イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
ジョセフが来日した。
これであとは弓と矢を見つけて、回収すればミッションコンプリートだ。
しかし、東方家との関係は複雑らしい。
かつての仲間は最近になってボケ始めたし、心配なので遠くから見守っていた。
けれど札幌行きの長距離バスに乗り込んだときには、流石に肝が冷える。
仗助が全力で駆け出したので助けに入るタイミングを逃したけれど、無事に追いついたから良かった。
あのまま高速道路に入っていたら、どうなっていたことやらだ。
取りあえず妾は、近くの自販機でスポーツドリンクを購入する。
そして何食わぬ顔で、のんびり近づいていく。
「災難じゃったのう。ほれ、これを飲むといい」
「サンキューっす。イナリさん」
脇腹を押さえて地面にへたり込んでいる仗助に、缶に入ったスポーツドリンクを渡す。
美味しそうに飲み始める彼とは違い、ジョセフは何故か辺りをキョロキョロと見回している。
「仗助君。何かが、ワシのズボンを引っ張っておるんじゃが?」
「へえ、そうすか。引っ張られて、またどっか行っちまわないでくださいよ」
先程の件があったので、何事もなく流す仗助である。
だが妾は違和感を覚えて、確認のためにジョセフに近づく。
するとそれは、確信に変わった。
「ふむ、確かに何かがおるのう」
妾は
普段は不意打ち防止に使っているが、今回のように思わぬところで役に立つこともあった。
「マジっすか?」
「うむ、大マジじゃ」
そう言って妾はしゃがんで、透明の赤ん坊らしきモノを優しく抱きあげる。
この感じは、生まれて半年ほどだろう。
何故姿が見えないのか、敵の
ちなみに、女の子らしかった。
「シショー、仗助君。ワシはこの子自身が、
真面目な表情で、ジョセフが自分の意見を口にする。
「無意識の
母親と離れたこの子自身が、無意識で透明になっとるんじゃ」
つまり母親を見つけることが、解決に繋がるというわけだ。
しかし何も着ていないし、この子が誰なのかも不明である。
完全に手探り状態で、ぶっちゃけて言えばどれだけ探しても見つかる気がしない。
(はてさて、どうしたものか)
戦闘や人命に関することなら、理屈ではなく直感ですぐに最適解を導き出せる。
赤ん坊の母親を探すのは難しそうなので、こちらもジョセフの助けを借りることになりそうだ。
そんなことを考えていると、気流の乱れで彼女が大きいのをもようしたことを知る。
だから何となく、この先を考えると気が重くなるのだった。
もしこのまま赤ん坊の母親が見つからない場合は、うちの神社で育てることになる。
姿が見えなくても気流や超感覚で見つけられるし、貯金はあるので娘が一人増えても大した負担にはならない。
そもそもこんな危なかっしい子を、児童養護施設や孤児院に預けるわけにはいかなかった。
ジョセフに面倒を見てもらうことも考えたが、また隠し子かとスージーQが怒り狂いそうだ。却下である。
あとは娘の
やはり自分が引き取って、神社で育てたほうが良いだろう。
「……それは仕方ないとして、何で妾がベビー用品を買わねばならぬのじゃ」
クレジットカードを持っていて、支払いも問題ない。
しかし杜王町の量販店で、見た目は八歳の狐っ娘がベビー用品を買い揃えるのだ。
世間的に、ちょっとどうなのかと思う。
けれど男性である、仗助とジョセフに任せるわけにもいかないのもわかる。
ゆえに二人に赤ん坊を任せて、渋々ながら入店した。
「いらっしゃいませ~!」
営業スマイルで店主が出迎えてくれたが、妾の足は重い。
これがゲームショップや玩具屋や本屋なら、もっと軽かったはずだ。
「おお! イナリ様でございますか!
本日はどのような品をお探しで?」
妾はあまり覚えていないが、そう言えば店主は過去に参拝に来ているようだ。
他にも狐っ娘はこの世に一人ということもあり、すぐに杜王町の神社に住んでいるイナリだとわかったらしい。
この町はそんなのばっかりだし、今さら気にしない。
今はそれよりも、あまり口には出したくないが用件を告げる。
「うむ、まあ……何と言うか。赤ん坊のオムツはないか?」
「もちろんありますとも!」
元気の良い返事だ。
ベビー用品は一通り揃っていそうなことに、内心でホッとする。
「ですが、赤ん坊のオムツでございますか。
もしや、御息女の杉本様が?」
「いや、娘ではないぞ」
親バカかも知れないが、娘の
参拝客に告白されるのも珍しくないし、任務に同行するたびに現地の男性と良い雰囲気になったりならなかったりしていた。
なお、娘には全くその気はない。
今は家族の復讐が第一で、色恋に興味を持てないのだ。
殺人鬼は、まだ杜王町に潜伏していると考えている。
見合いや交際話はどれも丁寧に全て断っていた。
しかし、
それでいて大人の落ち着きや色気を発しているので、性癖を狂わされる男が続出するのだ。
妾がそんなどうでもいいことを考えていると、店主がこっちのお腹の辺りをじっと見つめていることに気づく。
「妾は妊娠しておらんわ!
訳あって、しばらく赤ん坊を預かることになったのじゃ!」
口を開かなくても予想できたので、はっきりと否定した。
「そっ、そうでございましたか! それは大変な失礼を!」
ちなみに先程は娘をモテると説明したが、妾も大概だ。
だが八歳の女子体型の狐っ娘など、告白してくる奴はロリコン確定だ。
普段はのほほんとしているが、実際には芯は強くてグイグイ引っ張っていく女性である。
ゆえに、何処かの赤い彗星のような大人が結構寄ってくるのだ。
けれど前世は人間だったが今は子狐なので、恋愛や結婚には全く興味がない。
まあ娘も母も今は全くそんな気はないし、昔の慣習なら巫女を続ける限りは交際も結婚もできないのだ。
丁寧にお断りして、相手に諦めてもらうしかないのだった。
しかし今はそんなことより、赤ん坊のオムツのほうが重要だ。
店主に案内してもらったが、股オムツタイプとパンツタイプと二種類あった。
それにサイズに関しても透明なので、正確な数値はわからない。
もっと言えば、お尻拭きと粉ミルクと哺乳瓶も必要だ。
さらにベビーウェアと靴下なども多種多様なため、妾は大いに頭を抱えて迷ってしまう。
(いかん。何を選べば良いのか、まるでわからん)
普段は使う機会がないが、妾は最後の手段として懐からPHSを取り出した。
そして店主に一言断りを入れて、娘に電話をかけさせてもらう。
幸いすぐに
すると彼女の知り合いで子育て経験がある人がいたらしく、色々とアドバイスを貰って何とかベビー用品を一式揃えられた。
その後は、ベビーカーが坂道を転がっていき、赤ん坊が池に落ちて見失しなうトラブルが起きる。
しかしジョセフが機転を利かせ、手首を切って水に色をつけることで、見つけ出してくれた。
さらに娘の
そこでようやく、彼女の可愛らしい姿をこの目で見ることができたのだった。
妾が引き取ってしばらく経ち、予想はしていたが透明な赤ん坊の親は全然見つからない。
しかし、ジョセフの念写に引っかからないのは妙だ。
けれど放って置くこともできないし、役所で手続きを行って新しい家族として迎え入れることになる。
今後は
あとは数日では見つからなくても捜索願いは出したし、根気強く探せばそのうち見つかるかも知れない。
しかし娘の
新しい家族で妹ができたと、喜んで世話をして愛情を持って可愛がっている。
年頃なので母性が刺激されたのかも知れない。
妾が急ぎ取り揃えたベビー用品以外にも、今後絶対必要になるからと手広く買い揃え始めたときには、ちょっとだけ引いた。
けどそれはそれで、まだうちの子になって一ヶ月も経っていない。
本物の両親が見つかったら即返すつもりだけど、妾も新しい娘として独り立ちするまで育てる覚悟だけはしておくのだった。