イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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エンヤ婆

 ポルナレフの妹の仇を討ったが、のんびりしている時間はない。

 妾たちは旅を再開してカルカッタからバスに乗り、聖地ベナレスを目指す。

 

 ホル・ホースに惚れている貴族の女性まで一緒だが、どうやら目的地は同じようだ。

 

 それはそれとしてバス停で降りたときに、ジョセフの右腕が大きく腫れていた。

 人の顔のように見える妙なモノがでてきることに気づいたので、妾は思ったことをそのまま口に出す。

 

「ジョセフ、幽波紋(スタンド)攻撃を受けておるぞ」

「何いいいーッ!? シショー! それは本当か!」

 

 彼は自分の右腕を見て、思いっきりビビっている。

 だがまだ小さいので、そこまで焦る必要はない。

 

「妾の直感が外れたことはない。

 ゆえに、敵の幽波紋(スタンド)使いは」

 

 妾は同行している貴族の女性に視線を向ける。

 彼女は表情は平静を装っているが、一筋の汗が落ちるのを見逃さなかった。

 

 この時点でほぼ確定なため、もはや容赦はしない。

 もし違っていたら波紋で治療して損害賠償を払うまでだと割り切り、問答無用で男女平等パンチを顔面に叩き込む。

 

「のじゃあッ!」

「ぎゃああああっ!?」

 

 彼女は勢い良く吹き飛ぶだけでなく、驚くべきことに体が二つに割れた。

 その中から、もう一人の肥満女性が現れる。

 

 どうやら美人に化けていたようで、姿を変える幽波紋(スタンド)使いのようだ。

 妾以外もそうだし結構多いなと思いつつ、間髪を入れずにいつものラッシュを叩き込んだ。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

 

 今回も例によって例のごとく、全身をズタボロにして再起不能になるまで情け容赦なく殴り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 エンプレスの幽波紋(スタンド)使いを倒したのは良いが、今回は本体の女性を町中でボコボコにしたのだ。

 当然のように通行人に見られており、警察に追われることになってしまう。

 あとはスピードワゴン財団に誤解を解いてもらうにせよ、留まることはできない。

 

 ホテルに宿泊する余裕はなく、車を購入して陸路でパキスタンに向かう。

 途中で何故か別れたはずの少女を乗せることになったが、別にそれは構わない。

 

 しかし、途中で妙な車と出会う。

 やたらと挑発されて、危うく対向車のトラックに衝突して交通事故が起きそうになった。

 

 そのときは承太郎の星の白金(スタープラチナ)で殴って強引に止めたが、何ともはた迷惑な車だ。

 けれど妾の直感では敵幽波紋(スタンド)じゃないかと、そんな気がした。

 

 

 

 ゆえに途中の峠の茶屋で乱闘騒ぎになっている間も、妾だけは例の車から目を逸らさない。

 じっと観察し続けた。

 

 そして幽波紋(スタンド)使いが乗り込んだとき、彼の目の前に移動して堂々と話しかける。

 

「思い出したぞ。確かズィー・ズィーじゃったか?」

「ひいっ!?」

 

 にっこりと笑いかけると、思いっきりビビっていた。

 見かけ通り肝っ玉が小さい男のようだが、裏の世界では少しは名前が知られている。

 

 車の幽波紋(スタンド)と容姿を見て、たった今思い出した。

 彼の性格から、恐らく金で雇われたのだろう。

 

「素直に手を引けば、見逃してやらんこともないぞ?」

「ばっ、馬鹿が! 誰がテメエなんかにビビるかよ!」

 

 先程の事故未遂は、幽波紋(スタンド)攻撃ではない。

 なので罪を認めて反省すれば見逃してやろうというのに、どうやら諦める気はないようだ。

 

「最強の幽波紋(スタンド)使いだか何だか知らねえが!

 この俺が轢き殺してやるぜ!」

 

 妾たちにかけられた賞金は、余程の高額なのだろう。

 奴の車が生物のように巨大化していき、さらにガソリンを圧縮して高速で射出してくる。

 常人に当たれば、体に穴が空いてもおかしくはない。

 

嵐の狐(ストーム・フォックス)!」

 

 しかし一方向からしか飛んでこない遠距離攻撃など、嵐の狐(ストーム・フォックス)にとっては大した脅威ではない。

 裂けるまでもないため、前方に風の盾を作り出して軌道を逸らす。

 

「何いいいいーッ!? 攻撃が! 外れてっ!?」

 

 妾の幽波紋(スタンド)が、良い仕事をしたばかりに圧倒的な強者のポーズを取って消える。

 演出なので特に意味はない。

 

 とにかくこの程度で諦めるはずもなく、敵は次なる手段に出る。

 最初に言った通り、轢き殺す気のだ。

 

 巨大な車が高速で迫ってくるが、妾は落ち着いてタイミングを見計らう。

 そして、下から勢い良く蹴り上げた。

 

「のじゃあっ!」

 

 車体を空中に浮きあがる。

 本体も乗り込んでいるからか、驚いて悲鳴があがった。

 

「ぎゃびいえええっ!?」

 

 そしていくら車の幽波紋(スタンド)は地上で高速移動できるとはいえ、空中では何もできない。

 飛び上がった分だけ、今度は重力に身を任せて落下してくるだけだ。

 

 そして、そんな隙だらけな敵を妾が見逃すはずがない。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

 

 まるで格闘ゲームのボーナスステージのように、新品同様の生きている車が容赦なく破壊されていく。

 

 やがて一分もかからず、見るも無惨なスクラップに変わり果てた。

 当然のように、中に乗っている幽波紋(スタンド)使いもタダでは済まない。

 

 最終的には全身がボロボロになって血反吐を吐く。

 二度と裏稼業ができないように、再起不能にしておくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ズィー・ズィーを倒して、家出少女をシンガポールに送り返した。

 妾たちはエジプトへの旅を再開するが、別に変わったこともない。

 

 問題なくパキスタンに入れたが、途中で霧が濃くなってきた。

 しかもガードレールもない崖道を車で走っているため、安全のためにまだ少し早いが谷底の街で宿を取り、明日の朝になったら出発することに決めるのだった。

 

 

 

 到着して車を降りて周囲を見回すと、霧が深く物静かな街だ。

 人々の様子も、何かおかしい。

 どう考えても敵の幽波紋(スタンド)使いの仕業にしか思えず、十分に警戒しておくことに決める。

 

(他の感覚も狂わされておるな。ここは街ではなく、恐らく──)

 

 狐っ娘の五感は並ではない。

 しかし目に見えないモノを信じさせるのは至難の業で、今すぐ証明する手段も思い浮かばなかった。

 

 なのでまずは、この光景を作り出している幽波紋(スタンド)使いを叩くべきだ。

 

 幸いなことに、流石に他の面々も様子がおかしいことに気づきだす。

 周囲の住人に聞くよりも、一斉にこちらに視線を向ける。

 

「敵の幽波紋(スタンド)使いの仕業じゃ」

「だがシショー。動機がないぞ?

 無関係の一般人を、我々が来る前に殺すだろうか?」

 

 ちょうど目の前には、銃を持って死んでいる男がいたのだ。

 彼を観察しているジョセフが、もっともな疑問を口にする。

 

 なるべく死体に触らないように、幽波紋(スタンド)能力で風を起こす。

 彼の所持品を引っ張り出し、順番に地面に並べていく。

 

「どうやら旅行者のようじゃな。

 それに全身に、十円玉のような傷が無数にある。

 血が一滴も出ておらぬし、普通では考えられぬのう」

 

 恐怖の表情で固まっているため、間違いなく何かがあったのだ。

 何らかの幽波紋(スタンド)によって殺された可能性が高く、現時点では想像がつかない。

 

 妾たちが考えていると、霧の中から一人の老婆が現れる。

 彼女は微笑みながら、こちらに近づいてきた。

 

「旅の御方のようですな。この霧ですじゃ。街を出るのは──」

「のじゃあっ!」

 

 有無を言わさず、いつも通りに老婆をぶん殴る。

 旅の最初こそ驚いていた仲間たちも、今では慣れたものだ。

 悲鳴を出せずに勢い良くぶっ飛ばさされている妙齢の女性を、達観したような表情で眺めている。

 

 そのままカエルが潰れたような声を出しながら、老婆は地面に倒れて血反吐を吐く。

 だが見た目よりも頑丈なようで、口元を押さえてよろよろと起きあがってきた。

 

「いっ、いきなり! 何をするんじゃ! 気でも狂うたか!」

「ならば単刀直入に聞くが、お前が幽波紋(スタンド)使いじゃろう?

 狙いは妾たちの命か? そうじゃよのう?」

 

 妾は不敵な笑みを浮かべ、さらに追撃を加えるために老婆にゆっくりと近づいていく。

 たとえ言い訳をしても、容赦をするつもりはない。問答無用でラッシュを叩き込むつもりだ。

 

 しかし彼女は状況判断が早い。

 これ以上は騙せそうにないと瞬時に理解し、大声で叫ぶ。

 

「ケケケケッ!!! イナリ! ポルナレフ!

 よくもワシの息子を殺ってくれたなぁ!」

「ふむ、それが遺言で良いのじゃな」

 

 妾は全く動じることなく、一歩ずつ近づいていく。

 

 だがここで、いつの間にか周りに人が集まっていることに気づく。

 そしてこちらが身構える前に、一斉に襲いかかってきた。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!」

 

 彼らが既に死んでいることは、匂いでわかった。

 だが埋葬された死体を破損させるのはあまりよろしくないため、手加減して吹き飛ばしていく。

 

 やがて周りで動く者はいなくなって静かになったので、一息ついて老婆に向き直る。

 

「むっ!?」

 

 だがここで物陰に隠れていたのか、足元に赤子がまとわりついてくる。

 相手が相手なので、ほんの少しだけ傷つけることを躊躇ってしまった。

 

 その隙を突かれて、杭のように伸ばした舌で足を傷つけられて切り傷ができる。

 

「ケケケケッ! ワシの幽波紋(スタンド)、ジャスティスは勝つ!

 ほんの一箇所でいいのさ! ほんのちょっぴりでいいのさ!

 術中にハマったんだよ! イナリ!」

 

 足にできた傷口から、血が霧に混じってゆっくりと吸いあげられていく。

 この手の能力には抵抗力があっても、放置しておいて良いことはない。

 

 とにかく勝利を確信した老婆は、自らの幽波紋(スタンド)を明らかにする。

 霧を集めて、不気味な骸骨に変わっていく。

 

「ケケケケッ! 拳で霧が張り倒せるか!

 剣で霧が斬れるか! 銃で霧を破壊できるか!

 無駄じゃ! 無駄じゃ! テメーらにゃあ! 何もできんよお!!!」

 

 彼女の言うことは一理あるが、取りあえず妾は波紋の呼吸を整えて、切り傷を瞬時に回復させる。

 

 穴が完全に塞がったことで血の流出も止まり、老婆が驚愕の表情を浮かべる。

 だがまだ、妾のターンは終わっていない。

 

「ならば、風はどうじゃ! 嵐の狐(ストーム・フォックス)!」

 

 そう言って骸骨の幽波紋(スタンド)を中心にして、巨大な竜巻を発生させる。

 

 精神エネルギーのヴィジョンが出現して嵐を操っているポーズをするが、実際に制御しているのは狐っ娘なので特に意味はない。

 

「なにいいいいっ! ワシの幽波紋(スタンド)がああ!?」

 

 骸骨を完全に閉じ込めて、凄まじい勢いで上空に巻き上げていく。

 さらには街中の霧も吸い込んでいくので、本体である老婆も溜まったものではない。

 

「いくら霧が微細じゃろうと関係はない!

 妾の風で切り刻んでくれよう!」

 

 とんでもない脳筋ゴリ押しではあるが、実際に効果があるようだ。

 老婆の悲鳴が木霊する。

 

「ぎゃぎいいいいーッ!!?」

 

 しばらくすると、街を覆っていた霧はすっかり晴れて、谷底の墓場が明らかになる。

 さらには全身切り傷だらけでズタボロになった老婆が、ふらついて血反吐を吐きながら絶望の表情で口を開く。

 

「さっ、最強最大の幽波紋(スタンド)じゃあ!?

 とてもワシのちっぽけなあ幽波紋(スタンド)じゃあ! 敵わない!

 こっ、この幽波紋(スタンド)に! 敵うものは、……ない!」

 

 最強の幽波紋(スタンド)使いという呼称は、伊達ではない。

 やがて気を失ったのか、全身から血を流して老婆は地面に倒れ、再起不能になったのだった。

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