし、間が空きすぎて何処かぎこちない。

 それでも嬉しいのはわかったけれど、妾を間に挟んで話を進めるのだ。

 そりゃまあ双方が知ってる共通の話題が子狐なので、取っかかりには良いかも知れないだろうが、相槌を打ち自分の身にもなって欲しい。

 

 

 

 それはそれとして、波紋の呼吸を強制するマスクをつけることはなかった。

 しかしヘルクライムピラーという厳しい修行が始まり、実の息子なのに情け容赦がない。

 

 両親揃って、息子を養豚場の豚に向けられるような冷たい視線に見ている。

 いくら彼らが過去に暗殺されそうになって、ジョセフが自衛できるようにしたいからとはいえ、そんなに過酷な修行をさせなくても良いと思うのだ。

 

 けれど妾も、四六時中守ってやれるわけでもない。

 今は嵐の狐(ストーム・フォックス)の能力や制御の訓練で忙しいし、せいぜいたまに様子を見に行くぐらいだ。

 

 結果、ジョセフとシーザーは油が流れ落ちる地獄のような高い柱を、励まし合いながら何とか登りきった。

 

 その後も針山で戦闘訓練したりと、両親からの愛のムチは苛烈を極める。

 

 おかげで修行を始める前と比べると、見違えるほど強くなる。

 しかしあまりのスパルタ教育により、良好な家族関係から少しだけ遠ざかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ヴェネツィアでの修業を終えたジョセフは、もう立派な波紋戦士だ。

 妾が護衛しなくても自分の身ぐらい守れるし、自分は幽波紋(スタンド)を手に入れた。

 

 本体の子狐ではなく、仮初の体でも狐っ娘として活動できるようになったのだ。

 耳と尻尾を隠せば八歳の少女にしか見えないため、いよいよ転生後の人生を本格的に歩みだしたと言える。

 まあ何故か美人度も上がっているので無駄に目立つが、そこはまあ仕方ないと諦めた。

 

 今後は、のんびり日向ぼっこをして過ごしたいなどと、そんな呑気なことを考えていた。

 

 しかし、どうやら一難去ってまた一難のようだ。

 また新しい問題が起きてしまう。

 

 何と詳しく調査すると、世界各地で超能力。

 正確には幽波紋(スタンド)に目覚めている人たちが、妾以外にもかなりの数が居ることが明らかになる。

 

 少し前に覚醒したことでスピードワゴン財団で注目され、研究が進んだ結果だ。

 おかげで、これまで気づけなかったことに気づけるようになった。

 

 なので、これまで迷宮入りするしかなかった不可能犯罪や不可解な事件や事故。

 そういった超常現象の解決の糸口が、ようやく見つかったのだ。

 

 

 

 けれど、その後のことはあまり思い出したくない。

 何故なら、スピードワゴン財団が上を下への大騒ぎになったからだ。

 

 幽波紋(スタンド)については極秘で、殆ど知る者はいない。

 しかしそれでも、不可能犯罪や事件を解決できることさえ知っていれば、世界各国や各組織は十分なのだ。

 

 現在の人員は一名しかおらず、唯一にして最高戦力である子狐に依頼が殺到するのは致し方ないことだった。

 

 本当に何処から噂を聞きつけたのか、各国政府から要請が入ることも多々あるのだ。

 

 サンタナとワムウはそもそも見えないし、まだ完全に信用するには至っていない。

 なので妾が重い腰を上げるしかなく、放っておいたら世界が滅茶苦茶になることはわかっているので、一刻も早い解決が望まれる。

 

 

 

 そんな感じであっちこっちを忙しく飛び回っているうちに、気づけばかなりの年月が経過していた。

 

 ボコった幽波紋(スタンド)使いをスピードワゴン財団のフリーエージェントにしたり、少しだが余裕が出きた頃には第二次世界大戦が終わっていた。

 

 何にせよ、途中から手伝ってくれたワムウとサンタナと感謝である。

 彼らも幽波紋(スタンド)には興味があるようで、大男二人と狐っ娘幼女のコンビは世界各国で大活躍だ。

 

 

 

 保護者役の自分と一緒なら、最終兵器の闇の一族もスピードワゴン財団がママエアロと許可を出してくれる。

 しかし二人揃って色んなことに興味を持つので、ヤンチャな子供を持った母親の気分だ。

 

 彼らはとうとう幽波紋(スタンド)が扱えないのに見えるようになったし、妾が言うのも何だが闇の一族はチート過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、財団にも少しだけ余裕ができた。

 妾はここで長期休暇の申請を出し、前世で思い出深い日本に向かう。

 

 しかし戦後間もないので、辺り一面焼け野原だ。

 けれどおかげで、ドサクサに紛れて住居も戸籍やその他諸々をスピードワゴン財団が手配してくれる。

 

 ここから自由気ままな隠居生活といきたいが、国内は非常に混沌としていた。

 言いたくはないが治安はマジで最悪で、誰も彼もが生活に困窮している。

 

 物やお金を持っている人から隙あらば奪おうとするし、戦争に負けた直後だから仕方ない。

 やはりそういうのは見逃せなかった。

 

 それにアメリカとは付き合いが長くて、国家として危機的状況を救ったことも一度や二度ではなく、返しきれない恩があるので色々と便宜を図ってもらう。

 

 日本政府から依頼を受けることもあり、現地に出向いて困っている人を助けたり悪人を成敗したり、裏で色々動くことも多かった。

 

 幽波紋(スタンド)能力で一晩で山を切り開いて街道を整備したり、大規模な治水工事を即終わらせて、大規模な事故や災害救助をしたこともある。

 

 幽波紋(スタンド)のことは秘密なのだが、アメコミヒーローのように活躍することが多々あったからか、いつの間にか最強の幽波紋(スタンド)使いと呼ばれるようになった。

 

 この通称が世界中に広まり、悪の幽波紋(スタンド)使いたちには恐れられる。

 そして事情を知る一部の各国政府の者たちには、平和の象徴的な存在だと認知されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 とにかく治安維持活動や戦後復興期もようやく終わり、スピードワゴン財団が手配してくれたマイホーム。杜王町の小さな神社に腰を落ち着ける。

 入国して、かなりの月日が経ってからだが、しばらくは大丈夫だろう。

 

 自分は幽波紋(スタンド)と合体すれば、いつでも巫女服狐っ娘に変身できる。

 日常生活を送るのはいつもこの姿で、神社というのは理に適っていた。

 

 これからは巫女として神社を管理しながら、ゲームに漫画に日向ぼっこにと、のんびり過ごすつもりだ。

 

 幸いお金だけはあるし、神社は小さくても無駄に広大な山は妾の土地である。

 

 サブカルチャーを収集して保存するための倉庫を建てるのも夢ではなく、参拝客には見えない場所に建設して、住居や休憩所代わりに便利に使っていた。

 

 一仕事終えたあとで布団で寝転がりながら漫画を読むのは、贅沢な時間の使い方だ。

 日本各地の放浪の旅が終わり、ようやく人心地ついた気分である。

 

 

 

 しかし、世の中そう上手くはいかなかった。

 全世界を飛び回って悪人を成敗し続けたせいで、妙な噂が広まったのだ。

 普通の参拝客だけでなく、観光客も大勢訪れるようになった。

 

 狐耳や尻尾はいちいち隠すのが面倒なので、コスプレで通している。

 まさか本物だとは思わないだろうけど、いつの間にか杜王町の有名な観光スポットとして登録されていた。

 

 さらには日本政府もこれに乗っかって、古くて歴史ある神社だと大々的にアピールしだしたのだ。

 確かに関係者の一部は裏の事情知ってるけれど、実際には建てられてからまだそんなに経っていない。

 

 だが本社はそうでもうちは分社だし、間違ってはいないが完全に正しくもないというグレーゾーンを上手く狙ってきた。

 

 

 

 結局反論はできなかったが、これではまるで江戸前のエルフ的な扱いだ。

 妾は神社に籠もっても一応自立しているのが、あっちよりはマシだろう。

 

 まあとにかく、妾は杜王町の小さな神社の管理責任者なのは変わらない。

 地元住民や観光客に受け入れられてるなら、別にいいかと考えを切り替える。

 

 元々大雑把な性格で、細かいことを気にしないのだ。

 ただちに影響はないならそれでヨシにして、現場の猫のようなガバガバな管理でママエアロと開き直る。

 

 

 

 しかし、参拝客が大勢訪れるのは本気で困った。

 誰も来なくて経営が赤字になよりはマシだが、一人では仕事が回らない。

 急遽バイトを募集して職員を増やしたが、現状は人手を増やしただけでは解決できなかった。

 

 元々小さな神社なので、明らかに敷地面積が足りていないのだ。

 連日すし詰め状態なため、仕方なくスピードワゴン財団に連絡して宮大工を探してもらう。

 

 一番頼りになる知り合いが財団なので致し方ないが、向こうもまさかこんな理由で相談されるとは思っていなかったようで、電話対応の人が驚いていた。

 

 とにかく依頼して増改築をしてもらい、少しでも参拝客を受け入れて従業員も仕事をしやすい環境を整える。

 

 

 

 なお、巫女の募集だが金だけはあるので福利厚生は整えて給料も高めだ。

 前世はブラック極まりない扱いが続いたので、部下は大切にしたい子狐なのだった。

 

 

 

 とにかく、すぐに応募があって妾が面接を行う。

 目的が狐っ娘にお仕えすることや、救われた方々なのでお金目当てが殆どいないのは驚きだ。

 何かもう凄く小っ恥ずかしくなり、どう反応していいのかわからない。

 

 けれど仕事はできるし、やる気もある。

 猫の手も借りたいほど忙しいので即採用した。

 

 それはそれとして、相変わらずスピードワゴン財団から依頼が回ってくる。

 上に居るのは各国政府だったり組織や要人だったりと多岐に渡るが、財団からの場合もあるなど色々だ。

 

 その辺の事情には興味はないし、とにかく外国に出張して神社を留守にするのも珍しくない。

 気づけば増改築が終わって、最初期よりも遥かに大きくなったり、参拝客だけでなく従業員の数も天井知らずで増えていったりと、目まぐるしく変わっていくのだった。

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