イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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二つ杜トンネル

 郊外のぶどうが丘から杜王町に戻ってきた妾は、馴染みのアイスクリーム屋の前を通りがかる。

 残念ながら閉まっていたので、息を吐いてガックリを肩を落とす。

 

「休みとはついてないのう。

 じゃが、しょうがない。今回は諦めるとするか」

「アイスクリーム、舐めたいんですか?」

 

 さり気なく置いてきたはずの宇宙人の青年が、何故か妾のあとをピッタリと付いてきていた。

 

「ねえ、舐めたいんですか?」

「まっ、まあのう。

 じゃが、店が閉まっておるしのう」

 

 何で居るのか理解できない。

 とにかく妾は平静を装い、アイスクリームが食べられないのは仕方のないことだと青年に告げる。

 

「諦めることはありません。ちょうど一本持ってます。

 さっきのティッシュと、交換ということで」

 

 謎の鞄から取り出したアイスクリームを、笑顔で妾に差し出してくる。

 

「住みやすそうなところですね。地球は」

 

 取りあえず条件反射で受け取ったが、手に持ったアイスクリームはキンキンに冷えていた。

 とんでもないオーバーテクノロジーに内心でビビりつつ、妾はちょっと震えながら彼に尋ねる。

 

「そう言えば、名前を聞いてなかったのう」

「私の名は、ヌ・ミキタカゾ・ンシと言います。年齢は216歳です。

 職業は宇宙船のパイロット。趣味は動物を飼うことです。

 今も鞄にハツカネズミを一匹持ってます。背中を撫でると、とても喜ぶんです」

 

 妾はどうしたものかと頬をかき、困った顔をする。

 恐らく彼が言ったことは、全て正しいのだろう。

 今もこっちの動きを真似しているため、地球人について学んでいる最中だと考えられる。

 

 

 

 しかし、悩んでいる間に消防車が道路を走ってサイレンの音が鳴り響いた。

 彼は頭が割れそうなほど痛いと、大げさに悲鳴をあげる。

 

 すると姿を変えてスニーカーになり、妾に履かせたのでビルの屋上まで一気に移動した。

 けれど、別にお礼が欲しくて助けたわけではない。

 

 正直に言って、ほとほと困り果ててしまう。

 幸いなことに前世とは違い、彼は地球を支配しようとも国交を開きたいわけではない。

 

 ただ平穏に暮らすのが望みのようだ。

 なので騒ぎになると困るようで、誰かに話すなどもっての外だろう。

 

 好戦的な性格でないのが救いだが、怒らないわけではない。

 オーバーテクノロジーを所有している宇宙人に、勝ち目などあるわけないのだ。

 

 そもそも、どれだけ来訪しているのかも不明である。

 もし敵対したら、前世のような惨状になりかねなかった。

 

 結局触らぬ神に祟りなしという結論だ。

 何か困ったことがあったら妾に相談するように伝える。

 

 どのぐらい効果があるかはわからないがないよりマシという理由で、安全装置的な役割を引き受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに彼の地球名は、支倉未起隆(はせくらみきたか)である。

 最初は妾のことを、同じ宇宙人だと思っていたらしい。

 

 なので年齢的には下でも、移り住んで長いので色々知っている。

 そりゃあコスプレで通しているとは言え、桜色の髪をした狐っ娘など地球人ではあり得ない。

 

 地球育ちの先輩宇宙人だと勘違いするのも、わからなくはなかった。

 正体に関しては自身でも不明なままなので、そうかも知れないと軽く流しておく。

 

 実際に、地球で百年以上も生きているのだ。

 そして支倉未起隆(はせくらみきたか)は純粋な性格のようで、呼び名がイナリ先輩になった。

 

 そして妾は面倒見が良く、困っている若者を放っておけない。

 本当の後輩のように慕われて、色々頼りにされるなるまで時間はかからなかった。

 

 だが娘や周囲の人たちは、降って湧いた支倉未起隆(はせくらみきたか)の存在に、ただただ困惑である。

 

 しかしこれには海よりも深く、山よりも高い事情があるのだと多くは語らない。

 不幸中の幸いで、妾が突飛な行動を取るのはいつものことだ。

 そういうこともあるよねと、やがては受け入れられて気にしないでくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 少し時が流れたある日のことだ。

 岸辺露伴が、わざわざ妾を訪ねてきた。

 

 何でも二つ杜トンネルを通るバスの中で、奇妙な風景を見たらしい。

 あそこは途中でカーブしていて反対側の出口は見えないし、明かりも少ない。

 

 交通事故は絶えないし、不気味な雰囲気で心霊スポットとして有名だ。しかし、そういうのは大抵はハズレだ。

 

 中には怪異や異界などが関係していることもあるけれど、二つ杜トンネルはどうだったかなと考える。

 

 けれど一向に思い出せないことから、きっとまだ調査はしてないのだろう。

 ならばちょうど良い機会だと判断し、妾は露伴と一緒に二つ杜トンネルに向かう。

 

 

 

 ちなみに狐耳が出る特注のヘルメットを被り、彼のバイクの後部座席に乗せてもらった。

 

「露伴。いつでも良いぞ」

 

 なお、露伴はノーヘルだ。

 けれどそれに対して何か言う気はなく、彼は昔からこんな性格なので諦めていた。

 

「……良し。行ってみるか」

 

 妾たちは入り口に停めていたバイクに乗って、薄暗がりのトンネル内部に入っていく。

 

 流石にこの状態では、アヌビスを落っことす可能性があるからし、取り回しが不便なので持って来ていない。

 

 それに目的は調査だ。

 怪異や異界、新手の幽波紋(スタンド)使いの可能性はあっても、まだ確定ではなかった。

 

 なので今回は手ぶらでバイクに乗り、暗いトンネルに入って周囲を注意深く観察していく。

 

「イナリさん。何か異常は?」

「今のところ、特に何もなさそうじゃのう」

 

 出口まで数百メートルと書かれた非常灯を通り過ぎたが、周囲は普通のトンネルの壁である。

 それに、道路も何の異常はない。

 

 やがてカーブを曲がって、外から差し込む太陽の光が見えてくる。

 

「出口だ」

「何もなかったのう」

 

 露伴がトンネルを出る前にバイクを停止させて、注意深く辺りを見回す。

 しかし特に以上は見当たらず、妾は小さく息を吐く。

 

「ええ、何もない。何もなかったぞ。

 壁だけだ。……やはり、幻覚だったのか」

 

 そう言って露伴が壁に手を当てると、突然扉に変化して転んでしまう。

 その拍子に開いて中に転がり込んだが、そこはトンネルとは明らかに違っている。

 全く別の空間が広がっていた。

 

「何ッ!?」

「これはッ!?」

 

 妾も驚いてバイクから降りて、露伴の後を追う。

 中央にはピアノが置いてあり、奥には大きなタンスもある。

 

「こっ、これは! バスの中から見た! 部屋だ!」

「ほう、これがそうなのか」

 

 まるで一軒家の個室だ。コンクリートで作られた、トンネルの横穴とは思えない。

 明らかに異常であり、妾は辺りを注意深く観察する。

 

 すると、クローゼットから何かの物音が聞こえてきた。

 二人揃ってそちらに顔を向けると、そこから無数の足跡のような幽波紋(スタンド)が現れて、いきなり襲いかかってくる。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

 

 妾は条件反射でラッシュを叩き込む。

 そして、一匹残らず吹き飛ばした。

 

 普通なら再起不能のはずだが、長年の経験からそれはないと判断する。

 

「ちいっ! 露伴! ここは逃げるぞ!」

「何故だ!? 幽波紋(スタンド)はイナリさんが倒し……何いいィーーッ!?」

 

 ラッシュを叩き込んで倒したはずだ。

 しかし足跡の幽波紋(スタンド)は、何故か復活してまた襲いかかってきた。

 

 どういう理屈かは不明だが、妾はまともに戦っても埒が明かないと判断する。

 突風を起こして足止めをしながら、露伴に大声で呼びかけた。

 

「恐らくコイツは! 遠隔自動操縦型の幽波紋(スタンド)

 いくら倒しても、本体へのダメージは殆どないじゃろう!

 相手にするだけ時間の無駄じゃ!」

 

 ひたすら倒し続ければ、いつかは勝てるだろう。

 しかし敵がいつ再起不能になるかはわからないし、効率はあまりよろしくない。

 

 この場は一旦退いて、本体を探したほうが良さそうだ。

 

 露伴もすぐに理解し、外に停めてあるバイクに乗り込んでアクセルを握る。

 妾もあとに続いて跳躍して、ヒラリと後部座席にまたがった。

 

「良いぞ! 出してくれ!」

「全く! なんて幽波紋(スタンド)だ!」

 

 露伴がバイクのアクセルを入れて急加速し、一気にトンネルを抜けた。

 しかし敵が射程距離外になり、視界から外れたことでイメージが曖昧になる。

 

 風の拘束が解けて、足跡のような敵幽波紋(スタンド)が物凄いスピードで追ってきた。

 

「じっ、時速60キロだと!?」

「なかなか速いのう!」

 

 どうやら、そのぐらいの速度で追跡できるようだ。

 妾はPHSを懐から取り出して、娘の鈴美(れいみ)と連絡を取る。

 

 本体は、二つ杜トンネルに深い関係のある誰かだろう。

 あの場には他の者の気配や匂いは感じられなかったことから、遠くから幽波紋(スタンド)を操っている可能性が高い。

 

 そして、どうやら正解だったらしい。

 すぐに本体が特定できたので、妾は娘に礼を言って電話を切る。

 続いて、バイクの後ろから露伴に伝える。

 

「二日前に暴走族が飲酒運転を起こし、その場所が──」

「二つ杜トンネルってわけか!」

 

 バイクを運転しながら相槌を打ちつつ、今は時速80キロは出ている。

 なのに全然引き離せないのは、敵幽波紋(スタンド)が突然ワープしてきたからだ。

 

「其奴はぶどうが丘病院で、集中治療を受けたらしい!」

「わかった! ぶどうが丘病院だな!」

 

 露伴も杜王町に住んで結構経つので、地理には結構詳しい。

 

「詳しい名前、それに何号室に入院しておるかは、鈴美(れいみ)が急ぎ調べておる!」

鈴美(れいみ)さんに感謝だな! また今度、お礼をしないと!」

 

 そう言えば、殺人鬼を倒して敵討ちは果たしたのだ。

 鈴美(れいみ)の心残りも消えて、そろそろ愛とか恋とか考え始めても良い頃合いだ。

 

 ただそれで露伴とくっつくかと言うと、妾は少々首を傾げたくなる。

 壮絶な過去を乗り越えて黄金の精神に至ってしまったし、何かもう一生戦い続けることが宿命のように思えてしまう。

 

 娘が結婚して引退し、幸せな家庭を築いていくイメージが全然湧かない。

 

(そういう意味では露伴も似たようなものじゃな。逆に相性は良いのか?)

 

 バイクを運転している彼も壮絶な人生を送っていて、今まさに命の危機でもあった。

 なので逆に考えれば娘と共通点が多く、案外相性が良いかも知れない。

 

 姉と弟の関係から意識が変わって恋に発展することもあるし、その辺りは今後に期待といったところだ。

 妾がそんなことを考えていると、正面の信号が黄色に変わってやがて赤になる。

 

「不味い! 赤ん坊が!」

 

 後ろからは敵が迫っているし、前方には乳母車を押した母と子が歩道を渡っている。

 もちろんブレーキをかけるという選択肢はなく、非常時なので信号無視して突っ切ってつもりだ。

 

嵐の狐(ストーム・フォックス)!」

 

 上昇気流でバイクを浮かせて飛び越え、速度を落とさずに障害物を強引に回避した。

 意味のない幽波紋(スタンド)像が現れて、いい仕事したぜと格好良く消えていく。

 

 危なげなく道路に着地すると、PHSから鈴美(れいみ)の声が聞こえてきた。

 

 どうやら525号室に入院している噴上裕也(ふんがみゆうや)が、幽波紋(スタンド)の本体らしい。

 なので妾たちは、そのままぶどうが丘病院を目指してバイクで疾走するのだった。

 

 

 

 その後は、病院にガラスをぶち破って飛び込んだ。

 そして525号室の噴上裕也(ふんがみゆうや)を、いつも通り叩きのめした。

 

 怪我人を殴るのは後味が悪いから止めるようにと言ってきたので、波紋で完治させたあとに改めてラッシュを叩き込んだ。

 幽波紋(スタンド)で悪事を働いた結果を教えるために、彼を再起不能にして再入院させる。

 

 ちなみにあまりにも腐った性根と叩き直すため、怪我を治してうちの神社で厳しく稽古をつけた。

 

 時間はかかったが、少しは良い奴になる。

 さらに仗助たちとも意外と気が合うようで、すぐに仲良くなるという思わぬ効果を生んだのだった。

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