イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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砂漠を越えて

 ラバーズを倒した妾たちだが、エンヤ婆は肉の芽が暴走して意識不明になったままだ。

 たとえ命は取り留めても、残念ながら幽波紋(スタンド)を使ってもディオの情報は得られなかった。

 せいぜい、今もエジプトから動いていない可能性が高いということだけだ。

 

 しかし妾たちには、立ち止まっている時間はない。

 エンヤ婆はスピードワゴン財団の隔離施設に送って、他の幽波紋(スタンド)使いに面倒を任せ、今は先を急ぐのだった。

 

 

 

 何故かラクダに乗って、砂漠を移動することになる。

 いわゆるショートカットだが、山岳地帯を車で移動するよりも早く到着するらしい。

 

 途中までは順調だったが、誰かに見られている気がする。

 おまけに八時が過ぎても太陽が沈まないどころか、ぐんぐん登っていく。

 気温も天井知らずで上がり続けて、まるでサウナである。

 

 だがいくら強力でも幽波紋(スタンド)が丸見えなら、対処可能だ。

 

 妾はラクダに揺られながら、灼熱の太陽に手をかざして風を収束していく。

 やがてそれは、高速で螺旋回転する大玉手裏剣になった。

 

「吹き飛べ!」

 

 太陽に向かってぶん投げたが、黙ってやられる気はないようだ。

 敵幽波紋(スタンド)から高温の火の玉が、地上目がけて次々と降り注いでくる。

 

「面白い! 果たしてどちらが勝つかな!」

 

 妾が放り投げた手裏剣は降ってくる火の玉を飲み込みながら、太陽を目がけて突っ込んでいく。

 しかし問題は、こっちに向かってくる敵の攻撃だ。

 

 高温のため素手で触ると火傷しそうなので、風の盾を前方に展開する。

 強制的に軌道を逸らした。

 

 そうしている間に手裏剣が太陽に直撃して、狙い通りに敵幽波紋(スタンド)をズタズタに切り裂いて、やがて消滅させる。

 

「ぎゃああああああっ!!?」

 

 さらに近くで悲鳴があがって夜になった。

 妾たちはキョロキョロと辺りを見渡すが、ここで何故か皆が大声で笑い出す。

 

 ジョセフと一緒に、正気なのは妾たちだけかと顔を見合わせる。

 しかし敵が鏡で風景を反射しながら、こっそり尾行してたことに気づく。

 

 妾としたことがうっかり気を抜いていたようで、幽波紋(スタンド)が消滅したので本体も、当然のように再起不能になっていた。

 

 けれど、タネがバレると何ともアホらしい。

 そんな幽波紋(スタンド)と真っ向勝負を挑んだ妾としては、何だか妙に小っ恥ずかしくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 妾たちはサウジアラビアの砂漠をラクダに乗って旅をして、やがて街に辿り着く。

 

 宿で一泊した次の日、いつも通り目が覚めて朝食をいただく。

 だが花京院の様子が何処かおかしく、明らかに元気がない。

 ポルナレフの話しでは、悪夢を見たようで記憶は曖昧だが余程怖かったようだ。

 

 まあ危険な旅なのでストレスを受けることはあり、妾は図太いが普通はそうではない。

 そういうこともあるだろうと適当に流して、今は先に進む。

 

 セスナを借りるには高熱を出した赤ん坊を、医者に連れて行くのが条件だと言われる。

 妾としては別に構わないので、全員乗り込んで飛び立った。

 

 少し経った頃に、赤ん坊におもむろに声をかける。

 

「それでお前は、どのような幽波紋(スタンド)使いなのじゃ?」

「ぎひっ!?」

 

 いきなり言葉でぶん殴られるとは思わなかったのか、赤ん坊の演技が一瞬崩れて変な声を出す。

 

 周りで話を聞いている仲間たちも驚き、動揺してジョセフの操縦も少し乱れて揺れる。

 

「しっ、シショー! 今の発言は!?」

「別に赤ん坊が幽波紋(スタンド)使いでも、おかしくはあるまい」

 

 動物だって幽波紋(スタンド)使いになるのだから、赤ん坊でも何らおかしくない。

 花京院の様子がおかしかったのも、この子が何かした可能性がある。

 

 朝起きたら手の指を切っているのは極稀にはあるかも知れないが、敵の幽波紋(スタンド)攻撃ではないと判断もできなかった。

 

 そしてこのタイミングでの、些か強引な介入である。

 妾にはこれが敵の罠に思えて仕方なく、赤ん坊に微笑みかけた。

 

「花京院は悪夢を見て、朝起きたら怪我をしておったのじゃ。

 ならば敵は夢の世界に妾たちを誘い込み、そこで傷つければ現実の肉体も同じく傷つく。

 想像じゃが、そのような幽波紋(スタンド)なのじゃろう」

 

 まだ確証はなくても、自分の予想が正しければ大変なことになる。

 

「妾はその可能性が高いと考えるが、……どうかのう?」

 

 にっこりと笑いかけて赤ん坊に話しかけると、彼は寝ている振りをしながらも冷や汗を隠しきれていない。

 さらにセスナの揺れではなく、恐怖でガタガタ震えている。

 

 この反応だけで、敵なのがはっきりわかった。

 

「どうやら正解を言い当てたようじゃな。

 ……この赤ん坊をどう扱うべきかのう」

 

 妾としては再起不能にしたいが、相手は赤ん坊だ。

 あまり酷いことをするのは気が咎める。

 

 なので彼の両親に断りを入れたあと、スピードワゴン財団に預けることに決めた。

 

 なおその際に、イナリさんは甘すぎる的なことを言われる。

 ここは二度と悪さをしないように、離乳食にウンコを混ぜて食わせる的な提案が出る。

 妾的にはドン引きだが、仲間たちに押し切られて実際に食べて飲み込ませてしまう。

 

 ある意味では、死んだほうがマシなことをされたのだ。

 悪いことをしたらこうなるのと、教訓になったのは間違いない。

 

 そして今後は正義の幽波紋(スタンド)使いになるように、スピードワゴン財団に預けられ、しっかり教育してもらうのだった

 

 

 

 

 

 

 今日は紅海を渡ってエジプトに入る予定だが、その前に妾は早朝の砂浜を散歩していた。

 狐っ娘は非常に目立ち、誰かと一緒でないとすぐに取り囲まれて質問責めされてしまう。

 

 しかしまだ人々が眠っている今なら、気楽に出歩けるのだ。

 そういうわけで薄暗い砂浜から静かな海を眺めながら、のんびりと散策していた。

 

「……ん? あれは?」

 

 少し離れたところに、古びたランプが砂に埋れているのを見つける。

 漂流物が流れ着くのは珍しくないが、定期的に掃除していた。

 

 なので、きっと最近になって漂流してきたのだろう。

 

 何となく興味が惹かれて近づいて持ち上げてみると、フジツボがびっしりついているが綺麗に輝いていた。

 

 不気味な顔が刻印されていたが値打ちモノっぽいし、勿体ない精神で丁寧に汚れを取っていくと、妙な煙が出てくる。

 

「のじゃ!?」

 

 しかも急に爆発するように吹き出したので、妾は驚いて転びそうになった。

 一旦ランプから手を離して後方に跳躍し、バランスを取って砂浜に着地する。

 

「一体何じゃったのじゃ? アラジンの魔法のランプではあるまいし」

 

 まだ微妙に紫色の煙が出ているランプを眺めていると、背後に気配を感じて振り返る。

 

「三つー!」

「のじゃ?」

「三つだ! 叶えてやろう! お前の望むものを三つ言え!

 俺の名はカメオ! ランプから出してくれた礼をしたい!」

 

 ランプの精霊にしては、やけに幽波紋(スタンド)っぽい造形だ。

 ならばそれをモチーフにした能力なのかも知れない。

 

 何にせよこういった展開には慣れているため、全く動揺せずにそういうのもあるかと受け入れる。

 

「願い事は三つ言えといっているのだ!」

「なるほど、つまりは新手の幽波紋(スタンド)使いじゃな」

 

 ぶん殴るのは簡単だが、彼は今のところは戦う気はなさそうだ。

 妾は少し様子を見ることにして、呑気に願い事を考え始める。

 

「ふむ、妾を大金持ちにしてくれと言えば、叶うのか?」

「よかろう! 叶えよう!」

 

 ただ可能かを聞いただけなのだが、願い事としてカウントされてしまったようだ。

 ランプの精の幽波紋(スタンド)が大声で叫ぶと。突然光り輝いて紫色の煙が辺りを覆う。

 

 そしてどういう理屈か、近くにナポレオン時代の金貨が落ちていた。

 はてと首を傾げながら取りあえず掘ってみると、何と砂浜に埋まった宝箱を発見する。

 

 妾は大量の金銀財宝を掘り出して、ほんの少しだけ驚いた。

 

「二つ目の願いを言え! 叶えてやろう!」

 

 背後から声が聞こえて振り向くと、またランプの精の幽波紋(スタンド)が喋りかけてきている。

 

 しかし内心はガッカリであり、やれやれと大きく息を吐く。

 

「二つ目の願いじゃと? 馬鹿を言うな。

 妾はまだ、大金持ちになっておらぬぞ」

 

 こう見ても妾はスピードワゴン財団や各国政府の依頼を完遂し続けて、世界有数の大金持ちである。

 その過程で色んな金貨や財宝も見てきたが、これは見た目だけだと一瞬で判断した。

 

 なのでランプの幽波紋(スタンド)が出現させた金銀財宝を一つ残らず、荒れ狂う風の刃でバラバラに切り刻んだ。

 

「こんな土塊で妾を騙そうなど」

 

 妾がズタズタに切り裂いた金銀財宝は、ただの土塊になって崩れ落ちる。

 この時点で幽波紋(スタンド)の目的は自分を騙す、もしくはエジプトへの旅の妨害だとはっきりした。

 

 敵対するなら容赦はしないし、先に手を出したのは向こうだ。

 

「さて、覚悟は良いな」

 

 にっこりと微笑みながら、敵幽波紋(スタンド)に歩み寄る。

 ランプの精は足はついていないが、明らかに後ずさっていた。

 

 さらに若干震えているようで、やがて願い事以外の言葉を口にする。

 

「……ゆっ、許して」

「許せと言われてものう?

 妾はランプの精ではないゆえ、お前の願いは絶対に聞かぬ!」

 

 そう言って妾は、敵の幽波紋(スタンド)が逃げる前に急接近する。

 続いて、勢い良く殴りつけた。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

「ぐぎゃあああああっ!!?」

 

 いつものラッシュで、一瞬のうちに幽波紋(スタンド)は消滅する。

 本体の悲鳴も砂浜に響き渡り、どうやら地面に埋まって隠れていたようだ。

 こうしてまた一人、ディオの手下を再起不能にしたのだった。

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