イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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ヴァニラ・アイス

 ダービーを再起不能にした妾たちは、館の探索を再開する。

 しかし、まずは別れたポルナレフたちの状況が気になるため合流を目指す。

 

 約束の時間は過ぎているのに、火を放つ気配はない。

 恐らく内部に突入し、妾たちを探しているのだろう。

 

 他の幽波紋(スタンド)使いいるだろうから、安全のために早いところ合流するべきだ。

 

 

 

 

 そして館の幻覚が消えたことで、ポルナレフたちが倒してくれたのだと理解する。

 おかげで五感を研ぎ澄ませると、少し距離があるが全員無事であることがわかった。

 

 ゆえに妾はアヌビスを抜いて、周囲に渦巻く風の刃を形成する。

 

「どうせディオの館じゃ! 少しぐらい壊しても問題はあるまい!」

 

 いつもなら、あとで修繕費を請求されたり、人の迷惑になる行動は控えるようにしている。

 

 しかし、ここは敵の本拠地だ。

 妾たちが侵入していることなど、とっくに気づいている。

 ゆえに、少々暴れたところで問題はないと判断した。

 

 妾はポルナレフたちが居る方角に向かって、壁を破壊しながら一直線に突っ切っていく。

 ジョセフたちは、あとでゆっくり追いついてくれば良い。

 

 

 

 どうやらそう判断したのは、正解だったようだ。

 何しろポルナレフとイギーが、今まさに新手の幽波紋(スタンド)使いに襲われていたのである。

 

「ポルナレフ! イギー! 許せ!」

 

 アブドゥルが二人を助けるために突き飛ばそうとしていた。

 

 だがそこに妾が乱入し、彼もまとめて突風で吹き飛ばす。

 

 緊急だったので加減に失敗し、地面をゴロゴロと転がっていく。

 本当に悪いと思っているし、命を救うためなので許してもらいたい。

 

「いっ、イナリさん!? なっ、何だ! 今のは!」

 

 ポルナレフだけでなく、アブドゥルとイギーも困惑している。

 そして、それは妾も同じだ。

 

 初めて対峙するタイプの幽波紋(スタンド)が、そこにはいた。

 

「妾にもわからぬ! じゃが、突然現れたように見えた!」

 

 奴が攻撃を仕掛けた場所の柱や地面が、丸ごとえぐり取られている。

 何処に消えたのかは不明だけど、完全に消失しているのだ。

 

 明らかに過去最高にヤバい相手であり、そんな奇妙な敵幽波紋(スタンド)と距離を取る。

 他の仲間と共に呼吸を整え、アヌビスを構えた。

 

 すると敵は宙に浮いた円形の姿勢のまま、こちらに喋りかけてくる。

 

「私の口の中が何処に通じているのか、自分でも知らない! 暗黒の空間になっている!

 ディオ様を倒そうなどという思い上がった考えは! 正さねばならんからな!」

 

 能力を教えてくれたのはありがたいが、それだけ自分の幽波紋(スタンド)に自信があるとも言える。

 

 確かに今の発言から考えると、常時ブラックホール状態は非常に厄介だ。

 普通に攻撃しても異空間に飲み込まれるだけで、まともにダメージが入りそうにない。

 

「一人一人、順番に順番に、このヴァニラ・アイスの暗黒空間にばら撒いてやる!」

 

 やけに美味しそうな名前の幽波紋(スタンド)使いは、自分の体を食べ始める。

 そして、完全に見えなくなってしまう。

 

「現実空間から存在を消しおったか!」

 

 五感を研ぎ澄ませても、全く気配が感じない。

 妾には、現実空間から存在を消したとしか思えなかった。

 

「イナリさん! 何か手は! 手はないのかよ!」

 

 取りあえず背中合わせに円陣を組んで、周囲を警戒する。

 焦った表情のポルナレフの質問に、できる限り答えていく。

 

「本体が顔を見せた瞬間を叩く!

 暗黒空間は強力じゃが、展開したままでは妾たちを見つけられぬ!」

 

 暗黒空間に接触してもアウトなので、先程のように本体が顔を見せた瞬間に攻撃する。

 妾はそれしかないと判断して、静かに息を吐いてアビスを鞘に収めた。

 

 今、ヴァニラ・アイスが何処に居るかはわからない。

 しかし幽波紋(スタンド)で攻撃を行うためには、妾たちの位置を正確に知らなければいけない。

 

 必ずチャンスは来るのだと信じて、感覚を研ぎ澄ませる。

 

 やがて姿は見えないが、空間をえぐりながら突っ込んできた。

 

「ちいっ! 面倒な!」

 

 敵の動きはそんなに速くない。

 しかし相手は無敵どころか、接触したら逆にダメージを受けるので厄介だ。

 

「じゃが、奴の位置はわかるぞ!」

 

 確かに敵の姿は見えないし、依然として感じ取れない。

 

 だが現実空間が飲み込まれているのだ。

 不自然な場所を狙えばいいので、ある意味ではわかりやすい。

 

 しかし風の刃で斬りつけても、その全てが飲み込まれて消失してしまう。

 敵を正確に捉えているものの、効いているとは思えなかった。

 

 

 

 やがて大部屋のあちこちがえぐられたり、風でズタズタに切り刻まれる。

 今にも倒壊しそうな有様になってしまう。

 

 なので急ぎ場所を変え、一旦仕切り直すためにポルナレフたちと一緒に走り出す。

 

「イナリさん! どうするよ! このままだとジリ貧だぜ!」

 

 妾は館の廊下を疾走しながら、散発的に攻撃を続けつつ大声で返事をする。

 

「しばし待て! 妾とアヌビスが、突破口を作る!」

 

 ここでアヌビスを指名したことが意外だったようだ。

 彼が驚きの思念を送ってきた。

 

「アヌビスは相手の動きを記憶して強くなる!

 そして幽波紋(スタンド)能力は物質をすり抜けること!

 風の刃に上乗せすれば、暗黒空間の向こうの本体も斬ることができよう!」

 

 アヌビスの戸惑いは大きくなるが、悪い気はしないようだ。

 今は残念ながら弾かれているけれど、思念は得意気である。

 

「ヴァニラ・アイスの動きも攻撃も! そろそろ覚えた頃じゃろう!」

 

 やがて屋敷の入口が見えてきたが、ディオを倒すまで外に出る気はない。

 そのまま進行方向を変えて、二階に続く階段を勢い良く駆け上がっていく。

 

 登り切ると見通しの良い大部屋に入ったので、中央で足を止めてここで待ち受けることに決める。

 

「……一撃じゃ! 一撃で良い!

 ほんの少しでも暗黒空間が解除されたら、あとは仲間たちがトドメを刺してくれる!

 アヌビスの幽波紋(スタンド)の真髄、奴に見せつけてやれ!」

 

 再び背中合わせに円陣を組んで周囲を警戒する。

 本来なら敵の防御を突破し、ダメージを与えるのは不可能だ。

 しかし幽波紋(スタンド)は成長して、アヌビスは相手の攻撃を記憶して強くなる。

 

 ヴァニラ・アイスの絶対防御は攻撃でもある。

 そこに精神の成長が加われば、乗り越えることができると考えた。

 

 なので効果がないとわかっていながら、風の刃を何度も当てたのだ。

 

 それができるかは賭けだが、やってみる価値はある。

 もし無理なら別の手を考えるまでだけど、試す前から諦める理由にはならない。

 

 そしてアヌビスを勇気づけるために、大声で呼びかける。

 

「アヌビス! お前が失敗しても、妾が必ず助ける!

 じゃから大丈夫じゃ! お前の傍には妾がいる! 仲間たちもいる!

 お前を信じよ! 妾が信じるお前を信じるのじゃ!」

 

 何処かで聞いたような台詞を勢いで口にすると、アヌビスはどうやらやる気になったようだ。

 未だかつてないほど幽波紋(スタンド)パワーが上がっており、今なら何でも斬れそうだった。

 

 鞘に収まったそれに手をかけて、静かに感覚を研ぎ澄ます。

 どうやら敵は、足元から攻撃を仕掛ける気だと感知する。

 

 言葉を発せずに、目線と簡単な動きだけで仲間に指示を送った。

 全員が飛び退いた瞬間、敵が床をえぐり取って飛び出してくる。

 

 妾は館の天井に波紋で吸着し、逆向きに堂々と立つ。

 さらに目にも留まらぬ速さで抜刀して、風の刃の斬撃を放った。

 

「ぎゃあああああーッ!!?」

 

 暗黒空間を透過して本体を攻撃どころか、敵幽波紋(スタンド)ごと切り裂いて大きな損傷を与えている。

 予想以上にアヌビスが急成長したことに、表情には出さないが内心でかなり驚たが、不敵な笑みを浮かべて口を開く。

 

「手応えあり!」

 

 おかげで奴の幽波紋(スタンド)の制御が乱れ、一時的だが絶対防御が解除される。

 一斉攻撃のチャンスが訪れた。

 

「今じゃ! 幽波紋(スタンド)パワーをヴァニラ・アイスにッ!」

「「いいですとも!!!」」

「ワオン!」

 

 ポルナレフ、アブドゥル、イギー、そして妾が、ここぞとばかりにヴァニラ・アイスに怒涛の連続攻撃を行う。

 

 全く情け容赦がない。

 複数の幽波紋(スタンド)によって、敵がズタズタに切り裂かれていく。

 

 最後には壁をブチ破り、外に叩き出された。

 すると陽の光が当たって、全身が灰になって風に吹かれて消えていく。

 

 やけにしぶといと思っていたら、ヴァニラ・アイスは吸血鬼、もしくは屍人になっていたらしい。

 けれど結果はどうあれ、完全消滅したからヨシだ。

 

 

 

 外を見ると、いつの間にか日が暮れかけていることに気づく。

 ディオとの決戦は夜になるかも知れないと、一息ついてやれやれと肩の力を抜きつつ、呑気にそう思ったのだった。

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