イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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イギー

 カメオの幽波紋(スタンド)使いを再起不能にした妾たちは、スピードワゴン財団にこっそり用意してもらっていた潜水艦に乗ってエジプトを目指す。

 

 やっぱり世界有数のお金持ちはやることが派手だなと思いつつも、妾は日向ぼっこができれば幸せだ。

 あとはせいぜいサブカルチャーを収集するぐらいで、かなり安上がりに見える。

 

 まあ、そもそも趣味を楽しむ時間があんまりない。

 このエジプトへの旅が終わったら、長期休みできれば良いなと考える。

 

 

 

 それはそれとして、紅海の海底を潜水艦で移動する。

 途中で衛星電話でスージーQとジョセフが、ホリィと仗助のことで少し話した。やはり心配のようだ。

 

 そして電話を妾が変わると、どうか皆を守ってあげて欲しい言われた。

 頼まれるまでもなくそのつもりだと、はっきり返しておく。

 

 

 

 やがてあと少しで上陸だというところで、花京院が出したコーヒーが一人分多いことに承太郎が気づく。

 

「おい、花京院。何故カップを七つだす」

「おかしいな。うっかりしてたよ。六個のつもりだったが」

 

 大は小を兼ねると言うし、多い分には問題はない。

 ジョセフも別に気にしないのか、適当なカップを持ってコーヒーを飲もうとする。

 

「げえっ!?」

 

 しかし突然彼のカップが、小さな幽波紋(スタンド)へと姿を変えた。

 誰もが驚いて咄嗟に動けない中で、妾は冷静にそいつの体をむんずと掴む。

 しかしまるでターミネ◯ターの映画の液体金属のように、体を溶かして拘束から逃れようとする。

 

「逃がすと思うたか!」

 

 風を操って敵幽波紋(スタンド)を強制的に引き寄せた妾は、また姿を変えて逃げる前に勢い良くぶん殴った。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

「ぎゃびえええええっ!!?」

 

 幽波紋(スタンド)が小さいということは、それより巨大な拳で一発殴っただけでも大ダメージだ。

 ラッシュを叩き込まれたら尚更であり、まだ姿が消えてないだけ大したものだ。

 

「のじゃあッ!!!」

 

 トドメの一撃を繰り出すと、壁に叩きつけられるより前に幽波紋(スタンド)が消滅する。

 本体が何処にいるかは不明だが、一つわかるのは今の攻撃で確実に再起不能になったということだろう。

 

 そして妾たちはいちいち探している時間がないため、旅の目的地であるエジプトに上陸を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 砂漠の入り口で待機しつつ、スピードワゴン財団に助っ人を連れて来てもらう。

 やがてヘリが目の前に着陸した。

 

 個人的に戦力が増えるのは大歓迎だが、アブドゥルは違うようだ。

 

「ジョースターさん! アイツがこの旅に同行するのは不可能です!

 とても助っ人なんて無理です!」

「知っているのか。アブドゥル」

 

 花京院が尋ねると、アブドゥルが何か思うところがあるようだ。

 冷や汗をかきながら頷く。

 

「ちょっと待て。助っ人ってことは、当然幽波紋(スタンド)使いってことか」

「愚者。ザ・フールのカードの暗示を持つ幽波紋(スタンド)使いだ」

 

 今の発言で妾は頭の隅に何かが引っかかり、あと少しで思い出せそうだ。

 

 長く生きていると、不要だったり長く使わない知識は奥に押し込んでしまう。

 引っ張り出すのに苦労する。

 

「ザ・フール? ふふっ、へへ、何か頭の悪そうなカードだな」

「敵でなくて良かったって思うぞ。お前には勝てん」

 

 笑っているポルナレフの発言に、アブドゥルがすぐに返事をする。

 彼はとても真面目な顔つきだ。

 

「何だと? この野郎、口に気をつけろ!」

「本当のことだ! 何だこの手は! 痛いぞ!」

 

 何だか彼ら二人で喧嘩が始まりそうだが、その前にヘリが運転を停止して扉が開く。

 

 そしてまずは、スピードワゴン財団のパイロットが降りてきた。

 こちらに近づいて、ジョセフに握手を求めてくる。

 

「ミスター・ジョースター。ご無事で」

「わざわざありがとう。感謝する」

 

 そして彼らは次に妾のほうに向き直り、先程よりもビシッと姿勢を正す。

 同じく握手を求めてきた。

 

「ミス・イナリ! 伝説の幽波紋(スタンド)使いにお会いできて光栄です!」

「息子が貴方の大ファンなんです! ぜひサインを!」

「スピードワゴン財団の者は、いつも大げさじゃのう。

 あと、すまぬがサインはやっておらぬ」

 

 妾は創立者であるスピードワゴンの友人で、財団との関係は良好だ。

 むしろ評価が過剰すぎて英雄視されており、職員の教育はどうなってるんだと溜息を吐きたくなる。

 

 闇の一族であるワムウとサンタナが協力的なのも、自分が居るからだと知っていた。

 国家の危機や大事件も解決に導いているし、どう足掻いても実績が積み重なるのは避けようがない。

 

 そしてサインやファンサービスなどは、正直キリがないのでやっていなかった。

 パイロットは残念そうな顔をしているが、はっきり断らせてもらう。

 

「で、どっちの男だ。幽波紋(スタンド)使いは。

 どっちの男かと聞いているんだ。……アンタか?」

「いえ、我々ではありません。後ろの座席に居ます」

 

 承太郎の質問にパイロットの一人が答える。

 続いてもう片方の人が、ヘリの後部座席の扉を開けた。

 

「いないようだが?」

「いや、います」

 

 座席に布がかかっているが、もう一人乗っているようには見えない。

 ポルナレフは拍子抜けしたのか、笑いながらヘリに近づいていく。

 

「おいおいおい、居るって? 何処によ?

 とてつもなくチビな野郎か? 出てこい! こらあっ!」

「ああっ、あぶない!」

 

 職員が止めるがポルナレフは構わずに、座席をバンバンと手で叩く。

 

「気をつけてください! ヘリが揺れたんで、ご機嫌斜めなんです!」

「近づくな! 性格に問題があると言ったろう!」

「ポルナレフ! お前には勝てん!」

「いや、だからそいつが何処にいるって──」

 

 何やら周りが慌てだしたが、ポルナレフは呑気なままだ。

 

 しかし次の瞬間、座席にかけられた布がモゾモゾと揺れる。

 すぐに、そこから一匹の犬が飛び出してきた。

 

「そうか! 助っ人とはイギーのことじゃったのか!」

 

 イギーがポルナレフに飛びかかって、髪の毛を毟り抜いているイギーを見てようやく思い出した。

 

 確かに彼の幽波紋(スタンド)は強力だ。

 エジプトの旅に同行してくれるのは、とても頼もしい。

 

 まあ性格に難があるのは確かだが、妾とはそれなりに親しい間柄だ。

 

 スピードワゴン財団で保護されたあと、人には懐かずに舐めきっている犬をどうにかして欲しいと、動物繋がりで妾に白羽の矢が立った。

 取りあえず会うだけ会ってみたが、やはり狐と犬では話が通じない。

 

 それでも力こそパワーで上下関係をわからせると、態度が急変する。

 以降は、姉御的な意味で慕ってくれるようになったのだ。

 

 妾も別に、犬は嫌いではない。

 八歳の狐っ娘と戯れるワンコ的な感じで、普通に仲良くなった。

 

 なのでお互いの関係としては、そう悪くはないはずだ。

 

「これこれ、イギー。もうその辺で、許してやりなさい」

 

 妾の声が聞こえたのかはわからないが、イギーは最後に屁をする。

 そして、あまりの臭さに倒れるポルナレフから飛び退いた。

 

 しかし、双方完全に頭に血が上っているらしい。

 

 ポルナレフは立ち上がって銀の戦車(シルバーチャリオッツ)を呼び出すし、イギーも周囲の砂を集めてザ・フールとして幽波紋(スタンド)化させた。

 

 斬ったと思ったら剣を取り込んで封じ込め、その隙に再び飛びかかってポルナレフの銀髪の毛を毟り出す。

 

「あれは!」

「簡単に言えば、砂の幽波紋(スタンド)なのだ」

「シンプルな奴ほど強い。俺にも殴れるかどうか」

 

 皆は一目でイギーの強さを見破り、この時点で上下関係が完全に決定した。

 ポルナレフは犬より下になったけれど、助けを求められては可哀想だし見て見ぬ振りはできない。

 

 妾はスピードワゴン財団の職員に声をかける。

 

「例の大好物は持っておるか?」

「持ってなきゃ、連れて来られませんよ」

 

 そう言って職員がポケットに手を入れて、コーヒーガムを取り出す。

 鼻の良いイギーはすぐに気づく。

 

 ポルナレフなど眼中になくなり、全速力でこっちに走ってきた。

 妾はお菓子を受け取り、箱を見えないように隠して一つだけ取り出す。

 

「コーヒー味のチューインガムは大好きだけれど。

 決してシショー以外には、心は許さないんじゃ。コイツは」

 

 イギーが妾が手に持っているコーヒーガムを目がけて飛びかかってきた。

 そんなに強く握っていなかったので、あっさり掠め取られてしまう。

 

「紙ぐらい取ってから食べぬか! ああもう! 世話が焼けるのう!」

 

 風を操って、ヨダレまみれの包装紙を器用に回収する。

 

 そう言えば、イギーはこんな性格だったなーと懐かしく感じる。

 やがて再びポルナレフと鬼ごっこを始めた彼を、微笑ましく見守っていた。

 

 しかし冷静になると、こんなことをしている場合ではないことを思い出す。

 妾は慌てて助けに入るのだった。

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