イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
山岸由花子が、康一君に本気で恋をした。
一時は
あとは当人同士の問題なので、少々複雑だが現場の猫的にとにかくヨシにしておく。
それはそれとして、霊園に続く道の空き家に最近人が住み始めた。
そしてレストランのトラサルディーがオープンしたと聞いて、娘の
最初は散策のついでに一人で行くつもりだったが、娘はお洒落なイタリアンレストランに興味津々だからだ。
しかし何処か、ちょうど稽古をつけていた仗助、億泰、康一君まで便乗してきた。
流れ的に妾が全員分を奢る流れになったが、料理は客を見て決めるようでコース料理固定である。
そして最低でも3500円は、学生はなかなか手が出ない金額だ。
ゆえに残高が毎年増え続けている妾が、一肌脱ぎことになった。
彼らには杜王町の
日頃のお礼だと考えれば、別に構わない。
そういう理由で店の前まで来て、立て看板を観察する。
どうやら事前情報通りのようで、今日という日に集まった仲間が嬉しそうに声をかけてきた。
「母さん、今日はありがとうね」
「イナリさん! ゴチになるっす!」
「ほー、ここがトラサルディーか! 腹は空かせてきたし、もうヨダレズビッて感じよ!」
「すみません。イナリさん。ごちそうになります」
妾は気にしなくて良い的なことを言いながら、扉を開けて店内に入る。
軽く見てみると、小ぢんまりとしているが、なかなか雰囲気が良い作りをしていた。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、店主のトニオがにこやかに現れた。
妾たちを出迎えてくれたので、こちらも話しかける。
「予約したイナリじゃが」
「はい、イナリ様ですね。
皆様方も、さあ、お席へどうぞ」
店主が勧めてくれたテーブルを囲んで、椅子に座らせてもらった。
しかし、本当に外国から来たらしい。
世界中を旅して、祖国のイタリア料理に取り入れたのだと説明してくれた。
けれどメニュー表はなく、人を見て献立を決める。
この辺りも事前情報通りなので、各々が手を見せて体調を言い当てられていく。
薬膳料理というものらしいが、やがて妾の番が来て両手を見せたのだ。
けれど、トニオは驚愕の表情で固まる。
「貴女は一体、何者ですか? 人間では、ありませんね?」
まさか一発で見破られるとは思わなかったので、普通に驚く。
だが幸い、店内に居るのは妾たちだけだ。
取りあえず変身を解除して子狐になり、椅子の上にちょこんと座る。
「秘密じゃぞ」
どうやら彼も使い手のようで、声も聞こえているようだ。
「おっ、驚きました」
「じゃろうな。じゃが取りあえず、妾の手相を見てもらおうか」
トニオが人間以外の手相がわかるかは疑問だ。
それでも、小狐の前足を彼に見せる。
「母さん! 相変わらず可愛い! 何だか久しぶりに見たわ!」
「わざわざ見せる意味はないからのう」
娘の
だがそうはさせまいと、
一応は母親だし、それをされると格好がつかない気がするのだ。
とにかくトニオは手相を調べ終わり、何処にも異常はなく健康そのものだと発言する。
しかし何の不調もなく生命力は溢れ続ける生物は、それはそれ異常だ。
幸い彼が健康状態を把握できたことで、ギリギリ子狐の範疇に収まっている。
そのことに、妾は安堵した。
なお、トニオは医食同源の
治療する部位がないと、それはそれで献立に困る。
無難に万遍なく栄養を取り入れ、広く浅く治療することになった。
ちなみに彼の作るコース料理はどれも大変美味で、3500円を払うだけの価値は十分にあった。
最新の治療が受けられるようなもので、場合によっては何千万円もかかっても不思議ではないのだ。
取りあえずまたトニオの料理が食べたい妾としては、スピードワゴン財団にある依頼を行う。
彼が今後も気分良く飲食店を続けられるように、色々と取り計らってもらうのだった。
それから少し経って、ジョセフが杜王港にやって来ることになった。
電話や電波が入る場所では危険ということで、承太郎が自然豊かな場所で直接会って教えてくれた。
なお、仗助と億泰と康一君も一緒だ。
ハーミット・パープルで本体を見つけられるのを、レッド・ホット・チリ・ペッパーがもっとも恐れるため、秘密の会議というわけである。
なので、周囲に何もない平野で集まって相談するのだ。
取りあえず79歳の外国人が本日杜王港にやって来ることまで話したところで、億泰が乗ってきたバイクが突然独りでに動き出した。
「確かに聞いたぞ!」
どういう理屈か
「レッド・ホット・チリ・ペッパー!?」
「馬鹿な! 何故この野原に奴が!?」
確かに驚きではある。
しかし妾は慌てずに落ち着いて、油断なく様子を伺う。
「何故!? ここには電線なんてないのに! 何故!?」
「バイクのバッテリーだ! しまった! バッテリーの中に潜んで尾行していたのか!」
「俺のバイクに!」
「聞かれたぜ!」
彼は勝ち誇ったように、バイクのアクセルを勢い良く回している。
そしてレッド・ホット・チリ・ペッパーは、大声で叫んだ。
「正午に港だと! この俺を探し出せる! 老いた
その老いぼれは! 港に到着と同時に! 必ず殺ーすッ!!!」
「爺のことを知られてしまった! つまり! 仗助の父親のことを!」
承太郎が動揺しているが、妾は相変わらずのんびりと構えていた。
そして奴は、一気に逃走するためにタイヤを高速回転させる。
だが一向に前に進まないバイクに困惑するレッド・ホット・チリ・ペッパーに、狐っ娘が悠々と近づいていく。
「ばっ、馬鹿な! バイクが! 動かねえーッ!?
そっそれに、この下から吹く風は! まさかァ!?」
レッド・ホット・チリ・ペッパーは負けじと、アクセルを何度も回している。
しかし残念ながらタイヤは凄まじい速度で回転してはいるものの、地面には接触せずに空を切るばかりだ。
「タイヤが地面に接触してなければ、前には進まぬ。当たり前のことよのう?」
今は凄まじい上昇気流がバイクを持ち上げていて、タイヤは空を切るばかりだ。
「バッテリーの電気で、どれだけ戦えるか。試してみるか?」
にっこりと微笑みながら、明らかに怯える彼に近づいていく。
「まっ、待てッ! 俺を消したら本体の場所が!?」
「ジョセフなら見つけられよう」
「弓と矢の所在を知りたくねえのか!?」
「病院のベッドでゆっくり聞こう」
取り付く島もないとは、このことだ。
妾も逃がす気は毛頭ないし、ここで再起不能になってもらう。
「妾の前に姿を見せたのが、運の尽きじゃ」
「そっ、そんなあああああーーッ!?」
いつものようにレッド・ホット・チリ・ペッパーに近づくと、奴はバイクから飛び降りて逃げようとする。
しかし電気がないとろくに動けないため、妾ではなくてもスロー過ぎてアクビが出るほど動きが遅くなっていた。
拳が敵を捉えるのは、容易いことである。
「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」
「ぐぼげええええええーーッ!!?」
何か考えがあるにしても、その前にトドメを刺してしまえば問題はない。
ゆえにレッド・ホット・チリ・ペッパーをいつものようにボコボコにして、速攻で再起不能にしたのだ。
たとえ本体が誰かはわからなくても、当分の間は動くことができないだろう。
あとはジョセフが到着してから、弓と矢と一緒にゆっくりと探せば良い。
朽ち果て消えていく敵の
ちなみにレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体は満身創痍であったが、まだ動けたようだ。
念のために船に乗り込んで警護していて、スピードワゴン財団の職員が不審者に気づいてくれたから良かった。
しかしまさか、音石明が直接ジョセフを殺しに来るとは思わなかった。
その際に億泰が正体を見破ったが、結局両方ぶん殴るつもりだったのは流石の脳筋である。
けれど、妾も似たようなものなので何も言えない。
取りあえず結果オーライと、現場の猫のようにヨシとするのだった。