イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
七年が過ぎても、妾は子狐のままで明らかにおかしい。
しかしジョースター家の人たちは、元々小さい種類か幼い頃からの栄養失調で成長が阻害されているのだと、とにかく懐が深くて受け入れてくれていた。
それに妾も、付き合いが長くてお世話になってるので愛着が湧く。
屋敷に住む他の人たちも同じで、家族の一員だと思ってくれているようだ。
ゆえに、何かあったら守護らねばの気分である。
見た目は可愛らしくて番犬としてはチワワレベルだが、本気を出せば酷えことになって、お前のような狐がいるかで追い出されるのは確定だ。
ゆえに見守るだけで手を出さず、大人しくしていた。
二人が殴り合った件以降は、ディオも大人しくしている。
家でも学校でも仲良くしているようだが、ジョジョも完全に信じきれてはいない。
実際その通りで、彼は正式に養子になったあと、その父親の食事に薬を入れて少しずつ弱らせている。
妾が何度か騒いで妨害すると、以降は警戒が厳しくなった。
ジョジョと出かけるなどで屋敷に居ないときを見計らうなど、とにかく悪知恵が働くから困っていた。
ディオの部屋には鍵がかかっていて入れないし、証拠の薬を回収するのは難しい。
さらにあまり狐らしくない行動をすると、妾が屋敷から追放されかねない。
その辺りも考えだすと本当に頭が痛いし、本当に参ってしまう。
ジョジョの父親は、いつまでも風邪が治らずに徐々に悪化している。
だがディオは警戒して尻尾を出さなくなって証拠もないし、もし本当に何らかの病気だったら追放されて捨てられても文句はいえなかった。
そして妾は別に名探偵ではない。
どうしたものかと夜中に屋敷をウロウロする。
屋敷のあちこちにはペット用の通路があるがディオの部屋にはなく、本日の縄張り確認も終わったので、飼い主の元に返ってくる。
取りあえずジョナサンの近くにトコトコ歩いて行くと、今日も書庫で変な石の仮面を熱心に研究していた。
彼は考古学者を目指していて、学校では優秀な成績だ。
石仮面は亡き母が買ったものらしい。
妾はそういうのはさっぱりなので、暖炉の近くで温かそうな場所で丸くなる。
先に寝ようかなと、大きなアクビをした。
(しかし、妾は三度の飯よりも日向ぼっこが好きなのに。
ディオが来てから、のんびり過ごせる時間が減ったからのう)
何かやらかすんじゃないかとヒヤヒヤして、常に目を光らせておく必要がある。
飼い主からの呼び出しがかからなければ、基本的に物陰から様子を伺っていた。
なので日向ぼっこの時間が削れて、あまり良い状況とは言えない。
それはそれとして妾が目を閉じて打とうとしていると、書庫の本棚に書物を戻そうとしていたジョジョがうっかり箱を床に落とした。
慌てて拾って元に戻そうとしたが、偶然中身が見えてしまう。
するとそこには色んな意味でヤバい内容の手紙が入っていて、ディオへの疑いが確信に変わったのだった。
次の日、父親に医者が処方した薬を飲ませようとしているディオを、ジョジョが止めて問い詰めると正体を現した。
友情を失うぞとか言っていたが、第三者的な立場で色々見聞きしている妾としては、ぶっちゃけ最初からそんなものはなかったと言わざるを得ない。
けどまあライバル的なポジではあったので、対等な関係には違いなかった。
しかしそれはそれで、動かぬ証拠である謎の薬を手に入れる。
今後ディオは近づけずに父親は直接医者が処方することになり、ジョジョは入手先を調べるためにロンドンに向かい、事態は大きく動き出すのだった。
一先ず屋敷は安全になったので、妾はジョジョに付いて行く。
子狐なのでコートの内ポケットや鞄の中に入れるし、そこまで邪魔にはならないはずだ。
ただロンドンでも一番ヤバい街のオーガーストリートに足を踏み入れるため、荒事になる可能性が高い。
何しろディオからすれば、ジョジョは計画を邪魔する目障りな敵だ。
こういう機会に始末しようと企むのは、時間的には難しくても十分に考えられた。
正体を隠して金で雇ったゴロツキに殺させれば、足はつかない。
飼い主は強いが普通の人間のため、万が一のときには不思議生物の妾が守護らねばと決意を新たにする。
それにジョナサンとは、幼い頃から一緒だったので確かな友情があった。
子狐にしてはやけに危機管理のも高いので、同行を許してくれる懐の深さは大変ありがたいのだった。
とにかく馬車から下りた妾たちは、雪の降る薄暗い路地を進んでいく。
自分をジョジョの隣をトコトコ歩いて、小さな足跡をつけていた。
けれど見た目は子狐で可愛らしくても常に周囲を警戒し、何か見つけたらすぐに伝えるつもりだ。
しかしその心配はなく、何度目かの行き止まりで引き返そうとしたとき、三人組のゴロツキがこちらに走り寄ってきた。
真正面から各々武器を持っていたので妾が伝えるまでもなく、ジョナサンは戦いの構えを取る。
「なるほど! 名前にふさわしい街だ!」
どうやらジョジョの身包みを剥ぐつもりのようだ。
戦いは避けられそうにないが、想定の範囲内である。
正々堂々で不意打ちではなかったので、対処は容易だ。
まずは一人目が、ナイフを振り上げて飛びかかってきた。
巨体のジョジョばかり注目されて、全く気にも留められていない妾が跳躍する。
続いて相手の無防備な顔面を、小さな前足で爪を出してガリガリ引っ掻いてやった。
「ぎゃああっ!? しっ、しまった!? ナイフが!」
当然のように不意打ちは成功して、ゴロツキは慌てて顔面を引っ掻く妾を排除しようとする。
ナイフは危ないので咄嗟に投げ捨て、掴みかかろうとした。
しかもその前に後ろ足で鼻っ柱を蹴っ飛ばし、ヒラリと避ける。
空中で一回転して、音もなく地面に降り立った。
一瞬苛立った顔で妾を見たが、爪の跡が残る顔になった彼はすぐに気持ちを切り替えて、今度こそジョジョを狙う。
さらにタイミングを合わせて、もう一人の仲間も別方向から同時に攻撃してきた。
だが、結果は失敗だ。
ジョナサンの丸太のような腕から繰り出されるパンチが、同時に顔面に当たった。
ゴロツキ二人は吹き飛ばされて雪の上に叩きつけられて、気を失う。
まさ最後の一人が残っているが、どういう原理か回転しながら高速移動する帽子状の刃物を投げてきた。
これをまともに受けると肉が抉れて骨に達する可能性があって、非常に不味い。
しかし軌道も読み難いので、常人には避けられないだろう。
妾は少しだけ悩んだが、やがて結論を出す。
(ジョースター家は気に入っていたが、仕方あるまい)
もしジョジョが大怪我をするか、万が一でも殺されてしまえば後悔してもしきれない。
ゆえに妾が嫌われて捨てられることになっても、納得したうえでの判断なので仕方ないことだ。
どうせ前々から不審に思われていただろうし、遅かれ早かれと言える。
妾は再び跳躍し、金属部分を避けてハットの中に勢い良く飛び込んだ。
それによって強引に軌道を変え、攻撃目標のジョジョではなく、あらぬ方向に飛んで行って壁に突き刺さる。
その様子を見た最後に残ったゴロツキは、解説役の才能があるようだ。
「何ィーッ!!! 危険な刃の中心に! 子狐が飛び込んだあああっ!!!
まるで! ライオンの火の輪潜りのようだああッ!!!」
大声で叫ぶ彼の言葉を聞きながら、軌道を変えて壁にめり込んだ帽子の中から、妾は不敵な笑みを浮かべて飛び降りて雪の上に着地する。
「イナリは僕の親友だ! 普通の子狐と侮ったのは、失敗だったな!」
そして子狐に気を取られて、生じた隙を見逃すはずがない。
ジョジョが素早く近づき、最後の一人も勢い良く蹴り飛ばして決着となった。
親友として扱ってくれるの嬉しいが、子狐にあるまじき行動をしたのだ。
もう、ジョナサンと一緒には居られない。
妾は背を向けてこっそり去ろうとすると、ジョジョが正面に回り込んで地面に跪み、そっと手を差し伸べる。
「イナリ! キミが何者であろうと僕の親友だ! そして、大切な家族でもある!
だから頼むから、何処にも行かないで欲しい! 僕を孤独にしないでくれ!」
どうやら普通の狐っぽく振る舞っていても、妾が賢いだけでないのは気づいていたようだ。
まあジョジョが幼い頃からずっと一緒だったし、自分でも気づかないうちにやらかしている可能性もある。
と言うか冷静に振り返ってみると、色々ヤベえことをしていた気がした。
だが寛大な彼だけでなく、ジョースター家もあえて見逃していたのだ。
しかも家族同然に思ってくれていたことが、今ここに明らかになる。
妾は胸の奥に熱いものが込みあげ、それと同時に妙に小っ恥ずかしくなってきた。
別に愛の告白ではないのだが、僕たち親友だよねと堂々と告げられたのだ。
自分としてはやぶさかでなくても、口に出すのは恥ずかしい。
ゆえに無言でジョジョの胸に飛び込んだあと、しばらくコートのポケットに引き籠もるのだった。
その後、騒ぎを聞きつけて大勢人が集まってきたが、最後に倒れたゴロツキのスピードワゴンに、ジョジョがここに来た目的を語った。
その発言を聞いて正真正銘の紳士だと理解したようで、彼は快く仲間になって周囲を宥め、東洋の毒薬を売る店に案内してくれたのだった。