イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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サンジョルジョマッジョーレ教会

 カプリ島に上陸した妾は、敵の幽波紋(スタンド)使いを倒した。

 これでブチャラティたちは100億リラが手に入れられるはずだ。

 しかし悪役の演技をしたせいで、無駄に警戒されている。

 

 公衆トイレの空気が重くなっていた。

 索敵に定評のあるナランチャの幽波紋(スタンド)が常に周囲を飛び回り、全然近づけそうにない。

 

 けれど、取りあえずブチャラティが幹部になったようだ。

 これでボスの正体に、一歩近づいたと言える。

 

 ついでにボスの娘を、安全な場所に連れて行くという任務を命じられた。

 元々はポルポが護衛を受けはずだったが、その直前に死亡して護送が変更になったようだ。

 ジョルノだけでなく妾が暗殺チームを引き抜いたせいで、組織がガタガタになったのだろう。

 

 さらにボスの元に安全に連れて行くために、乗り物の鍵を手に入れろと指令を受ける。

 とにかく慎重すぎるが、どれだけ探しても正体を突き止めるには至らなかった理由だ。

 

 しかし秘密裏に監視しているのは気づかないだろうし、絶好の機会と言えた。

 ブチャラティの最終目的地にボスが待ち構えている可能性は高いのだ。

 

 正体に繋がる重要な手がかりである娘を、自らの手で確実に始末するためである。

 もちろんそのことを彼らは知らないし、教えてもきっと信じないだろう。

 

 しかし直接対面したことはなくても付き合いの長い妾なら、ボスが自分以外は信用しておらず、正体に繋がるモノは例外なく抹消することを知っている。

 

 なので妾はポルナレフたちや暗殺チームに、決戦の時は近いので準備をしておくようにと指示を出しておく。

 

 

 

 あとは襲撃が一回もなくスムーズ過ぎたら、逆に罠だと怪しまれる。

 ここは程々に襲わせて、ボスの命を狙っていると思わせるのが良いだろう。

 その際には最初強く当たってあとは流れで、双方に犠牲者が出る前に適当なところで撤退だ。

 

 もし言うことを聞かなければ妾が乱入して有耶無耶にする。

 首根っこを押さえて、強引に撤収するのだ。

 

 

 

 とにかくボスも警戒しているだろう。

 どうやって最終決戦で合図を出すのかと聞かれたから、何処かのコマンドーのように、島がドンパチ賑やかになったらだと適当に答えておく。

 

 

 

 それはそれとして、やがてブチャラティたちの旅は終りに近づく。

 あとはサンジョルジョマッジョーレ教会に、娘を連れて行くだけになる。

 しかし相変わらず用心深く、自身の危機を察知したらすぐに姿を消す気らしい。

 

 上陸できるのは、娘のトリッシュ・ウナと護衛の二名だけだ。

 それ以外の者は、船の上で待機を命じられていた。

 

 普通に考えたら付いて行くのは不可能だが、妾は幽波紋(スタンド)を解除すれば子狐に戻れる。

 

 エアロスミスは二酸化炭素を感知できるけれど、小動物まで含めると膨大な数になるため、いくら警戒中だとは言え簡単に使えるはずがない。

 

 ゆえに妾はボート乗り場から泳いで、別の場所から上陸した。

 さらに気配を消して、抜き足差し足忍び足で移動する。

 教会の中に入っていくブチャラティとトリッシュのあと追った。

 

 表口は警戒されているので、裏口や職員用の入り口、または小動物が入り込めるような隙間からこっそり侵入する。

 

 

 

 クンクンと匂いを辿って二人に探すと、他に人が全く居ないようだ。すぐに見つかったのは幸いだった。

 

 取り替えず気づかれないように、物陰に隠れて様子を伺う。

 

 どうやらエレベーターに乗るらしく、流石に狭い個室に子狐が入ると一発でバレる。

 

 彼らだけでなく、何処かに潜んでいるボスにも同じくだ。

 なのでここからは五感を研ぎ澄ませて、耳を澄ませるしかない。

 

「ボタンは一階と登上の二個だけだ。

 直通で、他に下りる階はない」

 

 ブチャラティが警戒しながら、エレベーターの内部に罠はないかと確認している。

 そしてトリッシュ・ウナは壁の隅でしゃがみ込み、体を震わせていた。

 

「……私、これからどうなるの?

 アンタたちのようなギャングに、いきなり拉致されて、命を狙われて、会ったこともない、愛情なんかない父親の所に連れて行かれる!

 私、これから何処に行くことになるの!」

 

 ボスとしては娘が生きている限り、自らの正体に繋がる手がかりになる。

 なので彼女には悪いが、そのエレベーターに乗った先に待っているのは、間違いなく絶望だろう。

 

 もちろんそんな酷いことはさせるつもりはない。

 絶対に阻止してやるぞと、子狐の状態でこっそり気合を入れる。

 

「ボスはただ、キミの無事を心配しているだけだ。

 キミが、これからどうなるのか。俺の考えでは、多分こうだ。

 まずキミは、違う名前になる。顔を整形するかも知れない。身分も戸籍も違う人間になり、俺たちの知らないところで、きっと遠い国で、幸せに暮らすんだよ」

 

 ブチャラティが、震えているトリッシュ・ウナに近づいて安心させている。

 

 それを感知した妾は、やっぱり彼にパッショーネのボスになって欲しいと思った。

 幽波紋(スタンド)使いであっても、仁義に厚い男なら今より遥かにマシなギャング組織になるはずだ。

 

「キミの父親は、そういう力を持った人だ。

 ……さあ、手を貸そう」

 

 優しくトリッシュに手を差し伸べると、彼女はまだ恐怖が残ってはいるが震えが小さくなる。

 その手を振り払って立ち上がり、エレベーターに乗り込んだ。

 

「別に! 不安とか! そんなんじゃないわよ!」

 

 ブチャラティは何か思うところがあるようだが、何も言わない。

 そして彼女のあとを追って乗り込んで、ボタンを押す。

 

 エレベーターは上昇を開始して、妾の隠れている場所から静かに離れていくのだった。

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