イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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シンガポール

 密航者の少女は今さら港には引き返せないので、シンガポールまで一緒に行くことになる。

 偽船長をぶっ飛ばしたので副長が指揮を取りつつ、予定通りに航海を行う。

 

 しかし途中で濃い霧が出てきて、先が見通し難い状況になる。

 海路的には問題ないので気をつけて前進を続けるが、巨大な貨物船が突然目の前を横切ったのだ。

 

 慌てて避けようとするが残念ながら間に合わず、衝突してしまう。

 

 海の藻屑になる前に急いで全員脱出し、何故か無傷な目の前の巨大船舶に乗り込むことになった。

 

 だがタラップが下りているのに、誰も姿を見せない。

 船内をあちこち見て回っても、居るのは檻に入ったオランウータン一匹だけだ。

 

 どう考えても怪しくて、妾たちの船を沈めた敵の幽波紋(スタンド)使いにしか思えない。

 なので妾は彼の前に立ち、妙にエロい視線を感じて若干顔をしかめながら話しかける。

 

「お前が、この船の幽波紋(スタンド)使いじゃろう?

 何故檻に入っておるのかは知らぬし、興味もない」

 

 仲間たちには席を外してもらっており、取りあえず説得してみることにした。

 高度な知能を持っているが動物のようで、人の言葉を喋ることはできないけれど理解はしているようだ。

 

「じゃが、妾たちの旅の邪魔をするなら容赦はせぬ」

 

 妾はそう言って、奴が入っている檻どころか部屋全体を風の刃でバラバラに切り裂いた。

 

「うぎいいいいっ!?」

 

 明らかに怯えて、大声で悲鳴をあげた。

 どうせ妾たちを騙して、船という奴の胃袋で殺し尽くすつもりだったのだろう。

 しかしその手には乗らないし、甘すぎる。

 

「船全体を細切れにして、海の藻屑に変えることもできるぞ。試してみるか?」

 

 まあそれをした、妾たちも海に放り出されるのでやらない。

 だが彼は身の程を知ったようで、妾の機嫌を損ねると殺されると本能的に理解する。

 動物のほうが人間よりも扱いやすいので、ありがたい限りだ。

 

 しかしだからこそ、ディオの手下として便利に使われているのだろう。

 まあそっちの事情は興味はないので、さっさと話を先に進める。

 

「今後はディオを裏切り、妾たちに協力せよ。

 良いか? 余計なことを考えるでないぞ。

 妾がお前を敵と判断した瞬間、お前の幽波紋(スタンド)を破壊し尽くすからのう」

 

 これじゃどっちが悪だという気になる。

 しかし、幽波紋(スタンド)は使い方次第で善にも悪にもなる。

 

 そして今回は人助けのために、目の前のオランウータンを脅しているのだ。

 一応は正しいことをしているはずだ。

 

 上下関係を教えるために、奴の幽波紋(スタンド)をほんのちょびっと傷つけたが、それ以外は何もしていない。

 

「それで、返事は?」

 

 震えながらコクコクと頷くオランウータンを見ていると、罪悪感が出てくる。だが仕方のないことだ。

 彼は賢くても動物で、善悪が良くわかっていない。

 

 こっちの船を沈めて妾たちを殺すつもりだったし、放っておけば障害として立ち塞がる。

 

 死にたくないからどっちにでも付く性格かも知れないけど、一時的でもオランウータンの恐怖を上書きし、妾に屈服させた。

 

(まあ当面の足は確保したんじゃ。この旅が終わったら、スピードワゴン財団に任せるか)

 

 動物の幽波紋(スタンド)使いは珍しく、イギーと同じでサンタナが興味を持ちそうだ。

 そしてスピードワゴン財団が、世界の危険物を保管する場所みたいになっている。

 

 まあそれはともかく、オランウータンは恐怖に怯えきった顔でガタガタ震えて腹を見せていた。

 

 このまま大人しくしてくれるなら、いつかは仲良くなれたら良いとは思っている。

 

 そして脅しというか説得が終わったので、外で待たせている仲間たちを大声で呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 ストレングスの幽波紋(スタンド)である巨大な貨物船に乗り、妾たちはシンガポールまでやって来た。

 

 いくら強力な能力であっても、人には欠かせない物がある。

 今後も旅を続けるには食料も水やその他諸々が全然足りない。

 

 海路で行くのも迷いもので、今夜はホテルに泊ってエジプトへの進路を決める。

 海上で二度も幽波紋(スタンド)使いに恐れたのだし、計画の練り直しは避けられない。

 

 そしてシーズン真っ盛りで部屋はバラバラになるらしく、妾は同性ということで少女と一緒のようだ。

 部屋に入って二人っきりになると早速、少女が話しかけてくる。

 

「あのさ。何で狐の耳と尻尾をつけてるの?」

「趣味じゃよ」

「ふーん、変わった趣味なんだね」

 

 妾の耳と尻尾はコスプレで通しているので、今回もそう答えておく。

 取りあえず冷蔵庫を開けて飲み物を取り出していると、ふと妙な気配を感じて真面目な表情に変わる。

 

「どうしたの?」

「妙な気配じゃな。敵の幽波紋(スタンド)使いやも知れぬ」

「ええっ!? それって、また変なことが起きるの!?」

 

 怯えた顔の少女だが、気配はこの部屋からではない。

 割と近いが、一先ずすぐに襲われることはなさそうだ。

 

「今はまだ大丈夫じゃが油断はできぬゆえ、行って片付けてくる」

 

 妾が戻って来るまでは、決して外に出ずに誰も入れないようにと伝える。

 

 そして妙な気配を感じたポルナレフの部屋へと、急いで走るのだった。

 

 

 

 

 

 

 やがて目的の部屋の前まで来る。

 妾は大声で叫びながら、急ぎ中に飛び込む。

 

「ポルナレフ! 無事か!」

 

 部屋の中は滅茶苦茶で、ベッドの足が切られて沈んでいた。

 見えないが、その下からポルナレフの声が聞こえてくる。

 

「その声はイナリさんか! 助かった!

 俺は今! 幽波紋(スタンド)攻撃を受けている! 奴の姿は──」

 

 彼は妾が妹とクラスメイトの命の恩人だと知ると、さん付けするようになった。

 

 敬意を払ってくれるのだろうが、自分はそんな大した人間ではないし、少々小っ恥ずかしい。

 

 だがとにかく生存を確認できたし、正体についても見当がついている。

 妾は背後からこっそり近づいて顔を切り裂こうとしていた人形を、気流の乱れから探り当てて、条件反射でぶん殴った。

 

「のじゃあッ!」

「げびゃびええつ!?」

 

 こういう場合に不意打ちしてくるのは、敵の幽波紋(スタンド)使いと相場が決まっている。

 攻撃するまで悠長に待ってやる気は毛頭なく、妾は倒せるときに確実に倒しておく性格だ。

 

 御託を並べたいなら、再起不能になってから病院のベッドやあの世で好きなだけ語ればいい。

 まあ脳筋な自分は、そんなものには微塵も興味がないので、さっさと退場願う。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

「ぎえゔびいいい!!?」

 

 たとえ小さな人形だろうと、幽波紋(スタンド)パワーが強い場合もある。

 ゆえに、確実に再起不能になるまで殴り続けた。

 

 やがて敵の全身がズタボロになって崩壊寸前だと察して、トドメの一撃を放つ。

 

「のじゃあ!!!」

 

 ホテルの外に吹き飛ぶ前に人形は、空中で完全に消滅して一息つく。

 だが、すぐにやれやれだぜと言っている場合でないことに気づき、何があったかは知らないが、ベッドの下に拘束されてポルナレフを速やかに救出する。

 

 続いてポルナレフの足の傷を波紋で治癒したあとは、他の仲間達の安否も急ぎ確認するのだった。

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