イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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二人の少年

 ディオの父親は、ジョースター家にとっての命の恩人なことを知る。

 なので彼の面倒を見て、今後はジョジョと同じような扱いをするのだと当主が宣言した。

 

 妾にとってはマジかよとしか言いようがないが、ぶっちゃけ子狐なので拒否権はない。

 しかし嗅覚には感じないが、本能的にはゲロ以下の匂いがプンプンしてくる。

 

 正直近寄りたくはなかったし、向こうも完全にジョジョとは敵対的な行動を取っていて、どうやら自分以外の全てを見下しているようだ。

 

 さらには足元をチョロチョロする妾が気に入らないのか、ジョナサンに絶対に近づけるなと念を押していた。

 

 

 

 それからの日々は飼い主にとって、あまりにも辛く苦しいものだった。

 ジョジョとディオはことあるごとに比較され、まだ貴族作法が完璧ではないジョナサンが実の親に厳しく叱責されるのだ。

 

 とにかくディオは、ジョジョを陥れることばかりしている。

 見ていて気分の良いものではないため、妾が目の前で芸をしたり陽気に振る舞ったりして、せっせと慰めるのだ。

 

 飼い主に忠義を尽くす狐にならざるを得ないため、のんびり日向ぼっこの気楽な生活はいかない。

 忙しくて大変だが捨てられたくはないし、これまで世話になりっぱなしなので恩返しだと思えば、苦ではなかった。

 

 

 

 そんなある日、かつての友人にも無視されたジョジョ、傷心のあまり河原の草むらで仰向けになり、溜息を吐いて虚しく空を眺めていた。

 

「……イナリ、キミだけはディオが何したって、僕の友達だよね?」

「コンコン!」

 

 人の言葉は喋れないが、もちろんと肯定する。

 気持ちが伝わったようで、歳の割には大きな手で頭をワシャワシャと撫でてくれた。

 

 ちなみに、そんな妾たちをエリナが木の陰から覗いていた。

 彼女は意を決してハンカチを返してくれる。

 その後に色々お話をして、ジョナサンと友人になった。

 

 何とも意外な展開になり、世の中わからないものだ。

 妾の前世は生き残るのに必死で恋とか愛とか、そういうことを考えたことはないし関係を持ったこともなかった。

 

(ストームリーダーや同僚たちは嫌いではないが、彼らは想い人がおったらしいしのう)

 

 結局誰かはわからないままだが、オペレーターさんの告白を断った理由がそれだったのだ。

 卵狂いでなければ美人で優しくて良い子なのに、勿体ないことだ。

 

 同僚の男性三人が妾抜きで話していたときに、偶然聞こえてしまった。

 内容は途切れ途切れなので全部ではないが、わざわざ吹聴したり尋ねることでもない。

 自分が居たときにはそんな話題は微塵も出なかったし、きっと恥ずかしいんだと思って聞かなかったことにした。

 

 だがプライマーを倒して世界は平和になったのだ。

 三人共想い人に告白して、今頃は付き合って結婚までいっている知れない。

 

 どうか子狐に転生した妾の分まで幸せになって欲しいと、ジョナサンとエリナの仲睦まじい様子を見守りながら、そう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 二人が恋人同士になってしばらく経った、ある日の夕暮れ時のことだ。

 いつも通りに別れたあとに屋敷に駆け出すジョジョだったが、妾は飼い主のあとを追わなかった。

 

 今日ずっと誰かに見られているような妙な感覚の正体を確かめようと、気づかれないように物陰に隠れてエリナの後ろを付いて行く。

 

 しばらくすると、ディオと二人の苛めっ子が木の陰から姿を現す。

 彼らはエリナを通せんぼするように立ち塞がって、意地の悪い笑みを浮かべて声をかける。

 

「やあ、キミ。エリナって名なのかい?

 ジョジョと、随分仲が良さそうだね」

 

 ディオがジョナサンとエリナを監視していたのは気づいていた。

 なのでわざわざ後を付けたのだが、その後は全くのノープランなので妾はどうしたものかと悩む。

 

(ここで妾が出ていけば、ジョースター家には居られなくなるかも知れぬのう)

 

 ディオはジョジョと同じ扱いをされている。

 そのはずなのだが今では、目の前に居る男のほうが父親に対する立場や信頼度が上になていた。

 

 つまりもし妾が彼らに危害を加えたと報告されれば、下手をすればその場で殺処分か捨てられる可能性がある。

 ようやく安住の地を見つけたというのに、それは嫌だった。

 

 妾が考えている間に、状況は刻一刻と変化していく。

 

「おかしいと思ったんだ。

 落ち込んでるはずのアイツが、最近浮かれると思ったらこういう理由だったんだ」

 

 しかし逃げようとしたエリナの手をディオが強引に掴み、自分の元に引き寄せようとする。

 そこからもう、考えるよりも先に体が動いていた。

 

「のじゃあっ!!!」

 

 猫や犬が、極稀に人の言語っぽい鳴き声を出すことがある。

 ご飯やこんにちはなのだが、妾的に初めてがのじゃあなのは如何なものかと思いはしても、今はそんなことを気にしている時間はない。

 

 恐らくはキスしようとしたのだろうが、そうは問屋が卸さない。

 妾は死角から勢い良く飛びかかり、ディオの足をガリガリと引っ掻いた。

 

「があああっ!!? こっ、この狐っ! まさか!?」

 

 彼は動揺して苦痛の声をあげて、条件反射的に蹴りを放った。

 しかし相変わらずスローすぎてアクビが出るため、動きを見切って楽々避ける。

 

 その間にエリナは拘束を解除された。

 何とか唇を奪われるのだけは防げたので、一安心だ。

 

 やはり最初は恋人同士で、NTRは脳が破壊されるからマジ勘弁である。

 続いて妾はディオと苛めっ子から少女を守るように間に入って、キッと睨みつける。

 

「こっ、この狐ェ!」

 

 別にかかってきても構わない。

 その場合はズボンだけでなく、今度は上のシャツもボロボロにしてやるつもりだ。

 

 妾は不敵な笑みを浮かべて、真っ直ぐに睨む。

 その気になれば二本足で立ってシャドーボクシングもできるが、絶対不味いことになるのでやらない。

 

 とにかくディオにもそれなりに長い付き合いになってきたので、子狐を排除するのは難しいのがわかったのだろう。

 

「……もういいっ!」

 

 やがてディオは苛立ちのあまり、近くの木の枝を折って八つ当たりをする。

 続いて取り巻き連中と一緒に、悔しそうに去って行く。

 

 その後は、子狐に負けたと伝えるのはプライドが許さないようだ。

 妾の件は何も言わずに、ジョースター家に住み続けられるのは幸いであった。

 

 

 

 

 

 

 しかし次の日、ジョジョは街でエリナと再会する。

 その時に彼女の口から、あの後に何があったのかを聞いてしまう。

 そこからはもう、酷いものだった。

 

 屋敷に急ぎ戻ったジョジョとこの展開を予想していたディオの、互いの誇りを賭けた本気の殴り合いだ。

 

「キミが! 泣くまで! 殴るのを! 止めない!」

「このカスみたいな奴に!? このディオが!?」

 

 妾は子狐なので我関せずと眺めているが、もちろん危ない時には助けに入るつもりだ。

 しかし男同士の友情を深めるときには、殴り合うと相場が決まっている。

 

 あくまで漫画やアニメの世界だが、現実でもないとは言い切れない。

 現時点では命に別条はなさそうなので、しばらく様子を見ていた。

 

 内心ではジョジョに勝利して欲しいが、どうやら決着がついたようだ。

 

 拳がクリーンヒットして派手に吹き飛んで、ディオは床に転がる。

 鮮血が、壁にかけられていた石仮面にまで飛んだ。

 

「よっよくも! よくも! ……よくも! よくもーっ! この僕に向かってえっ!」

「なっ、涙っ!?」

 

 何故か石仮面から針のようなものが突き出て、床に落ちた。

 そっちも気になるが、涙目のディオがナイフを抜いたのでそれどころではない。

 

「このっ! 汚らしい! あほうがああ!!!」

 

 妾も流石にこれは不味いと、介入して止めようと身構える。

 だがここで、いつの間にか二階から見ていた父親が大声をあげた。

 

「二人共! 一体何ごとだ!

 男子たるもの、喧嘩の一つもするだろう!

 しかしジョジョ! 今のは抵抗もできなくなったディオを、一方的に殴っていたように見えた!」

 

 確かに彼の位置からでは、ディオのナイフは見えない。

 しかし流石に節穴すぎではと呆れてしまうけれど、それだけ屋敷内での立場を高めた結果とも言える。

 

 まあ妾は子狐なので何も言えないが、ちょっとだけ不機嫌な顔になってしまう。

 

「紳士のすることではない!」

「ちっ、違う!」

「言い訳無用! 二人共! 部屋へ入っとれ!」

 

 良い方向に考えれば、ジョジョを英国紳士として育て上げるために、あえて厳しく育てている。

 取りあえずそう思って、前向きに考えようとした。

 

「あとで二人共、罰を与える!」

 

 しかし例えそうだとしても、妾は子狐である。

 できることといえば、飼い主を慰めることぐらいだ。

 いつも通りにジョジョを元気づけるために芸をしたり、寄り添ってコンコン鳴いたのだった。

 

 

 

 あとは何を企んでいるのかは知らないが、ディオが妾を捕まえようとする。

 彼にとって邪魔なのはわかるし、性格から考えれば生きたまま箱に詰め込んで焼却炉で焼く気なのだろう。

 

 むしろ殺らない理由がないとまで断言できるほど、妾はディオに嫌われている。

 

 しかしあいにく自分は、見た目は子狐だが賢さは高いし強い。

 感覚を研ぎ澄ませて出会わないように気をつければ、簡単にディオから逃げられる。

 油揚げを餌にした罠には引っかかりそうになったが、注意深く匂いを嗅ぐと妙な薬が混じっている気がしたので、胃腸は何ともなくても別に刺激物が食べたいわけではない。

 

 だが随分と妾のことを研究したものであり、イナリ博士かよと心の中でツッコミを入れた。

 

 けれど食い物を粗末にするわけにはいかないので、ネズミ捕りに入って油揚げだけを器用にいただく。

 やはり舌が少しピリピリするが体は何ともないため、物陰に隠れてディオが確認に来るのを待つ。

 

 そして彼が来たときに足元をウロチョロして、弱パンチで何度も攻撃してやる。

 余程迷惑だったのか、以降は妾にちょっかいを出してくる回数が激減した。

 

 やがて月日は流れ、気づけば七年の歳月が過ぎていたのだった。




イギーがコーヒーガムが大好きなように、前世とは違いますがイナリの大好物は油揚げです。何でやろうなぁ…。
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