イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

39 / 76
ギャンブル

 バステトの幽波紋(スタンド)使いを再起不能にして、磁力も消えて元通りになる。

 

 けれど追跡中に何かあったようで、街の人々がジョセフとアブドゥルを見る目がちょっとおかしい。

 彼らは頑なに語ろうとはしないけれど、聞いてはいけない気がしたのでスルーしておく。

 

 

 

 とにかく九時になったら、敵が見つからなくてもホテルの前に集合と決めていた。

 妾たち以外の他のメンバーも続々と集まってくるが、全員ではなく足りない。

 

 何故かポルナレフと一緒に行動しているはずのイギーだけ集合場所に来ていて、もう一人の姿が何処にも見えなかった。

 

 なので妾は少しかがんで、率直に尋ねてみる。

 

「イギーよ。ポルナレフはどうしたのじゃ?」

「キャンキャン!」

 

 相変わらず犬語はわからないが、彼の身に何かが起きたのは確かだ。

 

 普通に考えてポルナレフは、新手の幽波紋(スタンド)使いと戦っている。

 もしくは今、この場所に来られない状態になっていると考えるのが妥当だろう。

 

「しかしイギー。小さくなったのう」

「くう~ん」

 

 明らかに若返っているというか、子犬になっている。

 大変可愛らしいが、他の仲間たちはこの子がイギーとは思っていないようだ。

 

「なあ、シショー。本当にこの犬がイギーなのか?

 ワシには、他人のワンちゃんにしか見えんのだが」

 

 ジョセフが顎を弄りながら、難しい顔で質問してくる。

 なので妾は、率直に答えていく。

 

「匂いで判別する限り、間違いなく本物じゃ。

 恐らく敵の幽波紋(スタンド)攻撃を受けて、子犬にされてしまったのじゃろう」

 

 現時点では敵がどんな能力を持っているかは、殆どわかっていない。

 しかしイギーを子供に戻されたことで時間を巻き戻すことが判明し、そんな芸当ができるのは間違いなく新手の幽波紋(スタンド)使いだ。

 

「待ってください。では、ポルナレフも?」

「うむ、恐らく子供に戻されておるな。……もしくは」

 

 花京院が発言を補足するが、そのあとは口にしたくはない。

 子供にしか戻せないとは限らずに、さらに時間を逆行させられてもおかしくはないのだ。

 皆もそのことに気づいたのか、緊張した表情にる。

 

 取りあえず、唯一の目撃者であるイギーに声をかけた。

 

「ではイギーよ。案内を頼むぞ」

「あおん?」

「いや、じゃからな。妾たちをポルナレフの元に──」

 

 イギーならポルナレフが何処に居るか、もしくは敵と遭遇した場所を知っているはずだ。

 しかし、どうやら妾の言葉を理解できてないらしい。

 

 今はこの人と一緒ならもう安心だと言わんばかりに、完全に気を許して呑気にじゃれついている。

 これでは会話にならない。

 

「いかんな。どうやらイギーは、思考まで子供になっておるようじゃ」

 

 きっと記憶も曖昧で、自身に何が起きたのかも上手く思い出せないのだろう。

 だが完全に忘れたわけではないため、集合場所のホテル前まで来たのだ。

 

「……まあ良い。ならば妾が追跡しよう」

 

 こう見えて、人間を遥かに越える嗅覚だ。

 イギーがこれまで歩いてきた来た道を逆に辿れば、自ずと犯人と遭遇する。

 まだ匂いも薄れていないし、ポルナレフ元にも辿り着けるだろう。

 

 皆も異論はないようだ。

 そういうことで新手の幽波紋(スタンド)使いに警戒しながら、孤立した仲間を探しに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 イギーの匂いを追跡すると、予想通りポルナレフの存在も確認する。

 さらにもう一人の匂いも混ざっていて、彼をそれを追って行ったことがわかった。

 

 二人は同じ道を進んでおり、少しずつ距離が近くなっている。

 途中で戦いになったようで、ある家に入って行ったようだ。

 

 少なくとも、まだ生きている可能性は高い。

 しかし犯人と思われる新手の幽波紋(スタンド)使いの匂いもするので、時間的な猶予はあまりなさそうだった。

 

「ポルナレフと敵は、この家にいるようじゃな。

 新手の幽波紋(スタンド)使いも一緒じゃが、入るしかあるまい」

 

 急いで突入して救出するチームと、外から見張るチームに分ける。

 妾は当然のように危険度が高いほうであり、こっそり忍び込んで狐耳を澄ますと入浴中のようだ。

 

 そして不審な男も遠目に確認できて、今まさに幽波紋(スタンド)攻撃を仕掛けようとするところだった。

 

 

 

 そこから先は、特に語ることはない。

 

 いくら時間を逆行しようと、その前に本体を叩きのめせばいいのだ。

 能力は恐ろしいが、実際の戦闘力は大したことなかった。

 

 なので妾が守りに徹して囮になり、タゲを取ってる間に承太郎と花京院が一斉攻撃した。

 状態異常には耐性があって、さらに一番年齢が上なのだ。

 敵が伸ばしてきた影をアヌビスで切り刻んでやったし、ちょっとやそっと戻されたぐらいで大した影響はない。

 

 結局抵抗虚しく複数人にボコられて、セト神の幽波紋(スタンド)使いは再起不能になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ポルナレフとイギーはセト神の幽波紋(スタンド)使いを倒して体が元に戻り、ようやく人心地ついたので、少し遅めの食事をいただく。

 

 そして距離もかなり近づいたので、念写の精度が上がることを期待する。

 ジョセフが隠者の紫(ハーミットパープル)を使った。

 

 カメラを破壊したあとの写真は、ディオの拠点を写している。

 妾たちは今後、そこを目指さないといけないのだった。

 

 

 

 それから少し経ち、やがて目的地であるカイロに到着する。

 人口は600万人で建物だけでも200~300万はあるため、まともに探してたら日が暮れてしまう。

 

 取りあえず外周部から順番に調べていき、一区切りついたところでカフェに寄って人数分のアイスティーを注文する。

 

 残念ながら、店主や客に聞いても手がかりなしだ。

 このまま地道な聞き込みを続けるのも考えもので、どうしたものかと悩んでいると、店内にいる客の一人が声をかけてくる。

 

「その建物なら、知ってますよ。

 間違いない。あの建物だ」

 

 彼は一人で席に座っていた。

 そしてどういう意味があるのは知らないが、華麗にトランプを切っている。

 

 何にせよ妾たちにとっては貴重な手がかりなので、当然のように近づいて話を聞く。

 

「確かにその写真の館なら、何処にあるか知っていると言いました」

「何だって! 本当か!」

「そいつはありがたい!」

「やった! こんなに呆気なく写真の場所がわかるなんて! 俺たちラッキーだぜ!」

 

 ジョセフとアブドゥルとポルナレフは喜んでいる。

 それ以外のメンバーも、普通に嬉しいそうだ。

 何にせよ、これでディオに一歩近づいたと言える。

 

「何処だ! 教えてくれ! 何処なんだ!」

 

 ジョセフが問い詰めると、彼はやれやれという顔をして肩をすくめる。

 

「タダで教えろと言うんですか?」

「そっ、それはそうだな! 10ポンド払おう! さっ、何処なんだ!」

 

 すぐにお金を用意して彼に見せると、今度は鼻で笑われた。

 

「私は賭け事が大好きでね。くだらないスリルに目がなくって、病みつきってやつでして。

 まあ、大方ギャンブルで生活費を稼いでるんですよ。

 貴方、賭け事は好きですか?」

 

 しかしいまいち要領を得ないようで、ジョセフはまだ良くわからないようだ。

 

「何を言いたいのか、わからんが」

 

 妾は何となくだが見えてきたので、彼が口を開く前にこちらから声をかける。

 

「つまりギャンブルで勝負し、妾たちが勝てば建物の場所を教えると?」

「イエス。貴女が勝ったら、タダで教えますよ。そこの場所をね」

 

 応じるのは構わないが、あまり時間をかけるわけにはいかない。

 その辺りについて詰めるために、妾はふむと考えながら尋ねる。

 

「妾たちは、あまり時間をかけられんぞ?」

「賭けなんてもんは、何ででもできるんですよ。時間はかかりません」

 

 そう言って彼は、壁の上を歩いている猫に顔を向ける。

 次に、肉の燻製を二つ放り投げた。

 

 そのうちのどちらを食べるかを、賭けようと言い出す。

 

 しかし、いつまでも教えてくれないからか、ポルナレフが痺れを切らした。

 胸ぐらを掴みかかりそうになり、ジョセフが宥めている。

 

 妾はやれやれと溜息を吐き、これ以上揉める前に彼にはっきりと告げた。

 

「わかった。では、妾が賭けよう。右の肉じゃ。右」

「グッド! 楽しくなってきた! じゃあ私は、左に賭けましょう!」

 

 この時点で彼は新手の幽波紋(スタンド)使いか、もしくはギャンブル狂いかの二択かも知れない。

 妾はそう考えていたが、現時点では証拠も何もなかった。

 

 なのであまり乗り気ではないが彼の提案に乗り、直接確認することにする。

 

「ところで、妾が負けたら、お前に何を払うのじゃ? 100ポンドぐらいか?」

「金はいりません。魂なんてのはどうです? 魂で」

 

 薄々そんな気はしていたが、妾の中ではこの男は新手の幽波紋(スタンド)使いの可能性が高まる。

 しかし、まだ幽波紋(スタンド)攻撃を受けていない。

 

 もう少しだけ、様子を見ることにした。

 

「返事は?」

「うむ、構わんよ。妾の魂を賭けよう」

「グッド!」

 

 取りあえず双方が同意し、賭けは既に始まっている。

 

 この場の全員が猫に目を向けると、ヒラリと壁から地面に飛び降りた。

 続いて、右の肉に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

「良いぞ! 猫よ! そのまま右の肉を食べるのじゃ!

 もし左の肉を食べようものなら! わかっておろうな!」

 

 うっかり心の声が出て尻尾を逆立ててしまったが、成り行きでギャンブルをしているとはいえ、それでも負けるのは嫌なのだ。

 

 すると猫は、そのまま右の肉を口に咥える。

 さらに左の肉には見向きもせずに背を向け、全速力で走り去っていく。

 

 やけに怯えていたように見えたが、一体どういうことなのかとはてと首を傾げる。

 けれど良くわからないが賭けは妾の勝ちのようだ。

 

「どうやら、妾の勝ちのようじゃな!」

「ばっ、馬鹿な! 私の飼い猫が! 何故えええっ!?」

「なんと、イカサマじゃったのか! 勝てて良かったわい!」

 

 細かいことは気にせずに、結果良ければ全てヨシだ。

 妾はハッハッハと笑い飛ばす。

 

「ごっ、豪運!? いっいや! 恐るべきは運命力!

 イナリに挑んだ時点で! わっ私の負けは! 確定していたああああ!!?」

 

 彼はガタガタ震えながら動揺して、仲間たちからイナリ被害者の会的な視線を向けられている。

 どうやらほんのちょっぴりだが、同情されているようだ。

 

 しかし、勝ったのだから何の問題もない。

 ディオの所在がわかるかも知れないし、良いことのはずだ。

 

「それでは約束通り! 館の場所を教えてもらおうか!」

「まっ、ままままけええええっ!!?」

 

 だが妾の勝ちなのは良いが、彼は現実を受け止めきれないらしい。

 髪の毛が真っ白になって発狂し、何だか知らないがコインになっていた人々の魂が解放され、天へと登っていく。

 

 しかし、この様子ではディオの屋敷の場所は聞き出せそうにない。

 妾はやれやれと溜息を吐いて、どうしたものかと頭を悩ませるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。