イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
バステトの
けれど追跡中に何かあったようで、街の人々がジョセフとアブドゥルを見る目がちょっとおかしい。
彼らは頑なに語ろうとはしないけれど、聞いてはいけない気がしたのでスルーしておく。
とにかく九時になったら、敵が見つからなくてもホテルの前に集合と決めていた。
妾たち以外の他のメンバーも続々と集まってくるが、全員ではなく足りない。
何故かポルナレフと一緒に行動しているはずのイギーだけ集合場所に来ていて、もう一人の姿が何処にも見えなかった。
なので妾は少しかがんで、率直に尋ねてみる。
「イギーよ。ポルナレフはどうしたのじゃ?」
「キャンキャン!」
相変わらず犬語はわからないが、彼の身に何かが起きたのは確かだ。
普通に考えてポルナレフは、新手の
もしくは今、この場所に来られない状態になっていると考えるのが妥当だろう。
「しかしイギー。小さくなったのう」
「くう~ん」
明らかに若返っているというか、子犬になっている。
大変可愛らしいが、他の仲間たちはこの子がイギーとは思っていないようだ。
「なあ、シショー。本当にこの犬がイギーなのか?
ワシには、他人のワンちゃんにしか見えんのだが」
ジョセフが顎を弄りながら、難しい顔で質問してくる。
なので妾は、率直に答えていく。
「匂いで判別する限り、間違いなく本物じゃ。
恐らく敵の
現時点では敵がどんな能力を持っているかは、殆どわかっていない。
しかしイギーを子供に戻されたことで時間を巻き戻すことが判明し、そんな芸当ができるのは間違いなく新手の
「待ってください。では、ポルナレフも?」
「うむ、恐らく子供に戻されておるな。……もしくは」
花京院が発言を補足するが、そのあとは口にしたくはない。
子供にしか戻せないとは限らずに、さらに時間を逆行させられてもおかしくはないのだ。
皆もそのことに気づいたのか、緊張した表情にる。
取りあえず、唯一の目撃者であるイギーに声をかけた。
「ではイギーよ。案内を頼むぞ」
「あおん?」
「いや、じゃからな。妾たちをポルナレフの元に──」
イギーならポルナレフが何処に居るか、もしくは敵と遭遇した場所を知っているはずだ。
しかし、どうやら妾の言葉を理解できてないらしい。
今はこの人と一緒ならもう安心だと言わんばかりに、完全に気を許して呑気にじゃれついている。
これでは会話にならない。
「いかんな。どうやらイギーは、思考まで子供になっておるようじゃ」
きっと記憶も曖昧で、自身に何が起きたのかも上手く思い出せないのだろう。
だが完全に忘れたわけではないため、集合場所のホテル前まで来たのだ。
「……まあ良い。ならば妾が追跡しよう」
こう見えて、人間を遥かに越える嗅覚だ。
イギーがこれまで歩いてきた来た道を逆に辿れば、自ずと犯人と遭遇する。
まだ匂いも薄れていないし、ポルナレフ元にも辿り着けるだろう。
皆も異論はないようだ。
そういうことで新手の
イギーの匂いを追跡すると、予想通りポルナレフの存在も確認する。
さらにもう一人の匂いも混ざっていて、彼をそれを追って行ったことがわかった。
二人は同じ道を進んでおり、少しずつ距離が近くなっている。
途中で戦いになったようで、ある家に入って行ったようだ。
少なくとも、まだ生きている可能性は高い。
しかし犯人と思われる新手の
「ポルナレフと敵は、この家にいるようじゃな。
新手の
急いで突入して救出するチームと、外から見張るチームに分ける。
妾は当然のように危険度が高いほうであり、こっそり忍び込んで狐耳を澄ますと入浴中のようだ。
そして不審な男も遠目に確認できて、今まさに
そこから先は、特に語ることはない。
いくら時間を逆行しようと、その前に本体を叩きのめせばいいのだ。
能力は恐ろしいが、実際の戦闘力は大したことなかった。
なので妾が守りに徹して囮になり、タゲを取ってる間に承太郎と花京院が一斉攻撃した。
状態異常には耐性があって、さらに一番年齢が上なのだ。
敵が伸ばしてきた影をアヌビスで切り刻んでやったし、ちょっとやそっと戻されたぐらいで大した影響はない。
結局抵抗虚しく複数人にボコられて、セト神の
ポルナレフとイギーはセト神の
そして距離もかなり近づいたので、念写の精度が上がることを期待する。
ジョセフが
カメラを破壊したあとの写真は、ディオの拠点を写している。
妾たちは今後、そこを目指さないといけないのだった。
それから少し経ち、やがて目的地であるカイロに到着する。
人口は600万人で建物だけでも200~300万はあるため、まともに探してたら日が暮れてしまう。
取りあえず外周部から順番に調べていき、一区切りついたところでカフェに寄って人数分のアイスティーを注文する。
残念ながら、店主や客に聞いても手がかりなしだ。
このまま地道な聞き込みを続けるのも考えもので、どうしたものかと悩んでいると、店内にいる客の一人が声をかけてくる。
「その建物なら、知ってますよ。
間違いない。あの建物だ」
彼は一人で席に座っていた。
そしてどういう意味があるのは知らないが、華麗にトランプを切っている。
何にせよ妾たちにとっては貴重な手がかりなので、当然のように近づいて話を聞く。
「確かにその写真の館なら、何処にあるか知っていると言いました」
「何だって! 本当か!」
「そいつはありがたい!」
「やった! こんなに呆気なく写真の場所がわかるなんて! 俺たちラッキーだぜ!」
ジョセフとアブドゥルとポルナレフは喜んでいる。
それ以外のメンバーも、普通に嬉しいそうだ。
何にせよ、これでディオに一歩近づいたと言える。
「何処だ! 教えてくれ! 何処なんだ!」
ジョセフが問い詰めると、彼はやれやれという顔をして肩をすくめる。
「タダで教えろと言うんですか?」
「そっ、それはそうだな! 10ポンド払おう! さっ、何処なんだ!」
すぐにお金を用意して彼に見せると、今度は鼻で笑われた。
「私は賭け事が大好きでね。くだらないスリルに目がなくって、病みつきってやつでして。
まあ、大方ギャンブルで生活費を稼いでるんですよ。
貴方、賭け事は好きですか?」
しかしいまいち要領を得ないようで、ジョセフはまだ良くわからないようだ。
「何を言いたいのか、わからんが」
妾は何となくだが見えてきたので、彼が口を開く前にこちらから声をかける。
「つまりギャンブルで勝負し、妾たちが勝てば建物の場所を教えると?」
「イエス。貴女が勝ったら、タダで教えますよ。そこの場所をね」
応じるのは構わないが、あまり時間をかけるわけにはいかない。
その辺りについて詰めるために、妾はふむと考えながら尋ねる。
「妾たちは、あまり時間をかけられんぞ?」
「賭けなんてもんは、何ででもできるんですよ。時間はかかりません」
そう言って彼は、壁の上を歩いている猫に顔を向ける。
次に、肉の燻製を二つ放り投げた。
そのうちのどちらを食べるかを、賭けようと言い出す。
しかし、いつまでも教えてくれないからか、ポルナレフが痺れを切らした。
胸ぐらを掴みかかりそうになり、ジョセフが宥めている。
妾はやれやれと溜息を吐き、これ以上揉める前に彼にはっきりと告げた。
「わかった。では、妾が賭けよう。右の肉じゃ。右」
「グッド! 楽しくなってきた! じゃあ私は、左に賭けましょう!」
この時点で彼は新手の
妾はそう考えていたが、現時点では証拠も何もなかった。
なのであまり乗り気ではないが彼の提案に乗り、直接確認することにする。
「ところで、妾が負けたら、お前に何を払うのじゃ? 100ポンドぐらいか?」
「金はいりません。魂なんてのはどうです? 魂で」
薄々そんな気はしていたが、妾の中ではこの男は新手の
しかし、まだ
もう少しだけ、様子を見ることにした。
「返事は?」
「うむ、構わんよ。妾の魂を賭けよう」
「グッド!」
取りあえず双方が同意し、賭けは既に始まっている。
この場の全員が猫に目を向けると、ヒラリと壁から地面に飛び降りた。
続いて、右の肉に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。
「良いぞ! 猫よ! そのまま右の肉を食べるのじゃ!
もし左の肉を食べようものなら! わかっておろうな!」
うっかり心の声が出て尻尾を逆立ててしまったが、成り行きでギャンブルをしているとはいえ、それでも負けるのは嫌なのだ。
すると猫は、そのまま右の肉を口に咥える。
さらに左の肉には見向きもせずに背を向け、全速力で走り去っていく。
やけに怯えていたように見えたが、一体どういうことなのかとはてと首を傾げる。
けれど良くわからないが賭けは妾の勝ちのようだ。
「どうやら、妾の勝ちのようじゃな!」
「ばっ、馬鹿な! 私の飼い猫が! 何故えええっ!?」
「なんと、イカサマじゃったのか! 勝てて良かったわい!」
細かいことは気にせずに、結果良ければ全てヨシだ。
妾はハッハッハと笑い飛ばす。
「ごっ、豪運!? いっいや! 恐るべきは運命力!
イナリに挑んだ時点で! わっ私の負けは! 確定していたああああ!!?」
彼はガタガタ震えながら動揺して、仲間たちからイナリ被害者の会的な視線を向けられている。
どうやらほんのちょっぴりだが、同情されているようだ。
しかし、勝ったのだから何の問題もない。
ディオの所在がわかるかも知れないし、良いことのはずだ。
「それでは約束通り! 館の場所を教えてもらおうか!」
「まっ、ままままけええええっ!!?」
だが妾の勝ちなのは良いが、彼は現実を受け止めきれないらしい。
髪の毛が真っ白になって発狂し、何だか知らないがコインになっていた人々の魂が解放され、天へと登っていく。
しかし、この様子ではディオの屋敷の場所は聞き出せそうにない。
妾はやれやれと溜息を吐いて、どうしたものかと頭を悩ませるのだった。