イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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小林玉美

 娘の鈴美(れいみ)に正直に話したら、案の定ガチギレした。

 だから言いたくなかったのだが、激怒したメロスのようだと思いつつ、承太郎にも同じように伝える。

 

 まあ何にせよ、自分のやることは変わらない。

 脅しには屈っせずに、今日も杜王町を気ままに散策する。

 それでいて、何処かおかしなところはないかと注意深く観察するのだ。

 

 

 

 その途中で、広瀬康一君が新品の自転車に乗って走っているのを見つける。

 挨拶しようかと思ったが、その前に妾は道の真ん中に置かれた袋が気になったので、咄嗟に幽波紋(スタンド)能力を発動した。

 康一君も障害物に気づいたようで慌ててブレーキをかけるが、急には止まれない。

 

 幸い間一髪で風を起こして、謎の袋を手元に引き寄せたので何事もなかったが、そうでなければ確実に引いていたか、自転車が横転して酷いことになっていただろう。

 

「いっ、イナリさん!?」

「うむ、康一君、おはようなのじゃ」

「はっ、はい! おはようございます!

 あと、助けてくれてありがとうございます!」

 

 急なことだったので驚いて急停止した彼に声をかけると、康一君もハキハキと挨拶をしてくれた。

 

 妾は気にせずとも良いと伝えて、取りあえず袋を地面に置いて紐を解く。

 中に入っていたのは猫の玩具のようで、さらに血糊がセットになっている。

 どうやら電池で動く仕掛けのようだが、誰がこんな物を道の真ん中に置いたやらと溜息を吐く。

 

「……さてと」

 

 確認を終えた妾は、よっこらしょと立ち上がる。

 そして近くのベンチに腰かけて、我関せずとそっぽを向いている一人の男に近づいていく。

 

「この袋を置いたのは、お前じゃな?」

「さっ、さあ? 俺は何も知らねえぜ!

 ここに来たときから、袋はあったからなあ!」

 

 素知らぬ顔で言い訳を口にする不良っぽい男に、妾はジト目で真っ直ぐに見つめる。

 

「しかしこの袋には、お前の匂いがしっかり残っておったぞ。

 もちろん、あの玩具と血糊にものう」

 

 狐っ娘の嗅覚は人間よりも優れている。

 すぐ近くの彼がやったことは、すぐにわかった。

 

「そっ、そんなの嘘に決まってる!

 さては俺を犯人にする気だな! おめえに罪の意識はねえのかよ!」

 

 何とも往生際が悪いというか、罪を認めない男である。

 そして基本的な脳筋な自分が、次にすることは決まっていた。

 

 さらに距離を詰めるべく、ゆっくりと近づいていく。

 

「あくまでとぼける気なら、妾にも考えがある」

「なななっ! 何をする気だ!?」

 

 不良っぽい男に微笑みかけて、静かに右手を振りあげた。

 

「のじゃあッ!」

「げふうっ!?」

 

 彼の顔を殴ると、派手に吹っ飛んで地面を転がる。

 さらに、前歯が一つ抜けてしまった。

 

「痛ええええッ!? 前歯がああああっ!

 前歯が折れちまってるよおおおっ! 酷えなああああ!」

 

 大げさに血を流して痛がる男を見ても、妾は全く動じない。

 しかし後ろで見ている康一君は何だか申し訳なさそうな顔をしていたので、相変わらず優しい子だと思った。

 

 けれど、ここでおかしなことが起きる。

 何と康一君の胸に、突然巨大な錠前が現れたのだ。

 

「うわああっ!? なっ、何だあっ!? このっ! 錠前のような物はあっ!?

 おっ、重いっ!」

「ん? お前見えんのか?

 へえ、ならよー! 話は早いぜ!」

 

 どうやら目の前の男は、幽波紋(スタンド)使いのようだ。

 能力の発動条件は罪の意識を感じることで、罪悪感が増えるたびに重くなる。

 

 しかも四ヶ月ほど前に弓と矢で目覚めたらしく、慰謝料を払えとイチャモンをつけてきた。

 

 何とも面倒なことだと溜息を吐くが、そんなのは妾には関係ない。

 どうやら目の前の男にもわかったようで、冷や汗をかいている。

 

「へっ? てっ、テメエ! 何する気だ! まっ、まさか!?」

「そのまさかじゃ!

 幽波紋(スタンド)能力を悪用しおって! 少しは反省せんか!」

 

 人を殺していないからまだマシだが、幽波紋(スタンド)を使った犯罪を見て見ぬ振りはできない。

 

 なので今回も、当然のようボコボコに殴って再起不能にした。

 すぐに波紋で怪我を完治させるが、悪いことをした結果の苦痛を体に覚え込ませる。

 

 

 

 何にせよ小林玉美は、もう二度と悪いことをしないと何度も頭を下げてきた。

 泣きながら許しを請うてきたので、しばらくは大人しくしているだろう。

 

(軽犯罪は続けるじゃろうが、人殺しはせぬじゃろうな)

 

 幽波紋(スタンド)能力を持って、真っ当に生きるのはとても難しい。

 多少のことは大目に見るので、今回は見逃してやる的なことを言って小林玉美を追い払う。

 

 

 

 そして妾は、一息ついて辺りを見回す。

 どうやらここは通学路らしく、仗助と虹村億泰がすぐ近くまで来ていた。

 ちょうど良いので、話したいことがあると軽く手招きをして呼んだ。

 

「康一君。それと二人に、伝えておくことがある」

 

 真面目な話なので表情を引き締める。

 しかし立ち話も何なので、ベンチによっこらしょと腰かけた。

 

幽波紋(スタンド)使い同士はどういう理由か、正体を知らなくても知らず知らずのうちに引き合うのじゃ」

 

 先程も康一君と妾、そして小林玉美が出会った。

 この先も同じことが起きるのは、ほぼ確定である。

 

「結婚する相手のことを、運命の赤い糸で結ばれているとか言うじゃろう?

 そんな風にいつか、どこかで出会うのじゃ。

 敵か友人か、バスの中で足を踏んづける奴か、引っ越してきた隣の住人とか。

 それはわからぬがのう」

 

 しかし滅多に居ないはずの幽波紋(スタンド)使いと、出会う可能性は非常に高い。

 きっと、そういう運命なのだろう。

 

「じゃがあいにく、康一君はまだ目覚めておらぬ。

 仗助と億泰の二人も、戦い慣れておらん。

 もし準備もせずに出会ったら、不覚を取るやも知れぬ」

 

 幽波紋(スタンド)は相性があって、圧倒的に不利な戦いを余儀なくされることも多々ある。

 そんな時に、彼らは果たして生き残ることができるのかと不安になるのだ。

 

「何が言いたいんすか? イナリさん」

 

 仗助が単刀直入に質問してきた。

 妾は大きく息を吐いて、はっきりと答える。

 

「今のままでは新手の幽波紋(スタンド)使いに出会ったら、大怪我をするか最悪殺されかねんということじゃ」

「こっ、殺されっ!?」

 

 康一君が驚いて声をあげるが、先日死にかけていたので危機感が強い。

 

 ついでに、さっきも幽波紋(スタンド)攻撃を受けたのだ。

 彼に命を取る気がなく、妾が居たから良かったが、もし完全に殺す気で襲われていたら結果は考えるまでもない。

 

「康一君は週末に通っておるし、妾から鈴美(れいみ)に伝えておこう」

 

 彼は波紋の修行をしているので、それが幽波紋(スタンド)に切り替わるだけだ。

 なので仗助と億泰はどうかと尋ねると、二人はしばらく考え込んでやがて口を開く。

 

「俺は構わないっすよ。

 イナリさんは信用できるし、昔から世話になってるっすからね」

 

 東方家との付き合いは長く、家族で参拝に来ることも珍しくはない。

 ジョセフのことを良く知ってることもあって、そこまで悪くはなかった。

 

「俺もいいぜ。イナリさんは、兄貴と親父を助けてくれたんだ。

 返しきれない恩があるうえ、さらに世話を焼いてくれるってんだろ? 断るのは失礼だぜ」

 

 虹村家の信用も勝ち取っているし、康一君も含めて三人からOKが出た。

 これでもし襲撃されても、少しは生存率が上がるだろう。

 

 何もしないよりもマシだろうし、とにかく言いたいことは全て伝え終わった。

 妾はよっこらしょとベンチから立ち上がる。

 

「けどよお。イナリさんは指導しないんすか?

 杉本さんより、強いんすよね?」

 

 仗助が疑問を口にすると、他の二人も確かにと頷く。

 

 それに関しては立派な理由があるわけではなく、言葉にすると少し恥ずかしい。

 今でも指導はしたりしなかったりだが、今月はちょっと忙しいのだ。

 

 妾は視線をそらして羞恥で顔を赤くする。

 けれど別に隠すようなことでもないので、ボソボソと告げた。

 

「しっ、新作ゲームの発売が近いのじゃ」

「あー……イナリさん。ゲームや漫画が大好きだったっすね」

「うっ、うむ、杜王町のゲームショップで予約もしたし、発売したらいち早くプレイしたいのじゃ」

 

 仗助とは遊びの趣味が合う。

 本当はいけないが、テレビゲームを貸すことも珍しくない。

 

 他の二人もそういう娯楽には興味があるのか、話題に入ってきて花を咲かせる。

 

「実は俺も、楽しみにしてるんすよね。予約まではしてないっすけど」

「でも仗助君。今月ってテストだよね。遊び暇あるの?」

「ああ、うちはそういうの厳しっすからね。

 もしオフクロに見つかったら──」

 

 オフクロに怒られちまうと渋い顔で嘆いていた。

 この場の全員が同意を示し、そういうのあるよねーと盛り上がる。

 

 けれどここで、今は朝の通学途中だったことを思い出す。

 なので、とにかく週末に娘から幽波紋(スタンド)の指導を受けるようにと伝える。

 そして妾は、三人と別れたのだった。

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