イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
ヴァニラ・アイスを倒して、遅れて到着したジョセフたちと合流する。
まだ残っている手下の
さらに途中で女性の演技している敵から、ディオが居る場所を喋ってもらう。
妾たちが急ぎ向かうと、やがて長い階段が見えてきた。
その上に、憎き敵が堂々と立っている。
「ついに会えたのう。ディオ」
「おめでとう。イナリ」
パチパチと手を叩いているが、褒められても全然嬉しくない。
「礼に何かをくれると言うなら、お前の命をもらってやろう」
妾がそう言っても何処吹く風で、彼が不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふふっ、一つチャンスをやろう」
何やら余裕の表情に提案してくるディオに、妾は油断なく様子を伺う。
「イナリ、その強さは惜しい。
私の部下にならないか?」
まさかのディオの思いもよらない提案に、妾は戸惑う。
他の仲間たちも驚いていた。
「人間は最低だぞ。イナリ。
賭けてもいい。私に勝って帰っても、お前は必ず迫害される。
奴らが泣いてすがるのは、自分が苦しい時だけだ」
妾はディオの言葉を、否定しきれなかった。
この体は仮初めのモノで、本体は人間ではなく子狐だ。
狐っ娘であっても人とは違うし、迫害や討伐の対象にならないとは言い切れない。
「人間どもは、純粋な人間でない者に、頂点に立って欲しいとは思わないのだ。
そして、お前は英雄の座をすぐに追われるだろう」
別に英雄の座などに興味はないが、ディオの発言は正しいと思ってしまう。
なので妾は良く考えて、皆が注目する中で堂々と返事をする。
「人間が、そのような酷いことをするのは百も承知じゃ。
お前の言うことも、嘘ではなく事実じゃろう」
「シショー!?」
落ち着かせるように、仲間たちに優しく微笑みかける。
「ジョセフ。それに皆も心配はいらぬ」
妾はディオを真っ直ぐに見つめて、はっきりと否定の言葉を口にしていく。
「それでも、妾は皆が……人間たちが好きじゃ。
妾を育ててくれた。この地上の生き物、全てが好きなのじゃ」
思えばジョースター家に拾われるまでは散々だった。
しかしそのおかげで、ジョナサンやエリナ、他にも大切な人たちと出会うことができたのだ。
「もし、お前の言う通りなら。
地上の人々、全てがそれを望むなら。……妾は」
そう言ってアヌビスを静かに引き抜き、ゆっくりとディオに向ける。
「お前を倒して! この地上を去る!」
なお実際にそうなったら、何処か人の来ない僻地でのんびり日向ぼっこでもしながら、自由気ままに暮らすつもりだ。
しかし一応は最終決戦なので、雰囲気を壊さずに勢い任せで答えた。
その結果はと言うと、大きな影響を与えているようだ。
「勝とうぜ! イナリさん!
他の誰でもねえ! アンタ自身のためにだ!」
ポルナレフが男泣きをしている。
さらには承太郎も照れ臭いのか、帽子で顔を隠していた。
「イナリ。俺たちはずっと、誰かのために戦ってきた。
だが、これからは自分自身のために、この戦いを投げちゃあいけねえぜ」
他の仲間たちも概ね同意らしく、最終決戦に向けて気合が入る。
しかしディオは急激に熱が冷めていくようで、心底残念そうに肩をすくめる。
「やれやれ、このディオの誘いを断るとは、つくづく度し難い。
自分から下等生物になりたいなど、私には理解できんが。
そこまで言うならイナリを人間として扱い、もう一度機会をやろう」
今度は何の話だと警戒する。
しかし、ディオはまだ攻撃を仕掛けてくる気はないようだ。
「人間は何のために生きるのか、考えたことがあるかね?」
妾は基本的に脳筋で、あまり深く考えずに生きてきた。
哲学的なことはさっぱりであり、皆目見当もつかない。
「人間は誰しも不安や恐怖を克服して、安心を得るために生きる。
名声を手に入れたり、人を支配したり、金儲けをするのも安心するためだ。
結婚したり、友人を作ったりするのも安心するためだ」
ディオは階段の上の椅子に座って、頬に手を当てている。
そんな支配者たる姿勢で、妾たちに語りかけてきた。
「人のために役立つとか、愛と平和のためだとか、全て自分を安心させるためだ。
安心を求めることこそ、人間の目的だ」
確かに一理ありとは思い、妾は黙って聞く。
「そこでだ。私に仕えることに、何の不安感があるのだ?
他の全ての安心が、簡単に手に入るぞ」
ディオの言っていることは、概ね正しい。
人は近道をしたくなるもので、彼に仕えれば簡単に全てが手に入るのだ。
一も二もなく飛びつく者も多いだろう。
「今のお前のように、死を覚悟してまで私に挑戦することのほうが、不安ではないかね?」
普通の人間ならそう感じても不思議ではない。
しかし妾は、全く不安を覚えていなかった。
「お前は優れた
ジョースターたちの仲間を辞めて、私に永遠に仕えないか?
永遠の安心感を与えてやろう」
彼が何と言おうと、妾の目的は最初からディオの打倒だ。
もうこれ以上彼と話すことはないと判断し、アヌビスに風の刃をまとわせる。
自分は人間として誇りを持って戦うために、大きな声で叫ぶ。
「くどいぞ! ディオ! 妾はお前を倒す!
そして、ジョナサンの体を自由にするじゃ!」
ディオに奪われた、かつての親友であるジョナサンの体を返してもらう。
いつまでも支配されていては浮かばれない。
「ならばしょうがない」
そう言ってディオは椅子から立ち上がり、
ここで妾は静かに呼吸を整えて、自身の生命エネルギーをアヌビスの刀身に伝達させた。
「死ぬしかないな! イナリ!」
「それがお前の
妾とディオは真正面から激突する。
続いて拳と刀が、目では追えないほどの凄まじい勢いで攻守が入れ替わっていく。
「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」
「無駄無駄無駄無……何いいいいいィーーーッ!!!」
勝敗は一瞬で決まった。
強者の余裕で、ラッシュの速さ比べでもしようとしたのだろう。
しかし妾が波紋を流した刀で斬りつけたことで、ディオの両腕は高熱で崩れ落ちる。
「こっ、これは!? 波紋ッ!? 不味い!」
「何が不味い! 言ってみよ!」
妾は仕留められるときには、確実に仕留める性格だ。
ゆえに一度戦闘を開始した以上、相手と長々と話をする趣味はない。
ディオが気化冷凍法や
「こっ、このっ! ディオがああああーーーッ!!?」
波紋をたっぷりと流し込み、今度は頭部も完全に消滅させる。
もはや髪の毛一本もこの世に残すつもりはない。
念入りに灰にしていく。
「お前の敗因は、たった一つじゃ。ディオ。
たった一つの、単純な答えじゃ」
最後の一片すら灰になり、ディオが完全に消滅したことを確認する。
妾はアヌビスを鞘に戻して、やれやれと息を吐く。
「お前は妾を怒らせた」
ジョナサンの体は、妾が斬ったあとに消えてしまった。
だがそれでも、吸血鬼に乗っ取られて悪事に加担するよりはマシだ。
館の中は暗がりで、今は夜なので太陽は見えない。
それでも自らの手で長年の因縁に終止符を打ったので、清々しい気分で口を開く。
「ジョナサン、エリナ。終わったぞ」
妾はようやく肩の荷が下りて一息つき、仲間たちに向き直って微笑みかけるのだった。
ディオを倒した妾たちは、互いの連絡先を交換した。
そして、それぞれの国に帰っていく。
記念撮影もしたので、旅の思い出作りはバッチリだ。
だが妾に限っては、一難去ってまた一難である。
故郷である日本ではなく、スピードワゴン財団の依頼を受けてイタリアに向かう。
ワムウとサンタナも派遣されるらしく、さらにポルナレフとアブドゥルとイギーも協力してくれるようだ。
双方の間には狐っ娘が入り、互いの自己紹介を円滑に進める。
なお、ポルナレフはワムウと騎士道精神的に気が合ったようだ。
会って早々に仲良くなり、サンタナも占いに興味があるのかアブドゥルが色々と教えている。
それはそれとして、緊急依頼の情報を整理しないといけない。
簡単にまとめると、イタリアの裏社会を牛耳るギャング組織。パッショーネは
他の組織と比較して、明らかに異常な人数と戦力だ。
放っておくと裏だけでなく表も、さらには国家の存続さえも危ぶまれて、現に治安が急激に明らかに低下し始めている。
犯罪率も高まる一方で猶予がなく、最強の
取りあえずパッショーネは、組織が利益を得るためにはどれだけ犠牲者が出ようと気にしないらしい。
彼らの野望や勢力拡大を止めることができるのは、同じく
そういう理由で妾たちがイタリアの危機に派遣されたのだが、今回の敵は組織として襲ってくるので厄介この上ない。
おまけにパッショーネは秘密主義のようで、ボスの正体が全くわからないのだ。
しかし時間はかかったが、所属する
これ以上続けてもイタチごっこで効率が悪く、時間ばかりかかってしまう。
なので、あとのことはポルナレフとアブドゥルに任せる。
定期的に連絡したり、組織の
逃げるのが上手いタイプは絶対に勝てる状況でないと、表に出てこない。
そして対面した以上、敵の罠にハマっているので十中八九で負ける。
こういう場合は、逃げるが勝ちだ。
恥も外聞もなく一目散に逃げないと、生き残るのも難しい。
ただし妾は除くだが、十分に警戒するようにと忠告は忘れないのだった。
なお、ワムウは挑んでくる強者はあらかた再起不能にしたので、スピードワゴン財団に戻った。
闇の一族は切り札的な存在ではあるけれど、夜間しか動けないのが地味にキツい。
あとは気難しい性格をしているので、打ち解けるまで連携しにくい。
しかしサンタナは単純な好奇心で、イタリアにしばらく滞在することを選ぶ。
行動時間の違いからポルナレフとアブドゥルとは別行動だが、定期的に連絡を取っているし、異常があればすぐに財団に報告される。
ちなみに妾は、いつの間にかイタリアのマスコットキャラクター的な扱いを受けるようになった。
気持ち的には日本人だし、これ以上は色んな意味で不味いと判断する。
姉御と慕うイギーと一緒に、ちょうど良い機会だと日本に帰国する。
長らく留守にしていた杜王町の神社に戻って、ホリィと仗助の安否を電話だけでなく直接見て無事だと確認した。
遅くなったがエジプトとイタリアの土産を配り終えて、ようやく人心地つくのだった。