イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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吉良吉影

 露伴と康一君を幽霊の小道から助け出し、異界と殺人鬼の情報を共有する。

 

 それからしばらく経ち、矢安宮重清という新しい幽波紋(スタンド)使いが見つかった。

 仗助や億泰と何やかんやあって、喧嘩のあとに仲直りしたらしい。

 

 昆虫のように小さいが500体以上も生み出せて、指示を出せば勝手に動き回る。

 射程も杜王町の隅々まで届くほど長い。

 とても強力な幽波紋(スタンド)を仕えるとのことだ。

 

 

 

 さらに娘の鈴美(れいみ)から聞いたが、友人に紹介されたエステのシンデレラ。

 そこの美容師である辻彩が、幽波紋(スタンド)使いだと判明する。

 一体この杜王町に、どれだけ居るやらだ。

 

 まあ彼女の場合は真面目に商売しているので、犯罪だったり犯罪でなかったりと微妙なラインが、幽波紋(スタンド)は法律で裁けない。

 グレーゾーンだったらセーフと、現場の猫並みのガバガバ管理でヨシとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 妾は、特に何かがあるわけではない。

 毎日自由気ままに、杜王町をのんびり散策していた。

 

 毎度手がかりなしだが、いつかは殺人鬼と遭遇すると考えている。

 探している対象が邪悪な存在なら、運命力が必ず導いてくれるはずだ。

 前世の経験から、本能的に理解していた。

 

 まあ具体的には、いつ何処ではさっぱりだ。

 それでも諦めずに探索している限りは、目標に近づいているはずである。

 前に進んでいるのだから、どれだけ遠回りに見えてもいつかは真実に辿り着く。

 

 人は近道をしたがるもので、結果が出ないとやる気が失せてくる。

 その点、妾はのんびり屋でマイペースだ。焦るのは命の危機が迫ったときぐらいであった。

 

 

 

 それはそれとして、途中のパン屋で購入したサンドイッチを食べながら、杜王町を適当に歩き回る。

 

 その途中でパン屋の袋を大事そうに持ち、学校に向かって走っていく重清を見つけた。

 こっちに気づいていないのか、一度も振り向くことなく楽しそうに駆けていく。

 

 普段なら特に気にすることはないが、妾は妙な違和感を覚える。

 念のために野生の獣のように気配を消し、素早く物陰に隠れて様子を伺う。

 

(この臭いは、もしや! それに、あとを追う不審な男……ふむ)

 

 金髪の男は、一見すると怪しいところはない。

 何処にでも居る一般人にしか見えないが、彼もさり気なく周囲を警戒している。

 続いて怪しまれないように堂々とした態度で学校に入っていくので、妾から見れば重清を追っているのは明白だ。

 

 それにあのパン屋の袋から、微かだが妙な臭いが漂っている。

 まだ確認していないので断言こそできなくても、中に入っている物を想像はできた。

 

 あまり気分が良い物ではないけれど放ってはおけいため、妾は重清と金髪の男を追跡することに決める。

 

 気配を消したまま、一般人が気づけない速度で物陰や障害物を利用し、塀を飛び越えて学校内に侵入した。

 

 

 

 しばらくすると、重清は体育倉庫に窓から入る。金髪の男も、こっそりあとに続いた。

 彼は気配を消して本気で隠れているけど、もし見つかったら完全に不審者である。

 念の為に子狐になろうかと思いはしたが、その前にやっておくことがあった。

 

(今のうちに、連絡しておくか)

 

 懐からPHSを取り出してボタンを押し、警察ではなく娘に簡単に事情を説明しておく。

 今はかなり切羽詰まった状況なので、あまり長話をしている時間はない。

 

 妾の突飛な行動に慣れている鈴美(れいみ)も、事情を聞いて流石に困惑している。

 だがとにかく言うだけ言ったので、またあとで連絡すると伝えて切らせてもらう。

 

 用が済んだので追跡を再開しようと、体育倉庫のほうを見る。

 仗助と億泰が窓から入っていく姿が見えて、内心でややこしいことになってきたと溜息を吐く。

 ここで妾が突撃すると余計に面倒なことになるため、どうしたものかと考える。

 

 

 

 しかもその間に体育教師が正面入口から乗り込んできたようで、大騒ぎになった。

 全員窓から逃げ出して少し経つと、金髪の男性が悠々と外に出てくる。

 

 そして例のパン屋の袋を持って、正門に向かって歩いていく。

 妾が飛び出して捕まえようとしたときに、タイミング悪く重清が姿を見せて堂々と声をかけた。

 

「見つけたど! 何で知らない人が、オラのサンドイッチを持っているんだど!

 何で知らない大人が、オラの中学校でこそこそ動き回ってるんだど!」

「ひょっとして、私に話しかけているのかね? ボウヤ」

 

 重清の言葉に、金髪の男は振り向いた。

 そしてサンドイッチを盗んだ証拠がないと言って、無視して立ち去ろうとした。

 妾的には、このまま校外に出てくれたほうが面倒がなくて良い。

 

 中学校で大暴れしたら、警察の事情聴取が面倒になるのだ。

 

 それでも放ってはおけないので、ヤバいことになったらすぐ飛び出せるように様子を伺っている。

 まあこのままでは十中八九で面倒なことになるため、時間の問題だろう。

 

 実際に重清の幽波紋(スタンド)、ハーヴェストで袋の中身を暴いた際に、金髪の男はそれが見えていた。

 

 おまけに、いきなり自分は吉良吉影だと自己紹介を始めたのだ。

 全く理解できない思考だが、非常に不味い状況なのは本能的に理解できる。

 

「私は常に心の平穏を願って生きている人間だというのを、説明しているのだよ。

 勝ち負けに拘ったり、頭を抱えるトラブルとか、夜も眠れないといった敵を作らない。

 ……というのが、私の社会に対する姿勢であり、それが自分の幸福だということを知っている」

 

 その言葉は理解はできなくもないが、人間の手を持ち歩く趣味は共感できそうにない。

 

「もっとも、戦ったとしても、私は誰にも負けんがね。

 つまり重ちー君、キミは私の眠りを妨げるトラブルであり、敵というわけさ」

 

 吉良吉影が幽波紋(スタンド)を出す。

 人型タイプで、かなりのパワーを秘めていそうだ。

 能力もまだわからないため、正面から戦うのは避けたほうが無難だろう。

 

「キラークイーン……と、私はコイツを名付けて呼んでいる!

 誰かに喋られる前に! キミを始末させてもらう!

 今夜もぐっすり眠れるようにね!」

 

 最悪の可能性として考えてはいたが、吉良吉影は幽波紋(スタンド)使いだった。

 

 そして重清は、間違いなく黄金の精神を持っている。

 邪悪に抗うために、ハーヴェストで戦い始めた。

 

 全身にまとわりつかせて、頸動脈をいつでも傷つけられる状態になる。

 普通なら、ここで勝負ありだ。

 

「ところで、私のキラークイーンにもちょっとした特殊な能力があってねえ」

 

 思わせぶりな台詞に惑わされ、キラークイーンが隠し持っていた百円玉を取り上げた。

 

 妾なら、だから何だと問答無用で吉良吉影をボコボコにする。

 喋るだけ時間の無駄なので、速攻で再起不能にしただろう。

 

 しかし現実は、そうはなっていない。

 重清の優しい性格と自身の脳筋を比較して、無性に恥ずかしくなってきた。

 

 まあそれはそれとして、このまま決着とはいかないようだ。

 

(重清が吉良吉影を倒してくれれば、妾が不審者にならずに済むのじゃがのう)

 

 前にも高校の窓をブチ破ってダイナミックに飛び込んだが、あのときは警察の事情聴取で色々面倒だった。

 

 なので今回は、バレないようにこっそり行動しようと考えたのだ。

 状況的に何やらヤバそうだし、やっぱり無理そうである。

 

「私のキラークイーンの特殊能力を教えようと思ってねえ。

 どうせキミは、既に始末されてしまっているのだからね」

 

 やけに自信満々だが、それだけ強力な能力なのだろう。

 吉良吉影は重清を確実に始末できると、確信を持って言っている。

 

「キラークイーンの特殊能力。

 それは触れた物はどんな物でも、爆弾に変えることができる能力。

 何であろうと、ふふふ……たとえ、百円玉であろうと」

 

 その一言で、ハッと気づいた。

 重清は大声で自身の幽波紋(スタンド)に百円玉を捨てるように命じるが、残念ながら間に合わない。

 

嵐の狐(ストーム・フォックス)!」

「何ッ!?」

 

 なので妾が、突風で百円玉を吹き飛ばす。

 それは重清から離れた場所で爆発した。

 

 しかし風に煽られて転倒したので、爆風で少なくないダメージを受けてしまったようだ。

 

 さらに現実に影響を及ぼさないとはいえ、幽波紋(スタンド)のヴィジョンが現れたのだ。

 茂みに隠れていた狐っ娘の存在が、当然ながらバレてしまう。

 

「お前は! イナリッ!?」

「確かに聞かせてもらったぞ! 吉良吉影!

 もはや! このイナリ! 容赦せん! この手で引導を渡してくれる!」

 

 妾は一度戦いが始まれば、問答無用でぶん殴っている。

 やっぱり脳筋なのはいつものことで、相手がこれ以上何かする前に強引に距離を詰めた。。

 

「のじゃあッ!」

「げふううっ!?」

 

 まずは飛びかかって、挨拶代わりの一撃を叩き込んだ。

 次に敵が反撃に出る前に、ラッシュを繰り出す。

 

 手で触れた物を爆弾に変える能力だというなら、触れさせなければいいのだ。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

「ぐばばべえああああああッ!!?」

 

 手以外の箇所を重点的に殴り続け、瞬く間に全身を複雑骨折させる。

 容赦しないと言った通りで、吉良吉影は悪事を働く幽波紋(スタンド)使いの中でも、手加減は最低限だ。

 

 やがて瀕死の重傷で、これ以上は流石に危険というレベルに追い込む。

 ここで、最後の一撃を繰り出した。

 

「のじゃあッ!!!」

 

 もはや完全に気を失ったのか、全身から血を吹き出しながら吹き飛んでいく。

 だが最後が余程強烈だったようで、学校の外の道路に放物線を描いて落下した。

 

 その時は、まだ命があった。

 だが運悪く救急車が通りかかり、ブレーキが間に合わずに轢かれてしまう。

 首が変な方向に曲がって、即死してしたのだった。

 

 

 

 急に空から落ちてきたので、避けようのない事故だ。

 ぶっちゃけ妾が悪いのだが、目撃者は重清しかいなかった。

 

 一応、彼の命を救っているし、何も見なかったことにしてもらう。

 とにかく証拠品を急いで回収してスピードワゴン財団と連絡を取り、不幸な事故として穏便に処理してもらうだった。

 

 

 

 

 

 

 なお、確認ために娘の鈴美(れいみ)と一緒に、あの世とこの世の狭間に向かう。

 そこには幽霊になった吉良吉影が居て、死んだのは間違いないが地獄に落ちていないようだ。

 何とも往生際が悪い。

 

 そして鈴美(れいみ)は、長年彼を追い続けている。

 今こそ復讐を果たす時で、すっかり正義の幽波紋(スタンド)使いになったアヌビスも力を貸す。

 

 身体強化の影響により、あっという間にバラバラに切り裂いた。

 振り向いてはいけない境界を越えた場所で、吉良吉影は仰向けに倒れる。

 さらに強制的に後ろを向かされたことで、無数の手に掴まれて引きずり込まれていく。

 

「うあああっ!? 私はっ! 私は何処に!? 何処にっ! 連れて行かれるんだあ!?」

「さあ? でも、安心なんてないところよ。……少なくとも」

「うわあああああーーッ!!?」

 

 やがて気流の乱れで感知できなくなったので、吉良吉影はあの世に旅立ったようだ。

 鈴美(れいみ)は家族の仇を討ち、めでたしめでたしと言いたいところだけど、まだ後始末が終わっていない。

 

 吉良吉影の家を調べていないし、他にも悪の幽波紋(スタンド)使いがいないとも限らないのだ。

 

 なのでもうしばらくは、杜王町のパトロールは続けるのだった。

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