イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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いたずら電話

 虹村兄弟を倒した。

 康一君も助かったし、何だか知らんがとにかくヨシ、……と言うわけにはいかない。

 傷つけた者を幽波紋(スタンド)使いにする弓と矢が、一向に見つからないのだ。

 確かにラッシュで吹き飛ばしたときに、近くの地面に落ちていたはずなのに痕跡すらなくなっている。

 

 それとは別に、他にも因縁があったようだ。

 彼らの父親がディオに魂を売って肉の芽を埋め込まれ、死後に暴走して己を見失ってしまっていた。

 

 不死身の体になって記憶を失い、写真を繋ぎ合わせて涙を流す有り様だ。

 僅かではあるが、まだ人間だった頃に家族と仲良く暮らしていた思い出は残っているらしい。

 

 妾はイイハナシダナーと思いながら、深仙脈疾走(ディーパスオーバードライブ)を行う。

 

 おかげで肉体に混ざった吸血鬼の細胞が消滅して、足りない分は狐っ娘の生命力を注ぎ込んで、人間のほうを活性化されていく。

 

 かなり時間がかかったし、完全に元通りとはいかない。

 容姿はあまり変わらずに凹凸があって歪な体ではあるが、記憶も朧げに思い出したし人間に見えなくもないほどに回復させられた。

 

 やはりメガザルは優秀である。

 取りあえずあとは虹村家の問題なので、部外者の妾たちはお暇させてもらう。

 

 そして報連相は大切だから、承太郎に弓と矢を見つけたけど紛失したことを告げる。

 何者かが現場から持ち去った可能性が高く、証拠も残さずに誰にも気づかれないため、新手の幽波紋(スタンド)の可能性が高い。

 

 とにかく放ってはおけないので、妾も弓と矢の捜索に乗り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 虹村兄と父は、スピードワゴン財団に送られる。

 余罪が山程あるので当分は事情聴取き、弟のほうも無罪放免とはいかない。

 

 だが兄にやらされたいことが判明し、日常生活を送るのは許可される。

 仗助も康一君も無事だったし、めでたしめでたしと言いたいところだ。

 

 しかし次の日の朝、神社に知らない誰かから電話がかかってくる。

 

 最近は、業務は娘や雇用した職員に任せていた。

 妾は神事や祭事以外は杜王町を散策するか、奥に引っ込んで悠々自適な引き籠もり生活をさせてもらっている。

 

 それでも、たまに内線が回ってくることもあった。

 しかし、わざわざ非通知で公衆電話からかけてくるのは珍しい。

 

 そもそも、そういう輩は余程の非常時以外、娘の杉本鈴美(すぎもとれいみ)が断っているはずだ。

 

 何より彼女を通さずに、直接かかってきたのである。

 この時点で明らかにおかしいけれど、正体を突き止めるためにも出ないわけにもいかない。

 

 妾は不審に思いながらも、通常サイズよりも長めの受話器を持ちあげる。狐耳に当てられる特別性だ。

 

「イナリさんですかぁ?」

 

 聞いた覚えがない声だ。

 しかし恐らくは男性だと推測し、すぐに返事をする。

 

「聞き慣れぬ声じゃな。そういうお前は誰じゃ?」

「誰でもいいさ。イナリ。

 アンタ、この杜王町からよ。出てってくださいよ」

 

 いきなりとんでもないことを言い出す謎の男に、妾を頬をポリポリとかく。

 そして少しだけ考えて、呑気に答える。

 

「何者かわからぬ者から、いきなり理由もなく出ていけと言われてものう。

 お前が妾なら、素直に出ていくかのう?」

 

 至極真っ当な反論を口にすると、とてもおかしそうに笑いながら声が聞こえてくる。

 

「弓と矢を持っている者ですよ。

 いただいたんです。虹村形兆。奴から、こっそりね」

 

 つまりコイツが、現場から弓と矢を持ち去った犯人というわけだ。

 

「アンタのことも殺したっていいですが、何でもイナリさん。

 アンタ、最強の幽波紋(スタンド)使いって呼ばれてるらしいですねえ」

 

 当然のように、幽波紋(スタンド)についても知っている。

 妾は受話器の向こうの人物に対する警戒レベルを、少しだけ上げた。

 

「ちょいと手強いかなと思って、電話で取りあえず警告することにしました」

「お前も幽波紋(スタンド)使いか? 弓と矢で何をするつもりじゃ?」

 

 何のために弓と矢を奪ったのかが気になり、率直に尋ねた。

 

「別にアンタにゃ、迷惑はかけませんよ。

 東方仗助や空条承太郎だって、邪魔さえしなければ、こっちからは何もしやしませんよ」

 

 全く信用できない発言だ。妾が大きな溜息を吐いている間に、なおも続ける。

 

「せっかく幽波紋(スタンド)能力っつうのを身につけたんだ。

 俺はちょいと、面白おかしく生きたいだけです。

 受験だ就職だって煩わしい人生は、真っ平なもんでねえ」

「……学生じゃな? お前」

 

 受験や就職という発言でピンと来た。

 探りを入れるためにカマをかけてみると、図星だったらしい。

 

「なっ!? んなーこたあ! どうでもいいだろッ!

 いいかい! あんまし俺のことをチョロチョロ嗅ぎ回るようならようッ!

 アンタも仗助も承太郎も──」

 

 喧しく喚き散らされて、流石に煩くなったので受話器を少し離す。

 そしてもう少し詳しい情報を得るために、謎の男に尋ねてみる。

 

「ところで、他に何人の幽波紋(スタンド)使いが──」

 

 しかし、最後まで尋ねることはできなかった。

 

 電話機が突然放電を始めたのだ。

 さらに奴の笑い声と共に、爆発して吹き飛んでしまう。

 

 咄嗟に風の盾を展開して被害を強引に抑え込んだが、それでも電話機は木っ端微塵で机も焼け焦げてしまったため、大きな溜息を吐く。

 

「……やれやれ、また特注の電話機を頼まねばのう」

 

 聴覚が優れているので、人間サイズでも問題はない。

 しかし電話をかける猫のように、狐っ娘に合っているもののほうが良いに決まっている。

 

 お金はあるので、特注品でも問題はない。

 だがオーダーメイドだから、時間がかかるのだ。

 それまではしばらく予備の電話機を使うことになる。

 

 けれど、これは間違いなく面倒なことになってしまう。

 

「承太郎は良いが、娘の鈴美(れいみ)がブチ切れそうじゃのう」

 

 娘は妾を慕っていて、杜王町で家族も同然に暮らしてきた。

 生まれ育った街で周辺住民との交流も盛んだし、それがいきなり出ていくように脅されたのだ。

 

 犯人を恨んでガチギレするのは間違いなく、さらにそいつは新しく事件を起こす可能性が非常に高い。

 新手の幽波紋(スタンド)ならなおさらで、今後の対処が面倒この上ない。

 

「本当に、娘にはどう言ったものやら」

 

 色々考えつつも、あんな脅しに屈する気は毛頭ない。

 必ず犯人を捕まえて弓と矢を取り戻すつもりなのだ。

 

 しかしかなり大きな爆発音だったからか、娘の鈴美(れいみ)が慌てた様子でやって来た。

 扉を開けてイギーと一緒に駆け込んできて、大声で叫ぶ。

 

「母さん! 今の爆発音は何!?

 もしかして! 新手の幽波紋(スタンド)使い!?」

 

 娘は裏の仕事を知っているし妾に憧れている。

 まさに黄金の精神を持つ女性で、何かあるとすぐにそっち方面に関連付けるのだ。

 

 幽波紋(スタンド)に目覚めたら、仕事の同行を許可するなんて言うんじゃなかった。

 

 神社を任せているので頻繁には連れて行かないが、予定が数日程度なら一緒に向かうことがある。

 さらにアヌビスとも仲が良い。

 

 どうやら彼は、お嬢様が俺が守る的な感情を抱いているようだ。

 

 まあとにかく鈴美(れいみ)の戦闘能力は、妾には及ばないが実際にはかなり高い。

 狛犬(ガーディアン・ドッグ)が近距離パワー型なのもあるが、そんなところまで母に似なくて良いのにと思う。

 

 けど今は、どう説明すれば騒ぎにならずに穏便に済むやらと、大いに頭を抱えるのだった。

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