イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
ポルナレフという新しい
普通ならシンガポールまで三日はかかるが、帆を張っていたので風を起こし日数を短縮する。
少々揺れが激しくなるけれど、この程度なら大したことはないだろう。
なお、途中で密航者の少女が紛れ込んでいたことに気づく。
船員が海上警察に突き出すと脅すと、海に飛び込んで泳いで逃げ出した。
「まっ、不味いっすよ! この辺はサメが集まっている海域なんだ!」
妾は甲板にクッションを敷いて、のんびり日向ぼっこをしていた。
日が沈んだ頃に承太郎たちに修行をつけているが、それまでは基本的にゆっくりしている。
しかし、騒ぎが起きた以上はそうも言ってられない。
大きくアクビをしてから、
「やれやれじゃな」
サメに食われかけていた少女が、海水と共に空高く舞い上がっていく。
そして、妾たちが乗っている船に飛ばされてきた。
途中で余分な海水は落としたし、着地の瞬間には上昇気流で衝撃を緩和する。
おかげで、傷一つない。
しかし、一難去ってまた一難だ。
目標を見失ってウロウロしていたサメが、突然正体不明の何者かに殺されてしまう。
「下だ! 海面下から何かが襲ってくるぞ!
サメではない! 凄いスピードだ!」
様子を見ていたジョセフが、焦ったように叫んでいる。
何が起きたかわからずに戸惑っている少女のことは放置し、妾も詳しく様子を見に向かうが、はてと首を傾げてしまう。
「何じゃ。何処にもおらんではないか」
謎の
せっかく日向ぼっこを中断して重い腰を開けたのに、妾が来たときには影も形もなくなっていたのだ。
このまま船に攻撃を仕掛けるのかと思いつつ、そうではないらしい。
敵の
それとも他に目的がと色んな考えが思い浮かぶが、取りあえず船内に敵が紛れ込んでいるのは間違いなさそうだ。
さらには船長が密航者を捕まえに甲板に出てきたので、事態がさらにややこしくなる。
このままでは収拾がつかないと判断した妾は、いつものように、疑わしい人物を問答無用で殴りつけた。
「のじゃあっ!!!」
「げふううっ!!?」
船長が血を吐いて吹っ飛んでいく。
落下防止の柵がへこんでダメージを受けるが、妾はお構いなしだ。
「しっ、シショー! 急に何をするんだ!
船長の身元は確かだ! 敵の
ジョセフだけでなく、他の仲間たちも驚きに目を見開いていた。
しかし妾は一切動じずに、はっきりと告げる。
「妾はどういうわけか、戦いの直感が鋭くてのう。
現時点では百発百中なのじゃよ」
つまり船長の姿をしたコイツが敵の
ジョセフとは長い付き合いなので知っているはずだ。
けれどしばらく共闘していなかったし、忘れてしまっていたらしい。
ついでに自分は脳筋で、口より先に手が出ることも多々ある。
古い友人はようやく思い出したのか、手で顔を押さえてオーノーと嘆いていた。
彼にとっては、殴るなら殴ると一言告げて欲しかったのだろう。
しかしそんなことをすれば敵に逃げられるか防がれ、最悪反撃されるに決まっている。
考えるな。感じろの問答無用だからいいのだ。
「……ふっふっふっ、渋いねえ。全くおたく、渋いぜ」
口から血を吐きながらも、船長らしき男はゆっくりと立ち上がる。
間違っている可能性も考慮して手加減したが、どうやら今回も正解を引き当てたようだ。
「確かに俺は船長じゃねえ。本物の船長は既に、香港の海底で寝ぼけているぜ」
本当にディオの手下は、民間人を巻き込むことに躊躇はない。
ポルナレフのように騎士道精神があれば違ったのだろうが、コイツは持ち合わせていないようだ。
そして姑息にも海からこっそり近づいて、少女を人質に取ろうとした。
近くに居たので妾は気流の乱れで先読みし、右手をかざして大声で叫ぶ。
「吹き飛べ!」
目に見えない空気の塊が高速で飛んでいく。
少女を捕らえる寸前の敵
「げふううっ!? ばっ、馬鹿な!?
テメエらと六体一じゃ流石の俺も骨が折れるから、正体を隠し、一人一人順番に始末してやろうかと思ったのに!?
そいつがバレたうえに、不意打ちまで防ぐだとおおおっ!?」
一から十まで丁寧に説明してくれたので、頭が悪いのかも知れない。
本体はさらに血を流して驚愕に顔を歪ませるが、この程度で終わらせるつもりはない。
妾は一足飛びで偽船長に急接近すると、不敵に笑う。
「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」
「げびぎゃびぎいい!!?」
敵に何もさせずに制圧できるなら、そっちのほうがいい。
特にコイツは民間人を巻き込むことに何の躊躇もないため、ラッシュで一気に勝負をかける。
「のじゃあっ!!!」
やがて最後の一発を叩き込んだ。
完全に気を失った偽船長を海に叩き込んで、盛大な水飛沫をあげる。
なお最初に殴ったときに、フジツボを付着させようとした。
しかしあいにく妾の
だが正直気分が良いものではないし、腹筋を張る要領で力を込める。
栄養が吸えずに枯れかけているフジツボを、一つ残らず体外にはじき出す。
けれどここであることを思い出して、ジョセフたちに顔を向ける。
「ああいう奴は無駄に諦めが悪く、負けた場合を考えて次善の策を練っているものじゃ」
「ふむ、例えば?」
白目のまま海に沈んでいく偽船長を眺めながら、ジョセフの質問に答える。
「船のあちこちに、爆弾を仕掛けておくとかのう。
時間になったら一斉に爆破し、妾たちは全員海の藻屑じゃ」
定番の罠だが効果的で、奴は海を自在に移動できるので船は必要ない。
まあ自分も風を操って空を飛べば良いのだが、長時間の精密動作にやや不安がある。
妾はともかく、仲間をうっかり落っことすことも十分にあり得る。あんまりやりたくはない。
とにかく、ジョセフたちも思い至ったようだ。
焦りながら全船員で急ぎ船内を捜索し、時間的にギリギリだったが見つけ出すことに成功する。
それら全てを海に投げ捨てて大爆発させ、間一髪で海の藻屑を回避したのだった。
船旅を少し時間があったので、夕食後の軽い運動として仲間たちの修行を行う。
具体的にはジョセフ以外の横隔膜を突いて、強制的に波紋の呼吸に変えて自然治癒力を強化する。
さらに、なるべくその呼吸を普段から心がけてもらう。
移動中でも、微量の経験値を得られるようにした。
初心者に矯正マスクをつけると敵の不意打ちを受けた場合、何手か遅れて致命傷を負う可能性があるため、この方法を取らせてもらう。
それでもツェペリ男爵がジョナサンを突いたときと同じように、皆は最初は滅茶苦茶苦しそうにしていた。
地面にうずくまったまま、動けないようだ。
幸い今は妾が周囲に目を光らせているので、敵の
日に一回はこのような修行の時間を作り、全員の生存率を上げていきたい。
「さてはジョセフ。サボっておったな?」
「ぎくうッ! シショー! そっそんなことは、ないぞ!」
彼は既に波紋を修得しているので、皆とは別で船のマストを登ってもらっている。
しかも、たまにうっかり剥がれ落ちそうになっていた。修行をサボっていた証拠だ。
それに自分が見てないときには、指から波紋を流すのを止めて腕力でマストを掴み、普通に登ろうとしている。
不動産王の仕事で忙しいのもわかるが、こんな有様でエジプトへの旅ができるのかと不安になる。
「ジョセフよ。今でも、
「そっ、それはもちろん! こっ、このワシにかかれば余裕じゃ!」
どうやら当人もわかっているようで、強がってはいるが明らかに冷や汗をかいている。
そんな元飼い主の姿を見て、妾は彼が嫌いな言葉は一番が努力で二番が頑張るということを思い出す。
とにかくジョセフ以外の仲間は、当分は基礎修行だ。
実戦形式の
空は雲ひとつなく澄んでいて綺麗だ。
しかし今は護衛も兼ねているので、面倒を見るため気持ちを切り替えて修行の続きをするのだった。