イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
オインゴボインゴ兄弟からは、やはり大した情報は得られなかった。
だが悪いことをしたのは悔い改めてくれたし、今後は
あとはスピードワゴン財団に任せて、妾たちは次の街へと向かう。
今はRTA走者のように忙しいので、監視や教育をしている時間はないのだ。
ナイル川を、地元商人の船に便乗させてもらって移動する。
夕方頃に一度近くの街に上陸し、そこで商談を行うことになった。
その間はしばし留まるので、妾たちはしばらく自由行動だ。
しかし今は街なので人が多く、狐っ娘は凄く目立つ。
囲まれて耳や尻尾に触られるのは嫌なため、何処か人気のない場所を探しながら適当に歩く。
当然のように姉御を守る舎弟のイギーも一緒だが、途中でさらにもう一人増えた。
けれど、それは仲間ではない。全く知らない人だ。
やがて何処かの神殿のような遺跡に足を踏み入れた妾は、隣に並んで歩いていた人に話しかける。
「随分と肝っ玉がでかいようじゃな。
こんなところで、襲撃しようなどとはのう」
妾は人が少ないところを探していたが、何処に行こうと一人も居なくなることはない。
それに今は夕方で、まだ日が出ているので外に出ている人も多かった。
遺跡なので多少は少ないが、いつ見られてもおかしくはない。
「しかも珍しいのう。
お前のように本体を見せて、直接戦いを挑んでくる敵はのう。
……名乗ると良い」
正々堂々と挑んでくるのは、何とも男らしい
妾も基本的には脳筋なので、無関係な人を巻き込まない限りは敵だろうと嫌いではなかった。
「名をチャカ。冥界の神アヌビスを暗示とする
……イナリ。お前の命、もらい受ける」
まさか命をもらい受けるという言葉を聞くとは思わず、何とも正々堂々した敵だ。
こういうのは武人気質なワムウが好きそうだし、これまでの
それはそれとして、妾は神殿の奥へと進んでいく。
チャカも付いてきているので、何も語らなくてもそこで決着をつけるらしい。
さり気なくイギーもチョコチョコ歩きで付いて来る。
姉御が戦うらしいので、舎弟として邪魔はしない。声がかかるかピンチになるまで待ってくれるのので、気の利いたワンコであった。
やがて、頃合いを見て足を止める。
続いて振り返り、堂々と口を開く。
「かかってくるといい。そのアヌビス神の
妾がわかりやすく挑発すると、彼は腰の剣を抜いて構える。
今のところは
「むっ!?」
チャカが真正面から斬りかかってきた。
身のこなし剣の握り方、構える姿勢は素人そのものだ。
しかし何かがおかしいと思ったとき、柱を斬らずにすり抜けて妾だけ攻撃してきた。
もちろん驚きはしたが、半径3メートル内の気流を読んで危なげなく回避する。
「なるほど、その剣が
物質を透過し、対象を切断する能力か」
少し後方に下がって体勢を立て直すと、チャカは柱の影に隠れて隙を伺う。
妾にはしっかり見ているので問題はないが、この遺跡は観光名所だ。
重要文化財でもあるだろうし、なるべく壊さないようにしたい。
そう思っていたのだが、彼が突然笑い出す。
そして自分が潜んでいる巨大な柱を斬って、妾を押し潰そうと倒してきたのだ。
「通り抜けて斬るだけじゃあねえ! 柱そのものだって、切断できるんだぜえ!
死ねえ! イナリーッ!」
チャカは倒れる柱の上に乗って勝ち誇っている。
さらに重力に引かれて十分に接近したあと、妾に向かって斬りかかってきた。
だが、その程度でやられるわけがない。
奴が振り切るよりも先に、右ストレートを柱に当てて木っ端微塵にする。
「のじゃあッ!」
「何いいいいッ!!?」
遺跡をぶった斬ったのは彼だし、もう多少壊れても問題ないと判断したのだ。
さらに足場を失って宙に放り出されたチャカも、こっちに落ちてきた。
なので、いつも通りに再起不能にさせてもらう。
「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」
「ぐはあああああっ!!?」
彼は悲鳴をあげて剣を手放して吹き飛んでいく。そのまま地面を何度か転がって、やがて動きを止める。
ピクピクと痙攣しているが死んではおらず、当分は病院のベッドから一歩も動けない。
何にせよ、九栄神の
そう思いたいところだが、完全に納得しきれてはいない。
妾はイギーに真面目な表情を向けて、おもむろに声をかける。
「もし妾が怪しい行動をするようなら、
「ワオン!」
どうやらOKとのことで、妾は倒れている
あれだけのことがあったのに傷一つないとは、何とも頑丈なことだ。
「……さて」
妾はしゃがんで剣を持ち上げて、一気に鞘から引き抜いた。
途端に誰かの思念の頭の中に流れ込み、体を乗っ取り操ろうとする。
「ふむ、やはりな」
しかしアヌビス神の
おまけにあらかじめ身構えておけば、完全に無効化できると言っても過言ではない。
かえって、正体現したねと確信を持つに至る。
取りあえず確認が終わったので妾が剣を鞘に戻そうとしたら、アヌビスは必死に抵抗した。
だが
とにかく一息ついて立ち上がると、仲間の気配を感じたのでそっちに振り返った。
「おい、イナリ。ここに居たのか」
「イギーと居なくなるから、心配したぞ。
敵に襲われたらどうする」
「何だ? 刀を持っているな。何かあったのか?」
承太郎とジョセフが心配してくれていたようで、妾は困った顔をして頬をかく。
「うむ、たった今、敵に襲われたのじゃ」
「何っ!? 敵じゃと!?」
「もう終わったがのう」
アブドゥルの疑問に答えると、ジョセフが反応して周囲を見回す。
そして妾は、先程ボコボコにして再起不能にした哀れな被害者に近づいていく。
よっこらしょとしゃがみ込んで、波紋で治療を行いながら続きを話す。
「アヌビス神の暗示の
剣の達人で、物体をすり抜けて物を切断できる
しかし、もしチャカが体を乗っ取られている間に、他に人を斬ってたらどうしたものかだ。
妾はそんなことを考えながら、ジョセフたちと会話する。
「ちなみに、
人の体を乗っ取って操るから、気をつけることじゃ」
「なっ、何だってえっ!? イナリさん! そんなの持ってて大丈夫なのかよ!?
川に投げ捨てたほうが、いいんじゃあないか!」
ポルナレフの言うことも、もっともである。
そんな危険物を妾が持ってるということは、いつ体を乗っ取られて仲間に斬りかかるかわかったものではないのだ。
ちなみに最初は剣だと思っていたが、良く見ると刀のような波模様である。
アブドゥルもそう言っていたので、ちゃっかり呼び方を変えさせてもらう。
それはそれとして妾がボコボコにした被害者を波紋で治療しながら、他の仲間も不安がっているようなので、今ここではっきりと告げる。
「いや、この刀は持っていく。
妾なら体を乗っ取られることはないし、ディオに対する武器にもなりそうじゃしな」
「ううむ、シショーのやることじゃしなあ」
「……やれやれだぜ」
ジョセフは闇の一族を仲間にしたときも、一緒にいたのだ。
そういうこともあるかと、諦めている。
承太郎も呆れた溜息を吐いており、他の仲間も今さら気にしても仕方ないと受け入れた。
この中で唯一納得できていないのは、アヌビス神の
鞘に入っていても、ある程度の思念は感じ取れた。
これから自分がどうなってしまうのかと、物凄く不安がっているようだ。
「安心せよ。お前が妾の言いつけを守る限り、溶鉱炉に投げ捨てたりはせぬ」
今の発言で、仲間たちの視線が妾に集中する。さらに表情が、人の心とかないんかに変わった。
そしてアヌビス神は、恐怖と絶望に塗り潰されそうになっている。
だが別に、悪いことをしなければいいだけだ。
「それに妾は、最強の
お前と組めば無敵じゃろうし、日本に帰国したら付喪神として祀ってやろう」
むしろディオの手下としてこき使われるより、待遇は良いはずだ。
「妾は
まだ見ぬ強敵と、出会えるかも知れぬぞ」
スピードワゴン財団の依頼で世界中を飛び回り、悪の
ここまで聞いたアヌビス神は、高待遇と最強の使い手と武器としての活躍の場、その他諸々でおまけに生殺与奪まで握られているため、妾の刀になることを受け入れるのだった。