イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
妾は徐倫が囚われている刑務所に潜入し、今回の事件を起こした黒幕を見つけ出して倒すことに決める。
ここまで大掛かりなことをやったのだから、恐らく単独犯ではない。
協力者がいるか、組織に属していると考えられた。
そしてジョースター家絡みなら、当然
刺客として送り込まれてくる可能性もあった。
彼女も訓練してストーンフリーを呼び出せるようになったが、まだ能力についても完全には把握できておらず、荒削りなのは間違いない。
なので、なるべく離れないほうが良いだろう。
食料は徐倫やグエスの分を少しずつもらっている。
人の食べ残しをいただくとか、百年以上昔に戻ったみたいだ。
それはそれとして、ずっと護衛しているわけではない。
どうしてもついて行けない場所もあるため、そういう場合は彼女の元を離れる。
そして事件の黒幕を探すために、刑務所内を散策することにしていた。
もちろん誰にもバレないように気配を消しているのだが、その途中で妙な子供に会う。
本来なら刑務所に居るはずはない。
さらに壁の隙間に吸い込まれるように消えてしまったのだ。
新手の
取りあえず、後を追って確かめるべきだ。
妾も壁の隙間に突っ込むと、次の瞬間には妙な部屋に移動していた。
「うわあっ!? こっ、子狐!? 一体何処から!」
野球帽を被った金髪の男の子が、謎の部屋に入ってキョロキョロしている子狐を見て戸惑っている。
しかし敵意はないようで、しきりに何処から来たのかと尋ねたり、ここは危ないから早く外に帰るようにと話しかけてくる。
それはそれとして、他に二人の成人男性がこの部屋に居るようだ。
彼らはしばらく子狐を観察していたが、やがて興味を失ったのか読書に戻る。
けれどそこで妾は、はてと首を傾げた。
(ウェス・ブルーマリンではないか。何でこんな所におるのじゃ?)
知り合いを見つけたので、取りあえず話を聞きたいところだ。
しかし、子狐のままでは人の言葉を喋れない。
そして妾に敵意を向けて来ないということは、少なくともジョースター家の因縁絡みの者ではなさそうだ。
当然のように、この場の三人は驚愕した。
そしてあろうことか向こうも
「待たぬかっ! ウェス・ブルーマリン! お前は妾のことを知っておろう!
一度きりしか会っておらぬが、命を助けてやったじゃろうが!」
妾は手で制して大声で叫ぶと、三人は戸惑いながら顔を見合わせる。
そして何やらボソボソと話し合い、やがてウェス・ブルーマリンが無機質な目で、こちらをじっと見てきた。
「ウェス・ブルーマリンというのは、……俺のことか?」
「他に誰がおるのじゃ? まさか、自分の名前を忘れたと言うわけでもあるまい」
笑えない冗談を平然と言う彼に、妾は呆れた表情で大きく溜息を吐く。
だがここで金髪の子供が、突然現れた狐っ娘を怖がっているのか、冷や汗をかきながら口を開いた。
「その、まさかなんだよ。
ウェザーリポート……ええと、この場合はウェス・ブルーマリンなんだけど。
彼は刑務所に来る前の記憶がないんだ。だからお姉さんのことも、覚えてない……と思う」
「……おおう」
なんてこったいと天井を仰ぎ見ても、状況が変わるわけではない。
しかし妾がガックリと肩を落としていては話が進まないため、面倒だなと思いながらも詳しく自己紹介を行う。
「妾はイナリ。正義の
刑務所に潜入したのは、ここに隠れ潜んでおる巨悪を探し出して倒すためじゃな」
物凄くざっくりとした説明だが、大体合っているのでこれで良いのだ。
「そしてウェス・ブルーマリンと妾は、過去に会ったことがある。
彼と恋人が暴漢に襲われておってのう」
あのときは本当に大変だった。
主に後処理だが、そこまで詳しく説明する気はない。
「事情は知らぬが放ってはおけぬゆえ、助けに入ったのじゃ」
暴漢は大勢居たが
手加減して全員を叩きのめしたけれど、その前に二人は手酷くやられていた。
具体的には死にかけていたので、急ぎ波紋で治療する。
あとは人通りが多くて安全な場所まで護衛をして、そこで別れた。
後のことは何も知らない。
任務の途中だったし、たまたま助けだけで深入りする気もなかった。
連絡先も交換してないので、二人とはそれっきり会っていない。
「妾が知っているのは、そのぐらいじゃな。
あとは
「記憶を奪う
記憶といえば岸辺露伴を思い出すが、今回は別のタイプな気がする。
似たような能力でも
なのできっとウェス・ブルーマリンの記憶を奪った人物は、他にも色々と応用が効くはずだ。
具体的には不明だが、とにかく厄介なのは想像できる。
「俺の記憶は、どうすれば戻るんだ?」
「奪った者を再起不能にして、返してもらうしかあるまい」
「……そうか。そいつは今、何処に?」
あんまりあれこれ聞くので、何でもかんでも知ってると思うなよと、ヤケクソ気味に返事をしたい気分だ。
それよりもウェス・ブルーマリンが
「わざわざお主の記憶を奪い、刑務所に入れたんじゃ。
定期的に監視できる位置におる可能性は、高いじゃろう」
妾にしては一生懸命考えて返事をする。
とにかくこっちのことは教えたんだし次はそっちの番だと、適当なところに腰を下ろして、詳しく事情を聞かせてもらうのだった。
隠し部屋の三人について知った妾は、取りあえず敵じゃなさそうだしヨシとしておく。
しかし協力してくれそうな人は子供のエンポリオ・アルマニーニョと、天気を再現する
ナルシソ・アナスイは全くそんな気はないようで、何処吹く風である。
それに彼ら以外の
捜査が進んだのか進んでないのか、良くわからない状況である。
だが真実に向かう意志さえ放棄しなければ、いつかは辿り着ける。
単独任務はいつものことだし、徐倫には悪いがもうしばらく我慢してもらうのだった。