イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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ジョルノ・ジョバァーナ

 謎の青年が言うには、荷物は前の座席で客は後ろらしい。

 そういうルールならと、妾は取りあえず言われた通りにする。

 

 しかし出発する前に言っておくことがあり、運転席に座っている彼にはっきり伝えておく。

 

「一つ言っておくが、妾を旅慣れてない者じゃと思って、甘く見るでないぞ。

 ちゃんとホテルまで、正直に送り届けるのじゃぞ」

「はい、正直に送り届けます」

 

 わかればよいのだと、妾は前の扉を閉めて後ろに回ろうとする。

 

「……ただし、空っぽのバックだけですけどね」

 

 狐耳に青年の呟きが聞こえる。

 それと同時に、アクセルをベタ踏みして急発進した。

 

 あっという間に車が遠ざかっていき、妾はこれは不味いと追いかける。

 続いて並走して鍵を開け、普通に後部座席に乗り込んだ。

 

「やれやれ、もう少しで置いていかれるところじゃったわい」

「なっ、何ーッ!? キミはたった今! 引き離したはず!?」

 

 のほほんとした表情で、後部座席に座っている妾に動揺する。

 金髪の青年は、運転しながら冷や汗をかく。

 

「ああ、引き離されたぞ。じゃから、普通に追いついて乗り込んだのじゃ」

 

 本音を言うとタクシーを利用するよりも、走ったり飛んだりするほうがホテルに早く付くし安上がりだ。

 しかし、町中でそんな目立つことはできない。

 

 地理にも詳しくないし、青年に送ってもらうのが確実だ。

 

「では、約束通りホテルまで……って、何処に行くのじゃ?」

 

 彼はどういうわけか運転席の扉を開けて、そのまま走って逃げ出してしまう。

 別にこの程度のイタズラで、警察に突き出す気はない。

 

 しかし、ひょっとして怖がらせすぎたかなと頬をかく。

 何にせよ運転手が居なくなってしまった以上、この場に留まる意味はない。

 

「やれやれ、また別のタクシーを探さねばのう」

 

 取りあえず妾は、気持ちを切り替えて前の座席に移動する。

 荷物を回収しようとすると、何故か旅行鞄がカエルに姿を変えていた。

 

「ふむ、匂いから妾の旅行鞄で間違いはないな。

 そうなると先程の青年は、新手の幽波紋(スタンド)使いということになるが」

 

 妾はどうしたものかと少しだけ考えて、取りあえずカエルを逃がすことにした。

 恐らくコイツは見た目通りで、戦闘力はないので本体の元に戻ろうとする。

 

 ならば逆に、それを利用すれば捕捉も可能だ。

 それに偶然近くに居た警察官二人が、先程の青年について気になることを言っていた。

 

 まずは彼についての情報を集めてから、新手の幽波紋(スタンド)使いを追跡することに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 先程の金髪の青年、ジョルノ・ジョバァーナはまだ遠くには行っていないようだ。

 カエルが短時間で移動できる距離など、たかが知れている。

 

 やがて空港の近くにある公園で彼を見つけた。

 姿が戻ったのか紛失した旅行鞄を持っているし、近くに人が倒れていて頭蓋骨が陥没していて、間違いなく即死だろう。

 

 そして周囲にに誰も居なかったので、妾はフェンスを軽々と飛び越えて音もなく着地する。

 続けて背を向けて何処かに去っていくジョルノに、呑気に声をかけた。

 

「ジョルノ・ジョバァーナじゃったか?

 そこで死んでおる男は、お前が殺ったのか?」

 

 彼はハッとして振り返る。

 さらに声をかけたのが妾だと知り、さらに驚く。

 

「キミはッ!? ……いや、僕じゃあないですよ。

 僕が来たときには、もう死んでました。とても心が痛みます」

 

 そして今から警察に通報するところだと、いけしゃあしゃあと言い切った。

 

 しかし妾は、まだジョルノの幽波紋(スタンド)能力は知らない。

 けれどこれまでの経験で、彼の仕業だと断言できるのだ。

 

「ここで長話すると面倒なことになりそうじゃし、場所を変えよう。

 もちろん荷物を返してもらうがのう」

 

 幽波紋(スタンド)は法律では裁けない。

 犯行を立証するのも不可能だけど、死体発見現場に妾が居たことを誰かに見られると、問答無用で犯人にされかねない。

 

 今のところは、目撃者はジョルノ・ジョバァーナだけだ。

 あまり褒められたことではないが、さっさと退散した方が良いだろう。

 

(それに死んでいる男は、あまり褒められた職業ではないな)

 

 何故スコップを持っているかは知らないけれど、明らかに堅気ではない。

 多分だが、ギャング組織の下っ端なのだ。相手は悪人なので善人が死ぬよりは心が傷まない。

 

「下手なことを考えるでないぞ。妾はお前に用があるのじゃ。

 ジョルノ・ジョバァーナ。……いや、汐華初流乃(しおばなはるの)と言ったほうが良いかのう?」

 

 驚愕する青年に声をかけるが、別に危害を加える気はない。少し話が聞きたいだけだ。

 

 なのでこの場で起きたことは誰にも喋らず、自分が奢ることを伝える。

 信じてくれなければ強引に引っ張っていくだけだし、別にそれでも構わない。

 

「やれやれ、わかりましたよ。

 でも、そこの人を殺したのは、本当に僕じゃあないでからね」

「ああ、それで構わんよ。

 妾も好き好んで、裏社会の面倒事に首を突っ込みたくはないしのう」

 

 中立よりの善で身内には甘く、それ以外は割りと適当なのが妾だ。

 

 任務としてはパッショーネのボスを倒すことでも、ネオポリスにも大小合わせて色んなギャング組織がある。

 死んでいる男が何処の所属かはわからないし、今もっとも優先すべきことは一刻も早くこの場からずらかることだ。

 

 

 

 

 

 

 急いで殺害現場から離れたあと、ジョルノ・ジョバァーナと一緒に適当な喫茶店に入る。

 そこで複数の女子生徒に絡まれ、どうやら彼は相当モテるようだ。

 

 ジョースターの血筋は美形ばかりなのを実感しつつ、ジョルノがキャーキャー騒いでいる女子を追い払う。

 それまでは、のんびりと紅茶を楽しんだ。

 

「……それで、僕に何の用ですか?」

 

 ようやく取り巻きが去って静かになり、彼のほうから話を振ってきた。

 しかし信用はしてないようで、隠してはいるが疑いの眼差しが混じっている。

 

「簡単に言えば、素行調査じゃな」

「素行調査?」

「うむ、幽波紋(スタンド)に目覚めておるのはわかった。あとは素行調査じゃ」

 

 正義の幽波紋(スタンド)使いなら良い。

 だが、もし悪人なら放ってはおけない。

 

「その幽波紋(スタンド)というのは、何なんですか? 僕のこの力に関係が?」

「あー……そこからか。まあ良かろう。少し長くなるが──」

 

 しかし一から説明するとなると、それなりに長話になる。

 さらに少しお腹が空いたので、良い機会だとピザを注文することに決めた。

 

「余った分はジョルノが食べてくれぬか?」

「それは別にいいですけど」

「悪いのう」

 

 妾はジョルノに礼を言ってメニュー表を開く。

 ピザにも色んな種類があって迷う。

 

「オススメは?」

「それ、僕に聞きますか?」

「ああ、ジョルノはこの辺りの店に詳しそうじゃからのう」

 

 彼はこちらを騙していたことに違いないが、今は食事のほうが重要だ。

 結局向こうが折れて、呆れた表情で教えてくれる。

 

「ここならマルゲリータですね」

「そうか。では、それを頼もうか」

 

 妾は店員を呼んで注文し、届くまでは紅茶に戻る。

 ティータイムで一息ついていると、ジョルノが妾を真っ直ぐに見つめて口を開く。

 

「貴女は、僕が嘘をつくとは思わないんですか?」

「今言ったことは嘘なのか?」

「それは、……本当ですけど」

「ならば、問題はあるまい」

 

 人は誰でも嘘をつくものだ。

 妾も、100パーセント事実しか言わないわけではない。

 問題はそれを許せるかで、ジョルノが騙されたことは少し驚いた。しかし別に幽波紋(スタンド)攻撃を受けたり、自分を殺しに来たヒットマンでもない。

 

 なのでまだ、右ストレートでぶん殴る必要はない。

 これも素行調査の一環だと考え、呑気にお茶をさせてもらう。

 

「貴女は変わっていますね」

「良く言われる」

 

 身内にも言われるぐらいなので、何も知らない他人からはかなりの変人に見えるだろう。

 狐っ娘という時点で色々アレだし、今さらという気がする。

 

 だがまあ、取りあえず注文したマルゲリータが届くまでは時間がある。

 その間に幽波紋(スタンド)について、簡単に説明していくのだった。

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