イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
門番であるハヤブサの
ジョースターの血筋が反応しているらしく、大体の場所はわかるので館から動いてないのは確かなようだ。
しかし、こちらが正門を開けるよりも先に、中からゆっくりと開かれる。
そして、一人の男が姿を現した。
彼は宙を舞うようにして近づいてきて、妾たちの目の前でピタリと止まる。
「ようこそ、イナリ様。お待ちしておりました。
私はこの館の執事で、ダービーと申します」
恭しく頭を下げて自己紹介をする
どうやら先日再起不能にしたギャンブラーの弟で、しかし弔いの戦を仕掛けるつもりはないようだ。
だが
妾に比べたら弱いが、それでも少しだけ感心した。
「ほう、なかなかやるのう」
「イナリ様に、そう言っていただけるとは。光栄の極みでございます。
それではお礼に、とっておきの世界にお連れしましょう」
ダービーの足元に空間の穴が開いた。
妾は承太郎と一緒に、その中に飲み込まれていく。
ジョセフと花京院が咄嗟に
しかしここであることを思い出した妾は、風を操って飛行して戻る。
小さくなっていく空間の穴から、ひょっこり顔を覗かせた。
「十分経って妾たちが戻って来ぬようなら、館に火を放つのじゃ。
念の為の保険というやつじゃ。いいな?」
「おっ、おう。何か余裕そうだな」
言うべきことを言い終わったので、風を解除して自由落下に身を任せようとした。
だが長話しすぎたせいか、空間の穴が狭まって頭が引っかかってしまう。
なので両手で掴んで無理やり広げて、仕切り直した。
「よっこらしょ……っと。では、行ってくる」
「ああ、イナリさんも気をつけてくれよ」
最後は心配してくれたポルナレフたちに、溶鉱炉に沈んでいくロボットのようにサムズアップする。
今度は引っかからずに、ちゃんと自由落下していく。
妾はそのまま重力に身を任せて、ジョセフたちの元へと向かうのだった。
少し遅れて危なげなく着地して合流したが、そこは南の島らしき風景が広がっていた。
どうやら屋敷の何処からしいけど、ちょっと良くわからない。
そしてダービーを倒さないと先へは進めないようで、妾はどうしたものかと考える。
(彼は
時と場合と気分によって変わる妾のガバガバ判定によると、まだのじゃのじゃラッシュを叩き込むには早い。
それより何より、彼の近くに置かれているゲーム機やソフトが気になりすぎる。
こんな状況だが、オタク心が騒いでワクワクするのだ。
しかし、彼の人形のコレクションは全く食指が動かない。
盛り上がったところにすん……となってしまう。おまけに魂が宿っていたようで、苦しそうに動いている。
もっと言えば、承太郎が
彼が説明してくれたが人質というやつで、自由になるにはテレビゲームの勝負を受けるしかない。
「ですが、最初に私と勝負するのは、……イナリ様。
貴女を希望します」
「妾じゃと?」
このまま承太郎と勝負するかと思ったが、意外なことに妾を指名してきた。
理由を聞くとジョースターは血筋で、花京院とは繋がりがない。
しかし狐っ娘は仲間を決して見捨てない。
そして人形に変えて人質にすれば、この場の全員に絶大な効果を期待できる。
それに己の身の安全のためにも、一番最初に仕留めておきたかった。
「自惚れの強い男だ! もうコイツ、ワシらに勝った気でいるぞ!」
ジョセフの言葉に同意しつつも、妾はダービーの提案を受ける。
「構わんぞ。最初は、妾が相手をしよう」
「何ッ!?」
「イナリ!?」
「イナリさん!?」
心配してくれる三人は置いておいて、妾は机の上に置かれているゲーム機とソフトが気になっているのだ。
つい耳や尻尾が、フリフリと動いていしまう。
「大丈夫じゃ。自信はある。
テレビゲームは、妾も詳しく知っておるからのう」
妾の趣味は日向ぼっこだが、サブカルチャーも大好きだ。
テレビゲームもやり込んでおり、まさかこんなエジプトの地で触れられるとは思わなかった。
「しかし、古いゲームが多いのう。
じゃが名作は一通り揃っていて、大変趣味が良いのう」
「わかりますか! ディオ様の館には、同好の士がおらず──」
ダービーは人形集めはともかく、ゲームの趣味は悪くはない。
同意を示すとソフトをあれこれ紹介してくれて、興が乗って妾の見解や感想などを語る。
彼も打てば響くように返事をしくれるので、とても盛り上がって楽しい。
「おい、イナリ。勝負はどうなったんだ」
見かねた承太郎がやれやれと息を吐く。
痛いところを突かれたので、妾は慌ててソフトを探し始める。
「イナリ様とは、とても趣味が合うようです!
続きは人形にしてから、存分に語り合いましょう! 今夜は寝かせませんよ!」
「人形になるのはごめんじゃのう」
ダービーは、久しぶりに同好の士と会えたのが嬉しいようだ。
もう勝った気でいて、ウキウキである。
まあ妾も、こんなエジプトでオタク的な趣味が近い人と話せるとは思わなかった。
しかしそれはそれとして、人形になるのはマジ簡便である。
「ふむ、これにするか」
とにかく今は一本のゲームソフトを手に持ち、彼に堂々と見せた。
「ゲームはこの、エフメガで! 対戦を希望するのじゃ!
妾の魂を賭けるぞ!」
「グッド!」
念のために、ハーミット・パープルでゲーム機などにイカサマがないかを調べてもらう。
どうやら問題はないようで、妾は対戦の席につく。
「兄とは違う。イカサマがしませんよ。
……さあ、始めましょう」
「うむ」
コントローラーを手に持って軽く弄ってみると、特に違和感はない。妾がいつも実家で遊んでいる物と同じだ。
そしてこっちが狐色の車を選択すると、ダービーは赤を選ぶ。
レースを開始するとスタートラインに並んだので、無心で小刻みにアクセルボタンを連射する。
「なっ、何いいいいーッ!? 凄まじい連射速度だ!
まっ不味い! 私よりも先に出られてしまう!」
コントローラーを壊さない程度の、絶妙な力加減だ。
それでいて連射パッドを上回る速度で、まずは一歩リードする。
しかし、本番はこれからだ。
「なっ!? ブロックされた!
まさか! 見えているのか!?」
ダービーが追い上げてくるのは予想通りだ。
それを妾は、普通に目で見て対処しているだけである。
「悪いが今回は、手加減抜きでいかせてもらうぞ!」
バイトの巫女たちとゲーム大会をやることもある。
ガチでやると友達をなくすので、毎度程々に手加減して相手をしたり運要素に左右されるボードゲームが主だ。
しかし今回は命が賭けられた勝負なので、プレイヤースキルに左右されるレースゲームを選んだ。
さらに断じて負けるわけにはいかないため、本気である。
「この状態では、追い越すことは不可能!
そして残念ながら、この妾にはレース中のコントロールミスは絶対にない!
甘かったのう! ダービー!」
そう思ったのだが、後ろを走るダービーの車が凄い勢いで回転し始めた。
そして妾の操縦する車に当たって弾かれ、ガードレールに当たってしまう。
「ダービー! お前! このゲームやり込んでおるな!」
「答える必要はありません!」
予想外の攻撃にほんの一瞬反応が遅れたが、とにかく両者は急いでコースに復帰する。
そして、今度は並んでスタートした。
何とかイン側を確保したのでまだ妾のほうが有利だが、決して油断できる状況ではない。
「気に入りました! イナリ様! 魂を賭けているというのに、少しもビビらない!
恐怖を乗り越えたゲーム操作! 貴女ほど手応えのある相手じゃあないと!
私の人形コレクションに加える価値はない!」
ダービーに褒められても全く嬉しくない。
カーブをほぼ同時に曲がって疾走し、その後もレースは続く。
妾たちは互いに競り合いながら、やがてトンネルが見えてきた。
「気づいてないようじゃな! ダービー!」
彼は一切動揺せずに真面目にレースを続けつつ、妾の言葉を耳を傾けている。
「妾に押し勝つつもりか?
お前の15番のパワー残量数値を、見てみることじゃ!」
「なっ!?」
妾はレース中に、超人的な動体視力でダービーの攻撃を器用に避けている。
まともに受けたのは、最初のスピンアタックの一回だけだ。
なのでこっちは全然減っておらず、向こうは半分まで下がってしまっていた。
「スタートのとき、スピンしてブロックしていた妾を弾き飛ばした分!
エネルギーが少なくなったのに、気づかなかったのか!」
妾もレースに集中してたから、気づいたのは今さっきである。
しかしその場の勢いに任せて喋っているし、細かいことはどうでもいい。
だが、ダービーもかなりやり込んでいるようだ。
トンネルの壁を使って、本来は一人しか入れない狭い道を同時に突入する。
「そろそろ妾から攻撃するか!」
「ちいっ!」
重力に逆らえずに壁から落ちてくるダービーを、弾き飛ばしていく。
そして妾はたち闇の加速トンネルを進むが、プレイヤーには何も見えず、あちこちに罠が仕掛けられている。
しかし、二人揃って体が覚えているようだ。
魂を賭けたゲーム勝負でありながら、妙な連帯感を覚える。
そしてキャノン砲を避けて、一瞬の光でわかった。
今は、妾が一歩リードしているようだ。
やがてトンネルを抜けて、二倍加速に入る。
だがここで何と、背後のダービーが残り少ないパワーを使って再びスピンアタックを仕掛けてきた。
「しもうたっ!?」
まともにうけた妾は、コースの外に勢い良く弾き飛ばされてしまう。
「イナリ様をコースアウトさせるために、わざと一台分遅らせたのです!
貴女は気づかなかった!」
「そうかのう! 気づいておらぬのは、ダービーのほうではないか!」
「なっ!?」
まさかスピンアタックを仕掛けてくるとは思わなかったが、妾の動体視力はずば抜けている。
見てから対処は十分に可能であり、今回は何とかギリギリ間に合った。
「これからじゃよ! 勝負がつくのは!
見るが良い! 妾のマシンが飛んだ方向を!」
「おおおおっ!?」
「何いいいっ!?」
妾のマシンは谷を飛び越えて、急カーブの先に着地した。
ダービーを大きく引き離したのだ。
RTA的に言えば、思わぬ失敗によって新たなルートを発見された。
ここからはオリチャーに突入するようなものである。
「とっ、隣へ飛び越え! コースの先へ!? ばっ、馬鹿な!」
「うむ、普通はできぬじゃろうよ!
妾も咄嗟に位置と方角は調整したが、成功するかは賭けじゃったしのう!」
しかしダービーのおかげで、新しいショートカットが見つかった。
妾はウキウキ気分でレースを続行するが、ゴールする前に対戦相手は既に戦意喪失して、人形たちの魂が解放されていく。
だがそれはそれとしてゲームをクリアしないとスッキリしないので、最後まで走り抜いて大幅なタイム短縮に成功する。
なお、これまで散々悪行をしておいて無罪放免とはいかない。
結局色々相談した末に、最後はのじゃのじゃラッシュで吹き飛ばし、ダービーは再起不能にさせてもらったのだった。