イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
それから少し経って、徐倫に面会を希望する人がやって来た。
エンポリオは何か起きるのではないかと心配していたが、妾は逆にチャンスと考えている。
敵がどのような攻撃をしてくるかは不明だけど、黒幕が接触してくるかも知れないびだ。
虎穴に入らずんば虎子を得ずという言葉があるように、時には危険なことをしないと成功できない場合がある。
きっと今がその時だと伝え、面会室に入る直前に徐倫の服のポケットに潜り込んだ。
匂いでわかっていたが、娘に会いに来たのは母ではなく父のほうだった。
話が始まるまで少々ギクシャクしたが、ジョンガリ・Aがディオに忠誠を誓っていて復讐のために動いていることが伝えられる。
しかし、以降は全く動きはなくて会話も途切れてしまう。
服のポケットに潜り込んでいる妾は首を傾げ、取りあえず看守にバレないように周囲を警戒しつつ、ひょっこり顔を出しして確認する。
すると、実に奇妙な現象が起きていた。
(これはゆっくり溶かされておるのか? エンポリオの言った通りじゃな)
恐らく、刑務所に潜んでいる新手の
ジョンガリ・Aかは不明だが、面会部屋全体がドロドロに溶けている。
徐倫と承太郎だけでなく看守までもが、ゆっくりと死に向かっていた。
もちろん見過ごす気は毛頭ない。
よっこらしょと飛び降りながら
「……さてと」
現時点では、何処から能力を使っているのは不明だ。
この状況を切り抜けられても、大騒ぎになるのは確実である。
しかし、あれこれ考えている時間はない。
まずは軽く壁を一発殴って破壊すると、予想通り大穴の向こうは廊下になっていて、敵
「
集中力を高めるために大声で叫ぶ。
特に意味のないイマジナリー
面会室の中に閉じ込められている人たちを、突風で廊下に吹き飛ばす。
着地する前に衝撃を緩和したりと気を使っているが、看守だけ調整をミスして頭を強くぶつけてしまう。
たんこぶができるが死んだわけではないし、取りあえずヨシとしておく。
そして敵
「どうやら目覚めたようじゃな」
「……イナリ。どういうことだ。俺たちは夢を見ていたのか?」
承太郎が体を起こして妾に尋ねてきたので、やれやれと肩をすくめる。
「妾は最初から警戒しておったゆえ、敵の
承太郎たちが何が見たのかはわからぬよ」
しかし承太郎や徐倫が夢を見ていたのなら、その通りなのだろう。
今ここで嘘をつく意味はないし、重要なのはこのあとどうするかだ。
「よし、両手を出せ」
「今度は何?」
とにかく承太郎の中では、もう行動方針が決まっているようだ。
「イナリ、今回の件は俺が片をつける。そして徐倫は今、ここで脱獄させる。
娘を、ジョースター家の因縁に巻き込みたくはない」
真っ直ぐに妾を見ながらそう言い切った承太郎に、徐倫は思わぬ形で父の愛情を知って戸惑っている。
「妾の活動拠点は日本じゃ。アメリカに来たのも、刑務所に潜入したのも成り行きじゃ。
承太郎が引き継ぐと言うなら、あとは好きにするといい」
「……悪いな」
「構わんよ。今回の件も、放っておけずに首を突っ込んだだけじゃしな」
妾は基本的に風の向くまま気の向くままで、その場のノリで行動する。
徐倫のことを知って刑務所に潜入し、上手く行けば芋づる式に辿れるかも知れないと考えたのだ。
しかし実の父親である承太郎が、娘を巻き込みたくない気持ちも理解できる。
何にせよ、彼が引き継いでくれるなら仕事も減って日本に帰国できるし、願ったり叶ったりだ。
「では、服のポケットに潜らせてもらうぞ。
妾は本来、ここにはおらぬ身じゃしな」
妾は
承太郎が居なかったら自分が護衛につくが、それでも極力変身しないほうが良いだろう。
何しろ自分は、世界各国で顔と名前が知られ過ぎている。
狐っ娘に変身して刑務所内を歩き回ると、目立ってしょうがない。
もしバレたら国際問題待ったなしだ。
少数ならまだしも、大勢に目撃されるわけにはいかなかった。
幸い子狐の姿は知られていないため、この状態で徐倫の服のポケットに潜り込む。
それにしても、こういう命がかかった危険な状況でもないと、父と娘は本音で話せないようだ。
刑務所の外を目指す大脱走でのやり取りを聞きながら、妾は内心でやれやれと溜息を吐くのだった。
途中までは順調で、あと少しで海岸という距離まで来る。
だがここで看守に変装したジョンガリ・Aが現れ、こちらに向かって発砲してきた。
狙いは徐倫だが、そんなことはさせない。
「イナリ!」
「コン!」
既に妾の射程圏内に入っている。
承太郎の呼びかけに応えて
そしてもう一体のほうも、同時に左手から突風を出して吹き飛ばした。
「ええい! 妾に同時に対処させるでないわ!
加減に失敗して、うっかり殺してしもうたら後味が悪いじゃろうが!」
マルチタスクは可能でも、精密動作性には自信がない。
今回は成功したから良かったけれど、
「しかし、
「予想はしておったし、驚きはせぬよ」
妾はどうしたものかと考えたが、直感に従えば全員で守りを固めて切り抜けるほうが良い。
けれどそれでは、せっかく姿を見せた新手の
結果としてベストなのは、この機会に敵を全滅させて後顧の憂いを絶ち、悠々と脱出することだ。
(承太郎の
なので妾は、今回は直感ではなく仲間を信頼して任せることにした。
「狙撃タイプのジョンガリ・Aの
そちらは妾たちが引き受けよう」
いくら承太郎が強くて時を止められるとはいえ、彼の
遠距離攻撃をしてくる相手とは相性が悪い。
なのでジョンガリ・Aには、風を操り幅広く対処できる妾が適している。
けどまあ自分は苦手なタイプのほうが少ないのだが、それはそれだ。
徐倫も承太郎も同意してくれたようで、すぐに行動を開始した。
奴との距離を少しずつ詰めていき、敵が射撃に移ろうとした瞬間に妾は突風を起こす。
「足元がお留守じゃぞ」
「何ッ!?」
突然ジョンガリ・Aの周囲で突風が吹き荒れて、足元に集中して耐えきれずに横転した。
サイレンサー付きの銃を落とさなかったのは大したものだが、そんな致命的な隙を妾たちが見逃すはずがない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」
徐倫の