イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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オインゴ・ボインゴ

 長い砂漠を抜けて、ようやく次の街に到着する。

 その前に嵐の狐(ストーム・フォックス)を呼び出して、いつも通りの狐っ娘に戻っておいた。

 

 問題もなく町に入り、旅の物資を補充しつつ皆で散策する。

 やがて、カフェがたくさんある通りに出た。

 

 流れ的に、ちょうど良いので少し休んでいこうととなる。

 ポルナレフがタバコを投げて、地面に倒れた方向で入る店を決めた。

 

 特に反対する理由もないし、妾たちはその喫茶店に入って席に座る。

 するとやけにゴツい店主が奥から出てきて、仏頂面で挨拶をしてきた。

 

「いらっしゃい。何を注文なさいますか?」

「そうだなー。紅茶がいいなー」

「同じだ」

 

 他の面々も、特にこれが飲みたいというものがないようだ。

 妾的も別に思い浮かばなかったし、ここは流れに身を任せる。

 

 やがて店主が全員紅茶で良いかと注文を確認して、背を向けて厨房に戻っていく。

 だがそこで、ジョセフが声をかけた。

 

「いや、止めたほうがいいな」

「えっ?」

「いいか。ここは敵地エジプトだ。

 これまで以上に敵が何処に隠れていて、いつ襲ってくるかわからんぞ」

 

 ポルナレフだけでなく、皆がジョセフの意見を聞いて少し考える。

 少し前に、水の幽波紋(スタンド)使いに襲われたばかりだ。

 何処に敵が潜んでいるかわからず、油断はできないということだろう。

 

「今まで以上に、毒にも用心したほうがいい。

 これからは、瓶入りや缶入りだけを飲むようにするんじゃ」

「えー! マジでー!」

「マジじゃ」

 

 ポルナレフだけでなく、皆もマジかよという表情をしている。

 

 なお妾は毒程度じゃ死なないし、ちょっと刺激的な味がするだけで済む。

 しかし他の仲間は一発アウトなため、気をつけるに越したことはない。

 

「おい、紅茶を取り消してコーラにするように」

「コーラあああーッ!?」

 

 ジョセフが注文の変更を告げると、店主がやけに大声で動揺する。

 

「そうだ。どうかしたか?」

「いっ、いえ、はい。コーラですね」

「うむ」

 

 しかし、瓶コーラが出てくることはなかった。

 残念ながら冷蔵庫が故障していて生温かいままと聞くと、ポルナレフが少し神経質すぎると指摘する。

 

 おまけに店を替えようとしたら、今度は向かいが火事になっていた。

 結局注文が変更になって、紅茶を人数分用意してもらうことになる。

 

 妾的には別に構わない。

 しかしいざ机の上に紅茶が置かれると、顔をしかめて口を開く。

 

「皆、紅茶には手をつけるでないぞ。

 ……店主よ。少し良いか?」

「なっ、何でしょう!?」

 

 店主は明らかに冷や汗をかいて、こちらに振り向く。

 この時点でバレバレだが、妾はにっこりと微笑みながら続きを話す。

 

「すまぬが、この紅茶を飲んでくれぬか?」

「そっ、それはお客様の紅茶でございます! 店主の私が飲むわけには──」

「まさか、妾の紅茶が飲めと申すのか?」

 

 面倒な客を装って、無理矢理にでも紅茶を勧める。

 にこやかな笑顔だが若干威圧感を発しており、他の面々も少しずつ不審に思い始めたようだ。

 

「ただの紅茶ならば、何の心配もいらぬ。

 じゃがもし毒が混入しておったら、飲んだ者は死ぬじゃろう」

 

 権力者は毒見役を雇っていると聞くし、用心はしておいて越したことはない。

 妾には不要でも他の面々は致命傷になるため、穏やかに言葉を続ける。

 

「お前が手ずから入れたのじゃ。そんな真似はせんじゃろうがのう?

 じゃが、万が一ということもある」

 

 色は普通の紅茶だ。味や匂いも、人間には気づかれないかも知れない。

 しかし妾の嗅覚は誤魔化せないため、今もプンプン臭ってきている。

 

 だが店主はタジタジになって返事がないことから、埒が明かないため話題を変える。

 

「さて、ここまで言えばわかるじゃろう?

 ディオの手先、九栄神の幽波紋(スタンド)使いよ」

 

 図星を突かれて言葉を失ったようだ。

 顔を青くして、金魚のように口をパクパクさせている。

 

「何故妾たちがこの店に入ることがわかった。

 待ち伏せしておらねば毒を仕込むのは難しいゆえ、未来を読む幽波紋(スタンド)能力か?

 そして、他に協力者はおるのか?」

 

 既にこの場の全員が臨戦態勢だ。

 店主は汗をかきながらガタガタと震え始めた。

 

 そして妾は彼とは別に、もう一つの視線も感じていた。

 

「店の影に隠れている子供が協力者か?

 妾たちや店主の様子を、ずっと伺っておったしのう」

 

 そちらに目を向けると、絵本を持った子供が驚いて大きく飛び上がった。

 

「そっ、そんな!? よっ、予言に間違いはないのに!?」

「なるほど、未来を予言として、幽波紋(スタンド)が本体に教える能力か」

 

 しかし未来視とは、強力な幽波紋(スタンド)である。

 たとえ近い時間しかわからないとしても、敵の行動が読めれば必勝の策を練るのは容易だ。

 

 ならば店主は別の能力を持っている可能性もあるが、そこは追々確かめればいい。

 少なくとも九栄神を出したら思いっきり動揺していたので、何らかの関係があるのは間違いないだろう。

 

「逃げられるとは思わぬことじゃ。

 今降参すれば、許してやらぬこともないぞ?」

 

 水の幽波紋(スタンド)使いは、ディオに忠誠を誓っていた。

 彼らもその類なら無理だろうけどと思いながら、妾たちは彼らに近づいていく。

 

 だがここで、意外なことが起きた。

 なんと、店主がいきなり土下座をしたのだ。

 

「ほっ、ほんの出来心なんです! 許してください!

 俺はどうなってもいい! 弟だけは!」

「おっ、オインゴ兄ちゃーんッ!?」

 

 この反応から愛情深い兄弟であることを理解する。

 さらに、すぐに命乞いをしたということは戦闘能力は高くはない。

 

 ディオに忠誠を誓っていると言うよりも、賞金目当てで毒殺を企んでいたと考えるのが妥当だろう。

 

 まだ確定していなくても、雰囲気的に逆らう気がはなさそうだ。

 

「……まあ良かろう。魔が差すことは、誰にでもあるからのう」

「おいおい! いいのかよ! イナリさん!」

「今後のこやつら次第じゃな。幽波紋(スタンド)は善にも悪にもなる。

 二度と悪事をせぬなら良かろう」

 

 もしまた悪さをするようなら、今度こそ確実に再起不能になってもらう。

 妾は財布から適当なコインを取り出して、指で容易く折り曲げて極限まで圧縮した。

 

 兄弟はヒエッと汗をかいて震えあがる。

 

 その様子を見る限り、もう旅の妨害も毒殺することもないだろう。

 ただ問題はどう見ても三下っぽいため、大した情報は得られなさそうということだ。

 

 予言の幽波紋(スタンド)能力は凄いとは思うけど、ディオの忠誠心が全然ない。

 もし賞金目当てなら、大した情報は与えられてないだろう。

 期待するだけ無駄な気がするし、さっさと先を急ぐのだった。

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