イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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100億リラ

 敵の幽波紋(スタンド)使いを倒した妾は、警戒を強めるブチャラティの仲間たちに囲まれた。

 

 そんな状況でもマイペースを崩さずに、取りあえずヨットの端っこで正座する。

 彼らにとって、もっとも危険なのは狐っ娘には違いない。

 

 だが自分なりに敵意がないことを証明しようと考えたら、自然にこうなったのだ。

 なお、特に深い意味はない。

 

「言っておくが、妾はお前たちの敵ではない。

 完全に味方というわけでもないがのう」

 

 彼らは十分に距離を取って幽波紋(スタンド)を出している。

 いつでも攻撃できるように警戒を続けていた。

 

 そしてブチャラティとジョルノだが、情報のやり取りは最低限に留めている。

 この状況は予想外にも程があり、アドリブ力が試されるので即興で言い訳を考えていく。

 

「実は偶然、隠し財産の噂を聞いてのう。

 勝手じゃが、お前たちを付けさせてもらったのじゃ」

「やはり、100億リラが目当てだったか」

 

 まさかボスを暗殺して、組織を乗っ取りたいと正直に告げるわけにもいかない。

 ここは先程倒した敵と、同じ目的ということにしておく。

 

 100億リラは日本円で6億なので相当な大金で、妾が欲しがっても別におかしくない。

 

「別に全部寄越せとは言わんよ。儲けは1割でいいぞ。

 お前たちを助けたんじゃし、そのぐらい良いじゃろう?」

「……なるほどな。俺たちを助けるのも、計算済みってことか」

 

 リーダーのブチャラティが、相槌を打って話を進めてくれる。

 ちなみに報酬の1割は、あとでこっそり返すつもりだ。

 

 だがここでナランチャが訝しげな顔で、こっちを見てくる。

 

「100億目当てなのはわかったけどさ! ブチャラティ、コイツ怪しいぜ!

 1割は安すぎるって! 普通半分は持っていくしよお!」

「確かにな。パッショーネとイナリは敵対している。

 要注意人物で、罠を疑うのは間違っていない」

 

 ぶっちゃけパッショーネに所属していて、妾を知らない者はいない。

 ギャング組織を半壊させた首謀者的な立ち位置なので仕方ないが、こういう時には本当に面倒である。

 

「それじゃあ俺が、テメエが隠し財産を狙う真の目的を当ててやろうか!

 単純な金儲けじゃあなくて! パッショーネの資金を奪うためだろ!」

 

 グイード・ミスタが妾を指差して大声で叫んだ。

 だがこっちはやれやれと肩をすくめて大きく息を吐き、誤魔化すのは困難だと開き直る。

 

「ほっほっほっ! バレてしまってはしょうがないのう!

 その通り! 100億リラは妾のモノじゃ!」

「ヤロー! 正体現しやがったな!」

 

 妾はなるべく邪悪な笑みを浮かべて、はっきりとそう言い切る。

 

 次によっこらしょと立ち上がって風を操り、身にまとわせて空高く飛びあがった。

 

「ここまで来たら、隠し財産は目前じゃ!

 もはや、お前たちを尾行する必要もない!

 案内してくれたせめてもの礼に、特別に見逃してやろう! 運が良かったのう!」

 

 即興の悪役を演じつつ、ヨットに乗っている者たちを見下ろす。

 そして捨て台詞的な言葉を口にして、カプリ島に向かって飛び去って行くのだった。

 

 

 

 カプリ島は世界的にも有名な観光地で人が多い。

 このままでは空を見ろ。鳥だ。飛行機だ。いや狐っ娘だと大騒ぎになるのは確実だ。

 

 なので大回りをして、人が少ない場所を探す。

 目星をつけたら海に潜り、泳いで近づく。そして断崖絶壁の崖を、ヒョイヒョイと登っていく。

 

 こうして妾は、何食わぬ顔で上陸を果たすのだった。

 

 

 

 だが子狐は基本的に荷物を持てないので無一文だ。

 変装するための衣服も持っていないから、仕方なく無駄に目立つ巫女服で移動する。

 

 道行く観光客にたびたび写真や握手を頼まれ、やんわりと断りながらブチャラティたちを探す。

 

 

 

 やがてジョルノたちを見つけたが、不思議なことにかなり早く上陸していて、しかも二人しかいない。

 おまけにヨットは遥か遠くに見えていて、まだ港に着くまで20分ほどかかりそうだ。

 

 ちなみにもう一人はグイード・ミスタだが、間違いなく何かあったのだろう。

 妾は気づかれないように観光客のフリをしつつ、かなり離れた場所から彼らを観察する。

 

(例の幽波紋(スタンド)使いの仲間を警戒しておるのか?)

 

 理由は不明だが、他に仲間がいることを掴んだのかも知れない。

 なので先に上陸して、もう一人を不意打ちで始末し、敵の裏をかくつもりなのだ。

 

 まあ、一から十まで妾の想像である。

 しかし戦いに関しては、直感が外れたことがない。

 

 正しいと思って行動すべきだと思いつつ、彼らの身に危険が迫っていないかを、気づかれないように遠くから見守る。

 

 すると二人が別れ、ジョルノは無線を取り出して何処かと連絡を取り始めた。

 グイード・ミスタは受信設備のある施設の影に身を潜める。

 

(なるほど、わざと連絡を取って敵を呼び寄せるつもりじゃな)

 

 そして実際に効果はあり、一人の男が裏口から入っていく。

 それから少ししてグイード・ミスタが気づいて発砲し、足を撃ち抜いたようだ。

 無線に応じていた男は慌てた様子で逃げ出したが、負傷したので血痕がくっきりと残っている。

 

(さて、妾も後を追わねばな)

 

 幸いなのは、港ではなく人の少ない山に向かっていることだ。

 妾は木々や岩などに器用に飛び移りながら。動き出したトラックを追う。

 

 敵だと思われる幽波紋(スタンド)使いは、荷台の上に乗っている。

 そしてグイード・ミスタもトラックに飛びついて、敵に向けて再び発砲した。

 

 弾は頭部に当たる。

 しかし、普通に生きているし傷も浅いようだ。

 

 吹っ飛んで倒れても普通に起き上がってきたことから、それが奴の幽波紋(スタンド)能力なのは間違いない。

 

 そして近距離パワー型あって、不意打ちでさえなければ銃弾を防げるようだ。

 

(銃弾が空中で止まっておるな。ミスタや運転手もトラックから離れられん。つまり、奴の能力は──)

 

 頭部に当たった銃弾もそうだが、固定されているので一命を取り留めたのだ。

 つまり妾も安易に近接戦闘を挑めば、彼の幽波紋(スタンド)能力の対象になる。

 

 何とか喉に当ててトラックの荷台から引き剥がしたが、厄介だと思いながら観光客から貰ったサンドイッチを美味しくいただく。

 

 ペロリと平らげたあとに、ミスタによって道路に落とされてキレながら起き上がった男の前に、ふわりと舞い降りた。

 

「見ておったぞ」

「おっ、お前は! イナリ!?」

 

 やはり裏の世界では、妾はかなりの有名人のようだ。

 幽波紋(スタンド)使いの男は明らかに身構える。

 

「どうやらお前も、100億リラを狙っておるようじゃな」

「だったら何だってんだ!」

「ほっほっほっ! 決まっておろうが!」

 

 そう言って妾は、右手を天に掲げる。

 巨大な風の玉の内部では、螺旋の軌道を描いて高速回転していく。

 

「100億リラは妾のモノじゃ! ゆえにお前は、ここで再起不能になってもらおうか!」

 

 すると突然軽快なBGMが鳴り始めて、何となくだがジョージョーとバックコーラスが聞こえる気がする。

 ちなみに、前とは違った曲だ。

 

「テメエ! ふざけんなよ! って! さっきから何なんだこの曲は!?」

「妾はふざけておるつもりはない! と言うか、お前にも聞こえておるのか!」

 

 自分でもわけがわからないので、少しだけ微妙な空気になった。

 

 しかし、攻撃の手を止める気はない。

 肌で感じられても目には見えない風玉を、正面の男に向けて投げつけた。

 

 彼は自分の幽波紋(スタンド)で防御しようとしたが、無駄である。

 

「ぎゃあああっ!!?」

「ほっほっほっ、他愛なし!」

 

 風玉に飲み込まれて螺旋の高速回転を受け、全身がズタズタに切り裂かれる。

 再起不能になる運命は変わらないので、あっという間に白目になって気絶して吹っ飛ぶ。

 

 なお何故か山道で停車していたゴミ収集車に、吸い込まれるようにホールインワンする。

 人が叩き込まれて衝撃を受けたからか、燃えるゴミは月・水・金と書かれたパネルが降りてきた。

 

 BGMもちょうど、キリの良いところでピタリと止まる。

 その場のノリで妾もババーンとポーズを取った。

 

 すると今度は謎のSEが聞こえてくる。

 なので、どうやらこれは自分の新しい幽波紋(スタンド)能力らしい。

 

「ゴミ収集車も、そうなんじゃろうなぁ」

 

 理解したくはないし、こんな能力欲しくはなかった。

 しかし幽波紋(スタンド)の矢を取り込んだことで、パワーアップしたのは事実だ。

 

 何で一発ネタ方面に振り切れているのかは謎だが、嘆いても状況が変わるわけでもない。

 そういうものだと受け入れて気持ちを切り替える。

 

 取りあえず一仕事を追えた妾は、ミスタがこの場所に戻って来ていることを感じ取った。

 

「……面倒じゃし逃げるか」

 

 悪役っぽく振る舞うのは大変で、いつ演技がバレないとも限らない。

 そもそも今やってることは即興であり、うっかりやらかしたら目も当てられなかった。

 

 狐っ娘が敵を再起不能にしたことはわかっても、詳しいことは不明という状況を作り出して、急ぎ離れるのだった。

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