イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

65 / 76
ヨットの旅

 ジョルノ・ジョバーナが、パッショーネの一員になった。

 今後は彼から慎重に情報を得ていくが、ボスの正体は依然として不明である。

 

 しかし彼の上司であるブローノ・ブチャラティが組織の幹部になれば、より重要な情報が得られる可能性があった。

 個人的には、ぜひとも順調に出世して欲しいところだ。

 

 それはそれとして刑務所で暗殺されたポルポは、どうやら財産を隠していたらしい。

 

 本人が生きている間は誰も探そうとはしないが、死んでしまった今は誰の金でもない。見つけた者に所有権があるのだ。

 なので隠し財産をブローノ・ブチャラティが発見させ、組織への忠誠を示すためにボスに献金してもらう。

 

 そうすれば他の者たちよりも一目置かれることになり、場合によっては一気に幹部に出世できるかも知れない。

 

 けれど隠し財産を狙っているのは、彼だけではなかった。

 何しろ100億リラなのだ。それは日本に置き替えれば約6億円で途方もない金額だ。

 

 元の所有者は死んでいて、見つけた者の総取りである。ゆえに存在を知っている者なら、誰だって探しに来るのだった。

 

 

 

 詳しい場所は、ポルポに頼まれて財産を隠したブローノ・ブチャラティしか知らないようだ。

 そして彼は、仲間たちと共にカプリ島に向かうために、ヨットに乗り込む。

 陸地から十分に離れたところで、そのことを皆に話していた。

 

「100億は俺たちの物だ! その金があれば! 幹部の座が手に入る!」

 

 なお、当然のように妾もこっそり乗り込んでいる。

 本当は暗殺チームも連れてきたかったが、大所帯になると見つかりやすくなってしまう。

 

 大きさを小さくする幽波紋(スタンド)は隠れやすくて便利でも、うっかり踏み潰されたり、野生動物に襲われたら目も当てられないのだ。

 特に、逃げ場のない海上ではどうしようもない。

 

 そういった事情があって割りといつも通り、妾だけで追跡することになった。

 

「どこだ! カプリ島の何処に、そんな金隠したんだよ! ブチャラティ!」

「それはまだ言えない! 以前から隠し金の噂が、組織の一部で流れている!

 金を確保するまで! 絶対に知られるわけにはいかないからな!」

 

 妾は物陰に隠れて、もっともな理由だと納得する。

 だがここで突然、ナランチャが後ろに倒れ込む。

 

「ぶっ、ブチャラティ!?」

「おい! 何かおかしいぞ! どうかしたか! ナランチャ!」

 

 今度はブチャラティが大声で叫んで、皆がナランチャに注目する。

 

 しかし、気づいた時に既に手遅れだ。

 彼は風船から空気が抜けように小さくなっていく。

 やがて強制的に船内に引きずり込まれてしまう。

 

「ナランチャ!? 何やってんだ! お前!」

 

 グイード・ミスタが慌てて駆け寄りつつも、周囲を警戒してナランチャの様子を確認する。

 

 しかし既に彼の姿は何処にもなく、靴が片方だけ転がっていた。

 

 皆も呼んで連れ去られた仲間の探すが、全く見つかる気配がない。

 それどころか一人消え、二人消えと状況は悪化するばかりだ。

 

 おまけに、アバッキオとジョルノが喧嘩を始める。

 こんな時に何やってるんだかと、隠れて覗いている妾はハラハラしっぱなしだ。

 

「謎! 解けるんですよね!」

 

 やがてジョルノが仲間を信じて一か八かで飛び出し、そこで敵スタンドに捕まった。

 

 しかし、あと少しで刺されて穴が開く直前に、子狐の状態で物陰に隠れていた妾が嵐の狐(ストーム・フォックス)を呼び出す。

 風の刃で、敵幽波紋(スタンド)の両腕を切り裂いた。

 

「じょっ、ジョルノ!?」

「馬鹿な! 幽波紋(スタンド)がもう一体だと!?」

 

 嵐の狐(ストーム・フォックス)はすぐに消したが、どうやら見られてしまったようだ。

 

 妾もこっそり密航している身である。

 あまり堂々と警告するわけにはいかずに、どうしたものかと悩んでいる間に状況が悪化し、重い腰を上げざるを得なくなったのだ。

 

(流石に協力者であるジョルノが殺されでもしたら不味いからのう)

 

 だから仕方なく飛び入り参戦したものの、これからどうしたものかと思い悩む。

 おかげで彼は無事だが、残念ながら妾は見つかってしまったのだ。

 

「ジョルノ・ジョバーナ! コイツ! クレイジーな野郎だ!

 証明するためにか! どうかしてんじゃあねえのか!」

 

 けれど現状では、正体不明の幽波紋(スタンド)はブチャラティたちと敵対している。

 そしてこっちは相変わらず隠れているが、ジョルノを助けたのだ。

 

 すぐには攻撃されずに、三人は安全だと思う場所に固まってしばし様子を伺う。

 

(ううむ、すぐにこっちに来るじゃろうな。どう誤魔化したものか)

 

 ブチャラティたちは敵幽波紋(スタンド)を攻撃した風の刃と、再度の不意打ちを警戒している。

 

 そして現在、厄介なのは負傷したほうではない。

 いつでも自分たちを殺せる、謎の幽波紋(スタンド)だと思うのも無理もなかった。

 

(いっそ、海に飛び込んで逃げるか?)

 

 しかしその場合、ジョルノたちに危機に陥っても助けることができない。

 下手をするとここで全滅し、パッショーネの情報提供者を失う可能性があるのだ。

 

 せっかく協力してくれることになった矢先にそれは、何としても避けたいところである。

 

(ううむ、気は進まぬが背に腹は代えられまい)

 

 やがて三人は、慎重にこちらに近づいてくる。

 さらにジョルノとブチャラティは幽波紋(スタンド)を出して、いつでも攻撃できる状態だ。

 

 ならばその前にと考えて、妾は嵐の狐(ストーム・フォックス)を呼び出して狐っ娘へと変身し、ババーンと姿を現す。

 

「お前は! イナリ!?」

「待て待て! 妾に戦う気はない!

 少し話をさせてくれぬか!」

 

 良くも悪くも最強の幽波紋(スタンド)使いの名前は、裏の世界に広まっている。

 当然のようにパッショーネの三人は知っていたようだ。

 

 嵐の狐(ストーム・フォックス)は滅多に出さないのでわからなくても、狐っ娘と言えば妾だと容易に理解できた。

 ついでに、まともに戦って勝てる相手ではないこともだ。

 

 なので事情を知っているジョルノとブチャラティはともかく、アバッキオは生き延びるためにはどうしたら良いのかと真剣に考えている。

 

 とにかく、すぐに攻撃されることは避けられた。

 だが警戒していることには違いなく、全員揃って冷や汗をかかせている。

 表情には出さないが、何とも申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「じゃが、……まずは」

 

 少し力を入れて、右足で床を踏みつける。

 当然のようにヨットが耐えられるわけなく大きな穴が空いた。そこから水が流れ込んできた。

 

「何やってんだ! テメー!

 やっぱり俺たちを殺すつもりじゃねえか!

 100億リラが目当てかよ! この! 強欲狐が!」

 

 アバッキオが大声で叫んでいるが、妾は何処吹く風である。

 

「まあまあ、慌てるでない。すぐにわかるゆえな」

 

 口で説明するのは面倒だ。

 とにかくのらりくらりと避け続けたら、やがてヨットが縦に傾いてゆっくり沈没していく。

 

 だがそこで、薄い布のようなモノが剥がれて海に落ちた。

 しかしそれは急激に膨らんで、二隻目のヨットになる。

 

 なので妾は、そちらに飛び移って他の三人も無言であとに続いた。

 

「船は二隻あった! ……というわけじゃ」

 

 妾は無駄にポーズを取って、ネタバラシをする。

 

 すると溺れかけて幽波紋(スタンド)を解除し息も絶え絶えの本体が、怪我をした両手を引きずりながら甲板に這い出てきた。

 

「テメー!」

「ヨットの上に、もう一隻のヨットを薄っぺらに被せて隠れていたのじゃろう。

 お前はその正面の薄っぺらの中を移動し、彼らを攻撃しておったのじゃ。

 なかなか見事な作戦じゃな」

 

 相手が妾でなければ、全員を倒せていたかも知れない。

 しかし気流で半径3メートル以内を感知している自分にとっては、どうあっても初見でバレる作戦だ。

 

「そばに来るんじゃあねえ! イナリ!

 テメエは、正義の幽波紋(スタンド)使いだろ!

 少しでも動けば、コイツをぶっ殺すぜえーッ!」

 

 なかなか痛いところを突いてくる。

 その気になれば視界に入った時点で、いつでも対象を殺せるのだ。

 

 なお吉良吉影のように百害あって一利なしの例外はあるが、ギャングだろうと普段は死んで良しとはしない。

 手加減して再起不能にするだけだ。

 

 ゆえに空気を抜いてペラペラにされたナランチャの無事を確保するため、犯人への対処を悩む。

 表情は変えずに、どうしたものかと考える。

 

「そんなシャバい脅し脅しにビクつく妾でないことは、お前自身が良く知っているはずじゃ。

 止めれば許してやるが、人質を刺した瞬間。……お前の命を取る!」

 

 本当は二人共殺すつもりは毛頭ないが、人質を取った犯人の要求を飲むわけにはいかない。

 あくまで強気に対応し、警告はした。

 

 これで抵抗するなら、死ぬほど痛い目に遭ってもらう。

 しばらく互いに無言だったが、やがて犯人が痺れを切らしたようだ。

 

「ヒャハハハハーーッ!!!」

 

 妙な叫び声をあげて幽波紋(スタンド)を操作し、ナランチャの顔面に刃を突き立てようとする。

 

「のじゃあッ!!!」

 

 ゆえにこっちも、事前に用意しておいた空気の玉を高速で射出した。

 奴の顔面に叩きつけて、盛大に吹き飛ばす。

 

「ぐぎゃあっ!?」

 

 さらに一瞬の隙を突いて、風を吹かせてナランチャをジョルノたちのほうに飛ばす。

 さらに妾は奴との距離を詰め、強烈なラッシュを叩き込む。

 

 そして気のせいだろうが、どういう理由か何処からともかくご機嫌なBGMが流れてきた。

 

「のじゃのじゃのじゃのじゃあッ!!!」

 

 あっという間に全身が複雑骨折し、再起不能になる。

 そしてヨットの甲板に置かれていた大きめサイズのゴミ箱に、頭から落下して気を失った。

 

「隠れて攻撃する能力は、逆にそれが弱点じゃ」

 

 戦闘は苦手なのか、犯人は妾の攻撃に全く反応できなかった。

 倒した妾は、やれやれと大きく息を吐く。

 

 そして敵の幽波紋(スタンド)能力が解除されて、ブチャラティの仲間たちが元に戻っていく。

 それを見ながら、これからどう説明したものかと内心頭を抱える。

 

(しかしあのゴミ箱、あの場所にあったかのう?)

 

 妾も全方位に常に気を張っているわけではない。

 なのでうっかり見逃すこともあるだろうと、その場は気にしないことにする。

 

 だが気づけば勝手に流れていたBGMもピタリと止んでおり、何とも奇妙な感覚を体験するのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。