イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
優男は空条承太郎に背負ってもらい、急ぎホリィの元に向かう。
学校は仮病で欠席することになるが、非常事態なので致し方なしだ。
なお、歩きながら色々と質問された。
やはり昔会ったことは完全に忘れているようだ。
その割に、妾が呟いたやれやれじゃなという口癖だけはしっかり覚えている。
承太郎は自分でも気づかないうちに、真似しているようだ。
別にそれは良いけれど、不良生徒になっているのは驚いた。
「テメー。もしコイツが
敵の心配をするとは、性根は優しい子のようだ。
なので妾も、嘘偽りなくはっきりと答える。
「笑って誤魔化すのじゃ」
「……やれやれだぜ」
他に謝罪して波紋で治療するが、間違えってしまったら仕方ない。
しかし現時点まで、戦闘においては自分の判断が間違っていたことは一度もなかった。
代わりにどうでもいい時には、うっかりやらかすことも多々ある。
何とも両極端な狐っ娘だが、完璧超人は求めていない。
のんびり日向ぼっこできれば、細かいことはどうでもいいのだ。
やがて目的地に到着したが、相変わらず広々とした屋敷である。
門を通ると立派な庭が見えて、写真立てを大事そうに抱きしめているホリィを見かけて、嬉しそうに声をかける。
「ホリィ。久しぶりじゃのう」
「あら、イナリおばあちゃんじゃなーい! 相変わらず若くて可愛いわあ!
承太郎とは、もう会ったのねえ!」
たまたま途中でバッタリとなと、簡単に事情を説明する。
本来なら屋敷にあがらせてもらって、彼女とのんびり世間話をしたいところだ。
しかし今は、他にやるべきことがあった。
「ところで、ジョセフがここに来ていると聞いたんじゃが?」
「おじいちゃんなら、茶室に居ると思うわ。
アブドゥルさんと一緒に」
ジョセフの
事前情報と相違ないことを確認し、少しだけ体調が悪そうなホリィに礼を言う。
この屋敷の住人は、妾の事情を知ってる。
もう承太郎が優男を抱える必要はないが、女に重荷を背負わせるわけにはいかないと、何とも嬉しいことを言ってくれた。
(本体が子狐なのは、まだ秘密にしておこうかのう)
人間じゃなかったら冷たくされる可能性もあるけど、ジョースターの一族やスピードワゴン財団はそんなことはしないので、多分大丈夫だろう。
それはそれとして茶室を目指して歩いていくと、その途中で承太郎がふと足を止める。
そしてホリィに振り向いて、おもむろに声をかけた。
「おい、今朝はあまり顔色が良くねえぜ。元気か」
「いえーい! ブイ! サンキュー!」
「……ふん」
どうやら問題はないようだ。
妾も少しだけ安心するのだった。
茶室でジョセフとアブドゥルに簡単に事情を説明し、優男を畳の上に寝かせる。
続いて尋問してディオについて吐かせようとするのだが、そこで待ったがかかった。
ジョセフは何かに気づいたようで、静かに額を隠している髪を持ち上げる。
「駄目だなこりゃ。手遅れじゃ。コイツはもう、助からん。
あと数日のうちに死ぬ」
ドクンドクンと脈打つ、蜘蛛の形をした肉塊が埋め込まれていることが明らかになる。
妾は小声で、キモっと呟いてしまった。
そしてどうやら彼は肉の芽に操られてディオに忠誠を誓い、妾を殺しに来たらしい。
さらにアブドゥルが続きを話していく。
「それはディオの細胞からなる肉の芽。その少年の脳にまで達している!
このちっぽけな肉の芽は、少年の精神に影響を与えるよう! 脳に打ち込まれている!」
何とも、とんでもないことになったものだ。
ついでに、あまり直視したいものではない。
妾はうへえと嫌そうな顔をしながら、肉の芽をじっと観察する。
「つまりこの肉の芽は、ある気持ちを呼び起こすコントローラーなのだ!
カリスマ! 独裁者に従う兵隊のような気持ち! 邪教の教祖に憧れる! 信者のような気持ち!
この少年はディオに憧れ! 忠誠を誓ったのじゃ!」
今度はジョセフが説明を変わる。
しかも脳はデリケートなので、手術では摘出できない。
じゃあお手上げじゃんと頭を抱えるが、彼は何かを期待するように妾に視線を向け、彼ははっきりと口を開く。
「じゃから儂は、シショーを呼んだのだ!
シショーなら、肉の芽を安全に排除できる!」
「妾が?」
はてと首を傾げつつ、これまで得た情報を整理していく。
少しだけ考えて、あることを思いついてポンと手を打った。
「
ジョナサンを瀕死の重傷から全回復させたアレなら、肉の芽の除去に使えるかも知れない。
「その通りだ!
もっとも普通は己の身を犠牲にしてだが!」
彼の言った通り、あれは本来はドラクエというメガザルのような効果だ。
ちょっと疲れるし、患者は無駄に元気になるのであまり多用したくはないが、命がかかっているとなれば話は別である。
妾は大きく息を吐き、ジョセフに向かってこのあとの要求を伝えておく。
「東京名物の菓子が食べたい」
「構わんが、シショーは少食のはず。……食べ切れるのか?」
「余ったらお主らにやる。
残すのは勿体ないからのう」
食べ物を無駄にしない子狐である。
とにかく軽い運動のあとは小腹が空くもので、お菓子ぐらい許されるだろうと要求した。
何にせよ決まったからには、面倒なことはさっさと終わらせるに限る。
そして再起不能にしてから治癒するとか、完全なマッチポンプじゃんねと思いつつ、優男の体に触れて波紋の呼吸を整えていく。
やがて準備ができたので、気合を入れるために大声で叫ぶ。
「
周囲の者たちまで光り輝く奔流が見えるほどの、凄まじい生命エネルギーが妾から優男の体に流れ込む。
これだけの波紋を前にすれば、吸血鬼の一部である肉の芽などあっという間に消滅だ。
同時に全身の傷も完治して、頭部の穴も綺麗に塞がった。
処置が終わったら、これ以上の生命エネルギーは体外に漏れ出て無駄になる。
「……どうやら上手くいったようじゃな」
彼はすぐに目を開けて、自身の体に起きた変化に、戸惑いながら立ち上がる。
血の跡こそ残っていても、傷は完治している。何処も異常はないはずだ。
そして洗脳を解いたのが妾だと気づいたのか、半身を起こしながら尋ねてくる。
「何故、お前は自分の命の危険を冒してまで、私を助けた」
どうやら
一般の波紋戦士は決して真似してはいけない危険な技だと知り、そのことを妾に尋ねてきた。
「誰かを助けるのに、理由がいるかのう?」
何処かのゲームのような台詞を言ったが、本当はディオの情報が欲しかったからだ。
しかしそうでなくても放ってはおけず、結局は助けていたのは事実である。
そしてその後の自己紹介で花京院典明と判明した少年は、余程嬉しかったらしい。
思わず男泣きしたことで、妾はどうしたものかと戸惑い困ってしまうのだった。