イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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第3部 スターダストクルセイダース
東京へ


 東方仗助(ひがしかたじょうすけ)の風邪が妙だと感じた妾は、久しぶりにジョセフ・ジョースターに連絡した。

 幽波紋(スタンド)が浮き上がっていたので、そういうことなのだろう。

 

 実際に石仮面の因縁は終わったと思っていたのに、未だに続いていたことが判明する。

 まだディオが生き残っていたのも驚きだが、よりにもよってジョナサンの体を依り代にして復活を果たしたらしい。

 

 ゆえに、ジョースターの一族はその影響を受ける。

 強制的に幽波紋(スタンド)に目覚めつつあるのだ。

 

 ちょっと信じられない話だが、仗助だけでなく他の子孫にも影響が出ている。

 動かぬ証拠を聞かされ、納得するしかない。

 

 しかし許せないのは、ディオがジョナサンの体を使っていることだ。

 親友であるエリナの気持ちを思うと、絶対に探し出して倒さなければいけない。

 

 

 

 

 それはそれとして、ジョセフ・ジョースターは日本で用事があるようだ。

 残念ながらディオの所在は掴めていないため、子狐の手を借りたいらしい。

 もちろん、一も二もなく承諾する。

 

 そういう理由で長期不在でいつ帰るかは不明の告知を出しておく。

 杉本鈴美(すぎもとれいみ)も付いて行きたがっていたので、危険だから駄目だとはっきり断る。

 正義感が強いのは良いことだが、巨悪を放ってはおけないので連れて行って欲しいと駄々をこねられても困るのだ。

 

 波紋は熟練の腕前でも、それだけでは幽波紋(スタンド)使いとは渡り合えない。

 

 それでも今回やけに強情なので困り果て、将来的に幽波紋(スタンド)を使えるようになったら良いよと、妥協案を出すハメになる。

 

 けど波紋使いが絶対に目覚めるという保証はないし、たとえそうでも何年先になるやらだ。

 

 その頃には約束を忘れてるだろうから、問題なしと判断する。

 とにかく何とか娘に留守を任せて旅に出られるので、一安心だ。

 

 

 

 何だか出かける前に精神的に疲れてしまったが、妾は旅慣れているし必要な荷物もあまり多くないのは楽でいい。

 

 バイトの巫女たちにも仕事の予定などの業務連絡を入れて、あとは娘が上手く管理運営してくれるだろう。

 

 妾がある日突然神社を留守にするのは、別に珍しくないのだ。

 

 今回もいつ戦いが起きるかわからないため、破損しても瞬時に修復可能な巫女服のままで出発する。

 必要な物を詰め込んだ旅行鞄は毎度、鈴美が用意してくれたので妾には勿体ないできた娘だ。

 

 お礼を言って受け取ったが、中にはうちの従業員一同の東京土産のリストも含まれているので、抜け目がないことでと内心で大きく息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 狐耳と尻尾や巫女服はコスプレで通している。

 行く先々で握手やサインを頼まれたり、一緒に写真良いですかとお願いされたりはするが、化け物だと石を投げられたり囲んで棒で叩かれたりはしない。

 

 しかし安易にファンサービスすると次々集まってきて収拾がつかなくなるため、人が大勢居る所では、はっきり断っている。

 

 それはともかく妾はバスや電車を乗り継いで、杜王町から東京に出てきた。

 

 

 

 現地では、ジョセフ・ジョースターとその仲間と合流する予定だ。

 ホリィと会うのも久しぶりなので、実はちょっと楽しみである。当然ように旅行鞄の中には杜王町の銘菓が入っているので、そういった娘の気遣いに感謝だ。

 

 

 しかし、心配なのは幽波紋(スタンド)に目覚めているか否かである。

 ジョースター家の者たちは影響を受けているため、今のところは体調に変化はないようだが、自分が到着する頃には変わっているかも知れない。

 

 

 

 とにかく東京駅から外に出てバスに乗った妾は、目的地の近くに降りて、のんびり大通りを歩く。

 

(仗助もそうじゃが、強制的な幽波紋(スタンド)の覚醒は危険じゃ)

 

 心身が成長していないと死ぬ危険があり、肉体や精神が強くても才能にも左右される。

 ジョースター家は才能豊かな一族で一般人よりも安全に覚醒しやすいが、何の訓練もしていない者がいきなり車を運転するぐらいの難易度はあった。

 

 

 

 それにしても、今は通学時間のようで学生が多い。

 ふと長い石段を下りている一人の男子生徒が大勢の女子生徒に群がられて、鬱陶しそうにしていることに気づいた。

 何となく見覚えがあるように感じた妾は、小声で呟く。

 

「何処となく。ジョセフに似ておるのう」

 

 けれど、他人の空似だろう。

 妾は彼らとすれ違うように石段を登っていく。

 

 彼とは別の意味で注目を集めていると、妙な気配を感た。

 長年の経験から導き出すと答えは一つしかなく、妾は足を止めて感覚を研ぎ澄ませる。

 

 そして殺気を発している相手への警告を込めて、大声で叫ぶ。

 

「こんな町中で襲撃する気か! 無関係な者が死にかねんぞ!」

 

 何者かが狙っているのは妾でないかも知れないが、こんな人が多い場所で襲撃するなど正気ではない。

 

 できれば思い直してもらいたいけど、どうやら無駄だったようだ。

 

 突如として四方八方から緑に輝く鉱石が高速で飛来してきた。

 

 そして攻撃は見えても正体は掴めないことから、抹殺対象がこの道を通ることを知っていて、事前に罠を仕掛けていたと考えられる。

 

 とにかく、このままでは男子生徒や囲んでいる女子生徒も巻き込まれるため、やむを得ず幽波紋(スタンド)で迎撃する。

 

嵐の狐(ストーム・フォックス)!」

 

 嵐の狐(ストーム・フォックス)の射程距離は非常に短い。

 本体から半径3メートルしか移動できないが、今は合体して変身しているので実質ゼロメートルで、特に意味はなかった。

 

 それはともかく妾が大声で叫ぶと、たとえ変身していても嵐の狐(ストーム・フォックス)は現れる。

 ただそれは映像に過ぎず、現実には何の効果も及ぼさない。

 

 おまけに幽波紋(スタンド)使い以外は見えないので、意味があるようで全くないゲーミング系の七色に光る道具と同じだ。

 派手で目立って格好良いなどの演出以外、全く意味がなかった。

 

 

 

 それはそれとして、妾は半径3メートル以内の気流の乱れを感知できる。

 背後からの不意打ちにも余裕を持って対応でき、本体はその場から一歩も動く必要はない。

 

 ゆえに飛んでくる全てのエメラルドの弾丸を、風の盾で勢いを殺して地面に落とした。

 

「やはり幽波紋(スタンド)攻撃か! じゃが! 一体何処から!」

 

 防ぐ必要のない攻撃は無視したので、周囲の草木や石段や当たって削れたり穴が空いた。

 それでも狙いは全て外れ、周りの人たちは驚いただけで怪我一つなく済んでいる。

 

「一先ずは何とかなったが、敵は一体何処から?」

 

 少し待っても再攻撃はなかったが、変身中の狐っ娘と違って幽波紋(スタンド)は一般人に見えない。

 あまり大騒ぎすると警察のお世話になりかねないため、またスピードワゴン財団の狐っ娘対応係に迷惑をかけることになる。

 

 そっちは仕事なのでまあ良しとしても、娘の耳に入ったらしばらくネタにされるのであまりよろしくない。

 母さんは私が居ないと駄目ねとか言われたり、言われなかったりだ。

 

 とにかく今は新手の幽波紋(スタンド)使いを探すのが先決で、攻撃される前に石段の上から妙な殺気を感じた。

 

 確かそこには、一人の男子生徒が居たような気がする。

 しかし残念ながら、それを確認する前に後ろから声をかけられた。

 

「おい、テメー。今、妙なことは口走ってやがったな」

 

 妾の背後から、学ラン姿の男子生徒が肩に手を置く。

 さらに怖い顔で問い質してきた。

 

幽波紋(スタンド)とかよお」

「はて? そんなこと言ったかのう?

 お前の空耳ではないのか?」

 

 露骨に視線をそらし、口笛を吹いて誤魔化す。

 だが相手は、何やら確信を持っているようだ。

 

「やれやれだぜ。

 お前の幽波紋(スタンド)、見えてたぜ」

 

 まさか彼が、先程攻撃してきた幽波紋(スタンド)使いかと一瞬警戒する。

 しかし、わざわざ本体を巻き込む理由がない。

 

 もしかすると、この男子生徒も狙われているのかも知れず、余計に事態がややこしくなる。

 

「ええと、その、あれはじゃな」

「……やれやれだぜ」

 

 妾は狐耳と尻尾がへにゃりとなりながら、どう説明したものかと頭を悩ませる。

 すると、周囲の女子生徒が騒ぎ出した。

 

「びっくりしたわ。ジョジョ大丈夫?」

「ジョジョ、大丈夫?」

「運がいいわ。もしあと少しズレていたら、飛んできた石に当たってたわ」

「この石段は、良く事故が起こるのよ」

「明日から、アタシと手を繋いでおりましょうね」

 

 ジョジョという青年を囲んで、口々にそんなことを言う女子生徒たちである。

 しかし何というモテ具合だと呆れるが、妾は今がチャンスと気づかれないようにゆっくりと離れようとする。

 

 だが、またもや声をかけられて動きを止める。

 

「キミたち」

 

 石段の上から一人の優男が下りてきた。

 そして、妾たちに声をかけてくる。

 

「さっきは危なかったね。大丈夫かい?」

「ああ、何も問題はないぜ」

 

 一見すると特に不自然なところはない自然なやり取りだが、妾は優男を見た瞬間にハッとする。

 

 そして気づけば条件反射で体を動かして、拳を振り上げて大声で叫んでいた。

 

「のじゃあっ!」

「げふうっ!?」

 

 変身中の嵐の狐(ストーム・フォックス)は八歳の幼女だ。

 しかしこの男は、もはや妾の有効射程距離内である。

 

 勢い良く顔面をぶん殴ってやると、弧を描くように石段の下に向かって吹っ飛んでいく。

 

「テメー! いきなり何しやがる! 人をぶん殴りやがってよお!」

「新手の幽波紋(スタンド)使いやも知れぬ! 確認のために殴ったまでじゃ!」

 

 遠隔自動操縦型は例外だが、先程はタイミングを見計らって全方位から射出されていた。

 つまり罠が張って待ち伏せていた可能性が高く、近くに本体が居ないとおかしいのだ。

 

 そうなると、少なくとも攻撃目標を視認できる範囲に本体が潜んでいると考えられる。

 この場合は新しく近づいてくる者が敵の可能性は、十分にあった。

 

 ゆえにこの優男が幽波紋(スタンド)使いか、確認しておかないといけない。

 

 いちいち御託を並べるぐらいなら、取りあえずぶん殴っておけが妾の基本方針であった。

 直感に従えば大体何とかなるし、脳筋ゴリ押しでも何とかなってきたのでヨシだ。

 

「まっ、まさか! 正体が初見で見破られるとは!

 流石はディオ様の宿敵! イナリか!」

「なっ……何だと!?」

 

 誰かは知らないが、吹き飛ばされながら空中で緑色の幽波紋(スタンド)を出した。

 そして近くの木を掴んで落下の衝撃を和らげて、危なげなく地面に降り立つ。

 

 その様子がはっきり見えた男子学生は、大いに驚いていた。

 

 

 

 だが、そんなのは妾には関係ない。

 敵だとわかった以上は、殺さないように手加減して再起不能にするだけだ。

 

 当然のようにこっちも石段を蹴って跳躍し、優男の後を追う。

 身体能力も優れているが風に乗って姿勢を制御すると、向こうも緑色の幽波紋(スタンド)を構える。

 

 どうやら迎え撃つつもりのようだ。

 

「空中では避けられまい! くらえッ! イナリッ!

 法皇の緑(ハイエロファントグリーン)のエメラルド・スプラッシュをーーーッ!!!」

 

 先程よりも、さらに高速だ。おまけに弾数も増やして一斉射撃される。

 だが一方向からの攻撃など、わざわざ避けるまでもない。

 

「妾を甘く見たのう! 嵐の狐(ストーム・フォックス)!」

 

 こっちは嵐の狐(ストーム・フォックス)だ。

 狐っ娘が防御の構えを取ると、前方に風の盾が出現する。

 そして急速接近する緑の宝石の狙いが逸れて、全てが明後日の方向に飛んでいく。

 

 またもや意味があるようで全くない、幻影の幽波紋(スタンド)が現れる。

 格好良い演出を終えたあとに、やりきったぜという表情で勝手に消滅した。

 

「そっ、そんな!? エメラルドスプラッシュが!?」

 

 妾は動揺する優男のすぐ前に、音もなくふわりと着地した。

 そして不敵な笑みを浮かべる。

 

「そいつは残念じゃったな!」

「くっ! エメラルド──」

 

 慌てて攻撃しようとしたが、やらせるわけがない。

 もはや射程距離など何の意味もないため、何をしようと無駄だ。

 

 その前に潰させてもらうけれど、一発だけなら誤射で済んでもここは人が多い。

 本体をぶん殴るのは不味いため、優男の幽波紋(スタンド)を殴りつける。

 

「遅い!」

「ぐはあっ!?」

 

 しかも、今度は一発ではない。怒涛のラッシュだ。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

 

 つい声が出てしまった。周囲に通行人がいるのに、習慣というものは恐ろしい。

 

 幸いなのは幽波紋(スタンド)は本体と連動していて、ダメージがフィードバックされることだ。

 優男には直接触れていなくても、あっという間にボコボコにされて大きくよろめく。

 

「悪とは! 自身のためだけに! 弱者を利用し! 踏みつける奴のことじゃ!

 ましてや! 女子供を躊躇いなく傷つけようとするなど!

 お前がやったのは! 悪の所業じゃあッ!」

 

 一際強烈なパンチが、緑色の幽波紋(スタンド)をの頭部に当たる。

 優男は悲鳴をあげながら一緒に吹き飛んでいった。

 

幽波紋(スタンド)は人には見えぬし、法律では裁けぬじゃろうよ!」

 

 優男がブロック塀に叩きつけられて、すぐにガラガラと崩れて血反吐を吐いた。

 もはや幽波紋(スタンド)を出すこともできなくなったようだ。

 再起不能になったことで、強制的に解除される。

 

「じゃから! 妾が裁く!」

 

 本来ならスピードワゴン財団から正式に依頼されるのだが、幽波紋(スタンド)使い同士は引かれ合うようだ。

 偶然ばったり予期せぬ出会いをすることも、割とあった。

 

「裁くのは! 妾の幽波紋(スタンド)じゃ!」

 

 痛みで気を失ってもはや聞こえてはいない。

 だが勝負がついたので、勝利宣言をして大きく息を吐いた。

 

 しかしちょっと東京に行ったら、新手の幽波紋(スタンド)使いに遭遇するので、運がいいのか悪いのかだ。

 

「やれやれじゃな」

 

 溜息を吐きながらも、再起不能になってぐったりしている優男のほうに歩いて行く。

 

 だがそこで、後ろで成り行きを見ていた不良生徒が大きな声を出す。

 女子生徒たちは何が起きたのかわからずに大騒ぎしているが、ガン無視である。

 

「ちょっと待て! そいつをどうするつもりだ!」

 

 そう言えばこの青年は、妾の幽波紋(スタンド)能力に気づいていた。

 しかし下手な言い訳は通じなさそうだし、ここは正直に話すことにする。

 

「この男には、色々聞きたいことがある。

 知人のところに連れて行き、尋問するのじゃよ」

 

 気絶した優男を、ヒョイッと持ち上げて担ぐ。

 普通に考えて幼女が運べる重量ではないが、そこはわざとらしく引きずる。

 精一杯の重いーというアピールで、何とか誤魔化す。

 

 だが不良生徒がやれやれという顔で、大きく息を吐く。

 

「テメー、そんなんじゃ警察に捕まるぜ」

 

 確かに今回は、変身解除ができる状態ではなかった。目撃者も大勢居る。

 警察の取り調べを受けるのは面倒なので、またスピードワゴン財団に連絡して隠蔽工作をしてもらわないといけない。

 

 足を止めて、どうしたものかと考える。

 

「それはちと不味いのう。

 ホリィの家までは、辿り着けるかのう?」

 

 暴行事件を起こしたら逮捕されるのが普通だし、幽波紋(スタンド)が見えていなくても非常に怪しい。

 周りの通行人も混乱して騒いでいる。

 

 しかし今、この優男を他人に渡すのは避けたい。

 何か良い案はないかと悩んでいると、不良生徒が妾に声をかけた。

 

「テメー。今、ホリィと言ったか?」

「うむ、確かに言ったが、ホリィを知っておるのか?」

 

 そう言えば不良生徒は、何となくジョセフに似ている。

 それだけではなく、昔何処かで会った気もしてきた。

 

 かなり長く生きてるので関係のない事柄は、思い出すのに時間がかかるのだ。

 少しだけウンウン唸って考えると、あることを思い出す。

 

「おおっ、もしかして空条承太郎か! 大きくなったのう!

 前に会ったときは、まだこんなに小さかったのに!」

 

 妾は子供は成長が早いものだと昔を懐かしんでいるが、幼い頃の記憶はあまり残らない。

 

 多分だが狐っ娘のことを忘れており、困惑している承太郎に簡単に説明する。

 ついでに周りの通行人や女子生徒に、上手い感じに誤魔化してもらう。

 この優男の社会的な地位が酷いことになるが、背に腹は代えられない。

 

 とにかくホリィの屋敷まで連れて行くために、承太郎にも協力してもらうのだった。

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