イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
注文して届いたマルゲリータを風の刃で綺麗に切り分けて、
ジョルノは自分以外の能力者には始めて会ったらしい。
大変興味深いのか、色々尋ねてきた。
妾はそれを一つ一つ丁寧に、隠すことなく答えていく。
「なるほどね。
でも、何で僕の素行調査をするんですか?」
「先程説明したように
法律では裁けんから、いくらでも悪用できるのじゃ」
その気になれば、完全犯罪し放題だ。
妾が『中立・善』だとしたら、ジョルノは良く言えば中立だが、状況次第で善にも悪にも転びそうだ。
放っておけば天秤は勝手に悪に傾くだろうが、別に聖人君子になれとはいわない。
しかし、昔気質の極道が仁義を持って活動するように、越えてはいけないラインを守ってもらいたかった。
能力によっては国家さえも容易に転覆させられるし、一般人に多数の被害が出るだけでは留まらず、世界中が大混乱に陥るのだ。
そのようなことをほんわかした雰囲気で気楽に説明すると、ジョルノは呆れた表情になる。
「やれやれ口喧しい人ですね。貴女は僕の保護者か何かですか?」
「場合によっては、妾が保護者になるやも知れぬのう」
「……嘘でしょう?」
「大マジじゃ」
妾は切り分けたマルゲリータを小さな口に入れて、モグモグと咀嚼しながら答えていく。
彼にも半分あげているので、唖然としながら残りのピザを食べていた。
ついでに自分は日本に住んでいていて、今は仕事でイタリアのネオポリスを訪れていること、ジョルノを教育する余裕がないことを告げる。
「冗談じゃない! このジョルノ・ジョバーナには! 正しいと信じる夢がある! 日本になど行ってられるか!
奢ってくれてありがとう! それじゃあ、僕はこれで!」
彼は奢ったピザをきっちり食べ終きって席を立つ。
そして背を向けて足早に立ち去っていくので妾も後を追おうとしたが、会計をしてないことを思い出す。
なので店主をテーブルに呼んで支払いを済ませたあと、慌てて彼が消えた路地裏に入っていく。
だがそこにはもう、ジョルノの姿はなかったのだった。
どうやら
匂いは覚えたのでいつでも追跡できるが、今は旅行用鞄を持っている。
この状態で追いかけっ子をするのは目立つし、荷物が破損しないとも限らないので少し難儀だ。
なので今日のところはホテルに向かい、承太郎辺りに調査に進展があったことを伝える。
任務に関しては明日以降にすることにした。
どうせ一朝一夕で達成できはしないのだ。
こういう時は、慌てず騒がずどっしりと構えていればいい。
地図を開いてホテルまでの道を調べ、この距離ならタクシーは必要なさそうだと判断する。
取りあえず、これ以上面倒な輩に絡まれないように人通りの多い道を選ぶ。
そのまま景色を楽しみながらしばらく歩いていると、いきなり裏通りからゴツい男が二人飛び出してきた。
彼らは恐怖に顔を歪めて、大量の冷や汗をかいていた。
おまけにあろうことか突然妾の前に立ち塞がり、直後に見事な土下座を行う。
「イナリの姉御! お願いだ!」
「俺たちを助けてくれ! この通り!」
「何でもするからよお! 足だって舐めるぜ!」
「俺たちヘマやっちまってよ! もう隠し通せねえ! あとがねえんだ!
このままだとチームの皆まで──」
一応、二人は顔見知りではある。
しかし、急に矢継ぎ早に話しかけられて妾には何が何やらだ。
さらにここは人が多い大通りで、ただでさえ目立つ狐っ娘である。
当然のように注目を浴びることになり、すぐに何処かしこからヒソヒソ話が聞こえてきた。
「わかった! わかったから落ち着け! ソルベ! ジェラート!
とにかく場所を変えるぞ!」
妾は急いで、イタリアでも使える携帯電話を取り出す。
手早くスピードワゴン財団に連絡を取る。
そして盗聴される心配がなくて安全な場所を教えてもらい、二人を連れて速やかに移動するのだった。
財団の所有する隠れ家的なバーに入り、防音性能の高い個室を使わせてもらう。
念のために
そして奢ってばっかりだなと思いつつも、自分は紅茶を飲んだばかりなので二人分のコーヒーを頼む。
テーブルを囲んでそれを飲んで落ち着いてもらいながら、ソルベとジェラートに一通りの話を聞いた。
簡単にまとめると、妾の命令でスパイ活動をしていたことが組織にバレたらしい。
「どうにかしてくれよお! イナリの姉御お!」
二人揃って、すがるような目で妾を見てくる。
しかし、今回ばかりは流石に無理だ。
二年ほど前にも同じようなことがあり、その時上手く誤魔化せた。
代わりにパッショーネの内情を教えように依頼し、助けてくれて金払いも良いからと快く受けてくれたのだ。
けれど今回は、ボスにスパイ活動がバレてしまう。
もはや疑惑の段階ではなく確信に変わったため、偽装工作をしても意味がない。
殺されるのも時間の問題と言える。
そしてもし妾が血も涙もない悪人なら、不要となった瞬間に躊躇なく切り捨てるだろう。
だが二人はこれまで危険と隣り合わせな環境で難しい仕事をしてきたし、善の人でなくても財団の役には立っていたのだ。
そんな彼らから、どんな手を使っても情報を吐かせようとするのは想像に難しくない。
すぐに財団や妾にまで辿り着くのは明らかで、この期に及んでさらに警戒を強められるのは得策ではなかった。
なので、どうしたものかと少しだけ考えて、二人に率直に尋ねる。
「お前たちは、殺人衝動はあるか?」
一体何を聞かれているのは理解できなかったようだ。
少しだけ二人は顔を見合わせたあとに慌てて答える。
「いやいや! 俺たちをそんな精神異常者と一緒にしないでくれよ!」
「必要とあらば躊躇なく殺すが、1リラの得にもならねえ殺人はやらねえよ!」
少なくとも二人に関しては確認が取れたので、さらに聞いてみる。
「それでは今は、報酬はどの程度もらっておるんじゃ?」
「一人暗殺して、大体2000万リラってとこだな」
日本円で大体100万前後だ。
暗殺難易度によっては可もなく不可もなしというところだが、それでも安いなと思った。
気になったので顎に手を当てて、もう少し詳しく尋ねる。
「チームの一人が2000万リラか?」
「いや、全員で山分けだぜ」
危うく呆れて口が半開きになるところだった。
何とか我慢して大声で叫ぶ。
「安すぎじゃろ! パッショーネは、どれだけ人材を酷使しておるのじゃ!」
「俺たちもそう思うぜ。酷え組織だよなー」
「過酷な任務だし、もっと貰って当然だぜ」
こんな低賃金では、ギャング組織に対する忠誠など、あってないようなものである。
だからスパイ活動を依頼しても、快く承諾したようだ。
さらにはボスにバレて殺される前に、恥も外聞もなく妾に泣きついてきたのも納得だった。
恐怖によって縛りつけている組織などこんなものだと思いはするが、いつ不満が爆発してもおかしくない状態で、良く今まで反逆しなかったものだ。
それだけ正体不明のボスは恐ろしいらしい。
しかも暗殺を警戒して情報を全く掴ませない徹底ぶりに、妾はどう手を打ったものかと難しい顔をして考える。
「それでイナリの姉御。助けてくれるんだよな?」
「妾はそのつもりじゃが、今考えておる。少し待て」
正直、ソルベとジェラートの状況はかなり悪い。
彼らだけでなく、暗殺チームの全員に疑惑をかけられて処分される可能性は高いだろう。
二人は妾のことを外には一切話していないと言っていた。
それを信じるなら完全なとばっちりで、いくら悪人とはいえ良心が咎める。
できることなら助けたいが、もはや一刻の猶予もない切羽詰まった状況だ。
しばらく考えた妾は、やがて結論を出した。
「やはりパッショーネを解体し、丸ごと乗っ取るしかあるまい」
彼らを助けても、ボスとパッショーネが健在なら刺客を何度でも差し向けてくる。
いちいち対応していてはキリがなく、妾は無事でもソルベとジェラートが殺されては意味がない。
なので安全を確保するには、ギャング組織を潰すのがもっとも適している。
それに闇や汚れ仕事は次から次から出きて、完全になくすのは難しい。
できれば仁義を大切にする闇の支配者が台頭し、裏世界の管理運営を行うのがもっとも穏便に済むだろう。
「しかしイナリの姉御。ボスの正体は突き止めたんですかい?」
「……それが問題なんじゃよなぁ」
現在、イタリアのネオポリスを牛耳っているパッショーネは組織や人員、ボスに関しては謎だらけだ。
指令を出した人物に、自殺を強要するほどの徹底ぶりである。
たとえそうでなくても、足取りを追うのは容易ではない。
降りかかる火の粉は片手間で払っているので、敵
だが失っても惜しくはない鉄砲玉ばかりやって来るので、組織へのダメージは殆ど与えていないかも知れない。
「何にせよ。迷っている時間はない。
暗殺チームは、お前たちにとっても大切な仲間なのじゃろう?」
「もちろんだ! 一番はジェラートだがな!」
「ああ! かけがえのない仲間だ! ソルベには負けるが!」
同意を得られたものの、突然の熱愛宣言にこいつらできてるんじゃないかと勘ぐってしまう。
しかし、時間がないのは確かだ。
まずはスピードワゴン財団に電話して、今後の計画を相談する。
次にソルベとジェラートに暗殺チームを拠点に集めてもらい、まだ彼らが生きているうちに妾たちも急ぎ向かうのだった。