イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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第6部 ストーンオーシャン
空条徐倫


 ギャング組織のパッショーネは、ブチャラティがボスになる。

 改革を行い、全てが一新されて暗殺チームも高待遇で雇われた。

 あとはたまにスピードワゴン財団からの依頼も受けるようになり、当然のように反対意見が出るが、そこは妾が間に入って強引に黙らせる。

 

 気づけば裏ボス的な立場になっていたが、丸く収まるなら別に良いのだ。

 とにかくイタリアの問題を解決して、トリッシュ・ウナを新しい義理の娘に迎えた妾は日本に帰国する。

 

 ポルナレフに、そう言えば餞別にあげた矢はどうなったかと聞かれた。

 アレなら妾の幽波紋(スタンド)が食っちまったと、正直に答えておく。

 驚かれはしたが、狐っ娘ならあり得ると受け入れらた。

 責任問題になって責められなかったので、とにかくヨシとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 それからしばしの時が流れて、いつものようにスピードワゴン財団からの依頼を片付ける。

 だが日本に帰る前に、せっかくなので承太郎の妻と娘の空条徐倫に挨拶をしておくにした。

 

 物理的な距離が遠いため、あまり親密ではなく知り合い止まりだ。

 けれど困った時に相談を受けたり、交流はしている。

 なので最近になって、徐倫に恋人ができたことも知っていた。

 

 それはそれとして、いくら雇える幽波紋(スタンド)使いが増えたとはいえ、承太郎ほどの実力者はそうはいない。

 スピードワゴン財団にも何かと頼りにされて、家を留守にしがちだ。

 

 ゆえに家族関係は多少冷えているが、そこまで悪いというわけではない。

 たまの休日には急な仕事が入らない限り、やれやれだぜと溜息を吐きつつも家族サービスをしているからだ。

 

 

 

 しかし今日は承太郎は家を留守にしているらしい。

 それでも近くまで来たのに挨拶もせずに帰国するのは礼儀に反するため、取りあえず顔だけでも見せて、お土産を渡してから帰ろうする。

 

 妾は彼の自宅の前までタクシーに乗って向かい、礼を言って扉を開けて外に出る。

 次に玄関に向かって歩き、インターホンを鳴らすが反応がない。

 

 中に居ることは匂いや気配でわかっている。

 何かあったのかなと疑問に思いながら、もう一度ボタンを押して妾が来たことを告げた。

 

 すると慌てた様子で足音が近づいてきて、勢い良く玄関の扉が開かれる。

 

「ああっ! イナリ! ちょうど良かったわ! 助けてちょうだい!」

「いきなりそう言われても困るぞ。理由を言え、理由を」

 

 承太郎と結婚し、徐倫を生み育てた彼女は今とても混乱しているようだ。

 さっぱり理由がわからなかったので、取りあえず家にあげてもらってお土産を渡す。

 そして居間で茶を飲みながら、詳しく話を聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 諸々の事情を聞いた妾は、フロリダ州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所に向かった。

 

 本来ならば徐倫は死亡事故の犯人として起訴されるだけでなく、司法取引で刑を軽くする手筈だった。

 しかし弁護士と恋人の両方に裏切られて、泣きっ面に蜂である。

 

 急ぎ娘の現状を調べるようにスピードワゴン財団に調査を依頼したら、そのような裏事情が判明したのだ。

 母親は娘が罪を認めたことしか知らなかったので愕然としていたが、とにかく何らかの悪意が絡んでいるのは間違いない。

 

 どうせジョースター一族に恨みを持つ誰かが冤罪をかけたのだろう。

 妾にも経験があるし、空条承太郎も正義の幽波紋(スタンド)使いとして大活躍している。

 娘の徐倫に恨み辛みの矛先が向けられても、全く不思議ではなかった。

 

 つまり今回の件は死亡事故や恋人に濡れ衣を着せられるまで、全て仕組まれた犯行の可能性があるのだ。

 経験則だが、刑務所は敵の罠が張り巡らされている可能性が高い。

 

 しかし直接暗殺するわけではなく、娘をわざわざ投獄する目的はまだわからない。

 それでももしかしたら、徐倫を餌にして仲間を呼び出す目的も考えられるため、堂々と会いに行くにはリスクが大きい。

 

 ついでに正体不明の敵に徐倫が命を狙われている可能性もあったりと、悪い方に考えればキリがなく、面倒この上ない状況に陥っている。

 

 ゆえに妾は子狐の姿になり、刑務所の敷地にこっそりを侵入することにした。

 ワニがウロウロしているが、一睨みで退散させられるので全く脅威ではない。

 

 しかし、人にバレると騒ぎになる。

 物陰に身を潜めたり監視カメラを避けながら、徐倫を探す。

 匂いは彼女が普段使っている物で覚えたし、何の問題もない。

 

 

 

 やがて206号監房に辿り着き、徐倫を見つける。

 彼女は同室の囚人と、何やら話をしていた。

 しかし二人だけでなく、もう一つ匂いがあるので何だか妙だ

 

 けどそこはまあ、追々確かめれば良いと考える。

 まずは、よっこらしょと鉄格子を抜けた。

 

「んっ? 何だこの子狐は? どっから入ったんだ?」

 

 椅子に座っている同居人のグエスが妾に気づく。

 続いて徐倫も、子狐を見てハッとした顔になる。

 

「もしかして! イナリ! イナリなの!? どうやってここに!?」

「コンッ!?」

 

 別に痛くも痒くもないが、徐倫にいきなり両手で掴みかかられてガクガクと揺らされる。

 答えようにも答えられないので、取りあえず強引に脱出して嵐の狐(ストーム・フォックス)を呼び出す。

 一瞬のうちに狐っ娘に変身して、音もなく床に着地した。

 

「なっ!? 子狐が人間に!? 一体どういうことよ!?」

「良かった! やっぱりイナリだったのね! それに貴女の幽波紋(スタンド)、初めて見たわ!」

幽波紋(スタンド)見せる機会など、ないに越したことはあるまい」

 

 やれやれと大きく息を吐いて、簡単に身嗜みを整えていく。

 そして、まずは同居人のグエスに挨拶をする。

 

「驚いたじゃろうが、妾はイナリじゃ。

 徐倫の知り合いじゃよ」

「何よ。その中途半端な関係は、私たちは幼馴染の友人でしょう?」

 

 徐倫はそう言うが、妾は頭をかいて困ったような表情を浮かべた。

 

「そうは言うが妾は日本。空条家はアメリカじゃぞ。

 確かに幼い頃から付き合いがあるし、友人じゃとしても疎遠じゃろうが」

 

 今回も任務が終わったので、帰りにちょっと顔を見せただけだ。

 

 そこで何の因果か徐倫が逮捕され、刑務所に入れられていた。

 本当にわけがわからなかったので、現状確認のためにわざわざやって来たのである。

 だがまあ、安否を気にかけるぐらいには親しいのは確かだ。

 

「それはそれとして、グエスとやら」

「なっ、何よ」

 

 急に見知らぬ狐っ娘から話しかけられて、グエスはとても戸惑っている。

 しかし妾は、確信を持って追求させてもらう。

 

「お前さんは、幽波紋(スタンド)使いじゃな?」

「えっ? ……えっ? 幽波紋(スタンド)?」

「嘘ッ!? 幽波紋(スタンド)使いなの!?」

 

 妾は、そこからかと大きく息を吐く。

 風を起こして、机に置かれていた本を浮き上がらせた。

 そしてページをパラパラとめくる。

 

 やがて唖然と眺めているグエスが十分に理解できたと判断し、本を閉じて元の場所に戻す。

 

「妾の幽波紋(スタンド)は風を操る」

 

 他にも色々できるが長くなるので省略し、妾は真っ直ぐにグエスを見つめる。

 

「そしてお前さんの幽波紋(スタンド)は、人や物を小さくする能力じゃろう?」

 

 グエスは一言も喋らないが、まさか言い当てられるとは思わなかったようだ。

 顔色が悪くなって、冷や汗までかいている。

 

幽波紋(スタンド)は各々の個性のようなものじゃし、自由に使って構わんと言いたいところじゃが──」

 

 妾はそう言って、独房をゆっくり歩いていく。

 そして戸惑う彼女に近づき、素早くポケットに手を入れる。

 

「ちょっ、ちょっと! 何するのよ!」

 

 彼女が妾を突き飛ばすよりも遥かに速く、目標のインコを傷つけないように優しく掴んで確保した。

 そしてグエスを睨みつけて、ビビらせ動きを止める。

 

 妾はそれをゆっくりと床に置き、インコの被り物を外していく。

 

「やれやれ、怖かったじゃろうに。もう大丈夫じゃぞ」

「あっ、……ああっ」

「ちっ、小さいけど! 人が中に!?」

 

 インコの被り物から出てきたのは、一人の看守だ。

 相当酷い扱いを受けていたのか、全身が傷だらけなので波紋で治療しておく。

 

「妾は平気じゃが、徐倫は気をつけたほうが良いぞ。

 もし小さくされたら、幽波紋(スタンド)使いでも抗うのは困難じゃからな」

 

 徐倫は間違いなく目覚めている。

 何かキッカケさえあれば、精神エネルギーを引き出せるはずだ。

 それでも小さくされたら、正攻法ではグエスには勝てないだろう。

 

「とにかく、この看守は戻してやれ。

 ここまで怖がらせれば刑務所務めはできぬし、話したところで誰も信じぬよ」

 

 情報を漏らしたところで、頭がおかしくなったと思い誰も相手をしない。

 幽波紋(スタンド)を知る一部の者が警戒を強めるが、ここは元々そういう場所だから些細なことだろう。

 

 何にせよグエスには伝え終わったから、次は徐倫だ。

 彼女もそのことに気づいたようで、率直に尋ねてきた。

 

「ところでイナリは、何で刑務所に?

 もしかして、脱獄の手助けをしに?」

「徐倫には残念じゃが、ハズレじゃ」

 

 ずっと立ってるのも何だし、妾は浮遊して二段ベッドの上に腰かける。

 そして、彼女たちを見下ろしながら口を開く。

 

「徐倫は何者かに狙われておる。

 恐らくジョースター家の因縁じゃろうが、黒幕を探し出して倒さぬ限り、また同じことが繰り返されるじゃろう」

 

 裏で手引した黒幕を引きずり出して倒すことが、フロリダ州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所に潜入した本当の目的だ。

 もちろん徐倫の無事を確認したり守ることも含まれている。

 

 だが妾としては、脱獄しないほうが都合が良かった。

 

「酷いことを言っておる自覚はある。

 妾はそのうち日本に帰らねばならんし、承太郎も多忙じゃからのう」

 

 次は徐倫ではなく、母親や親しい人が狙われる可能性もあった。

 やはり禍根を断っておくに越したことはない。

 

 彼女に悪いがしばらく刑務所で過ごして、黒幕を誘き寄せる餌になってもらう。

 

「黒幕さえ倒せば刑務所から出してやるゆえ、その点は心配はいらぬ」

「最強の幽波紋(スタンド)使いなら、脱獄ぐらい朝飯前なんだろうけどさあ」

 

 何やら不満そうな顔をしている徐倫は、手からこっちに糸を伸ばしてきた。

 顔に触れる前にキャッチしたが、どうやらこれが彼女の幽波紋(スタンド)能力らしい。

 

「私だって戦える! イナリに守られてばっかりじゃなくてさ! もっと頼ってよ!

 その黒幕に落とし前つけさせないと、気が済まない!」

 

 ジョースター家の因縁に巻き込まれた被害者でも、本当に悪いのはこの件を仕組んだ黒幕だ。

 

 徐倫の気持ちはわかるし、目覚めかけている幽波紋(スタンド)を放っておくのも危険である。

 自在に扱えるようにしたほうが安心安全だろう。

 

 ならば後方腕組み師匠ポジとして彼女を教え導くのも良いかと考え、しばらく監房に住まわせてもらうのだった。

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