イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
屋敷が燃え落ちてしまった。
しかし逃げたはずのディオの足取りは、依然として掴めていない。
そしてジョジョだけでなく長期入院を余儀なくされたジョースター卿、さらにはあの場に居た警官隊やスピードワゴン。
彼らは妾のやらかしを不問にしてくれので、ありがたい限りだ。
きっと不思議生物の子狐でも、命を救われた恩を感じてくれたのだろう。
喋ったら何をされるかわからないということもあるが、屋敷はなくなってしまったがジョースター家に留まれるので良しとしておく。
もし秘密が漏れたとしても、それまではのんびり気ままに過ごせるのだ。
我ながら自堕落な狐ではあるが、常に戦場に身を置いていたりサバイバル生活が長かったので仕方ない。
せっかく良い飼い主も見つかったのだ。
このまま寿命を迎えるまでは、気楽に過ごしたいのだった
それはそれとして現状を整理すると、まず家財道具は持ち出せたが屋敷が全焼した。
あとはジョジョも振るった槍を曲げられたせいで、腕を複雑骨折してしまう。
それ以外にも無理をしていたようで、入院生活を余儀なくされる。
だが父親やあの事件に関わった人たちが全員無事だったのは、不幸中の幸いと言えた。
元通りになるかと言えば微妙なところであるけれど、生きてるだけでも良しだ。
しかし心配なこともあって、ディオは依然として行方不明である。
石仮面も瓦礫に埋もれているわけではなく、何者かが持ち去った可能性は消しきれない。
両方とも貴族として見過ごせないようで、父親から正式に家督を譲られて当主になったジョジョは、怪我が治ったら自分で片付けるために行動を開始するようだ。
しかし、気を張り続けるのは疲れる。
誰だろうと休息は必要で、入院中に幼馴染のエリナに出会って、献身的な介護を通じて互いの仲が深まったのは、嬉しい誤算であった。
それはそれとして入院してしばらく経つと、医者から外出の許可が出る。
ジョジョと妾は屋敷に戻り、石仮面を探すが見つからない。
火災のあとは全てが焦げ臭くなっていて匂いを追うのも無理だったし、今は日も経っているので全てが薄くなっている。
手かがりなしと諦めるのも、仕方のないことだ。
まだ骨折した腕は治っていないので恋人のエリナも付いてきたが、二人と一匹で帰り道をのんびり歩く。
気分転換も兼ねているのだけど、そこで道端で座りながらサンドイッチを食べている男性と出会い、彼はこちらに気づいておもむろに話しかけてくる。
「ジョナサン・ジョースター君。そしてそのレディはミス、エリナ・ペンドルトン。
……ふんっ!!!」
彼は膝の力だけでとんでもない跳躍をした。
そしてジョジョに迫ってきたが、敵意はないようなので妾は何もせずに様子を伺う。
「なっ、何者ッ!?」
「よく生き残れたものだ! あの石仮面の力から!」
ジョジョとエリナは予想外の展開に緊張しているようだ。
「ポウッ!」
だが彼が指先でジョジョの腹を突いたときには、死にはしなくても痛そうだ。
「んげえっ!?」
「ジョジョ!?」
やっぱり止めれば良かったと少し後悔し、エリナもオロオロしている。
ジョジョも苦しそうにしているが、突きを放った男は平然としていた。
「そうそう、肺の中の空気を1CC残らず絞り出せ」
耐えきれずに膝をついたジョジョに、エリナ駆け寄って謎の男を睨みつける。
「ジョジョ!? 怪我してる人に! なんてことを!」
しかし彼は全く動じない。
サンドイッチを食べながら、何の気なしに答えていく。
「しばらく呼吸はできん。が、心配はいらん」
やがて変化が起きる。
「なっ、何だ!? 僕の、かっ、体が!? 腕が!?」
ジョジョの骨折した腕が急激に治癒していったのだ。
これには妾もエリナも、大いに驚いた。
「私はツェペリ男爵だ。
勇気だけでは石仮面には勝てんよ」
ツェペリ男爵と名乗った男は、ジョナサンを見て得意気に笑っていた。
「複雑骨折した腕が!? 殆ど痛みもない!」
ジョジョは、本当に治ったのかを試したいようだ。
道端に落ちている大きな石を、軽々と持ちあげた。
「こんな重い石も持てる!?」
「信じられないわ!?」
それはわかったが、いちいち口に出す必要はあるのかと疑問に思う。
エリナの実況付きなので、何だかテレビショッピングでも見ている気分だ。
しかし妾はそんなことよりも、ツェペリ男爵がとった行動のほうが気になる。
「いっ、一体! 何をした! キミは! 何者だ!?」
「質問は、一つずつにしてくれんかね」
ツェペリ男爵はやれやれと肩をすくめ、サンドイッチに胡椒をかける。
「私がしたのではない。キミの呼吸が痛みを消したのだよ」
ますますわけが分からない。
しかし胡椒でクシャミをする彼に、詳しい事情を聞く必要が出てきたのは間違いなかった。
なので場所を変えて、改めて色々と教えてもらうのだった。
簡単にまとめると、ジョジョはツェペリ男爵に横隔膜を突かれた。
それによって特別な呼吸法になっているらしい。
仙道、波紋エネルギーを自在に操るそれは、瓦礫の上のカエルを拳で殴りつけても土台のみを破壊する。
見せてもらっても正直良くわからないが、とにかく凄い力だった。
そしてジョジョは石仮面と戦う宿命にあって、仙道を学ばないと死ぬとまで言われてしまう。
確かに、いつまたあの怪物に襲われるかわからない。
妾もいつでも助けられるわけではないし、自分の身は自分で守るのが一番だろう。
しかしツェペリ男爵はジョジョだけでなく、全人類も死ぬとまで言い切った。
まるで漫画やアニメの主人公のようだと思いながら、妾は一匹だけ我関せずで後ろ足でパパパパと顎をかく。
そして時々アクビをしつつ、万が一の時はサポートするがそれ以外は自分は子狐だからと、話半分に聞いていたのだった。
それからジョジョはツェペリ男爵から波紋エネルギーについて詳しく教えてもらい、厳しい修行の中で一つずつ身につけていく。
ただその合間に、ディオとの戦いについて尋ねられる。
なので他言無用と断りを入れて、妾のことを話して聞かせた。
共に戦う仲間で信用できると判断し、妾を戦力として数えているらしい。
秘密を知る者と敵しか居なければ良いが、あまり大勢の前でやらかすのはマジ勘弁だ。
幸いここにはツェペリ男爵とジョナサンだけなので、妾は岩を頭突きであっさり破壊した。
これを見て手のひらを返し、さらには物は試しで空いた時間に子狐にまで仙道を教え始めたのだ。
しかも何故かあっさり修得してしまい、どういうことなのであった。
世界広しといえども、波紋エネルギーを自在に扱える子狐は妾ぐらいだろう。
そしてジョナサンと一緒に修業を受けながら、ツェペリ男爵の過去も色々聞かせてもらう。
彼が石仮面を追う理由もわかった。
ズームパンチなどの技も習ったが、できなくもないが小狐が関節を外して射程を伸ばしても誤差だろう。
なのでそういう人間専用の技はジョジョに任せて、妾は波紋の純粋強化や肉体を鍛えることにしたのだった。