イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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山岸由花子

 幽波紋(スタンド)を鍛えることになり、康一君が覚醒した。

 闘争本能や怒りが原動力になっていることが多いので、先日会った小林玉美に家族が命を狙われている場面を想像するように告げる。

 

 すると、音を操る幽波紋(スタンド)が発現したのだ。

 

 神社から離れた場所に建てられた道場に集まった皆は、幽波紋(スタンド)って卵から生まれるんだと驚く。

 

 当人だけでなく、妾もびっくりした。

 なお多忙の身でありながら娘の指導を嬉々として受けている岸辺露伴は、大興奮だ。

 康一君に詳しく聞きながら、早速メモに書き留めていた。

 後日、漫画のネタとして使うのかも知れない。

 

 

 

 それはそれとして、少しだけ時が流れる。

 妾は、いつも通り杜王町を散策していた。

 異常はないな、ヨシというように、現場の猫のようにいい加減な調査だ。

 

 何となく怪しいなと思う人を見つけて、詳しく調べるぐらいしかなかった。

 なので散歩中に小林玉美に会って、新手の幽波紋(スタンド)のことを教えてもらえたのは、本当にラッキーだった。

 

 しかし自分は、杜王町では有名人だ。

 昼間の学校に入ったら目立つし、すぐにバレる。

 

 取りあえず変身を解除して子狐の姿になり、物陰に隠れながら移動して校舎を探索することにした。

 

(バレたら犯罪じゃし、仗助たちに事情を話して、協力を頼まねばな)

 

 妾はこの学校には詳しくない。

 調査をスムーズに進めるためには、協力を得るのが手っ取り早かった。

 

 そこで匂いを追跡して場所を突き止めて、気づかれないようにこっそり窓から覗き見る。

 

 どうやら、取り込み中のようだ。

 理由は不明だが、仗助が二人いて康一君が吹き飛ばされて床に転がっていた。

 

(どちらが本物なのじゃろうか?)

 

 シャープペンシルを持っている仗助は、後ろ姿しか見えない。

 恐らく物陰から様子を窺っている小柄な男性が、幽波紋(スタンド)の本体なのだろう。

 

 そのぐらいの推測はできるけれど、妾的には今来たばかりで状況が飲み込めていない。

 

 それに目立つと校内への不法侵入の罪で厳重注意されてしまう。

 杜王町のマスコットキャラ的な扱いなので、逮捕はされないだろう。

 

 だが急いでイベント企画を練りますので、ちゃんとアポ取ってくださいという流れになるのは嫌すぎた。

 

 本当にどうしたものかなと考えていると、片方の仗助が大声で喋りだす。

 

「俺の目的はなあ! イナリを半殺しにして! この街から追い出すことだ!

 年長者ズラして、俺たちのことを嗅ぎ回りやがって!」

 

 見た目は幼い八歳だが、実際に年長者だ。

 この学校の生徒や大人たち生まれる前から杜王町に住んでいたし、別に間違ってはいない。

 

「とはいえ、イナリの嵐の狐(ストーム・フォックス)は、竜巻を起こせると聞いた。

 アイツに近づける幽波紋(スタンド)使いは、俺たちの仲間には居ねえ」

 

 仲間ということは、他にも幽波紋(スタンド)使いがいるようだ。

 

 そして裏社会でも有名人なので、妾の手の内はすっかりバレている。

 ゴリゴリの戦闘タイプで遠近両方に対応できるので特に問題はないが、それにしても嫌われたものだ。

 

「仗助! おめえをコピーした! このサーフィス以外はなあ!」

 

 なお、そろそろヤバそうだが窓には鍵がかかっていた。

 こうなったらやむを得ないと判断し、妾は子狐から狐っ娘に変身する。

 

「意識不明になってもらうぜ! 邪魔な本物に──」

「のじゃあッ!!!」

 

 妾は窓をぶち抜いて、ダイナミックに登場した。

 この場の全ての視線が集まり、ほんの一瞬だが動きが止まる。

 

 しかし完全に隙だらけになって、その間に敵だと思われる本体に急接近した。

 相手が何かする前に、ラッシュを叩き込む。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

「ぎぎゃびぎいいいいーーッ!!?」

 

 幽波紋(スタンド)を実体化させている余裕がなくなったようだ。

 本物の仗助は自由になって、ボロボロのマネキンが床に転がる。

 

 そして敵本体は全身をボコボコにされ、再起不能になる。

 間もなく救急車が呼ばれて、杜王町の病院に入院するのだった。

 

 

 

 なお、当たり前だが妾は不審者として通報された。

 警察の事情聴取を受けることになったが、窓ガラスの弁償代はきっちり支払う。

 

 仗助たちが口裏を合わせて忘れ物を届けに来て、うっかり転んで窓を割ってしまう、

 彼はそのときに破片を踏んで転んでしまったのだと誤魔化し、脅しも聞いているので口裏を合わせて、比較的早く解放された。

 

 しかし幽波紋(スタンド)を詳しく説明できないのは、こういう時に面倒だ。

 

 ないとは思うが、もし次に学校に侵入する機会があったら、なるべくバレないように行動しようと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 入院している間田敏和から事情を聞いた。

 しかし他の幽波紋(スタンド)使いについて、詳しいことは知らないようだ。

 ただ電気を操ることが判明したので、全く役に立たないというわけではない。

 一歩前進しただけでも、良しとするのだった。

 

 

 

 それはそれとして、散歩の途中で康一君が女子生徒と喫茶店で親し気に話しているのを目撃する。

 仗助と億泰もこっそり覗いているようだったので、妾も便乗させてもらう。

 

 しかし、あの少年はぶっちゃけモテる。特に妾のような変わった人にだ。

 自分は恋愛的な感情ないけれど、ついつい世話を焼いてしまう。

 

 そういうことで、康一君に春が来たことを心の中で祝う。

 お相手は同じ高校の山岸由花子らしいのだが、突然態度が豹変した。

 

 おまけに康一君の飲んでいたコーラに、大量の髪の毛が混入している。

 当たり前だが心底驚いて、大声を出した。

 

「何だこのコーラ! かっかっ髪の毛が! こんなに入ってる!」

 

 いきなりホラーになったなと思った。

 しかし、こういうことに慣れている妾は落ち着いたものだ。

 

幽波紋(スタンド)使いは引き合う……か。まさかな」

 

 仗助がさらっと核心を突いたので、妾も口を挟む。

 

「いや、まさかではないぞ。あの女は幽波紋(スタンド)使いじゃ」

「マジっすか?

 その割には、彼女の幽波紋(スタンド)は影も形もなかったっすけど」

 

 そのことを説明する前に、妾は物陰から出て偶然を装って康一君に声をかける。

 これは彼にも関係のあることなので、秘密にするわけにはいかない。

 

「奇遇じゃのう。康一君」

「イナリさん? それに仗助君と億泰君も?

 もしかして! みっ、見てた!?」

「うむ、少しだけじゃがな」

 

 嘘は言っていないので話題を変える。

 そして若干微妙な空気だが、真面目な顔になって説明に入った。

 

「あの山岸由花子という女子生徒は、幽波紋(スタンド)使いじゃ」

「ええっ!? 山岸さんが幽波紋(スタンド)使いーッ!?」

 

 妾が首を縦に振ると、康一君は髪の毛が混ざったコーラをチラリと見つめる。

 

幽波紋(スタンド)には、現実の物質と一体化するタイプもあるのじゃ。

 妾のようにのう」

 

 ただし、そういう例は少ない。

 大抵は守護霊のように、傍に立つ幽波紋(スタンド)だ。

 

 けれど、山岸由花子が一体化タイプなら納得できる。

 妾はガラスのコップの外に出ている髪の毛を掴み、マジマジと観察する。

 

「恐らく彼女は、自分の髪の毛を自在に操る幽波紋(スタンド)じゃ。

 どの程度まで制御が可能かはわからぬが、用心することじゃな」

 

 妾の発言を聞いた康一君は、何やら思い悩んでいるようだ。

 困った顔をして質問してくる。

 

「あの、イナリさんは、僕と山岸さんがもし……もしですけど、付き合うことなったら──」

 

 そこから先は小声になって聞き取りにくかったが、言いたいことはわかった。

 

「まだ敵対すると決まったわけではあるまい。康一君の好きにすれば良い」

 

 妾が誰彼構わずボコボコにするとは思ってはいなくても、敵対したらその可能性がある。

 しかし、まだ彼女がそうと決まったわけではない。

 

「じゃが、幽波紋(スタンド)は容易に人に危害を加え、命を奪える力じゃ。

 たとえ彼女に、全くその気がなくてもな」

 

 だからこそ用心が必要なのであって、山岸由花子は気心が知れている妾たちとは違う。

 まだ出会ったばかりで、幽波紋(スタンド)能力も推測の段階だ。

 

 先程の激情を見た限りでは、突然襲われる可能性もゼロではなかった。

 

「それに妾が見たところ、あの山岸由花子という女子生徒は厄介じゃぞ」

「えっ? あっあの、それはどういうことですか?」

 

 不安になって妾に尋ねてくる康一君に、別に隠すことでもないのではっきり答える。

 

「激情に任せて幽波紋(スタンド)能力が発現する者は、自制が難しい。

 己の利益を優先して、他人を踏み躙る場合がある」

 

 妾は溜息を吐いて、大量の髪の毛が混入したコーラを見る。

 

 今の発言を聞いて、康一君だけでなく仗助と億泰も察したようだ。

 何にせよ、しばらく山岸由花子の動向に注意するという結論になる。

 その後、自分は彼らと別れて杜王町の散策に戻るのだった。

 

 

 

 それから少し経ち、家に居たはずの康一君の行方がわからなくなる。

 朝になっても帰ってこなかったので、家族は警察を呼ぶとか呼ばないとか悩んでいて、妾にも連絡が来た。

 

 しかし、こっちは犯人の目星がついている。

 だが場所はわからないため、狐っ娘の嗅覚で独自調査を開始した。

 

 仗助と億泰も友人の身を案じて、互いに何も言わないが合流する。

 そして思った通りで、康一君の匂いも混ざっており、海沿いの屋敷まで続いていた。

 

 犯人は山岸由花子で決まりだ。

 

 急ぎ助け出そうと屋敷に乗り込もうとしたけれど、その必要はなかった。

 彼の幽波紋(スタンド)のエコーズが進化して、山岸由花子を打ち負かしたのだ。

 

 何処の野生の勇者だと思うぐらいの、成長速度と黄金の精神である。

 

 だからこそ康一君は変な人に好かれるのだろうが、とにかく無事で良かったとホッと胸を撫で下ろすのだった。

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