イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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ハヤブサ

 新手の幽波紋(スタンド)使いを倒した妾たちは、引き続きディオの屋敷を探す。

 カイロの住民から南の方を探していけば見つかると教わり、ジョセフも血筋で感じるようだ。

 近づいているのは間違いない。

 

 しかし、さっきから妾たちの後方が騒がしい。

 何やら懐かしい声が聞こえるので、少し様子を見に行ってみる。

 そこではホル・ホースとボインゴが言い争っていて、呆れた顔で声をかけた。

 

「何やっとるんじゃ? お前たち」

「げえっ!? イナリ!」

「いっ、イナリ! ……さん」

 

 大方、妾たちを殺すつもりなのだろう。

 けれど、ボインゴは改心したはずだ。

 まさかホル・ホースが無理やり連れて来たのではと、ジト目で彼を見つめる。

 

「いっ、いやー! 偶然だな! 俺たちはちょっと、カイロの観光をな!」

「ほう、観光か」

 

 次にボインゴに視線を向ける。

 彼はガタガタ震えながら、凄い勢いで首を横に振っていた。

 

「ばっ、馬鹿!?」

「どうせホル・ホースが、無理矢理連れて来たのじゃろう。

 まだ小さい子供なのに可哀想なことをする」

 

 妾も見た目こそ小さいが百歳を越えている。

 しかし、ボインゴは本当に子供の幽波紋(スタンド)使いだ。

 それに性根が臆病なので、戦いには向いていない。

 

「さて、ホル・ホース。何か言い残すことはあるか?」

「待てっ! 待ってくれ! 俺はディオさ……ディオに脅されたんだ!

 生き残るのに必死だったんだ! だから、見逃してくれよ!」

 

 ホル・ホースが勝ち馬に乗るタイプなのはわかってる。

 ディオに脅されているのも、本当だろう。生き残るためには何でもやるのも、一応納得はできた。

 

「まあ、同情の余地はなくもないが」

 

 しかし見逃すには条件がある。

 彼なら知っていそうな、ディオの屋敷の場所を教えてもらいたい。

 

 ホル・ホースもわかっているだろうが、迷っているのか冷や汗をかいていた。

 そしてこの距離なら彼が幽波紋(スタンド)で攻撃するよりも、こっちがアヌビスの鞘で峰打ちするほうが速い。

 

 しかしなかなか決心がつかないようなので、やれやれと肩をすくめて溜息を吐く。

 

「ディオは必ず倒す。お前も改心するなら、妾は何も言わぬよ」

「そっそうか! 恩に着るぜ! イナリの姉御!

 けど、必ずディオを倒してくれよ! 本当に頼むからな!」

 

 余程ディオが恐ろしいのか、ホル・ホースはそう何度も頼み込む。

 妾は最初からそのつもりなので、そこまで念押しされなくても大丈夫だ。

 

 そしていつの間にか呼び捨てではなく、彼まで自分の舎弟になってしまった。

 取りあえず頭を抱えながらも、どうしたものかと考えつつ、続きを話していく。

 

「それはお前次第じゃ。

 ディオが拠点を変えて逃げ延びる可能性もある。

 教えるなら、早いほうが良いのは確かじゃ」

 

 スピードワゴン財団の報告では、彼は一度拠点の場所を変えているらしい。

 なので再び逃げ出す可能性もあり、ホリィと仗助を少しでも早く回復させるためにも、倒すのは早いに越したことはなかった。

 

「わっ、わかった! 言うっ! 言うから!

 マジでやべえんだ! 助けてくれよ! イナリの姉御!」

 

 とうとう土下座をするだけでなく、妾の足にすがりついてくる。

 

「ええい! まとわりつくでない!

 通行人が見ておるではないか!」

 

 このままだと忠誠の証に足を舐め始めそうだ。

 心底嫌そうな顔をして引っ剥がすと、街を歩く通行人にも奇妙な視線を向けられてることに気づき、正直とても恥ずかしい。

 

 

 

 取りあえず約束通り、ホル・ホースからディオの館の場所を教えてくれた。

 だが残念ながら、他の幽波紋(スタンド)使いのことは知らないらしい。

 バレると対策されるから、秘密主義になるのも当然かと納得しておく。

 

 けれど、おかげでディオの拠点がわかる。

 これからいよいよ、エジプトの旅の最終目的地に踏み込むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 道案内役にホル・ホースをと思ったが、彼を完全に信じ切るのは危険だろう。

 旗色によっては平気で裏切りそうだし、取りあえず館の場所だけを教えてもらった。

 

 しばらくスピードワゴン財団に保護してもらい、ディオを倒したらフリーの幽波紋(スタンド)使いとして、色々便利に使うつもりだ。

 過去にたくさん酷いことをしたので、馬車馬のようにこき使っても許されるだろう。

 

 けどまあ今問題なのはホル・ホースの処遇ではなく、ディオのことだ。

 

 恐らく残った戦力をかき集めて、屋敷の警備は万全にしているに違いない。

 

 

 

 実際に、正門にはハヤブサが留まっていた。

 数キロ先から、ずっと妾たちを監視している。

 片時も視線をそらさずに警戒し続けているということは、知能が高い動物の幽波紋(スタンド)使いなのだろう。

 

 自分やイギーの例もあるし、珍しいが驚きはない。

 取りあえず妾は、仲間たちに断りを入れて一人だけで呑気に近づいていく。

 

 スピードワゴン財団やジョセフたちが人払いをしてくれているので、今なら目撃される心配はない。

 

 きっとこのハヤブサは、屋敷に近づく者を無差別に攻撃しているのだろう。

 なので一定の距離で足を止めて、にこやかに話しかける。

 

「妾は争いは好まぬ。

 悪いがこの場は見て見ぬ振りをして、黙って屋敷に入れてくれぬか?

 そちらが攻撃せぬなら──」

 

 妾がここまで喋ると、ハヤブサは無言での幽波紋《スタンド》攻撃をしてきた。

 

 巨大な氷柱を作り出して、串刺しにするべく勢い良く降らせてきたのだ。

 

「やれやれ、まだ話している最中だと言うのに」

 

 目にも留まらぬ速さでアヌビスを抜刀し、氷柱を斬り刻んであっさり無力化する。

 しかしどうやら、攻撃を防がれることは読んでいたようだ。

 

「なるほど、地面を凍らせて動きを封じる策じゃったか」

 

 足元が完全に凍りついて、引っ剥がすには骨が折れそうだ。

 しかし、それは一般人の場合だ。妾なら足止めにもならない。

 

 けれどすぐに無数の氷柱が高速で飛んできたので、そっちも全て切り払う。

 

「踏み込みが足りぬわ!」

 

 島田兵が実弾兵装を防ぐように、妾もこの程度なら余裕で切り払える。

 ただしハヤブサは空を飛んでいて、踏み込む必要は全くないため、条件反射的に口から出ただ。

 ぶっちゃけ意味はなかった。

 

 とにかく戦闘が始まったことで、ジョセフたちも急ぎ近づいてきている。

 そろそろ片をつけさせてもらう。

 

 妾はアヌビスを一度鞘に戻し、腰を沈めて構える。

 安全圏から一方的に攻撃しようと、空高く離脱していくハヤブサに向けて、最後の忠告を行う。

 

「お前のディオへの忠誠心には感服するが、心底残念じゃ!

 もっと違う出会いならば! いや、言うまい!」

 

 ほんの少し戦っただけで、このハヤブサがディオを裏切って妾たちの仲間になることは決してないと、本能的に理解してしまう。

 

 死ぬまで狙われるぐらいなら、今ここで確実に葬ったほうがいい。

 ハヤブサは無関係な人や動物などを巻き込むことを、全く気にしないからだ。

 

 これ以上被害が出る前に、仕留めないといけない。

 妾は集中し、時速300キロという猛スピードで降下してくる小さな敵を、じっと見据える。

 

 次にアヌビスに渦巻く風をまとわせ、居合のように一気に引き抜いた。

 

「……勝負ありじゃ」

 

 次の瞬間には、見えない風の刃がハヤブサだけでなく、氷を操る幽波紋(スタンド)ごと真っ二つにする。

 二つに分かれて、真っ逆さまに地面に落下していく。

 

 そして妾は息を吐いて、アヌビスを再び鞘に戻す。

 チリンという金属音が、戦いの終わりを静かに告げるのだった。

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